暗色コメディ

  • 分類:長編小説
  • 初出:書き下ろし
  • 初刊:1979年/幻影城
  • 刊行回数:5回
  • 入手:入手可(電子書籍あり)

あらすじ

 エレベーターの扉が開いたとき、その声は聞こえた。
「……や、ようこさま……」
 自分の名の断片である。

主婦の古谷羊子は、デパートでもうひとりの自分を目撃した。画家の碧川宏は、自殺しようと飛び込んだトラックが自分に衝突した瞬間に消失した。葬儀屋の鞍田惣吉は、妻から自分が一週間前に交通事故死したと告げられた。外科医の高橋充弘は、妻が別人にすり替わっていることに気付いた――。精神病院の患者たちの周囲で次々と起こる奇妙な事件。精神科医の波島維新と森河明、婦長の在家弘子の三人は、それらの事件と謎に翻弄されるが……。

主な登場人物

  • 波島維新
    • 藤堂病院の精神科医。
  • 在家弘子
    • 女子病棟婦長。波島の元妻。
  • 森河明
    • 波島の助手。
  • 秋葉憲三
    • 藤堂病院の副院長。昨年末に自殺。
  • 秋葉杉子
    • 憲三の妻。
  • 古谷羊子
    • 主婦。デパートでもうひとりの自分を目撃する。
  • 古谷征明
    • 羊子の夫。
  • 古谷一美
    • 征明の妹。
  • 碧川宏
    • 画家。自殺するために飛び込んだトラックが消失する。
  • 碧川梨枝
    • 碧川の妻。
  • 鞍田惣吉
    • 葬儀屋。妻から自分が一週間前に交通事故死したと告げられる。
  • 鞍田芳江
    • 惣吉の妻。惣吉が事故死したという妄想に憑かれる。
  • 高橋充弘
    • 外科医。妻が別人にすり替わっていたことに気付く。
  • 高橋由紀子
    • 充弘の妻。

解題

連城三紀彦の記念すべき処女長編。幻影城が最後に刊行した書き下ろし作品でもある。
ちなみに、連城が生涯に単行本書き下ろしで刊行した作品は本作と『黄昏のベルリン』のみ。

田中 一九七八年から翌七九年にかけて「影の会」に長篇競作をさせるという企画が「幻影城」であって、予告タイトルの広告は出たのに、書いたのは連城さんだけ。「暗色コメディ」という処女長篇ですね。
連城 みんな書かなかったのに、ぼくだけ真面目に書いた。
(田中芳樹×連城三紀彦「対談 ぼくら〝超能力義兄弟〟」より)

ちなみにこのとき他にタイトルが予告された作品は、栗本薫『さびしい死神』(銀座署シリーズ・第一作)、李家豊『銀河のチェス・ゲーム』(超戦士シリーズ・第一作)、竹本健治『偶という名の惨劇』、筑波孔一郞『影深き朝に』(蓬田専介&木島逸平シリーズ・第三作)。『暗色コメディ』以外はいずれも今に至るまで未刊行である。

精神病院を舞台に、幻想的な謎を大量にばらまき、ひとつひとつ解体していく、島田荘司的本格ミステリ。
大の島荘・連城ファンである伊坂幸太郎は、『ラッシュライフ』が本作に影響を受けていることを明かしている。

伊坂 僕の『ラッシュライフ』という小説は、実は『暗色コメディ』なんですよ。四つの話を並行して動かすという構成で。
綾辻 あ、そうか。なるほど、あれはそうだったんですね。
伊坂 あれは、俺も『暗色コメディ』みたいなものを書きたい、と思って意識的にやったんです。でも、『暗色コメディ』と同じではしょうがないので、もう少し工夫をしてみたわけで。
(綾辻行人×伊坂幸太郎「特別対談 ミステリー作家・連城三紀彦の魅力を語る」より)

「幻影城」79年5月号では4月15日刊行と書かれているが、実際に出たのは6月だったようだ。

 また氏の処女長編『暗色コメディ』は間違いなく四月十五日には発売になります。未予約でしたら早めに御予約下さい。決して失望させません。『11枚のとらんぷ』とまたひと味違った本格ものの興奮を、あなたに……なにしろトリックが無数にあるのだから。
(「幻影城」1979年5月号「幻影城サロン」より 執筆者:島崎博)

