- 分類:短編集
- 初出:別記
- 初刊:1984年/講談社
- 刊行回数:2回
- 入手:古書のみ
解題
1983年頃に様々な雑誌に書かれた短編を集めた短編集。
講談社から単行本が出たが、講談社の雑誌初出の作品は表題作「
瓦斯灯」のみ。「
炎」「
火箭」とあわせて三部作ということになってこそいるが、実態としては直木賞受賞を受けて急遽その時点で残っていた短編を集めて作られた本であろう。
僕の書くものの中に最も多く登場するのが、花と、(これは某評論家が指摘しているのですが)雨と、それからその〝火〟です。
特に、この短篇集に収められているもののうち、「瓦斯灯」「炎」「火箭」の三作は、題名でもわかる通り、火を重要なモチーフにしていて、日頃から僕の記憶や想像の中に燃えている火を原稿用紙へと移し、どれだけ物語の中で燃やすことができるか――気負いすぎた言葉になりますが、火にまつわる三部作を書こうといった意図から生まれたものです。
(単行本あとがきより)
連城作品に雨が多いと指摘した「某評論家」とは関口苑生のこと。講談社文庫版『
変調二人羽織』の解説による。
書き手が自作の好き嫌いをこういう場で書いていいものかどうか。
しかし物事の価値判断の尺度に、好きと嫌いの二つの目盛りしかない僕には、自作に関して何か書くとすれば、本当はその二つの言葉のどちらかしかないのです。それも好きだと言える作品は片手でも余るほどしかなく、八十篇近くも短篇を書いていれば、中にはまぐれあたりで好評を得る作品も生まれたりしますが、割合と評価を貰った作品でも自分ではどうしても好きになれず、本棚から抹殺してしまったものがあったりします。
(単行本あとがきより)
このように連城三紀彦は基本的に自作に厳しい、というか非常な謙遜の人で、自作について語ること自体滅多になく、語ったとしても概ね否定的な言葉ばかりである。その中で本書の表題作「
瓦斯灯」は珍しく「愛着をもっている」と語っている。
特に本書と『
夕萩心中』のあとがきで自作が嫌いということを表明しているが、それは『
恋文』の直木賞受賞に伴うちょっとした連城フィーバーに対する違和感というか居心地の悪さの表明でもあったのだろう。それが87年の得度に繋がっていった、と見ることもできるのではないだろうか。
短編集としては、『
戻り川心中』や『
宵待草夜情』よりもさらに恋愛小説に比重が傾いてきている。初期のミステリ路線と、この後の80年代後半の恋愛小説路線の分水嶺にあたる作品集といえるだろう。
火にまつわる三部作として構想された「瓦斯灯」「炎」「火箭」など、全五篇を収録した短篇集。〈
花葬シリーズ〉がミステリと恋愛小説の融合を志して書かれていたのに対し、本書の場合、明らかにミステリ風な趣向を取り入れた恋愛小説を書くことへと比重が傾きつつある。だが、そうであるからこそかえって、著者にとって恋愛小説とミステリ的小説作法が不可分なものであることが読み取れるのだ。「花衣の客」の途轍もなく倒錯した人間関係や、「火箭」の三角関係に秘められた操りの構図は殊に印象に残る。
(『本格ミステリ・フラッシュバック』より 執筆者:千街晶之)
収録作
- 初出:「小説現代」1983年11月号
- 雑誌時挿絵:文月信
- 初出:「別冊婦人公論」1983年春号
- 雑誌時挿絵:小松久子
- 初出:「月刊カドカワ」1983年9月号
- 雑誌時挿絵:三嶋典東
- 初出:「別冊婦人公論」1984年冬号
- 雑誌時挿絵:岡田嘉夫
- 初出:「オール讀物」1983年12月号
- 雑誌時挿絵:山野辺進
刊行履歴
初刊:講談社/1984年9月28日発行
新直木賞作家・連城三紀彦
最新恋愛ミステリー集
瓦斯灯にも似て美しく燃えながらやがて色を失ってしまう恋の炎
著者独自の恋愛世界、男と女の哀しく鮮やかな「愛のどんでん返し」
(単行本オビより)
単行本/194ページ/定価980円/絶版
あとがきあり
装画・装釘/村上昴
文庫化:講談社文庫/1987年9月15日発行
歳月は、人を恋う心の炎を消してしまうのか、あるいは、さらに激しく燃えたたせるものなのか。十七年前、相思相愛だった男と女が、いま再会して露わになる数奇な離別の真相とは(表題作)。愛が憎しみに、悦びが哀しみに、一瞬にして反転しうる心の襞をミステリアスに描く、会心の恋愛推理小説五編を収録。
(文庫裏表紙より)
文庫/201ページ/定価320円/絶版
解説/香山二三郎
カバー装画/村上昴 デザイン/菊地信義
最終更新:2017年08月10日 16:34