- 分類:長編小説
- 初出:「オール讀物」1986年1月号(一挙掲載)
- 雑誌時挿絵:宇野亜喜良
- 初刊:1986年/文藝春秋
- 刊行回数:3回
- 入手:入手可
あらすじ
順子は、階段を一段ずつあがりながら、
いる、いない――
胸の中で、二つの言葉を交互にくり返し続けた。四階の図書室に鉄男がいるかいないかを、ふっと階段の数で占ってみる気になったのである。踊り場の窓から西陽が黄色い光で流れ落ち、セーラー服の裾から覗いた足にまとわりついてくる。順子は、「いる」「いない」を胸の中で呟きながら、グレーのスリッパの先についた黒い蝶の飾りでその光を割るようにして階段を上り続けた。
高校三年生の前島順子は、ボーイフレンドの杉原鉄男の様子がおかしいことを気に病んでいた。著名な彫刻家の父と、美貌の母を持つ少年に何があったのか。図書室で『ギリシャ悲劇集』を読みふける彼に降りかかった家庭の悲劇とは。そして彼が十八歳になった雨の夜、ついに事件が起こる。彼はオイディプス王と同じ運命を背負ってしまったのか――?
登場人物
- 杉原鉄男
- 杉原沙衣子
- 杉原完三
- 前島順子
- 吉沢文雄
- 浅井夏江
- 三上竜一
- 水木恭介
- 杉原修三
- 大川作治
解題
ギリシャ悲劇のひとつ『オイディプス王』を下敷きにした長編ミステリー。タイトルは「あおきいけにえ」と読む。
「オール讀物」1986年1月号に一挙掲載され、加筆修正を経て1986年6月に文藝春秋より刊行された。
当時、『
恋文』での直木賞受賞によってミステリ色の薄い恋愛小説の発注が増えた連城は、自身でも一度ミステリを離れようと考えたらしく、雑誌掲載時には
「これがぼくの最後の本格推理小説になるだろう」と語っている(もちろん、実際はそんなことはなかった)。
もうミステリーは書きません。
連城三紀彦の口からそのショッキングな言葉を聞いたのは、あれはいつだったろうか。はっきりとは憶えていないけれど、氏が「恋文」で第九十一回直木賞を受賞した、その前後であったのは間違いない。
(文春文庫版「解説」香山二三郎 より)
原罪に挑む著者渾身の本格推理小説
青き犠牲 300枚
十八歳の少年はなぜ父親を殺したか。尊属殺人の陰の恐るべき真相。脱稿後、「これがぼくの最後の本格推理小説になるだろう」と語った著者会心の力作。ミステリーファン必読!
(「オール讀物」86年1月号の広告より)
テーマ的には、連城が特に中期に好んで書いた〝歪んだ家族関係〟ものの嚆矢。本人は晩年の10年間を実母の介護に費やしたほどであるのに、小説では
母親が畜生である話を好んで書いた。悪女ミステリー初期の習作としての側面もある。
同系統の作品は、ミステリー方面では『
褐色の祭り』『
女王』『
白光』などの長編群、恋愛小説方面では『
花塵』が代表的なところだろう。
また高校生が主役の青春ミステリー的趣向は『
どこまでも殺されて』に引き継がれる。
最初から解かれるべき事件を読者に提示するのではなく、物語の背後に巧妙な奸計を隠して、最後になってトリックと計画殺人の全貌が明らかになる。読了後に初めて本格としてのプロットに気づかされるといったタイプの本格ミステリである。
(『本格ミステリ・フラッシュバック』より 執筆者:横井司)
2015年2月、光文社文庫から復刊され、現在は新品で入手可能。ちなみに発売予定表では当初『
人間動物園(仮)』となっていた。『人間動物園』を再文庫化する予定だったのが何らかの事情で『青き犠牲』の復刊に切り替えられたのかもしれないが、詳細は不明である。
刊行履歴
初刊:文藝春秋/1986年6月10日発行
オイディプス王の悲劇ふたたび
嵐の夜に起った殺人事件。母と交わり父を殺したギリシャの王のように、少年は近親相姦のはてに父を殺したのか。意表を突くトリックとサスペンスに溢れる著者会心の長篇推理
(単行本オビより)
単行本/220ページ/定価950円/絶版
装幀/村上みどり
文庫化:文春文庫/1989年6月10日発行
杉原完三は高名な彫刻家。その完三が、内側からしか開かないドアのついたアトリエで死んでいた。容疑は高校三年生の息子鉄男に。『ギリシャ悲劇集』を愛読する彼は、父を殺し母を犯したオイディプス王の轍を踏んだのか。それにしても、その美貌の母沙衣子の微笑は何を意味するのか。著者会心の長篇推理。
(文庫裏表紙より)
文庫/222ページ/定価330円+税/絶版
解説/香山二三郎
カバー/村上みどり
再文庫化:光文社文庫/2015年2月20日発行
高名な彫刻家の杉原完三が、自宅兼アトリエから姿を消した。一ヶ月後、完三は武蔵野の林から遺体で発見された。犯人は誰なのか。高校三年生の息子・鉄男の出生の秘密、美貌の母と鉄男の異常な関係など、杉原家の抱える歪んだ家族関係が明らかになり、容疑は息子の鉄男に向けられるが、仰天の顛末とは――。「ギリシャ悲劇」を絡めた連城三紀彦初期の傑作長編ミステリー。
(文庫裏表紙より)
文庫/231ページ/定価540円+税/入手可
解説/山前譲
カバーデザイン/多田和博 カバーアート/伊津野雄二
最終更新:2017年06月11日 23:17