幻影城版は刊行直後に幻影城が倒産したためすぐ絶版となり、1982年にCBSソニー出版から再刊されたが、このとき加筆修正が入っている(連城三紀彦が一度単行本化した作品に大きく手を入れたのはおそらくこれが唯一)。以降の刊行は全てCBS版準拠。
新保博久によると、幻影城版のトラック消失トリックには海外作品に前例があることを連城に伝えたところ、再刊時に連城がトリックを差し替えたとのこと。
連城は『運命の八分休符』でも表題作のトリックに前例があることをあとがきで断っている。

 この作品は既に三年前に、ミステリ雑誌社「幻影城」から一度単行本として出版され、出ると同時に会社が倒産したこともあって短い陽の目を見て終ったものです。僕の書く物はどちらかといえば隠花植物だから短い陽の目の方がふさわしかったのでしょうが、今度CBS・ソニー出版とキティーの磯田秀人氏の御好意でもう一度世に出ることになりました。
新しい陽の目にどれだけ耐えられるか。
 心もとないばかりですが、細かいミスの訂正や小トリックの変更や、三年前の夢の亡霊は、ボロ着だけを多少なりとも繕っています。
(CBSソニー出版版「あとがき」より)

2021年4月、双葉文庫にて伊坂幸太郎の推薦オビつきで『人間動物園』『流れ星と遊んだころ』とともに3ヶ月連続刊行で復刊され、現在はそちらが入手可能。

2013年に台湾版が出ている。→中国版amazon

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刊行履歴

初刊:幻影城ノベルス/1979年6月15日発行

ネオ・ロマン派の書下し長編
四つの場所で四人の男女が四つの奇妙な事件に
遭遇した。これらバラバラの事件を結ぶカルテ
とは? 話題の新鋭・連城三紀彦のネオ・ロマン
(単行本オビより)

単行本/347ページ/定価1000円/絶版
プロフィール・連城三紀彦(解説)/島崎博
装丁/池田拓 カバー画・本文さしえ/山本博通

再刊:CBSソニー出版/1982年4月25日発行

あやかしの狂花(mystery)ここに咲けり
果たして現実か夢想か?
不可思議な不連続殺人事件に
彩られた迷宮遊戯
精神病院を舞台に綴られた
絢爛たる推理小説の美学
連城三紀彦
幻の傑作長編
(単行本オビより)

単行本/298ページ/定価980円/絶版
あとがきあり
解説/竹本健治
写真/寺島彰由 装幀/菊地信義

文庫化:新潮文庫/1985年6月25日


デパートで夫と逢引しているもうひとりの自分を目撃した人妻。自殺しようと飛び込んだトラックが消えてしまった画家。一週間前に自分が交通事故死したことを妻から知らされた葬儀屋。妻が別人にすり替っていることに気がついた外科医――。四つの別々の場所で起こった四つの事件がからみあい、ひとつに結ばれていく。浮かび上がる過去の殺人事件。巧緻なトリックで描くミステリー。
(文庫裏表紙より)

文庫/371ページ/定価466円+税/絶版
解説/田中芳樹
カバー写真/松岡茂樹 デザイン/新潮社装幀室

再文庫化:文春文庫/2003年6月10日発行


もう一人の自分を目撃してしまった主婦。自分を轢き殺したはずのトラックが消滅した画家。妻に、あんたは一週間前に死んだと告げられた葬儀屋。知らぬ間に妻が別人にすり替わっていた外科医。四つの凶器が織りなす幻想のタペストリーから、やがて浮かび上がる真犯人の狡知。本格ミステリの最高傑作!
(文庫裏表紙より)

文庫/390ページ/定価667円+税/品切れ/電子書籍あり
解説――眩暈と地獄/有栖川有栖
装丁/石川絢士

再々文庫化:双葉文庫/2021年4月18日発行


もう一人の自分を目撃したという人妻。"消失狂"の画家。「あんたは一週間前に事故で死んだ」と妻に言われる葬儀屋。妻が別人にすり替わっていると訴える外科医。四人を襲う四つの狂気の迷宮の先には、ある精神病院の存在があった……。緻密な構成と儚く美しい風景描写。これぞ連城小説の美学、これぞ本格ミステリの最高峰!
(文庫裏表紙より)

文庫/383ページ/定価850円+税/入手可/電子書籍あり
解説なし
カバーデザイン/大路浩実

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最終更新:2022年01月19日 23:29