野々村病院の人々
【ののむらびょういんのひとびと】
ジャンル
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推理アドベンチャー
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対応機種
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PC-9801 DOS/V Windows 3.1 Windows 95以降 セガサターン DVD-PG
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発売元
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【PC98/DOSV/Win3.1】シルキーズ 【Win95~/SS】エルフ 【DVD-PG】イエローピッグ
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発売日
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【PC98】1994年6月30日 【DOS/V】1995年 【SS】1996年4月26日 【Win95】1996年9月27日 【DVD-PG】2003年3月27日 【マルチパック】2003年10月24日
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レーティング
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アダルトゲーム
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セガ審査:X指定(18歳未満禁止)
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配信
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FANZA:2007年3月30日/2,570円
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判定
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良作
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概要
『かまいたちの夜』や『ダブルキャスト』などと同じタイプの、節目節目で選択する行動によって結末が変わるアドベンチャーゲーム。
ストーリー
自称天才私立探偵の海原琢磨呂。彼は過去に数々の難事件を解決した功績を持つものの、その強引な捜査と自身の好色さに因る悪名高さが祟って、現在では住居の家賃も払えないほどに落ちぶれていた。
そんな彼はある日偶然出会った同業者とのちょっとしたイザコザから足を骨折してしまい、病院へ搬送される。
その病院の名前は野々村病院。ここでは一週間前に院長である野々村作治がシアン化合物を注射して死亡すると言う事件が起きたばかりであった。
「マスコミは自殺と報じたが警察は他殺の線を捨てていない。」「この病院には医療ミスなど色々と悪い噂がある。」「院長には多額の保険金が掛けられていた。」琢磨呂は院長の自殺について俄然興味を示すが、院内の人間は皆この件に対して口をつぐむばかり。
そんな折、彼は院長夫人である野々村亜希子に院長室へ招かれる。不審に思う琢磨呂を前に彼女はこう切り出した。「海原さん、主人の死に興味がおありですか?」それは院長が自殺でないことを証明して欲しいという彼女からの依頼であった。
システム
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基本は場面場面で選択肢を選ぶ一般的なADV
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ただ、本作は選択した行動により結末がツリー状に枝分かれしていくのではなく、結末は複数のフラグで管理されており、それぞれのフラグを立てる機会は複数回用意されている。
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例えばある時点での選択肢で、あるヒロインの誘いに乗らなかった場合は重要な情報を得ることが出来るが、そのヒロインとのエンディングを迎えることは難しくなる。誘いに乗っても詰みにはならないが、後ほどその情報を得る機会を作らなければならない、といった具合。
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よってどの結末を迎えるために、いつ、どのフラグを成立させるかという組み立てがプレイヤーの仕事となる。そのためにはどれがフラグなのかを把握する必要がある。
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上記のサポート要素としてヒント機能が存在する。
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バッドエンディングを迎えた際は、その原因と回避方法をそれとなく教えてくれる仕様になっている。
評価点
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「読ませる」テキスト
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物語が二転、三転するような派手な展開こそ無いものの、それぞれがこの病院に浅からぬ因縁を持っている事や、それぞれの思惑が複雑に絡み合っている様、主人公がそれを一つ一つ解きほぐしていく様などが非常に丁寧に描写されている。
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おかげでプレイヤーが置いてけぼりを食らったり、ストーリーの理解に苦しんだりすることはまずないと言ってよい。
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本作一番の特徴でもある主人公の海原琢磨呂
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彼は上記のように全くの社会不適合者であり、院内の人間にも世間の評判通りに振る舞い邪険に扱われる。しかし探偵としての矜持と実力は本物で、彼と関わるうちに、ある者は危険だと分かりながら惹かれていき、ある者は自分の目的のために利用しつつも信を置くようになり、そしてある者は毎度毎度酷い目に遭いながらも彼を見て探偵としての自分を見つめなおすようになったりと、次第に誰もが琢磨呂の影響を無視できなくなっていく。
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このように登場人物も、プレイヤーもいい様に振り回されていくのとは裏腹に、当の琢磨呂本人はいかなる時でも絶対に自分の調子を崩さない。此処にこの作品の痛快さがある。
