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 基地からの命令を聞いて、一斉に恐怖で凍りつく訓練生達の中でライはただ一人喜びの声をあげた。
「願ったり叶ったりだぜ。新型に乗って連邦共を倒せるなんてな!」
 嬉しくて仕方が無い、といった顔のライ。
 そんなライの様子に、フレンは顔をしかめた。
「ライ、勇ましいのはいい。だけどさっきみたいな自分勝手な行動は謹んでくれ」
 これは訓練でも、ましてや遊びでもない。
 失敗は即ち死につながる。
 そして一人の失敗は更なる死の連鎖を生む。
 彼はそれを懸念して言ったのだが、当のライはそんな事などお構い無しだった。
「ビビってんのかフレン? 敵は所詮戦車と爆撃機。どんだけ数が来てもドムの敵じゃねぇよ」
「ライ、そういう問題じゃない」
 確かにドムと連邦の戦車との性能の差は歴然としている。
 しかし、性能の差など所詮戦闘の1要素でしかない。
 敵の部隊数、戦術。そして技量。
 懸念すべき点などいくらでも有る。
 ライは自分の操縦技術とMSの性能を過信しすぎていた
 まったくこの男は、と思うフレンだったがそれ以上の言葉は口にしない。
 どうせこれ以上、何を言ったところで馬耳東風だった。

 そんな事より他の仲間達の事だ、と思うフレン。
 特にのび太の事が心配だった。
 のび太機との通信を繋げ、モニタにのび太のコックピットの様子を表示させる。
 見れば、確かに緊張はしているようだが、思っていたほどのび太は取り乱していない。
 そんな様子にフレンは感心した。
「のび太君、ジャイアントバズの射程は61式戦車よりも長い。君の射撃能力なら、敵の射程内に入るまでに相当の数を減らせる筈だ。肩の力を抜いていこう」
 そう言うと、のび太は「ウン」と頷く。
 のび太は彼自身が驚くほど落ち着いていた。
 それはたぶん、これがのび太にとって2度目の実戦だという事が大きいのだろう。
 1度目の戦闘は余りにあっけなかった。
 ジョルジュの力があったとは言え、最初の実戦で戦車を14台も仕留めたのだ。
 あれからのび太は養成学校でかなりの訓練をつんで、射撃以外の操縦技術も格段に上がっている。
 正直、のび太は戦車が何台来ようが負ける気がしなかった。
 ただ一つ懸念といえば、それは人を殺すと言う事だった。
 しかしその懸念すらも、やらなければやられるという思い、そして本人も気づかぬ内に心のどこかに植えつけられた戦いの大義に塗りつぶされる。
 のび太の操縦桿を握る力が自然と強まる。
 その時訓練生全員の機体に基地から無線が入った。
『第一波の爆撃機が来たが、迎撃にはドップ小隊が出る。君達はそれを突破してきた爆撃機を迎撃しろ』
 全員、それに返事を返す。
 その時、彼らのドムの頭上をドップ小隊が編制を組んで飛び去っていった。

 ドップ小隊は敵の対地爆撃機の幾つかを撃墜したが、しかし爆撃機の数はドップ小隊の数を上回っていた。
「ドップの攻撃を抜けてきた、か」
 ソナーの反応を見ながらそう呟くフレン。
 急いで敵の攻めてくる方向の空をデジタル望遠で拡大する。
「あの形、やはりデプロックか。護衛はTINコッド。これなら空はドップで保つか」
 デプロックの機動性なら、回避すればまず爆撃は当たらない。
『各機、MS間の距離をとれ。狙い撃ちされるぞ』
 そんな基地からの無線に、急いでMSを動かす。

