- 分類:長編小説
- 初出:「MiL」1994年6月号~1995年11月号
- 連載時挿絵:永野敬子
- 初刊:1995年/双葉社
- 刊行回数:2回
- 入手:品切れ
あらすじ
「何を書いてるんだ?」
布団の中から、新兵がそう声をかけてきた。
目がさめたらしい。
モデルの架世、OLの鮎美、イラストレーターの卵の良子、23歳の3人は親友同士。そんな3人の前に、高校時代に3人揃って夢中になり、3人揃って振られたテニス界のプリンス・Mが現れた。Mを巡って、友情も裏切る3人の恋のバトルが始まる――。
登場人物
- 架世
- 鮎美
- 良子
- M(槇田竣作)
- 浅木玲子
- 野川新兵
- 藤野英一
- 河瀬
- 鮎美の父
解題
双葉社の女性向けファッション誌「MiL」に連載された恋愛長編。
特に90年代後半の連城作品では『
隠れ菊』『
虹の八番目の色』『
ゆきずりの唇』など中年女性の家庭小説的な作品が多いが、この作品は平成の20代女子を主役に据えたという点で連城作品としては非常に異色。
この小説は前の二冊より、さらに、手が込んでいる。ここには、『サラマンダー』の内容もなければ、『天空の蜂』の告発もない。三人の娘たちは、この小説が連載された雑誌(『MiL』)のような女性誌や、テレビなどに代表される、マスコミで増幅された価値観のみで行動し、ほとんど、トレンディドラマの登場人物のように、ふるまう。それは、安手のドラマと紙一重のところにある。ただし、連城三紀彦が手だれなところは、それと一言も語らずにいながら、それが、自分自身の中に何のルーツもない、表面的なふるまいであることまでも、描いてしまうことだろう。
彼女たちは、騎士物語の代わりに、トレンディドラマを、頭いっぱいに詰め込んだ、ドン・キホーテのようなものだ。とくに、男がすべて名前に固有名詞を与えられずにいる、前半の狂騒的な諧謔が素晴らしい。もっとも、筆者自身は、案外、読者サービスに、今様の軽い恋愛小説を書いたのかもしれないが、そうだとしても、結果として、今様の軽い恋愛のサタイアになってしまうのが、この作家の持つ凄味というものだろう。
三人のヒロインたちの、嘘と裏切りと足の引っ張りあいは、ある意味で、連城三紀彦の十八番の部分ではある。しかし、これまでの連城作品では、恋愛という強い感情ゆえに、嘘や裏切りが説得力をもっていた。それに対して、今回は、それが薄っぺらな人生ゲームの、勝ち残りのためであるがゆえに、その嘘や裏切りに、滑稽味と無残さが漂う。
(「サンデー毎日」1996年3月24日号 小森収「サンデーらいぶらりぃ」より)
1995年に単行本化されたあと、長らく文庫化されなかったが、2005年に「小説推理」に突如として本作の10年後を描いたミステリ短編「
ヒロインへの招待状」が発表され、2009年にようやく刊行された双葉文庫版に追加収録された。
連城三紀彦が、一度単行本として刊行された作品のキャラクターをその後再登場させたのは、作家生活において「ヒロインへの招待状」が
唯一の例である。
双葉文庫版は2016年半ばまで入手できたが、秋頃に品切れとなった。
併録短編(双葉文庫版のみ)
刊行履歴
初刊:双葉社/1995年12月15日発行
私だけを見つめて下さい。そして「君を選んだよ」と言って下さい……
〝今〟を生きる23歳の女性3人。6年前、共に憧れた男性が現実の結婚相手となって現れた。友情も裏ぎる激しい恋のバトルの結末は!?
(単行本オビより)
単行本/243ページ/定価1456円+税/絶版
装幀/上原ゼンジ
文庫化:双葉文庫/2009年1月18日発行
架世、鮎美、良子の3人は高校時代からの親友。18歳のとき共に同じ男に恋をし、揃って失恋した過去を持つ。23歳の今、架世は恋愛を謳歌し、鮎美は恋人にプロポーズされ、良子は道ならぬ恋に悩んでいる。そんな中、アイツが3人の前に姿を現した。しかもバツイチとなって。再び燃え上がる恋の炎。友情もモラルもかなぐり捨てた激しい恋のバトルの結末は? そして最後に選ばれるのは……。名作『恋文』の著者が贈るビターな恋愛小説。単行本未収録作品「ヒロインへの招待状」も併録。
(文庫裏表紙より)
文庫/339ページ/定価648円+税/品切れ
「
ヒロインへの招待状」を併録
解説なし
カバーデザイン/斉藤秀弥
最終更新:2017年12月20日 04:00