流れ星と遊んだころ

  • 分類:長編小説
  • 初出:「小説推理」1997年6月号~1998年6月号
  • 雑誌時挿絵:牧美也子
  • 初刊:2003年/双葉社
  • 刊行回数:3回
  • 入手:入手可(電子書籍あり)

あらすじ

「ちょっとばかし運が悪かっただけだ」
 あいつは俺に罪を告白したあとで、変にささくれだった声でそんなことを言ったよ。渋谷の路地裏で人を殺したという話を、悟ったような顔で淡々と語ったあとに――。

映画スター「花ジン」こと花村陣四郎に隷属させられているマネージャーの北上梁一は、ある夜、一人の女に出会い、誘われるままについていくと、その兄だと名乗る男に脅迫されることに。だが梁一はその二人――鈴子と秋場との出会いでひとつの夢を抱く。それは自らの手で新たなスターを生み出すことだった。花ジンを新作映画から引きずり下ろし、抱いた夢を実現するため、梁一は二人と手を組むが……。

登場人物

  • 北上梁一
    • 花ジンのマネージャー。
  • 秋場一郎
    • 梁一を脅迫してきた男。
  • 柴田鈴子
    • 梁一が酒場で出会った女。
  • 花村陣四郎
    • 映画スター。通称「花ジン」
  • 野倉哲
    • 映画監督。
  • 小田真矢
    • 人気の若手俳優。
  • 高松
    • プロデューサー。

解題

「小説推理」に1997年から1998年にかけて連載された長編。
単行本化に7年かかった『人間動物園』に続き、これまた連載終了から単行本化まで5年を要した。
ちなみに他の「小説推理」掲載の長編は全て前後編の分割掲載で、同誌に連載された長編はこれが唯一。なお、連載時のジャンル表記はなんと《ハートウォーミング・ストーリー》である。いやマジで。

前年の『人間動物園』に続き、「このミステリーがすごい!2004年版」では9位にランクインした。おそらく90年代に刊行されていたら恋愛小説と思われてスルーされていたであろう。

 昨年の『人間動物園』に引き続いてのベストテン入りは欣快至極。願わくば五、六年前の連載の単行本化ではなく、書下ろしなど今現在の連城作品に出合えたならば文句はないのだが。またその時こそ完全復活といえるのだろう。
(「このミステリーがすごい!2004年版」『流れ星と遊んだころ』紹介文より 執筆者不明)

執筆者の署名がないが、おそらく『人間動物園』の紹介文と同一人物の筆であろう。

連城には男同士の同性愛をテーマにした作品が「カイン」や「白蘭」など多数あるが、長編では『ため息の時間』と本作が代表格。
一人称と三人称を行き交う叙述は、未刊行長編『悲体』でも用いられている。

 それにしても、これほどまでに複雑怪奇な騙しの塔を築かれてみると、連城ワールドの住人たちは何故嘘のかたちでしか本心を表現出来ない定めにあるのだろうか――という嘆息にも似た思いを禁じ得ない。皆川博子の小説『薔薇密室』(二〇〇四年)には、「物語を必要とするのは、不幸な人間だ」という一節がある。連城三紀彦ならば、「嘘を必要とするのは、不幸な人間だ」と言い換えるだろうか。その不幸を贄としてのみ、虚構の花は美しく咲き乱れるのかも知れない。
 嘘と真実、愛と憎しみ、秘密と告白、異性愛と同性愛、裏切りと服従、復讐と自己犠牲。それらが目まぐるしく反転しながら、星雲のように犇き合っているこの物語は、著者の小説を特徴づけるすべての要素が詰まっていると言っていい傑作である。著者自身は流れ星のようにこの世を去っても、本書を含む作品群は哀しい煌めきを永遠に放ち続けるに違いない。
(双葉文庫版 千街晶之「解説」より)

2003年に単行本が出たあと、長らく文庫化されず、2013年10月に一度双葉文庫の刊行予定に挙がったが、ちょうどその月に連城が亡くなったこともあってか発売延期に。2014年2月、初刊から11年を経てようやく文庫化された。千街晶之の解説は、連城三紀彦の経歴と作品群を概観し、注目されにくい90年代の作品群にも筆を費やした名解説であり、単体で連城作品ガイドとしても便利である。
「おすすめ文庫王国2015」では宇田川拓也によって国内ミステリー部門1位に選出された。

2021年6月、『暗色コメディ』『人間動物園』と3ヶ月連続刊行という形で同じ双葉文庫から新装版に切り替えられた。新装版にも引き続き千街晶之の解説が収録されている。

各種ランキング順位


刊行履歴

初刊:双葉社/2003年5月20日発行


43歳、初秋。職業・芸能マネージャー。
人生なんてもうどうでもいい、と思っていた。
ある夜、ナイフの眼を持つ男と出逢った――
「この男をスターにしてみせる」
男たちの最後の夢を賭けたドラマがいま始まる。
(単行本初版オビより)

単行本/325ページ/定価1700円+税/絶版
装画/スズキエミ 装幀/池田進吾(67)

文庫化:双葉文庫/2014年2月15日発行


傲岸不遜な大スター「花ジン」こと花村陣四郎に隷属させられているマネージャーの北上梁一は、ある夜、一組の男女と出会う。秋場という男の放つ危険な魅力に惚れこんだ梁一は、彼をスターにすることを決意。その恋人である鈴子も巻きこみ、花ジンから大作映画の主役を奪い取ろうと画策する。芸能界の裏側を掻い潜りながら着実に階段を上る三人だが、やがてそれぞれの思惑と愛憎が絡みあい、事態は思わぬ展開をみせる――。虚々実々の駆け引きと二重三重の嘘、二転三転のどんでん返しが、めくるめく騙しの迷宮に読者を誘う技巧派ミステリの傑作。
(文庫裏表紙より)

文庫/371ページ/定価686円+税/入手可
解説/千街晶之
カバーデザイン/水戸部功

新装版:双葉文庫/2021年6月13日発行


銀幕の大スター「花ジン」こと花村陣四郎のパワハラに耐えるマネージャーの北上は、ある夜、危険な魅力を放つ秋場という男と出会う。秋場に惚れこんだ北上は、その恋人である鈴子も巻きこみ、花ジンから大作映画の主役を奪い取ろうと画策する。芸能界の裏側をかい潜りながら着実に階段を上る3人だが、やがてそれぞれの思惑と愛憎が絡み合い、事態は思わぬ展開をみせる――。虚々実々の駆け引きと二重三重の嘘、二転三転のどんでん返しが、めくるめく騙しの迷宮に読者を誘う技巧派ミステリーの傑作。
(文庫裏表紙より)

文庫/371ページ/定価850円+税/入手可/電子書籍あり
解説/千街晶之(双葉文庫旧版の再録)
カバーデザイン/川名潤

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最終更新:2022年01月19日 23:40