 隊形を整え、全機対空の迎撃姿勢をとった。
 そんなドムの中で、もっとも敵に近い位置を陣取ったのはやはりライである。
「ライ、その位置だと集中攻撃を受けるぞ」
 そう制すフレンにライは笑って返す。
「ドップの部隊がモタついてるから、この俺が手伝ってやろうってんだよ」
 そうライが言ったところで、連邦の爆撃部隊が既に目視できる位置まで迫ってきていた。
 数はデプロック8機、TINコッド5機。
 ドップはその奥で更に他の連邦軍機と空戦を行っているようだった。
「ドップの連中、あんなに墜とし漏らしやがって」
 爆撃機がスグ目の前まで迫ってくる。
 そしてジャイアントバズの射的範囲内に入ると、ライはそれに何の躊躇なくジャイアントバズを発射した。
 その攻撃は見事にデプロックに命中し、被弾した機体は爆発する。
「低空過ぎるんだよ、馬鹿が!」
 笑ってそう吐き捨てるライ。
 連邦の爆撃機はその攻撃を受けて、一斉にライ達の部隊に爆撃を開始した。
 それを皮切りにフレン達も一斉に迎撃を開始する。
 降り注ぐ爆弾の雨は、彼らの予想以上の量だった。
「ハハハ! これくらいじゃなきゃ面白みがねぇってもんだぜ!」
 そんな爆撃を機体運動で見事にかわしながら、更に2機目のデプロックを撃墜するライ。
 フレンもまた爆撃を掻い潜り、のび太は敵が機体に爆撃してくる前に打ち落とす。
 そんな中、一機のドムが被爆した。
「サイゾー!」
 そのドムの様子を見て、ナシーが叫ぶ。
 サイゾーの乗ったドムは頭部のメインカメラに被爆し、活動を停止した。
「大丈夫かサイゾー!?」
 今度はマグがサイゾーに声をかける。
『あ、あぁ。俺は何とか大丈夫だ』
 そんなサイゾーの言葉を聞いて、フレン達は安心した。
 だが次の瞬間、動きの止まったドムのコックピットをデプロックの対地爆弾が直撃した。
 無線を通して、仲間全員のコックピットにサイゾーの断末魔と爆発音が鳴り響く。
 それを聞いて、マグやナシーそしてフレンが怒りの声を上げた。
「連邦っ! よくも! よくもおおおおおお!!」
 そう叫びながら爆撃機にたいしジャイアントバズを連射するナシー。
「サイゾー機のメインカメラが破壊された事は、連中だって確認した筈なのに!」
 怒りで歯をかみ締めるフレン。

 訓練生達の怒濤の攻撃に、連邦軍機は3機のTINコッドを残して全滅した。
 ナシーは泣いているようだった。
 フレンやマグも言葉を失う。
 のび太も言葉を失った。
 いや、失ったのは言葉だけじゃない。
 のび太は何も考える事が出来なかった。
 とてつもない恐怖。
 サイゾーの断末魔はあまりに哀れだった。
 やがて、のび太の中で言葉が少しづつ形作られてゆく。
 殺された。
 そう、仲間が殺されたのだ。
 敵に仲間が殺された。それがのび太の心に浮かんだ言葉だった。
 自身も同じ事をやっているという恐怖を感じつつも、のび太は怒りに抗えない。

 そんな仲間達の様子にライは心底呆れた。
「おいおい。泣くのは戦闘が終わってからにしてくれ。耳障りだ」
「ライッ!」
 フレンはそんなライに怒鳴った。
 しかし、ライもまたフレンをモニター越しに睨みつける。
「今は戦闘だ。第ニ波もいつ来るかわからねぇ。今は泣いてる暇は無いだろが。違うか? 隊長気取り」
「クッ」
 ライの言葉にフレンは怒りを感じた。
 しかしライの言っている事も正しかった。
 戦いに集中できなければ、今度は自分達がサイゾーと同じ目に遭う。
 怒りの言葉を飲み込むフレン。
「わかった、ライ。今は確かに君の言うとおりだ。みんなも今は戦いの事だけ考えよう。サイゾーの追悼はその後で丁重にすればいい」
 無線を通じてみんなそう呼びかける。
 そうしてすぐにフレン達のセンサーに新たなる敵の反応が映った。

「ほうら、言ってるそばから敵がきやがった」
 そう言いながらジャイアントバズを構えるライ。
 フレン達も無言で連邦の爆撃機に照準を合わせ、射程圏内に入ると一斉に射撃を開始した。
 だが、ニ波の爆撃部隊の数は一波の倍以上である。
 更に怒りに任せてジャイアントバズを連射したナシーとマグは途中で弾切れを起こした。
 生き残ったデプロックは11機。
 11機の一斉爆撃をかわすのは流石に困難である。
 全員被弾を覚悟する。
 しかしドムに爆撃を行ってきたデプロックは僅か3,4機だった。
「基地に狙いを定めたのか!?」
 反撃をしながらそういうフレン。
 6機のデプロックがフレン達の迎撃をかわし、基地に向かって飛んでいった。


