やっと足音が聞こえた。 里枝の部屋は、窓一つむこうが路地だから、息子の周次が帰宅する時は、玄関のベルが鳴らされるより前に、その足音でわかってしまう。また酔って帰ってきたのだろう、夜の路地に響く足音は、ふらついている。ふらつきながら、しかし、鳥黐の上を歩いているような、歩き癖は変わらない。踵が地面に粘りつくというか、妙にねっとりとした所のある足音である。
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