花堕ちる

  • 分類:長編小説
  • 初出:「サンデー毎日」1985年5月26日号~1986年5月25日号(全51回)
  • 雑誌時挿絵:奥田瑛二
  • 初刊:1987年/毎日新聞社
  • 刊行回数:2回
  • 入手:古書のみ

あらすじ

 その唇は、薄闇のなかに、そこだけ淡い光に包まれて浮かびあがっている。
 いや、この閉ざされた場所にはどこからも光は漏れてこない。唇それ自体が光をふくんでいるのだ――女の目にはそう見えた。

妻・紫津子が失踪してから三日後、夫・高津文彦の元に届いた封筒の中には、桜の花びらと、指を焼いたという灰が入っていた。高津は紫津子の行方を追って吉野へと向かう。紫津子の失踪の影に見えるのは、十五年前に吉野で死んだはずの男・藤田。そして高津の元に現れる謎めいた女……。紫津子はなぜ姿を消したのか。死んだはずの藤田は生きているのか……?

登場人物

  • 高津文彦
    • 作曲家。
  • 高津紫津子
    • 高津の妻。
  • 藤田優二
    • バイオリン奏者。十五年前に吉野で変死。
  • 鈴木タカ子/沢野アキ子
    • 高津の前に現れる謎の女。
  • 川原撩一
    • 紫津子の弟。
  • 石塚民江
    • 吉野の旅館「美吉屋」の中居。
  • 原島道夫
    • 指揮者。

解題

週刊誌「サンデー毎日」に1年間連載された長編。連城にとっては初の長期連載長編、上下巻本となった。
失踪した妻の行方を追う、旅情恋愛ミステリー長編である。

本作は奥田瑛二が画家として活躍することになったきっかけとなった作品。
「サンデー毎日」での連載時から奥田の挿絵が非常に好評で、単行本・文庫でも装画を手がけたのはもちろんのこと、単行本・文庫とも挿絵も収録されている。

 この人(引用社註:奥田瑛二)は、今僕がやっている週刊誌の連載に挿し絵を描いてくれている、その画が大変な好評で、画家としても活躍し始めたのだが、その画をみせてもらう度に僕は、この人が画を描いているというより真っ暗な中で凄まじい力で穴掘りをしているような気がする。最後に疲れ果てて投げ出そうとするその間際に、現実か幻想かわからないが、一瞬目が光を掴みとる――巧く言えないのだが、ぎりぎりの所で一瞬見えるそんな光が、どの一枚にも感じられた。
(『恋文のおんなたち』収録エッセイ「夜明けの草笛」より)

二転三転する展開、過去と現実が重なり合う〝再演〟のモチーフ、作品の中心に居座る悪女、ロードムービー的な旅情、そして真相の奇想によって現れる〝異形の愛〟――とどこを切っても連城印の長編。
その後の悪女サスペンス、旅情恋愛小説、歪んだ家族関係ものなど、様々な作品へと分岐していく結節点的作品と位置づけるべきであろう。

角川文庫版は初版では417円+税(消費税3%で430円)だったようだが、ある時期(92年以降?)から485円+税(消費税3%で500円)に値上げしたようである。

刊行履歴

初刊:毎日新聞社/1987年4月25日発行/上下巻

奥田瑛二の妖艶な挿図30枚で彩る連城三紀彦渾身の恋愛長篇ミステリー
桜の吉野山心中事件から幕をあけた謎のドラマは次第に深まって……。
(単行本上巻オビより)

奥田瑛二の妖艶な挿図30枚で彩る連城三紀彦渾身の恋愛長篇ミステリー
妻を追い求める夫の前になおも広がる闇。結末はあまりにも意外だった。
(単行本下巻オビより)

単行本/上巻285ページ・下巻288ページ/定価各1100円/絶版
題字・挿絵・装幀/奥田瑛二 デザイン/コスギヤエ

文庫化:角川文庫/1990年9月25日発行/上下巻


“花の落ちる地へ参ります”という書き置きを残し、作曲家・高津文彦の妻・紫津子が家を出てから三日目の朝、高津のもとに空箱のように軽い、奇妙な小包が届いた。中からあふれだした無数の桜の花片は、風に舞い花吹雪となって高津を驚かせたが、花片とともに白い砂状の物が入った封筒があり、添付の便箋には妻の筆蹟で、それは自分と愛人の“小指の灰”であると記されていた――。桜吹雪舞う幽境の地に燃えあがる魔性の炎、傑作長編恋愛ミステリー。
(文庫上巻折り返しより)



作曲家の高津文彦は、出奔した妻・紫津子を追って桜の花を手懸りに吉野、奈良、京都へと旅をつづけていた。そしてついに仁和寺で、タクシーに乗っている紫津子を見つけだすが、彼女の隣りには顔をコートの襟とサングラスで覆った正体不明に男が同乗していた――。現実と幻想の狭間で奏でられる愛と背徳の旋律が哀しくも美しい長編恋愛ミステリー。衝撃の結末へ!
(文庫下巻折り返しより)

文庫/上巻291ページ・下巻307ページ/定価各417円+税/絶版
解説/萩原朔美(エッセイスト)
題字・カバーイラスト・本文さし絵/奥田瑛二

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最終更新:2017年06月07日 19:10