SeaBed
【しーべっど】
ジャンル
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百合ミステリーノベル
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対応機種
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Windows(Steam) Nintendo Switch
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発売元
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Fruitbat Factory
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開発元
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パレオントロジー
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発売日
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【Steam】2017年12月18日 【Switch】2020年3月19日
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定価
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【Steam】2,050円 【Switch】2,200円(税込)
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レーティング
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CERO:C(15才以上対象)
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判定
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良作
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ポイント
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大人の恋愛を描いた百合描写 3人の主人公の視点を生かしたミステリー表現 解釈に幅のあるエンディング
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概要
3人の女性の視点から描かれる百合ミステリーノベルゲーム。
元々は同人ゲームとして頒布されていたが、現在は海外パブリッシャーによりSteamやSwitchでも販売されている。
ゲームシステムとしてはボイスなしのノベルゲームであり、選択肢などのシナリオ分岐要素は一切ない。
メインのシナリオでは、3人の主人公の視点が場面ごとに切り替わりながら物語が進んでいく。
場面の合間には、過去に行った旅先での記憶や、学生時代の思い出が断片的な回想シーンとして挿入される。
シナリオ読み進めると、TIPSと呼ばれる短編シナリオが段階的にアンロックされていく。
作中の主な舞台は1990年代の日本となっており、携帯電話はまだ普及していないため登場しない。
ゲーム画面も4:3の画面比のため、作品全体がややレトロな雰囲気となっている。
ストーリー
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長いので収納
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リビングで亡霊を見た。
それを見るのは慣れたもので、私は気にせずに夕食を作って食べる。
亡霊は私の作った卵焼きを食べて美味しいと言った。
私は彼女の話を聞きながら、彼女と暮らした日々のことを考えた。
彼女は学生時代の私に「私達が一緒にいるために必要なものはなにか」、と訪ねた。
誰にも頼らずに稼ぐための小さな職場。
なんでも自由にできる静かなマンション。
と、私は答えた。
80年代後半。
経済絶頂の最中、ふたりで始めたデザイン事務所の業績は上向いていた。
学生時代にふたりで話しをしていた南の島、中世の街、西海岸。
行きたい場所へ行って、見たいものを見て回った。
私は広いリビングでどうしてこうなったかを考えてみた。
ふたりが殆ど無敵だった時代は過ぎていた。
私はあの頃のようになんでも出来る気はしなくなっている。
この世界はとても複雑になって、ことをなすのは難しくなった。
以前にふたりが使っていたルールブックは無効になり
築いた城は崩れ去った。
「あなたと一緒にいるために必要なものはなに?」、と亡霊に聞いてみる。
今までにない新しい場所を準備する必要がある。
新しい場所は誰にも壊せない、誰の手も届かないような場所にしよう。
そして私は誰にも気づかれないように静かにことを運ぶ。
深く、深く、誰にも見つからないような場所で。
(公式サイトより引用)
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キャラクター
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水野 佐知子
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黒髪ロングヘアーの女性。
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幼馴染の貴呼と共に立ち上げたデザイン事務所を経営する28歳の女社長。
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落ち着いた性格をしており、読書をすることが趣味。
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過去に貴呼と2人で世界各地を旅行したことがある。
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年の瀬の仕事に忙殺される中、原因不明の耳鳴りや貴呼の幻覚に悩まされる。
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貴呼
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上の画像でタイトルロゴ左側にいる女性。
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佐知子の同級生で、恋人として同棲生活をしていた関係。
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子供っぽい性格のため周囲を振り回すが、長年の付き合いから佐知子には軽くあしらわれる。
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佐知子の事務所で働いていたが、物語開始時点では行方不明になっている。
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楢崎 響
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赤みのある茶髪が特徴の女性。
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佐知子の事務所からほど近くの診療所を経営する精神科医。
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小学生の頃は佐知子や貴呼と一緒によく遊んでいたが、中学以降は疎遠となっていた。
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とあるきっかけから佐知子と再会し、原因不明の症状に悩まされる彼女を診察する。
評価点
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濃厚な百合描写
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子供の頃の馴れ初めから社会人としての仕事中の絡みまで、佐知子と貴呼の関係性が非常に丁寧に描写されている。
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回想シーンでは、海外旅行先の様々なロケーションでの2人の様子がCG付きで描かれる。
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CG総数は物語中で使用されないおまけを含めて96枚と、フルプライス作品に劣らないボリュームとなっている。
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主要な男性キャラクターは1名のみでほとんどの登場人物は女性であるため、女性キャラクター同士の絡みを存分に楽しめる。
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サブキャラクターとの絡みも豊富で、主人公たちと友情を結ぶまでの過程が描かれている。
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佐知子と貴呼はすでに成人していることもあり、肉体関係をほのめかす描写やネグリジェ姿のCGも多くある。
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シーツを汚す、シャツの下に手を這わせるといった際どい表現があり、CGこそないが官能小説的なシーンも存在する。
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2つの場面を比べることで生まれる数多くの謎