 13基地を揺るがす連邦の爆撃に、司令は怒りの表情を浮かべていた。
「ぐううう、こうも基地への爆撃を許すとは! 迎撃の方はどうなっているんだ!」
 近くに立っていた部下に怒りをぶつける司令。
「諸部隊も必死に戦っているのですが、敵の数が余りに多く対応し切れていないようであります」
「ぐぬぬ、ぐううううううう!!」
 兵士の返答に更に怒りで顔を歪める。
 そんな司令に、さらに連邦の爆撃の衝撃を襲う。
「ひぐぃ!」
 爆音についそんな声を漏らす。
「司令、地下のシェルターに避難してください!」
 恐怖に怯える司令を心配して兵士は言ったが、それが司令の逆鱗に触れた。
「この私がここを動くだと! 馬鹿も休み休み言え!! 私がここを離れれば基地の指揮系統はどうなる!!! 例え連邦が攻めて来ようとワシは死ぬまでここを動かん!! それがジオン軍人としての使命だ!!」
 そんな怒声に必死に頭を下げる兵士。
 司令にとって、軍人としてのその立場が彼にとっての全てだった。
 人生の全てであるソレを、彼のプライドが必死に庇おうとしたのだ。

 彼の死の原因はそのプライド以外の何物でもない。
 次の瞬間、司令室のある2号棟に爆弾の雨が降り注いでいた。


「おいおいおい。基地からの無線が途切れたぞ。どういうことだ!?」
 ライは第ニ波の爆撃部隊に防衛線を突破されて以降、全く次の指示が与えられない事に気付いてそう言った。
「まさか指揮系統が潰されたんじゃないだろうな?」
 そう呟くライ。
 フレンは基地への連絡を取ろうとしたが、応答が無い。
「だめだ。何かトラブルが起こったとしか考えられない」
 そう言って頭を抱えるフレンとは対照的に、ライはまた一人だけ笑みを浮かべた。
「これで俺の好き勝手できるって訳だな。指揮系統が潰れたんなら、独自の判断をしても何の問題も無い筈だ」
「まだそうと決まったわけじゃない。勝手な判断はだめだ」
 フレンの言葉にライは「じゃあどうすんだよ」と苛立ちながら返す。
 少しの間黙って考え込むと、フレンは口を開いた。
「マグ、ナシー。君達は弾切れを起こしているし、僕達も残弾数が少ない。弾の補充のついでに君たちが基地に戻って情報を確かめてきてくれないか?」
 そんなフレンの言葉を聞くと、驚いたような顔をするマグとナシー。
「だけど、その間は――」
 そう顔を曇らせるマグ達にフレンはキッパリと答えた。
「このままここで、何の情報も無く戦う方が危険だ。僕たちの弾が残っている間でないと手遅れになる」
 そんなフレンにライがさらに付け加える。
「お前らなんか居なくても、俺一人で十分なくらいだ。とっとと言って来いよ」
 マグとナシーはそんな2人の言葉を聞くと、それに頷いくと急いでドムを基地へ向かって走らせた。

 それを見送るとフレンは口を開いた。
「すまないなライ。そしてのび太君」
 フレンは本当にすまないと思っていた。
 特にのび太をここに残らせるのは彼自身辛い。
 のび太は自分たちよりもずっと幼いし、サイゾーが死んでからのび太の顔色は一気に悪くなっていた。
 事前に基地から通達された情報では、そろそろ戦車部隊が到着してもおかしくない。
 だからこその苦渋の決断だった。
 のび太の射撃能力がどうしても必要なのだ。
 しかし、のび太は俯いていた。
「ノビタ君。今は目の前のことだけを考えるんだ。それ以外のことは忘れよう」
 フレンがそう投げかけても、のび太は何も返すことが出来なかった。


