- 分類:長編小説
- 初出:「IN★POCKET」1993年1月号~1994年6月号
- 雑誌時挿絵:北村治
- 初刊:1994年/講談社
- 刊行回数:2回
- 入手:古書のみ
あらすじ
私がNから、父親の遺稿があるが読んでみないかと言われたのは、昨年の晩秋に二人で酒田へ旅した際である。
大正から戦後の洋画壇で、数々の画家の間を渡り歩き、天才画家だった息子すらも犠牲にして奔放に生き抜いた女にして、ただ一枚の傑作「花塵」を遺した画家がいた。その名は、三雲笙子――。
登場人物
- 私
- N
- K
- 三雲笙子
- 秋原柊平
- 斉藤忠
- 斉藤ハル
- 稲木旬太郎
- 井川勇
- 井川美津
- 篠田弥介
- 蔵田梅林
- 十色漣
- 甲賀剣三(輪介)
- 古宮
- 古宮次雄
- 芝田市治
- 芝田倫和
- 布目民子
解題
大正から昭和にかけての洋画壇を舞台にした、〝平成悪女三部作〟(Ⓒ香山二三郎)の三作目となる悪女ものの恋愛長編。
ただし前2作『
牡牛の柔らかな肉』『
終章からの女』に比べると、ミステリー色はかなり薄い。
連城 読者としてはスケールの大きいものも好きなのに、自分で書くとどんどん閉じこもる方向へ進んじゃう。「IN★POCKET」に書いてる「花塵」だって、最初『風と共に去りぬ』みたいなのが頭にあったんだけど、小さなアトリエの中に話が押し込まれていっちゃうんです。
田中 緻密ですからねえ。
(田中芳樹×連城三紀彦「対談 ぼくら〝超能力義兄弟〟」より)
架空の女性・三雲笙子の半生を評伝風に描いた、『
敗北への凱旋』『
落日の門』などに連なる〝疑似歴史小説〟群の恋愛小説版、あるいは初期の恋愛長編『
残紅』を発展させた作品というべきだろう。
絵画、子供すら自分のために利用する母親、といった特に連城らしいモチーフが前面に出た作品でもある。
連城三紀彦は、現在、日本でもっともスリリングな恋愛小説を書ける人だ。長編、短篇を問わず、安定して力を発揮している。そして、全部ではないにしても、その中にかなりの恋愛小説が含まれる。それも、絶対に平凡な手では来ない。出身がミステリだけに、多くの場合、巧緻な仕掛けを組んでくる。
それにしても、今回の『花塵』は凄い。ここ数年の連城三紀彦の小説中でも、最高の出来ではないか。内容的に厚みのある小説である。
(中略)
全体を、あたかも評伝かノンフィクションかのように、資料で調べたような書き方にしているのも、効果をあげている。それは、たとえば後半で、それまでの構図を、根底からひっくり返すような、大ドンデン返し(それだけでもひとつ小説が書けるだろう)の可能性を示しながら、それは事実ではない、と言ってのける贅沢な部分に、現れている。
ヒロインの個性。巧みな語り口。ヒロインの嘘によって翻弄され、錯綜する人間関係。そうしたものが重なりあって、この小説の厚みを形作っている。文句なしの傑作である。
(小森収『本の窓から』収録 「ノンフィクションのようなスタイルで」より)
刊行履歴
初刊:講談社/1994年10月11日発行
【長編恋愛小説】
芸術と愛欲のはざまを生きた女。
大正時代の洋画壇で、男たちをカンバスにして自分の人生を描き続けた魔性の女と、翻弄された十数人の男たち。
(単行本オビより)
単行本/312ページ/定価1456円+税/絶版
装幀・写真/上原ゼンジ
文庫化:講談社文庫/1997年10月15日発行
洋画壇のなかで男たちをカンバスにして自分の人生を描き続けた女がいた。いつも新しい玩具を欲しがる童女のように次々と男をとりかえ奔放な暮らしを続けた。世間からは『魔性』と呼ばれる生命の破壊力で男たちすべてに破滅を与え、その破滅こそが愛の証しと考え激しく生きた女が遺した一枚の絵。長篇恋愛小説。
(文庫裏表紙より)
文庫/371ページ/定価619円+税/絶版
私だけの誤った解釈/土屋文平(編集者)
カバーデザイン/上原ゼンジ
最終更新:2017年07月12日 22:49