褐色の祭り

  • 分類:長編小説
  • 初出:「日本経済新聞」朝刊 1989年7月29日~1990年8月31日
  • 連載時挿絵:小島俊男
  • 初刊:1990年/日本経済新聞社
  • 刊行回数:2回
  • 入手:古書のみ

あらすじ

 水色のカーテンをひくと、窓のむこうは夏だった。
 眩しい光が空を果てしない広さにみせている。その光に焼かれ、東京の町は白く濁った海の底深くに沈んだ島のように見えた。ホテルの十四階の、ダブルベッドだけしか意味のないその狭い部屋が、海のどこか半端なところを沈むとも浮かぶともつかず、けだるく漂っているような気がした。

石木律子は、四年前に別れた男・宗田に呼び出されたホテルの部屋で、姑から夫の響介が事故に遭ったという連絡を受ける。誰も知らないはずのこの部屋になぜ連絡が? 疑問に思いつつ病院に駆けつけると、夫は既に冷たくなっていた。なぜ夫が事故に遭ったのかを律子が調べ始めると、次々と夫の奇妙な行動が明らかになり、さらに秘められた過去の影までが現れる。平凡な男だとばかり思っていた夫、石木響介とは、いったい何者だったのか――?

登場人物

  • 昭和42年
    • 石木律子
      • 響介の妻。
    • 石木響介
      • 律子の夫。
    • 石木文枝
      • 響介の母。
    • 宗田拓也
      • 律子の過去の交際相手。
    • 町田俊一
      • 響介の部下。
    • 佐々原世津
      • 函館のバーのマダム。
    • 土屋修
      • 函館のアパート「光風荘」の管理人の息子。
    • 土屋清美
      • 修の姉。昭和32年に事故死。
    • 湯沢邦彦
      • 清美の友人。医師。
    • 矢杉章子
      • 湯沢の離婚した妻。
    • 森下安志
      • 響介の函館支社の同僚。
    • 立石
      • 響介の函館時代の上司。
    • 秋山サチオ
      • 函館の花屋の店員。
    • 松岡千津
      • 札幌の孤児院「新緑園」の園長。
  • 昭和60年
    • 秋場響一
      • 母子家庭の少年。
    • 波原行雄
      • 札幌の高校教師。
    • 水川圭子
      • 響一のクラスメート。
    • 秋場葉子
      • 響一の母。
  • 平成2年
    • 土屋公江
      • 土屋修の妻。
    • 土屋一美
      • 土屋夫妻の娘。大学生。
    • 土屋秋彦
      • 一美の弟。
    • 岡島孝行
      • 響一の会社の上司。
    • 大橋和代
      • 律子の妹。

解題

日本経済新聞に連載された長編。新聞連載の長編は『飾り火』に次いで2作目。
平凡な男の隠れた顔、過去探し、歪んだ家族関係、再演のモチーフ……連城三紀彦らしい要素が大量に詰まったエンタメ長編。

 男と女って馬鹿なことばかりしている。(略)それなら思いきって愚かな男女の愛の話を書いてみよう、そう思った時、大学のころ偶然耳にした一人の女性の声が頭をかすめました。「私、この子を絶対に夫そっくりに育てますから」。男児を産んでまもなく夫に事故死された女性がふと呟いた言葉です。その一言は僕好みのドラマをはらんでいました。
(単行本上巻オビ裏「作者のことば」より 初出:「日本経済新聞」1989年7月18日朝刊)

ジャンルミックスな長編だが、文庫版解説の香山二三郎は、本作をサイコ・スリラーに分類している。

 え、いつ連城三紀彦がホラーを書いたの? と問い返す人もいるに違いないが、そう問い返した人はぜひ本書を読んでいただきたい。何を隠そう、本書こそそのホラー小説にほかならないからだ。
(中略)言い換えれば「非日常の愛」は「狂気の愛」というほかないわけで、その「狂気の愛」を描いたサスペンス・タッチの小説を今ではサイコ・スリラーと呼び、娯楽小説界ではモダンホラー・ジャンルの主流を成す作風のひとつとしてとらえられているのである。
 そう。ホラー小説といっても本作は単なるホラーではなく、モダンホラーなのだ。
(文春文庫版 香山二三郎「解説」より)

文庫上巻の裏表紙のあらすじは、宗田の名前が「原田」と誤記されている。

1994年に『過去を追う女』のタイトルで、井筒和幸監督、荒井晴彦脚本、南野陽子主演でTBS系土曜昼2時間枠の単発ドラマ化されている。

刊行履歴

初刊:日本経済新聞社/1990年11月29日発行/上下巻

死んだ夫にはもう一つの顔があった――。
次々と明らかになる事実を前に女は決心する。おなかの子を夫の完全なレプリカに育てようと……。
非日常の愛の形を描いた話題の日本経済新聞連載小説。
(単行本上巻オビより)

愚かにも悲しい女の愛が紡ぎ出す運命の糸。
物語は父の過去と息子の未来が交錯する宿命の地点へ……。
大胆な手法で禁忌に挑んだ衝撃の最新作。
(単行本下巻オビより)

単行本/上巻345ページ・下巻295ページ/定価各1262円+税/絶版
装幀/菊地信義 装画/荒井冨美子

文庫化:文春文庫/1993年11月10日発行/上下巻


石木律子は何事にも人並の商社員響介と一年前に結婚、姑の文枝と三人で暮していた。四年前に別れた恋人・原田からの突然の電話で出かけていったホテルの誰も知らないはずの部屋に、響介が交通事故に遭ったという連絡が入る。すべてが平凡で退屈なだけだった夫によって仕組まれていた。律子は彼の隠されていた過去をたどる。
(文庫上巻裏表紙より)




律子は夫の隠された過去を知り、はじめて死んだ夫に興味と嫉妬を抱く。かつて夫と姑の間に存在した歪んだ母子関係は、やがて息子響一を常軌を逸した育て方で、夫の完全なる模造品へと作りあげていく律子と響一の間で繰り返される。響一は父と酷似した人生から逃れられない自らに気づく。問題の長篇。
(文庫下巻裏表紙より)

文庫/上巻394ページ・下巻347ページ/定価各505円+税/絶版
解説/香山二三郎
装画/荒井冨美子 カバー/菊地信義

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最終更新:2017年07月02日 21:07