 その頃13基地のMS格納庫の中は混乱状態になっていた。
 司令室を初め、指揮系統の施設が先ほどの爆撃で全滅したのだ。
 整備兵の任はMSや戦車を送り出してから、任務を終えて帰還してきたそれらの機体を出迎えて点検するまでである。
 しかしMSも戦車も未だに出払っている状態でありながら、整備兵達の中には早く逃げようという声が飛び交っていた。
「ダディ大尉。こりゃ本格的に不味いですよ。2号棟は火の海。司令の生死も不明。こりゃもう逃げましょう!」
 ダディの軍服を掴みながらそう言う科学者。
 しかしダディは頑として動かない。
「アンタは逃げたきゃ逃げろ。軍属って言っても、アンタはツィマッドからこの基地にドムのテストの為にやってきただけだ。その任も完成型が届いた今日で終わりなんだからな」
「それじゃあ大尉はこのままここに居るって言うんですか? 無茶ですよ! 戦車が2個中隊で攻めてきてるんですよ!? 爆撃機もまだ来る可能性がある!?」
「だからアンタは逃げろって言ってんだろ! 俺はこの基地の兵士だ。MSが戻るまでここに居るのが俺の任務なんだよ!」
 科学者の言葉にダディは怒鳴りつけた。
「そんな事言ってぇ。こないだは慌てて逃げ出したじゃないですか」
 そう言う科学者にダディは真剣な顔を向ける。
「あん時とは違う。俺はMSが出撃したら、死んでもアイツらを出迎えなきゃなんねぇんだよ。それにノビタ君を裏切るわけにはいかん!」
 ダディはそう言うと、科学者から目を逸らし慌てふためいている整備兵達へ振り返り、そして怒鳴った。
「てめえら! いつまでもガタガタ抜かしてるんじゃねぇ! そんなんだからいつまでたっても整備兵は他の連中に舐められんだ!」
 そんな言葉に、一瞬静まりダディに目を向ける整備兵達。
 整備兵達にダディは更に続ける。
「死ぬのも生きるのも、テメェらにはここしかねぇんだ! この機械油と機械屑で汚れた格納庫しかな! ここを墓場に喜んで死にやがれ!」
 その言葉を聞くと、整備兵達は一斉に黙り込んだ。
 そして次々と「分かりました班長!」という声をあげていく。
 そんな彼らの姿を見て、科学者は「まいったなぁ」と呟く。
「これじゃあ、僕も逃げるに逃げれないじゃないですか。気分的に」
 そんな独り言を言うと、はぁとため息を吐いた。
 僕は利己的な人間なんだけどなぁ、とそんなことを思いながらも、こんな所が自分の死に場所でもいいかもしれないと彼は思った。
 格納庫の外を眺める。
 あと少ししたら、あそこから連邦の兵士がゾロゾロ入ってくるのかなぁ。
 そんなことを考えた時だった。
 科学者は帰還してきた2機のドムを見つけた。
「あれ? 大尉、ドムが戻って来てますよ? 2機ですけど」
「何?」
 科学者の声に慌てて外を見るダディ。
 そこには確かに2機のドムがいた。


「戦車共、とうとう来やがったな」
 ライはソナーに映った敵影を見ながら言った。
 しかしライの笑みは消え、完全に真剣な顔つきである。
 それもその筈である。
「20…22…25。おもしれぇ、どんどん増えやがる」
 ライの確認した敵の戦力は、すでに1個中隊の戦力を超えている。
 流石のライもそれを笑い飛ばすことは出来なかった。
 フレンもまたその数に表情を凍らせる。
「MS1個小隊で、中隊以上の戦力を迎撃、か」
 既に連邦の戦車部隊は、先行していたマゼラトップ小隊とぶつかろうとしていた。
「それじゃあ、ライ、ノビタ君。これより敵戦車部隊の迎撃に移る。いいね?」
「いちいち指図すんじゃねぇよ!」
 ライはフレンの返事を待つこともなく機体を発進させた。
「ノビタ君、僕たちも行こう」
 その様子を確認すると、すぐさまフレンはのび太に通信を入れる。
 しかしのび太は何の返事も無い。
「ノビタ君?」
 のび太はただ震えていた。
 フレンは不味いと思い、すぐさまのび太をフォローする。
「大丈夫だノビタ君! いくら数が多くても君なら絶対に出来る!」
 必死にそう励ますが、のび太は俯いたままだ。
「チガウ……チガウンダ」
「え?」
「ボクハコロシタクナイ」
 のび太は搾り出すようにそう言った。
 のび太自身にも自分の気持ちが分からない。
 仲間を殺された怒りもある。
 この戦いに勝たなければとも思う。
 恐怖とは違う。
 だけど、自分がトリガーを引くたびに、相手の戦車や爆撃機の中ではサイゾーの時と同じ事が起きているのだ。
 そう思うと、のび太の戦う気持ちが消えてしまった。
 そんなのび太の様子を、フレンは悲しい気持ちで見つめていた。
「殺したくない、か。でも相手にそんな道理は通用しない。少なくとも戦場ではね。それでも君は無理だと言うのかい?」
 フレンがそう言ってものび太は俯いているだけだった。
 モニターに映る映像には、既にライ機が戦闘に移った姿が映されている。
 のび太を説得している余裕は無かった。
「分かったよ、のび太君。でも君の命は君が守るんだ。いいね?」
 そう言うとフレンは連邦の戦車部隊へとドムを発進させる。
 のび太はただそれを見送るだけだった。