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また事件は最初から最後まで琢磨呂の視点で描写されており、故に物語を綴る文章も彼と同じく非常に尊大で低俗、外連味に溢れ、理知的。
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結果として、シリアスとギャグが、上品さと下品さが、ハイセンスとナンセンスが破綻することなく織り込まれている。
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天才海原琢磨呂の人間像だけ少し紹介。ネタバレ注意
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ナースコールを押す。→看護婦「海原さん、一応尿瓶を持ってきたのですけど。」→「君に尿瓶なんて言葉は似合わない。そうだな…スカ××ポットなんてどうだ?」
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しかし後ほどその××トロポットをちゃっかり指紋採取に利用する。
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深夜の院内で強請りの現場に遭遇。その場に割って入り、被害者と強請りのネタを押さえる。さらにその時のやり取りから、自分のベッドに盗聴器が仕掛けられている事を見抜く。
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ネタである本人の恥ずかしい写真を返却しようとするも、中々受け取ろうとしない被害者を慮って一言「私が持つとネタにしてしまうぞ」。
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朝、男が訪ねてくる。→「私を起したくば、美人で若い女を連れて来い。」→男の部下の女探偵が仕方なく起こす。→「あなたぁ♪おきてぇ♪と言ってくれなければヤダ。」→仕方なく言う。→「色気が足りん。」
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男の用事が「金で事件から手を引くようにとの要求」であることを知るや否や、男の胸倉を掴み「いいか、ボンボン…なめるなよ。私は探偵という仕事に誇りを持っているのだ。金では買えないものがあることも知っておけ。」と啖呵を切る。
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事件の全貌がほぼ明らかになり、物語もいよいよ大詰め。連れの女探偵と、関係者が集まる院長室に赴くシリアスな場面でのひと時。
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涼子は緊張しているのか、口をぎゅっと結んだまま顔を強張らせている。私は涼子をリラックスさせる為、許してちょんまげでもしてやろうかと思った。
私が発散する嫌な空気を感じ取ったのか、涼子は私に断ることも無くノックをしてしまった。「あ、私がノックしようかと思ったのに。」
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ミステリ物としてのツボを押さえた登場人物
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登場人物の数も決して多いとは言えないが、「美人で朗らかだがどこか影のさす所のある看護婦」「誰の目から見ても間違いなく"黒"であるが、それ故に事件にはまだ裏があることを感じさせてくれる院長夫人」「最初から最後まで主人公の引き立て役として存在する(ことになる)嫌味なイケメン探偵」など、ミステリにうまくマッチしたキャラクターになっている。また数が少ないからこそ、その分誰もが事件にきちんと関わる様になっている。
賛否両論点
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プレイヤーが推理する機会が全く無い
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ミステリを主軸としたゲームではあるが、あくまで読み物としての作りであり、プレイヤーが推理する必要があるようなシーンはない。
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プレイヤーに答えを委ねる選択肢もあるにはあるのだが、そういう物に限って間違いを選んでもまた選びなおすだけだったり、正解以外はまともな選択肢ではなかったりと張り合いが無い物ばかりになっている。
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「ミステリを読んで楽しむ」人には遊びやすく楽しめる作りだが、「ミステリを解いて楽しむ」人にはやはり物足りない。
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主人公の下品さ
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ダメな部分が強烈なだけに活躍時が際立つとも言えるが、ダメな時の下品さははっきりいって酷く、特に好みの分かれる部分。
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主人公だけにずっと付き合う必要があり、活躍シーンまで行く事なく耐えられなかった人もいる。
問題点
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Hシーンについて
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ストーリーに重点を置いているからなのか、はたまた登場人物が少ないからなのか、とにかくアダルトゲームの醍醐味であるHシーンの数は非常に少ない。
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またその希少なHシーンも、黒い噂が絶えない病院での事件という背景からか、殺す前の最後の饗応としてであったり、自分の目的のために仕方なく、または精神的に追い詰められてて仕方なく、といった後味の悪い物ばかりだったりする。
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真犯人の犯行について
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残念ながら真犯人の犯行方法は完全に他人任せ且つ、かなりお粗末な物となってしまっている。
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犯行方法の突っ込んだ説明。物語の核心に迫るネタバレあり。注意!!
