飾り火

  • 分類:長編小説
  • 初出:「毎日新聞」夕刊 1987年9月1日~1988年10月31日
  • 連載時挿絵:村上みどり
  • 初刊:1989年/毎日新聞社
  • 刊行回数:2回
  • 入手:古書のみ

あらすじ

 やはりあの女が自分を手繰りよせようとしている――。
 京都駅を出て十分もすると、車窓に溢れている冬の光の中に、白い塵が舞い始めた。それが雪片だとわかった時、藤家は胸の中でそう呟いた。やはり次の米原でこのひかり号を降り、北陸本線に乗り換えたほうがいい――。

藤家芳行は、金沢へ向かう列車の中で、新郎に逃げられたまま新婚旅行中の女と出会い、誘われるまま一夜を共にする。芳行の妻・美冴は、夫に微かな裏切りの気配を感じながらも、それに確信を持てないまま日々を過ごすが、彼女は気付いていなかった。夫との平穏な関係、結婚相手を突然連れてきた息子の雄介、高校生になったばかりの娘の叶美……二十三年かけて築いてきた幸福な家庭が、既にひとりの女によって壊され始めていることを――。

登場人物

  • 藤家美冴
    • 芳行の妻。主婦。
  • 佳沢妙子
    • 美冴の組紐教室の友人。
  • 藤家芳行
    • 美冴の夫。
  • 藤家雄介
    • 美冴と芳行の息子。新社会人。
  • 藤家叶美
    • 美冴と芳行の娘。高校生。
  • 村木征二
    • 妙子の交際相手。
  • 石津真佐代
    • 雄介が連れてきた結婚相手。
  • 野上明
    • 叶美のボーイフレンド。
  • 岸森
    • 芳行の部下。
  • 田口敏雄
    • 自殺したサラリーマン。
  • 田口保子
    • 田口の妻。
  • 大野幸江
    • 田口の妹。
  • 久保田玲子
    • 原宿のブティックの店主。
  • 大杉夫人
    • 政治家の奥様。

解題

連城三紀彦初の新聞連載長編。なぜか不思議と「新聞連載時に読んでいた」という声が多く聞かれる。
ひとりの女の企みが幸福な家庭を破壊していくドメスティック・サスペンスであり、妻と愛人の壮絶な戦いを描いたコン・ゲーム長編。
後述のテレビドラマ化もあってか知名度は比較的高く、中期連城長編の中では代表作のひとつに数えていいだろう。
ただ同時に名前が挙がるときはドラマの話か新聞連載時の話で、内容について深く語られることは少ない。

 たとえば、近年の傑作『飾り火』は、ひとりの女の手によって、ある平凡で幸福な家庭が完膚なきまでに壊されてしまいます。その謀りごとの手の込みようといったらないのですが、そこでは、ミステリでよく問題になる、一体なぜそんな手の込んだことをする必要があるのか、という謀りごと(トリック)の必然性の問題が、いつもあっさりと解決されているのです。トリックの必然性とは、犯行が露顕した時のマイナスと、犯行の手間を秤にかけて決めるという常識を、連城三紀彦はいとも簡単に覆してみせました。恋に狂えば、人は手間暇など度外視した行動に出るのだ、という心理=真理が、そこでは働くからです。同時に、トリッキーで破天荒な行為でなければ描けない恋愛が、この世にはあることを、それはさし示してもいました。
(『夢ごころ』角川文庫版 小森収「解説」より)

1990年に『誘惑』のタイトルでTBS系列で連続ドラマ化(全12回)。脚本は荒井晴彦、奥寺佐渡子、中園健司。出演は篠ひろ子・紺野美沙子・林隆三・宇都宮隆など。連城作品の映像化の中でも特に知名度が高く、名作として知られている。
ほか、1991年には文庫版の解説を担当している堀越真の脚本により舞台化されている。

単行本は少なくとも11刷までいっているのが確認でき、ドラマ化もあってかなり売れたようである。
一方1992年に出た文庫版は1999年の時点で品切れになっているのが確認でき、さほど売れなかったようだ。

刊行履歴

初刊:毎日新聞社/1989年4月30日発行/上下巻

女の妖しさと怖さ……
出張帰りの車内で知り合った若い女性……。ふとしたきっかけから、平和な家庭の崩壊がはじまる。人間の不安と焦躁をミステリアスなタッチで描いた、連城三紀彦の渾身の力作。
(単行本上巻オビより)

家庭崩壊の行方は……
危険な女によってもたらされた浮気、退職、そして息子の自殺未遂。
こなごなに崩れてゆく家庭のありさまをつぶさに描く。罠・憎悪・怨念が渦まき、連城三紀彦の筆致は冴える。
(単行本下巻オビより)

単行本/上巻354ページ・下巻305ページ/定価各1100円/絶版
装幀/村上みどり

文庫化:新潮文庫/1992年10月25日発行/上下巻


北陸本線で知り合った女は、夫に逃げられたまま新婚旅行中の花嫁だった……。平凡な家庭と多忙な仕事に縛られていた藤家芳行は、誘惑に負けて女と一夜をともにする。藤家の妻、美冴は夫の挙動に不審を抱くとともに、息子や娘の変貌にうろたえる。静かに破壊されてゆく家庭の幸福。美冴は見えざる敵に怯え、その正体を必死に探るのだが――。舞台・TVドラマともなった愛憎の巨編。
(文庫上巻裏表紙より)




一人しかいない、あの女だ……。敵の正体を掴んだ美冴。幸い、向こうには自分が気づいたことは悟られていない。それを利用するのだ。逆手にとって、自分が奪われた家庭のすべてを、あの女の手から奪い返してやるのだ――。妻でもなく、母でもない、ひとりの女としての強さに目ざめた美冴は、頼るべき者も持たぬままにたったひとり、知略を尽くした壮絶な復讐に立ち上がった。
(文庫下巻裏表紙より)

文庫/上巻392ページ・下巻341ページ/定価各466円+税/絶版
解説/堀越真(脚本家)
カバー/加藤美樹

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最終更新:2017年10月17日 02:55