 ライの搭乗しているドムは、61式戦車の射程外からジャイアントバズで攻撃をしていた。
 大破していく61式戦車達。
 しかし、そんな彼のモニターには撃墜されていくマゼラアタックの姿もまた映っている。
「もうちょっと気張れよな、戦車兵共」
 呆れた顔でそう言うライ。
「あんなのが正規兵だなんて冗談じゃ無いぜ。ジオンの面汚しだ」
 そんなライ機の後ろにフレン機が到着する。
「ライ、その言い方はないだろう」
 と、フレンはライのセリフに横槍を入れた。
「ケッ、本当の事だろうが。んな事より何でお前だけなんだ? ノビタはどうした」
 その言葉を聞くと、フレンは少しの間沈黙する。
「……彼は人を殺したくは無いそうだ。それが例え敵兵であろうと」
「あああああああ!?」
 心底驚いたという顔でそう言うライ。
「なんだそりゃ? ギャグか?」
「のび太君は純粋なだけだ。察してやれ」
「純粋? 笑わせんな。そんなガキが養成学校入って、おまけに戦場でMS乗って。一体何のつもりだよ」
 怒りと呆れがない交ぜになった表情でそう吐き捨てる。
「彼が望んで養成学校に入ったとは限らない」
「どちらにしろ頭のネジがぶっ飛んでるぜ、あのガキはよ」
 そう言うと、ライは気を取り直してジャイアントバズを射撃した。
 フレンもそれ以上は何も言わずに攻撃に移る。
 のび太の事が心配だったが、一人の少年の葛藤を解決する事と、一つの基地の命運を左右する戦局とでは次元が違う。
 冷酷かもしれないがそれが現実だった。

 戦闘自体は非常に単純なものだった。
 フレンもライも戦車の射撃範囲内に入らないように回り込み、そしてジャイアントバズで大破させる。
 ドムの機動力は61式戦車を上回っており、戦況はフレン達にとってかなり有利に働いていた。
 しかし、それも最初の間だけである。
「チッ、弾切れか」
 そう言うとライはジャイアントバズを捨て、ヒートサーベルをマニュピレーターに持たせる。
 そんなライの隣で戦うフレン機もまた、ジャイアントバズの残弾数が僅か3発だけだった。
 しかし、残る敵の数はまだ18。
 いや、更に援軍の部隊が向かってきたためにその数は更に増えている。
 モニター越しにライ達に距離を詰めようとしてくる61式戦車を睨みつけながら、ライが口を開いた。
「フレン。お前のバズーカ、あと何発残ってる」
「……3発だ」
 フレンの返答を聞くと、チッと舌を鳴らす。
「俺がこれから連中に突っ込む。3発ってのは心もとないが、お前の弾を全部俺の援護に回せ」
「突撃だって!?」
 敵の数を分かっているのか、と言おうとしてすんでで止める。
 もしもそれを言って「他に方法があるのか?」と問い返されれば、何も言えないと思ったからだ。
「――分かった、援護は任せてくれ」
 フレンがそう言うと同時に、ライは連邦の戦車部隊に向かって機体を急発進させた。
 それを邪魔する戦車達に向かってジャイアントバズを射撃するフレン。
 と言っても僅か3発。
 戦車の寄り集まってる場所、更に爆発による煙がライにとって出来るだけ有利に働く位置にフレンは射撃をした。