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序章は主に佐知子の視点で描かれ、時折現れる貴呼の幻覚に悩まされながらも日々の業務を行い、合間を縫って楢崎の診療を受けることになる。
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貴呼が行方不明となったきっかけや、幻覚症状の原因がプレイヤーにとっての序章の主な謎となる。
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※序章の重大なネタバレ
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佐知子は記憶障害を抱えており、貴呼が行方不明になるまでの経緯を思い出せないことが楢崎の診療により明らかになる。
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序章の終盤において、貴呼は行方不明になっているのではなく、2年以上前に既に亡くなっていたことを佐知子は知ることになる。
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佐知子の記憶障害の原因は貴呼の死によるストレスであり、無意識のうちに自身の記憶を改竄して貴呼が行方不明になっていると思い込み続けていた。
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佐知子が楢崎の診療を受けることになったのは、貴呼の葬儀での再会がきっかけだった。
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しかし、序章以降には貴呼が本当に死んでいるのか疑問を抱かせるような描写が数多くあり、彼女の生死は作品全体を通しての大きな謎となる。
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謎解きをプレイヤーに委ねることも多い本作だが、この謎についてはシナリオ上で明確な答えが得られる。
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以降の章では、田舎の旅館で年末休暇を過ごし症状の改善を図る佐知子の視点と、突発的な耳鳴りを伴う記憶障害の患者として療養所に入所している貴呼の視点、それら2つの異なる場面が各章ごとに入れ替わりながら物語が描かれる。
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楢崎は佐知子の体調を気遣って同行しており、彼女と共に旅館で休暇を過ごすことになる。
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貴呼の暮らす療養所は看護婦1人と患者3人の小さな施設で、日常生活の中で4人の関係が発展していく様子が描かれる。
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2人の症状には類似点があり、佐知子の過ごす旅館と貴呼の暮らす療養所の建物が酷似しており、梢という少女が共通して登場することなど、2つの場面の間に矛盾や違和感を感じさせる演出が数多くあり、これらの謎はゲーム全体を通して解き明かされていく。
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佐知子と貴呼は共に疾患を抱えており、楢崎もあまり多くを語ろうとしないため、主人公全員がどことなく信頼のできない語り手としての側面を持っている。
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豊富な背景イラスト
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海外旅行の場面に合わせた豊富な背景が用意されており、頻繁に挿入される回想シーンがダレないように配慮されている。
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屋内シーンでは、同じ部屋でも画角が違うものや時間帯毎の光量の違いによる差分が複数存在する。
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背景は小物に至るまで細かく描写されているため、プレイヤーに違和感を与えて謎に気づかせたり、考察の材料としても使用できるような効果的な演出となっている。
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場面に合ったBGM
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本作のBGMにはフリー音源が使用されている。
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総曲数は60曲以上となっており、それらが場面に合わせて選曲されている。
賛否両論点
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偏った各章の長さ
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序章が最も長く5時間程度は必要なのに対し、物語の進行につれて各章は短くなるため、最終盤の章は1時間程度で読み終えられてしまう。
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序章と同じボリュームを期待して読み進めると肩透かしを喰らってしまう。
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終盤の章ほどCG付きの場面の頻度が高くなるため、物語が加速しているとも受け取れる。
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謎の残るシナリオ
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本作の謎は、登場人物たちも認識している自身が抱える問題や過去の記憶についての謎と、佐知子と貴呼の両方の視点を持つプレイヤーにしか気づけない矛盾に分けられる。
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後者の矛盾に関しては物語中で語られることは少なく、残った謎はプレイヤーの解釈に委ねられる。
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本作のシナリオを消化不良と捉えるか、もしくは考察の余地があると捉えるかはプレイヤー次第となる。
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ネット上に考察サイトによる解説が多数存在するなど、投げっぱなしの伏線ばかりの破綻したシナリオというわけではない。
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登場人物の中で謎を能動的に解こうとしているのはほぼ楢崎しかいないため、楢崎視点の場面が少ないことも影響している。
問題点
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誤字脱字が多い
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記号に関しては文字化けして表示されていない箇所も存在する。
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アニメーション演出の不具合
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立ち絵がスライドする演出の動きがカクついており、立ち絵が一瞬上下に切断されて表示されてしまう。
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それほど多用される演出ではないため、作品の雰囲気を壊してしまうほどの影響はない。
総評
大人の百合カップルの恋愛を緻密に描いたミステリー作品。
登場人物達の関係の発展を描いたシナリオは、百合シーンを目当てにプレイしても十分楽しめる。
3人の主人公はそれぞれが謎を抱えており、彼女達の視点から描かれる断片的な物語には数多くの矛盾が含まれているため、プレイヤーが主体的に謎を考察することでより楽しむことができる。
明確に説明されない謎も多い解釈に幅のあるシナリオとなっているため、一本道のシナリオながら2周目のプレイでも多くの発見がある作品となっている。
余談
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本作の同人版は現在でもDLSiteで配信されている。
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商業版とは一部仕様が異なるものの、価格は660円とお手頃になっている。
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PlayasiaからSwitchのパッケージ版が数量限定で限定販売されていた。
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限定版には特典としてサウンドトラックが付属するが、フリー音源の権利者から許可が下りなかったためか収録曲数は5曲のみと非常に少ない。
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東京ゲームショウ2022にて、ボイスドラマ作品「SeaBed Audio Novel Collection」が発表された。
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2022年12月31日にSteamで第1話が配信開始。
最終更新:2024年04月21日 23:36