牡牛の柔らかな肉

  • 分類:長編小説
  • 初出:「週刊文春」1992年9月24日号~1993年7月8日号
  • 雑誌時挿絵:村上みどり
  • 初刊:1993年/文藝春秋
  • 刊行回数:2回
  • 入手:古書のみ

あらすじ

 ジュラルミンの壁が汗を流し、喘ぐように白い息を吐いた。
 雲が機内へと流れこんできたのだ。飛行機は突然、金属の恐竜の胃袋と化し、外の雲を飲みこみはじめた……
 不安にかられながら、緒沢はこれがただの夢だと気づいてもいる。
 飛行機の中で飛行機の夢を見ている……

墨染めの衣に謎めいた過去を隠す美貌の尼・香順。津和野に庵を構える彼女の元には、居場所をなくした男たちが集まってくる。癌を告げられた会社員の緒沢計作、強姦事件を起こした教師の高橋翔一、覚醒剤疑惑に揺れるロック歌手の桜木準とマネージャーの久保田令治、横領事件を起こした銀行員の巽孝行、博多から逃げてきたヤクザの荻野拓治……。男たちを意のままに操る香順の目的とは、そしてその過去に秘められたものとは……?

登場人物

  • 香順
    • 美貌の尼。本名・石野礼子。
  • 緒沢計作
    • 癌を告げられた会社員。
  • 高橋翔一(永真)
    • 強姦事件を起こした下関の中学教師。
  • 桜木準
    • 覚醒剤疑惑に揺れるロック歌手。
  • 久保田令治
    • 桜木のマネージャー。
  • 巽孝行
    • 横領事件を起こした大日銀行大阪支店の課長。
  • 荻野拓治
    • 博多のヤクザ。大前田組の組員。
  • 矢上桐子
    • 荻野の女。
  • 木田正五
    • 仙台の老人。
  • 副院長
    • 松江の病院の副院長。
  • 緒沢祐子
    • 緒沢の妻。
  • 緒沢朱美
    • 緒沢の娘。
  • 南千香子
    • 高橋の同僚教師。
  • 木村繁樹
    • 高橋の中学の非行生徒。
  • 板倉
    • 高橋の中学の教頭。
  • 水木乃梨江
    • 大日銀行大阪支店の社員。
  • 若林
    • 大日銀行大阪支店の支店長。
  • 水野
    • 大前田組の組員。荻野の兄貴分。
  • 前田一策
    • 大前田組の組長。
  • 米倉光代
    • 夫の愛人を負傷させて逮捕された女。
  • 加納彩子
    • 光代に負傷させられた愛人。
  • ナツミ
    • ホステスだった女。
  • 山崎雪世
    • ナツミの同僚だった元ホステス。
  • 宮田佳江
    • ナツミの同僚だった元ホステス。

解題

「週刊文春」に連載された、美貌の尼が男たちを翻弄する悪女もののサスペンス長編。
僧侶でありながら作品に宗教色の出ない連城作品では珍しい、宗教が題材の作品ではあるが、中身は世俗の香りに充ち満ちたミステリーでありコン・ゲーム小説。篠田節子『仮想儀礼』や荻原浩『砂の王国』、貫井徳郎『夜想』などに通じる「新興宗教をつくろう!」ものでもある。

 連城氏と話をすると、つい芝居や香港映画のほうに流れがちで、肝心の小説については結局何もうかがわないまま終わってしまうことも珍しくない。本篇の雑誌連載時も例外ではなかった。ただひと言だけ記憶に残っていて、それは、読者が「牡牛」と「おうし」ではなく「めうし」と誤読してくれるとありがたい、というものであった。
〝「めうし」の柔らかな肉〟となると、いかにもHっぽい、というか官能的だし、題名全体から男性主役の漁色小説を髣髴させよう。でも、それがいったいどうして「ありがたい」のか。むろん本書の内容が、男が女を狩るのではなく、ヒロインが男たちを翻弄するお話に仕立てられているからにほかならない。Aと見せかけて実はB、という反転仕掛けを真骨頂とする著者ならではの言葉というべきだろう。題名そのものについては、物語の中でそうした男たちのひとりがふと思い浮かべる「どこで誰から聞いたのか、牡牛の肉は硬すぎて生まれてすぐに去勢しないと食用にならない」から取られていることがやがてわかるが、実際そこにもまた仕掛けがあるという念の入りようで、その意味においても著者の言葉には含蓄深いものがある。
(文春文庫版 香山二三郎「解説」より)

解説の香山二三郎は、本作に『終章からの女』と『花塵』を合わせて〝平成悪女三部作〟と命名している。

なお、単行本はなぜかAmazonでアダルト商品扱いされている。

刊行履歴

初刊:文藝春秋/1993年12月10日発行

彼女は何者?
津和野に庵を構える尼、香順。彼女のもとへ、行き場を失った男がきょうもまた一人、駆け込んできた。男たちを受け入れ、操りながら、彼女が定めた狙いは――。
(単行本オビより)

単行本/438ページ/定価1748円+税/絶版
装幀/村上みどり

文庫化:文春文庫/1996年12月10日発行


「剃髪前の私は本当に恐ろしい顔で一人の男の命を死にまで追いつめた、人殺しと変わりない女なのですから」。謎に満ちた過去を墨染めの衣の下に隠す美しき尼・香順。愛を失い、社会に居場所をなくした男たちを意のままに操る彼女は救世主か、それとも希代のペテン師か。万華鏡のごとき目眩く展開の会心作。
(文庫裏表紙より)

文庫/529ページ/定価602円+税/絶版
解説/香山二三郎
カバー/村上みどり

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最終更新:2017年07月12日 01:57