Forget me not -パレット-
【ふぉーげっと みー のっと ぱれっと】
ジャンル
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アドベンチャー
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対応機種
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プレイステーション
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発売元
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エンターブレイン
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開発元
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サクセス
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発売日
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2001年4月26日
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定価
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4,800 円(税抜)
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プレイ人数
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1人
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判定
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なし
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ポイント
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コンテスト受賞作の商品化 記憶の世界を表現した斬新な演出 元ツクール製の簡素さは残る
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概要
本作はRPGツクール95で作られたフリーゲーム『パレット』を原作とする。原作者は西田好孝氏。
原作はアスキーエンタテインメントソフトウェアコンテストで第4回グランプリに輝いた作品で、主催側のアスキー(エンターブレイン)によりグラフィック・音楽を全面リメイクし商品化された。
ストーリー
高名な精神科医であるシアノス・B・シアンは、ある夜、謎の女の訪問を受ける。
業務時間外だと追い返すシアンに、女は扉越しに銃を突きつけ、シアンに「仕事」を依頼する。
それは今ここで電話の向こうの少女にカウンセリングを行い、彼女の失われた記憶を取り戻すことだった。
電話を取ったシアンに「B.D」と呼ばれた少女は言う。「覚えているのは、赤い色だけ」と。
シアンは覚悟を決め、電話越しに少女の診察を開始する。
「強く、イメージするんだ」
システム・特徴
本作は見下ろし型のRPG形式で、少女B.Dの記憶の世界を表した迷路を探索していくゲームである。
B.Dの記憶にある各場面が一つの部屋になっており、それが白い糸で無数に繋がって迷路を形成している。各場面内にある人や物は白いシルエットで表されていて、一つ一つ調べていくことで正体が判り、記憶の細部が明らかになっていく。
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B.Dには精神力のゲージがあり、糸をたどって部屋を移動するたびに減少し、0になると頭痛を訴えて診察が中断。スタート地点からやり直しになる。
このゲージは初期値は3と少なく、広大な迷路を探索するにはとても足りないが、各地点に存在する「記憶の断片」というアイテムを入手すると最大値が1増え、奥まで探索できるようになっていく。
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白いシルエットや部屋をつなぐ糸は最初は解放不可能となっているものも多いが、他の場所で関連する記憶を取り戻すことで解放され、さらに探索範囲が広がっていく。
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迷路内には精神障壁というガラスの壁のようなものがあり、これを破るのにもゲージを1つ消費する。B.Dが特に思い出し難い記憶の周囲には障壁が配置されていることが多い。
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障壁とは逆に精神ゲージを一定量回復させる光の束も点在している。この光の束は「精神ゲージが一定以下になったときに出現」するものがある。
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時にはわざとゲージを減らし、光の束を出現させて差し引きでゲージをプラスにするというテクニックが必要になる。
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ゲージが0になると一旦シアンの部屋に戻され、再度電話をかけることで探索を再開できるが、シアンの部屋にも探索が進むにつれて変化が起こることがあり、謎を深める。またセーブはシアンの部屋でしかできない。
評価点
記憶の修復を迷路探索に置き換えたアイデアと、それを雰囲気満点に表現した演出が本作の最大の魅力である。
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場面ごとに切り取られた部屋、記憶の糸でバラバラに繋がった迷路、記憶が定かでないものを表す白いシルエット、重大な記憶を隠す精神障壁など、記憶の世界を視覚化した表現はどれも秀逸。
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また殺風景な記憶の中で「赤」という色だけがくっきりと目立つように描かれており、血の飛び散った殺人現場やある人物の着ていた服など、要所で効果的に使われている。
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音にも拘りが見られ、随所で鳴るカメラのシャッター音は本作を象徴する音のひとつ。探索中のBGMは暗く、場面が鮮明に思い出された場合もほとんどは環境音だけが鳴っている。
終始陰鬱な雰囲気の中で行われる探索が、どうやら悲劇に彩られたらしいB.Dの過去への没入感を高める。
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B.Dは連想をつなげることで記憶を辿っていくので、各場面は時系列順に繋がっていない。しかし拾い集めた記憶を繋げていくと、B.Dが記憶を失った背景にある事件の真相が浮かび上がってくる。
こうして情報を拾い集めて真相を解き明かしていくサスペンス要素も本作の魅力のひとつで、殺人現場からゲームが始まる構成はプレイヤーを引き込む。
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バラバラになったB.Dの記憶は複雑だが、シーンの時系列順に番号が振られているため整理していけばわかるようになっている。
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グラフィックや音楽以外での追加点として、オープニングムービー、イベントCG、声優によるパートボイスがついたことと、ストーリーの補足に当たる追加シーンがあること、自動マッピング機能の追加などがある。
賛否両論点
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ラストの展開はかなりのどんでん返しがある衝撃的なもの。そこに至る伏線は所々に張られており、またその明かし方はこのゲームのシステムを活かしたもので、多くのプレイヤーは驚かされるだろう。
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ただし社会問題や犯罪を扱った渋いメインストーリーからすると若干非現実的な要素があるため、受け入れられるかどうかはプレイヤーによる。
問題点
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グラフィックとサウンドは刷新されたものの、ゲームの構成自体はほぼそのままなので、元がツクール95製アマチュア作品ゆえのシンプルさは残る。
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ゲームとしては光の束に関するパズル要素が多少あるものの、あくまで広大な迷路を踏破していくのみという内容。フラグを立てるごとに通れなかった通路が解放されていくが、脈絡が無くノーヒントであることも多いため、移動制限に縛られながら迷路を虱潰しに歩き回るという些か面倒な作業になる。
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グラフィックは刷新されたとはいえSFCレベルのドット絵で、PSのゲームとしては非常に前時代的。2001年と言えばPSの後期にあたり、前年にはPS2が発売されている年である。
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4,800円という価格を鑑みてもボリュームは多くなく、数時間もあればクリアできてしまう。
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とはいえ、システム面・演出面において、原作の時点でかなり完成されていたことから手を加える必要性がないと判断されたのかもしれない。グラフィックにしても下手に3D化したりしてロードが挟まったりすると、頻繁にマップを移動するこのゲームではストレスに繋がるため、一概に間違いとは言えない。
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真相はシーンを番号順に並べ直せば大体わかるようになっているが、B.Dの記憶はかなり細切れになっているので、きっちり理解したいならメモを取ったりして自分で整理しなければならない。せめてシーンを番号順に回想できる機能などが欲しかったところ。
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個々の記憶も匂わせる程度の描写だったりと全てが明確に説明されるわけではない。
総評
記憶の修復をゲームに落とし込んだアイデアと、それを表現するゲームデザイン、演出は秀逸。サスペンスとしての魅力もある。
アマチュア作品が元ゆえ小品であることは否めないが、グランプリ獲得の名に恥じない完成度を持った作品である。
余談
本作の前には『落雀』が同じコンテストで受賞からの商品化を遂げている。また『コープスパーティ』も元は同コンテストの受賞作で、こちらは制作者自身の働きによって商業作品化している。
最終更新:2019年12月03日 15:31