旅行をしましょう、と妻がパンフレットを広げる。「鹿や猪が生きている時代に行ってみたいわ」と言う妻に、僕は「刺激的な終末戦争の時代も、楽しそうだね」と返す。僕らは身を寄せ合い時間旅行の計画を立て始めた。
僕らが選んだ旅先は幾億年も前の地球。まだ人間のいない、静かな時代だ。味気ないわ、と妻が口を尖らせる。彼女はもっと華やかな年代に行きたかったらしい。でも僕は、誰にも邪魔されずに彼女の声が聞けるこの退屈な時代を、何よりも気に入っている。
僕と妻が太古の世界を歩いてると突然、獰猛なドラゴンが現れた。僕は彼女の手を引いて一目散に逃げ出す。非常事態だっていうのにケラケラと笑う妻がおかしくて、僕も笑ってしまう。僕らは走って走って、なんとか無事に帰りの“時間船”へと逃げ込んだ。
数日ぶりに戻った自宅は、陰鬱な空気で満ちていた。窓の外で降り続く灰の雨に、気が滅入ってしまう。突然、ぐっと腹の虫が鳴いた。それで僕は「朝食は何にする?」と妻に尋ねようとして、我に返る。妻は去年亡くなった。彼女とはもう、時間旅行でしか会えないのだ。
武器種 | 格闘 | レアリティ | ★★★ |
属性 | 風 | シリーズ | 時間操作 |
追加日 | 2022年3月31日 | ||
EN | AGW-G32 |