アットウィキロゴ
  • 28 名前: 以下、名無しに変わりましてVIPがお送りします 投稿日: 2006/11/10(金) 21:09:03.78 ID:SB7jm5Mo
「何あれ? 変なの」
 そんな様子を見てスネ夫が言う。
「その紙なんなの?」
 スネ夫がそう尋ねると、ジャイアンは渡された紙切れを見た。
 紙切れには下手糞な日本語で『ハヤクニゲテ』と書いてある。
「はやく……にげて?」
 早く逃げてと言うことだろうか、と考えるジャイアン。
 しかし逃げるって一体何処からだろうか。
 ホイの店から? この町から?
 そして一体何処へ逃げろと言うのだろう。ジャイアンにはその意図が全く分からなかった。
 それはスネ夫も同じようで、ジャイアンから紙切れを受け取ると、スネ夫も首をかしげた。
「たぶんさ、こないだのイジメッ子がジャイアンに復讐に来るとか、そう言うことじゃない?」
 と、スネ夫は考えた末にその結論に至った。
 ジャイアンもどうせそんなことだろうと同意する。
「ケッ、もしそうだとしたら返り討ちにしてやるまでだぜ。メタメタのギッタギタにな!」
「さっすがジャイアン! 頼もしい!」
 2人はそんな会話をしながらホイの店へ帰っていった。

 しかし2人は知らない。
 あの男の子と女の子が連邦の兵士の子供である事を。
 そして、彼らの両親は既に死んでおり、今はゲリラの集団に養われている事を。

  • 31 名前: 以下、名無しに変わりましてVIPがお送りします 投稿日: 2006/11/10(金) 21:34:38.19 ID:SB7jm5Mo
 店の戸を開け、彼らを出迎えるホイ。
 店の中に入ると男は間髪入れずに口を開いた。
「返事を聞かせてもらおうか、コーロウ」
 ホイの目をマジマジと見つめながら男は言う。
 ホイは思わず目線を逸らした。
「……すまない。俺には協力することは出来ん」
 ホイがそう言うと男達は絶句し、ゲリラの仲間達とお互い顔を見合わせる。
「本気か?」
 男はそう言ってホイの顔を更に見つめ続ける。
 しかし、しばらくすると男は諦めたようにため息を付いた。
「それでは仕方ないな、コーロウ。確かにお前の気持ちも分からないでもない。誰だって命は惜しいからな」
 男の言葉を聞くと、ホイは「すまない」と繰り返した。
「しかし、正直お前には落胆したよ。お前だからこの情報を教えたんだ。いいか、この話は絶対に他言するなよ。もしも奇襲計画の情報が漏れれば我々はお終いだ」
「それは約束する。誰にも喋りはしないさ」
「それとだ。逃げるなら今の内だぞ。早ければ明後日にも連中はこの町を通る」
「忠告はありがたく頂いておく」
 ホイがそう言うと、男達はホイの店を後にした。
 この町を出る、かとホイは考える。
 確かにこの町でゲリラ戦が起こるとなれば厄介事だ。
 しかし、ホイにとってこの町は彼の生まれ故郷である。愛着がある。
 この店も彼の念願の店であり、やっとの事手に入れた店だ。やっと常連の客も出来てきた。
 それを捨てるということは、即ち彼の今までの人生を捨てるということである。
 それはホイにとって非常に辛いことだ。
 しかし、死んでしまえば元も子もない。
 とりあえずいつでも逃げ出せる準備だけはしておくか、とそんな事を考えるとホイは食堂の電気を消して自分の部屋へ戻った。

  • 33 名前: 以下、名無しに変わりましてVIPがお送りします 投稿日: 2006/11/10(金) 22:00:27.43 ID:SB7jm5Mo


 それはジャイアン達がいつものように皿洗いをしている時に起こった。
 ホイの店の目の前の道が何だか騒がしくなり、数台の軍用ジープが通り過ぎていく。
 ホイは自分の嫌な想像に、冷や汗を顔中に浮かべた。
 しかし、ホイの予想は見事的中した。
 遠くから騒々しいキャタピラの音が聞こえたかと思うと、ホイの店の前を馬鹿でかいトレーラーが通り過ぎてゆく。
 それこそまさにジオンのMS輸送部隊のトレーラーであった。
「よりによってこの俺の店の目の前を通りやがるとは」
 確かにゲリラの男が地図で指し示したルートの中には、ホイの店の前を通る道路も含まれてはいた。
 だとしてもである。
 自分のクジ運の悪さを呪うホイ。
「なぁスネ夫。なんだあのデカイ車は?」
 と、外の道路を眺めながら言うジャイアン。
 ジャイアンとスネ夫も外の異変に気が付いていた。
 その2人に気が付くと、ホイは慌てて口を開く。
「タケシ、スネオ。サラアライモウイイ。デカケルジュンビシロ!」
「出かける準備?」
 そう言って不思議そうな顔をするジャイアンとスネ夫。
「ハヤクシロ!!」
 そんな2人にホイは怒鳴って急かす。
 ホイに怒鳴られると2人は急いで自分の部屋に荷物を取りに行った。
 ホイも急いで自分の荷物をまとめる。
 荷物と言っても持ち物は僅かな貯金と調理道具だけ。
 ホイにとっては調理道具こそが財産であり、これさえあればどうにか生き抜いていく自信が彼にはあった。

