- 分類:長編小説
- 初出:「週刊小説」1995年5月12日号~1996年11月8日号(全40回)
- 雑誌時挿絵:堀内啓造
- 初刊:2016年/文藝春秋
- 刊行回数:2回
- 入手:入手可(電子書籍あり)
あらすじ
電話が鳴ったのは、石室敬三が風呂を出た瞬間である。
娘の千秋がすぐに電話に出て、「ええ」とか「そう」とか言っている。また友達との長電話が始まるのだと無視し、敬三は洗濯機の中に手をつっこんで、バスタオルを探した。今朝家を出るときに娘に「学校から帰ったら、洗濯機をまわしておいてくれ」と頼んでおいたのに、また忘れたらしい。この春、高校に入った。やっと家事を少しは任せられると思って安心したが、成長したのは体だけである。
一年二ヶ月前に蒸発した石室三根子から、夫の敬三と娘の千秋の元に突然電話が掛かってきた。温泉旅館にいるという三根子は、十時のニュースに自分が出ると告げる。そのニュースでは、群馬の山中で薬指に指輪をつけた左足の白骨が見つかったと報道された。白骨は妻の左足なのか? そして翌朝、群馬の温泉旅館で左足を切断された女の死体が発見される。だがそれは、次々と発覚する不可解なバラバラ殺人の始まりに過ぎなかった……。
主な登場人物
- 石室敬三
- 石室三根子
- 石室千秋
- 宮前藤代
- 宮前保
- 及川英一郎
- 広川耕太郎
- 辻村一夫
- 望月初子
- 福田勝
- 福田礼子
- 沖野綾江
- 呵那山俊夫
解題
95年から96年にかけて「週刊小説」に1年半に渡って連載されたミステリー長編。連載時のジャンル表記は《猟奇ミステリー》。
ドキュメンタリー風の超越的な視点から、連続バラバラ殺人事件の模様が様々な登場人物を通して描かれる。
連城作品の中でも、かなり官能描写が多めの部類に入る作品である。
バラバラ殺人、顔のない死体、旅情ミステリー的趣向など、遺作長編『
処刑までの十章』と共通点が多い。
また最終的な真相は、同時期に書かれたとある作品とテーマ的に通底するところがある。
当時の担当編集者・石川正尚が本の話WEBにて、本作誕生の経緯を語っている。
石川 近所の中華料理屋で、香山さんや秘書の濱田さんも交えて食事をして、その後、2人でカラオケボックスへ行ったんです。だけど、連城さんは中国語の歌を2、3曲しか歌わなくて、かわりに僕がずーっと歌い続けて(笑)。
――当時、連城さんは香港映画の大ファンでしたからね(笑)。
石川 それで100曲目くらいに歌ったのが、柏原芳恵さんの「ハロー・グッバイ」。この曲を歌い出したら、急に連城さんの顔色が変わって、「これはシュールな歌ですね」と仰ったんです。ほら、「私の心をスプーンでまわす」とか、ちょっと不思議な歌詞でしょう? そこで何かインスピレーションが湧いたみたいで、「どんどん人を殺していく殺人鬼の話を書きたい」と言い出した。それまで僕の下手な歌を聞きながら、ずっとどんな話を書こうか考えていたんでしょうね。
(本の話WEB 「
僕がカラオケで歌った「ハロー・グッバイ」が、この“幻の傑作”を生んだ」より)
TRCブックポータルには、かつて
文藝春秋から2015年7月に刊行予定というページが残っており(現在はサービス終了により消滅)、ISBNも取得されていたが、発売延期に。
その後、2016年9月に文藝春秋から刊行された。連載終了から実に20年越しの単行本化である。内容はほぼ雑誌掲載時のままだが、序盤に改稿しようとした形跡は見られる(一部の描写が削られている程度)。
2019年に文春文庫で文庫化。解説は連城作品の文庫解説としては33年ぶりの登板となる関口苑生(1986年の『
夜よ鼠たちのために』新潮文庫版以来)。
刊行履歴
初刊:文藝春秋/2016年9月15日初版発行
日本各地で発見される女性のバラバラ死体。
それらはすべて、別人の身体の一部だった。
埋もれていた傑作がついに単行本化!
多くの作家に影響を与えた連城三紀彦が沖縄の悲劇を背景に描く衝撃のミステリー長篇
(単行本オビより)
単行本/352ページ/定価1600円+税/入手可
装丁/野中深雪 写真/アフロ
文庫化:文春文庫/2019年10月10日初版発行
石室敬三の元へ一年以上前に失踪した妻から突然電話がかかってきた。「自分が出ているから」と指示されテレビをつけると、そこには白骨化した左脚が発見されたというニュースが。妻は生きているのか? やがて全国各地で女性の体の一部が見つかり、事態はますます混沌としていく……。驚愕のミステリー長篇。
(文庫裏表紙より)
文庫/402ページ/定価870円+税/入手可/電子書籍あり
解説/関口苑生
写真/Vinod Lal/Getty Images デザイン/野中深雪
最終更新:2019年10月14日 20:01