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一言でいえば「院長に性的虐待を受けている少女が現実逃避のために妄想している"白馬の王子様"の名を騙り、その少女に殺人の自覚無しに犯行をさせる。」というもの。少女との接触及び犯行の指示は犯人からの手紙のみだったのだが、その手紙の内容が「犯行予定現場の施錠の有無について」だったり、「予定日には少女のほうから院長を誘うようにという指示」だったり、「事に及ぶ際は電気を消すよう院長にお願いするようにという指示」だったりとかなり直接的。さらに直接の死因となるシアン化合物のアンプルを(少女を苦悩から解放してくれる「魔法の小瓶」と称して)少女に委ね、挙句の果てには証拠となる手紙と、少女が書いている日記帳を処分するよう"指示しかしていない"。
つまりこの少女が王子様を騙る手紙だけのやり取りの人物に盲目的に従う事でのみこの犯行は成立するのであり、少女がこの人物や、アンプルの中身に少しでも疑問をもったら(持たないほうがおかしいのだが)アウトである。
それでも少女は指示に従い、果たして院長は死んだのだが、少女は手紙と日記帳を完全に処分する事はできず、結局それが琢磨呂の仮説を証明する決め手となった。また、当然だが少女が殺人の自覚を持たずに済むのは犯行前まででしかないのである。
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一部のバッドエンドで犯人をネタバレしてしまっている。
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真相がわからずに殺されてしまうバッドエンドもあるのだが、その時点で犯人が分かってしまう。
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犯行の動機や経緯等、解くべき謎は残っているとはいえ、犯人が分かってしまうのはミステリゲームとしては少々残念。
総評
ミステリ系のアダルトゲームとして非常に良く出来た作品。
シナリオ重視の推理ゲームでありながら、真相へ辿りつく方法もいくつか用意されており、ある程度自由な操作も可能な為、ただ読むだけのゲームにもなっていない。
ミステリADV好きな方にはぜひ一度手に取ってもらいたい一品である。
移植
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人気の高さもあり、現行の環境に合わせた移植が度々行われている。
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発売から20年程経った現在でもダウンロード版ではあるが正式に販売が継続されている。Windows10にも対応している。
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定額エロゲー遊び放題サービスの「GAME 遊び放題 プラス」でも遊べる。
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2020年11月27日にFANZAGAMES PLAYカードが3,980円で販売された。
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SS版
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初めて声が付いた。
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X指定での発売だが、アダルトシーンはカットされている。
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一部過激なCGはそのままとなっているので、そちらがX指定の理由だろう。
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Win95版
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アダルトゲームのままで声が付けられた。こちらは声優は未発表。
その後の展開
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小説が2冊発売されている
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『野々村病院の人々』は本作を基に小説用にアレンジした内容。
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『野々村病院の人々 外科病棟』は本作の続編にあたる内容。
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アダルトアニメ
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ピンクパイナップルから『野々村病院の人々 THE ANIMATION』のタイトルで発売されている。
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基本的な部分は同じだがシナリオはかなり変更されており、真相も変わっている。
余談
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シルキーズは過去に『河原崎家の一族』を世に出した際に「これにもっとストーリー性を持たせたらどうか」という意見をユーザーからもらっており、それを参考にしてこの作品は作られている。
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結果その点が高く評価され、同ブランドでは初となる、性的表現が大幅に削られる家庭用ゲーム機への移植も実現、成功を収めた。
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サターン版の売上本数が特に大きく、40万本を超えるパッケージソフト売上はアダルトゲームのトップレベルである。
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全年齢版にアダルトパッチを適用する形式、シリーズ全体の全世界売上など違いは多いが、アダルトゲームの定義を広げると『ネコぱらシリーズ』の650万本が最高とされている。(ソース)
最終更新:2025年02月03日 14:36