 フレンの射撃は戦車部隊を抑えるのにかなり効果的に作用していた。
 それによって、ライ機は無傷で連邦の戦車部隊に取り付く。
「うおおおおお!」
 叫びながら、ライはヒートサーベルで61式戦車を薙ぎ払った。
 ゼロ距離での戦闘では、戦車には反撃のしようがない。
 ライの独壇場である。
「次いいいい!!」
 そう言ってすぐさま近くの戦車を薙ぎ払う。
 そして次々と、ライは4台の戦車を大破させた。
 ライが取り付いた戦車部隊は2小隊。
 残った6台の戦車は一斉に後退を開始する。
「逃がすかよっ!!」
 すぐにそれを追うライ。
 しかしフレンはそんなライ機をみてとっさに声を上げた。
「待つんだライ!! その方向は不味い!」
「指図をするなって言ってんだろうが!!」
 フレンの言葉を無視して、ライは更に敵の部隊へと突進していく。
「深追いするな!」
 しかしそう言うフレンもまたヒートサーベルを手に取り、ライの援護に向かう。
 フレンには嫌な予感がしていた。
 戦車部隊の後退した方向が、余りライ機から逃げるのに有効的ではないのだ。
 戦車部隊を追って1台、2台と61式戦車を破壊していくライ機。
 気がつけば、ライ機はかなり先行していた。
 残った戦車3台は1km程後退すると、申し合わせたかのように停車した。
 そして突然、ライ機の方向に前進を始める。
「何だ? 戦車で特攻のつもりか!?」
 ライがそんな事を呟いたちょうどその時、ライのソナーに新たなる敵影の姿が映った。
 それは丁度ライ機の両側から、ライを取り囲むように現れた援軍だった。
 左翼、右翼の援軍共に数は10。
「罠かっ!!」
 そう叫ぶと同時に目の前に前進してきた3台の戦車を一気にヒートサーベルで破壊する。
 そしてとっさに右翼に現れた新手に狙いを変え、その部隊めがけて突撃を始めるライ。
 しかし、ライ機の武装はヒートサーベルのみ。
 もはやフレンの援護射撃も無い。
 回避運動を取りつつ、機体を前進させるが、10台の戦車の射撃を避けきれる筈も無かった。
 ライの機体を61式戦車の砲撃が容赦なく襲う。
「グッ! クソッ!!」
 そう言いながら、必死にコックピットの揺れを絶える。
 そして瞬時に機体の損傷状態の情報を表示させた。
「この損傷度ならまだいける!」
 右翼の増援部隊まで残りの距離800m。
 これなら、ギリギリ取り付けるはずだ。
 だが取り付けたとして、その後はどうする。
 左翼の部隊は?
 そんな考えが一瞬で頭の中を駆け巡るったが、ライは「ええい!」と怒鳴ってそんな不安を吹き飛ばした。
「目の前の敵をぶっ倒す。それだけだ!!」
 言うと同時、ライは操縦桿を大きく倒す。
 ライ機は更に被弾を受けながらも、機体運動やマニュピレーターによる防御によって致命的なダメージを何とか避ける。
 おかげで武装していない方のマニュピレーターは完全に破壊されたが、そんなことにライは構わなかった。
 あと100m……50m。
「うおおおおおおおおおおおお!!」
 そしてとうとう戦車部隊に辿りつき、前衛の戦車を切りつける。
 だが切りつけると同時に、ライ機は脚部に戦車の砲撃を喰らってしまった。
 ライのコックピットのモニターに警告音と共に『ホバーユニット損傷』の文字が映し出される。
「なっ! ここまで来て!」
 機体操作を試みるライ。
 しかしドムは彼の思うようには動かなかった。
 一斉にライ機に砲撃の照準を合わせようとする61式戦車。
「く、くそおおおおおおおおおおおおおお!!」
 ライはそう叫んだ。
 死ぬ。
 そう思ったときだった。
 すんでのところで、フレンのドムが連邦の戦車達を薙ぎ払っていた。
「大丈夫かライ!?」
 61式戦車を破壊しながら、フレンはそう声をかける。
「クッ……すまねぇ」
「損傷率は?」
「右足のホバーユニットが完全にイカレちまった」
 そう言って悔しそうに歯を食いしばるライ。
 それはつまりライはもうここから動けないと言うことだった。
 そしてフレンもライ機防衛の為にここを動けなくなったのだ。
 右翼の増援部隊はフレンが全滅させたものの、連邦の戦車部隊はまだ最初の部隊が7台残っており、左翼の増援部隊も10台丸まる残っている。
 それに対してジオン側のマゼラアタックは完全に沈黙。
 連邦の残存戦車部隊の7台は13基地への進撃を再開し、左翼の増援はフレン達に向かって前進してきた。
 ライ達の防衛線は突破された。
「畜生!」
 悔しさのあまりコックピットの側壁を叩きつけるライ。
「大丈夫だ。まだマグ達がいる。それにノビタ君だって」
 そう言うフレンだったが、今の状況はかなり厳しかった。
 向かってくる戦車10台をヒートサーベル一本で返り撃つ。
 それもライ機体を庇いながらである。
 フレンは額に汗を垂らしながらモニタに映る敵を見据えた。