  • 37 名前: 以下、名無しに変わりましてVIPがお送りします 投稿日: 2006/11/10(金) 22:23:59.41 ID:SB7jm5Mo

 ほどなくしてジャイアンとスネ夫が戻ると、ホイは2人を連れて外に出るべく店の戸に手をかけた。
 その瞬間、割と近い場所から何かが爆発する音が聞こえてきた。
「なっ!」
 その音を聞くと、ホイは思わずそう漏らした。
「連中、こんな俺の店に近いところに地雷を仕掛けやがったのか!!」
 ゲリラの連中め、さては俺が断った事を相当根に持ってやがるな、と思うホイ。
 とりあえず店から顔を出し、ホイは外の様子を確かめた。
 ホイが見る限り、地雷はちゃんとMS輸送用のトレーラーをしとめたらしい。
 ジオンのMS輸送部隊は足止めを喰らってた。
 ゲリラの奇襲にジオン兵も必死に反撃をするが、突然の地雷と文民に扮したゲリラの攻撃にジオン軍は明らかに混乱している。
 MS輸送用のトレーラーを護衛しているのは、機銃を取り付けた軍用ジープが5台。あとは索敵用の特殊車両が1台のみ。
 それはホイが想像していたよりかなり少ない護衛の数だった。
 これならもしかすると作戦は成功するかもしれない。
 ホイがそんな事を思った矢先、ゲリラの一人がジープの攻撃をかわしてトレーラーの上のMSに取り付く事に成功した。
 それはホイの家に訪ねてきたあの男だった。
 男はMSによじ登るとすぐさまMSの脚部の間接に爆弾を取り付ける。
 そして、そのまま男は自爆した。
「あの、馬鹿がっ――!」
 MSの上に立ち上る黒煙を見てホイはそう漏らした。
 歩兵時代の男との思い出がホイの頭の中を駆け巡る。
 あの男は、確かに戦いの為なら命も惜しまない男だった。
 いや、ホイの居た歩兵部隊にはそんな人間しかいなかった。
 戦争のために敵の命は勿論、己の命すらも惜しまない人間。
 そんな人間達に囲まれて、いつしか自分もそうなるのが嫌でホイは軍を辞めたのだ。

  • 49 名前: 以下、名無しに変わりましてVIPがお送りします 投稿日: 2006/11/10(金) 22:55:23.39 ID:SB7jm5Mo
「死んで英雄になって。それで何を得られるっ!」
 戦争に勝つために敵を殺す。戦争に勝つために己の命を投げ出す。なら――何の為に戦争に勝つ?
 ホイの胸は悲しみで一杯になっていた。
 昔の事ではあるが、あの男は確かにホイの戦友であったのだ。
 だが、ホイはそんな感傷をすぐに捨てた。
 今は自分が生き残る事、そしてジャイアンとスネ夫を生き残らせる事がホイの最優先事項である。
 他人に同情している暇はなかった。
 ジオン兵とゲリラの戦闘はまだ続いている。
 ゲリラが奇襲に成功したとは言え、それはMSの爆破をしただけに過ぎない。
 護衛のジープに乗っているジオン兵達はゲリラに対し一斉に銃撃で応戦している。
 ゲリラも機銃でジオン兵への攻撃を続けていたが、兵の質も、装備の質もあまりに違いすぎた。
 次々と倒れていくゲリラ達。
 そんなゲリラの亡骸に、何処からともなく子供がやって来て泣いてすがりつく。
 その子供を見ると、すぐにジオン兵が歩み寄って行った。
 人質にとるつもりだな、と直感するホイ。
 そう直感したのはホイだけではなかった。
「あいつらは!!」
 ホイと同じように外の様子を観察していたジャイアンがそう叫んだ。
 ジャイアンにはゲリラの死体にすがり付いている子供に見覚えがあった。
 それは確かにジャイアンがイジメッ子から救った男の子と女の子だったのだ。
「助けなきゃ!!」
 そう叫びながら、とっさにホイの店から飛び出すジャイアン。
「モドルアル!!!!!!」
 ホイがそう叫んでも既に遅かった。
最終更新:2006年11月10日 23:00