- 分類:短編集
- 初出:別記(全て「オール讀物」)
- 初刊:1999年/文藝春秋
- 刊行回数:1回
- 入手:古書のみ
解題
95年から98年にかけて「オール讀物」に発表された、香港を舞台にした短編5編を集めた短編集。タイトルは「
かれん」と読む。
オビには「スリリングな5つのミステリー」の文字があり、実際にミステリ的な構図や仕掛けが仕込まれているが、雰囲気としてはむしろ『
もうひとつの恋文』や『
萩の雨』など、80年代後半の恋愛短編集に近い。
表紙の写真は俳優のトニー・レオン。
最近ようやく日本映画にも活気が戻って来ましたが、現在のアジアで映画の都といえば、やはり香港。この作品集が書かれたのも、著者が大変な香港映画フリークだったからです。ちなみにカバーの写真は名優トニー・レオン。二十一世紀を前に、中国への返還という大きな節目を迎えた香港。共産主義と自由主義、東洋と西洋の交錯する国際都市を舞台に、映画以上にドラマティックな物語が繰り広げられます。(AK)
(
文藝春秋BOOKS『火恋』連城三紀彦 「担当編集者より」より)
上にある通り、90年代に入ってから、連城は香山二三郎の影響で香港映画に傾倒していった。
本書の成立については、『映画芸術』446号の追悼特集で香山二三郎と荒俣勝利(文藝春秋編集者)の追悼文に詳しく記されている。上記の「AK」もおそらく荒俣であろう。
連城さんと最後に香港にいったのは中国に返還される前後のことで、編集者も同行する取材旅であった。筆者は名所旧跡やら、創作のヒントになりそうなところを案内するという役目を仰せつかっていたのだが、結局は映画を見たり、街中を歩いたり、旨いものを食べるといういつもながらの旅に終始した。
それが結実したのが「火恋」という作品集であるが、考えてみればこれも文庫化されてはおらず、単行本は絶版状態。映像にもなっていない。連城さんにもう会えないのは返す返すも残念だが、悔やんでばかりもいられない。連城さんの残した作品を後世に伝えていくことも筆者に課せられた仕事なのである。
(『映画芸術』446号掲載 香山二三郎「連城さんと香港映画」より)
私が連城三紀彦さんと香港を旅行したのは、一九九五年五月のことだった。二十六日から三十日までの四泊五日。ほかに同行者は、当時、連城三紀彦事務所に所属していたコラムニストの香山二三郎さん。目的は文藝春秋の小説誌「オール讀物」に、香港を舞台にした短篇小説を執筆してもらうための取材旅行だった。
(中略)
香港での五日間は瞬く間に過ぎた。宿泊費は連城さん持ちで九龍のシャングリラホテルに泊まり、中華料理をたらふく食べて、空いた時間は散策と買い物に明け暮れる。取材らしいことはわずかにスターフェリーに乗って船上の様子を確認したことと、マカオに渡ってカジノを見学したことくらい。さすがにこれで新作の執筆は大丈夫だろうかと、心もとない思いを胸に帰国の途についたが、連城さんの「香港連作」は、ほどなく無事にスタートした。それから三年ほどかけて五本の短篇が揃い、一九九九年に「火恋」のタイトルで単行本化された。
(同号掲載 荒俣勝利「香港での五日間」より)
なお売れなかったらしく、未だ文庫化されていない。『
紫の傷』と並んで入手難度の高い連城作品のひとつである。
収録作
- 初出:「オール讀物」1995年7月号
- 雑誌時挿絵:宇野亜喜良
- 初出:「オール讀物」1995年10月号
- 雑誌時挿絵:宇野亜喜良
- 初出:「オール讀物」1996年1月号
- 雑誌時挿絵:宇野亜喜良
- 初出:「オール讀物」1997年8月号
- 雑誌時挿絵:宇野亜喜良
- 初出:「オール讀物」1998年5月号
- 雑誌時挿絵:藤塚光子
刊行履歴
初刊:文藝春秋/1999年7月20日発行
1997年――国境が消えたとき、甦る愛と憎しみ……
揺れ動く国際都市・香港。林立する摩天楼で、尖沙咀の街角で、スターフェリーの船上で展開される、スリリングな5つのミステリー。
(単行本オビより)
単行本/220ページ/定価1333円+税/絶版
装丁/上原ゼンジ 写真提供/Aスタジオ
最終更新:2018年12月23日 22:01