 ライが敵にホバーユニットをやられ、フレンは一人で10台の戦車を倒さなければならない。
 のび太はそんなフレン達の姿をずっと眺めていた。
 このままではライもフレンも死んでしまうかもしれない。
 そう思うとのび太の体の震えが止まらなかった。
「なんで、なんで戦争なんか」
 一人そう呟くのび太。
 なぜ皆殺しあう必要がある?
 フレンやライ、いや、この世で戦う兵士全員が誰かに殺されなきゃいけない理由でもあるのか?
 殺さなきゃいけない理由があるのか?
 そんなことを考える。
 だがそんなのび太のコックピットにフレンの声が入ってくる。
『うおおおおおおおおお!』
 フレンは確かに戦っているのだ。
 戦う理由、その本来の理由なんてのび太には分からない。
 でもフレンが戦わなければライが死ぬ。
 そしてのび太が戦わなければフレンもライも死ぬかもしれなかった。
 のび太の心臓の鼓動が早くなる。
 死ぬのが怖い? 人を殺すのが怖い?

 そしてフレンの死は、のび太にとって最も恐ろしいものなのだ。
 のび太が戦おうと、逃げようと、連邦の戦車部隊は全力でフレン達を殺しにかかる。
 いやきっとフレンだけじゃない。
 ダディや科学者達、基地の人たちも殺されるに違いない。
 それでものび太は敵を殺したくは無い。

 でものび太は仲間を守りたかった。

 のび太のコックピットにフレンの苦しむ声が聞こえてくる。
 頭の中にフレンが優しくしてくれた時の記憶が蘇った。
 手遅れになる前に助けなければならなければ。
 そう決意するとのび太はフレン達の居る方向に向かって、最大速度でドムを走らせた。

 殺す理由を見つけたわけでは無かった。
 ただ守る理由だけがそこにあった。

 それだけで人は戦えるのだ。
 いや、だからこそ人は戦える、なのかも知れない。
 少なくとも今は、殺す罪を問うべき時ではなかった。


 フレンには打つ手が無かった。
 ヒートサーベルしか武装の無いMSなど、距離をとられて砲撃されればお終いである。
 それでも、突撃して格闘戦を仕掛ければフレンが勝利したであろうが、ライ機を防衛するためにそれすらも出来ない。
 フレンは判断を間違えていた。
 フレンはライを見捨て敵に突撃すべきだったのだ。
 そうすれば被害はライだけで済み、フレン自身は生き残れる可能性があるのだから。
 しかし、このままではフレンもライも共倒れだった。

 もう何度目の被弾だろうか。
 コックピットの激しい揺れに耐えながら、フレンはモニタに映ったその文字を眼にした。
『マニュピレーター破損』
『ホバーユニット破損』
『メインカメラ破損』

 モニターにはそんな文字ばかりが並ぶ。
 それ以外のものは、もはや何も映し出されなかった。
 苦笑するフレン。
「このまま死ぬのか、捕虜になるのか」
 絶望を口にしてみる。

 次の瞬間、戦場に爆音が響いた。


 あぁ、僕は死んだな、とフレンは思った。
 しかしフレンのコックピットには何の変化も無い。
 それもその筈である。
 被爆したのはフレンのドムでは無く、連邦の61式戦車だった。



 ジャイアントバズの射程は長い。
 そしてドムは地上において最大の機動力を持つMSだった。

 そこにのび太の射撃能力が加われば、それは道理だったのかもしれない。
 5台の61式戦車が、一瞬の内にのび太の射撃に飲み込まれていた。

 一斉に砲撃の照準をフレンからのび太へと変える戦車。
 だが遅い。
 のび太は弾切れを起こしたジャイアントバズを捨てると、ヒートサーベルを手に取り戦車に格闘戦を仕掛けた。
 最高速度で走行するドムは、戦車の迎撃を許す前に彼らに取り付いた。
 残り5台の内、前衛の戦車に切りかかる。
 格闘戦となればもう結果は誰の目にも明らかだ。
 一方的に戦車達をなぎ倒していくのび太のドムに、連邦の戦車兵達はなす術が無かった。
 正確無比な射撃で一瞬の内に5台の戦車を破壊し、高速の突撃で格闘戦に持ち込んだドムを見て、連邦の戦車兵の一人が呟く。
「まるで、流星――」
 それが、その戦車兵の最期の言葉だった。

 10台の戦車を全て破壊すると、のび太はフレンに無線を入れた。
「フレン、ダイジョウブ!?」
 のび太の無線を聞いて、フレンは初めて先ほどの爆音がのび太の射撃であった事に気付いた。
「ノビタ君、戻ってきてくれたのか」
 フレンはとても嬉しかった。
「ありがとうノビタ君」
 そう感謝の言葉を口にする。
 だけど、それと同時にフレンは罪悪感を感じた。
 殺したくないと言ったのび太を、フレンは自分のせいで戦いに駆り立ててしまったのだ。
 ごめん。
 そんな言葉ばかりがフレンの胸に溢れる。
 だけどフレンはそれを口に出すことが出来なかった。

 そんなフレン達に新たな無線が入った。
「フレン! ライ! ノビタ! 平気か!?」
 とても焦った口調で言う声マグ。
「僕達なら何とか平気さ。ノビタ君以外は機体を大破させちゃったけどね」
 ばつが悪そうにそう言うフレン。
 そんなフレンの言葉にマグは、ほっと肩を撫で下ろした。
「よかった。戦車達が突破して来た時はもうだめかと」
 それを聞いてフレンはハッとした。
「それで、僕らを突破した戦車達は? たしか7台ほどいたはずだけど」
「安心して。それなら私とナシーで返り討ちにしたわ」
 そう言ってマグは笑った。
「私たちの勝利よ」
 それに、フレンも笑顔で返す。
「あぁ」
 そう、フレン達は13基地の防衛線に成功したのだ。
 ナシーもノビタも、そしてライまでも笑顔を作る。
「それじゃあ基地に戻ろう。ノビタ君。悪いけど僕とライを君の機体のマニュピレーターに乗せてくれ」
 そう言うとフレンはコックピットハッチを開いて外に出る。

 外は荒れ果てていた。
 戦いが終わった町は不気味なくらい静かだ。
 ただ、弾薬や、大破した機体から出る煙の臭いがフレンの鼻をついた。


 第13基地は連邦との戦闘に勝利したが、その代償は大きかった。
 基地周辺の町はこの戦闘により壊滅状態となり、13基地自体も大きな被害を受けた。
 司令や、のび太達の級友であるサイゾーをはじめ、数多くの人が死んだ。
 むしろ13基地では、生き残った人間の方が少ないくらいである。

 フレン達が基地に帰還すると、勝利を祝う間もなく戦死者に対する追悼の為に集められた。
 基地の生き残った兵士全員が集まる。
 全員勝利の安堵を口にすることも無く、一様に俯いていた。
 皆口をつぐんでいる。
 そしてしばらくするとダディが口を開いた。
 司令も副指令も死亡し、今この基地で階級が最も高いのはダディであり、彼が生き残った兵士をまとめる必要があるのだ。
「みんなの知っての通り、司令は戦死なされた。最期まで我々の為に指揮を執ろうと司令室に残られ、そして栄誉の死を遂げられたのだ」
 そう言ってダディは眼から涙を流した。
 兵士達もそれに一斉に顔を伏す。
「司令だけじゃない。みんなこの基地の為に堂々と死んでいった。まだ兵士ですらない訓練生までも戦いの中で死んだ。みんな、この英霊達に黙祷を捧げよう」
 そう言ってダディは眼を閉じ、胸に手を置いた。
 ダディだけじゃない。
 この場に居る人間全てがそうした。
「この戦いで死んだ全ての者達よ。我が戦友、そして連邦の兵士達よ。永遠に、その魂が安らかであれ。――黙祷」
 英霊に黙祷を捧げる13基地の兵士達。

 味方であれ、敵であれ。
 その全ての魂がソラへ舞い上がり、神の祝福を受けますように。
 そして神よ、どうか戦士達の罪を赦したまえ。
 ダディはそう願った。



 UC0079 11月7日

 ついにその日が来た。
 連邦軍の大反抗作戦、「オデッサ作戦」の開始である。
 この一戦に、連邦軍の地上に於ける運命がかかっていた。
 連邦の拠点は地球であるから、この一戦に連邦の存続そのものがかかっているといっても過言では無いだろう。
 オデッサはジオンの最大の資源採掘拠点である。
 ここを制圧する事でユーラシア大陸におけるジオンの資源補給は大打撃を被る。
 いや、ジオン軍全体に打撃を与えると言っていいだろう。
 補給が滞ればいくらMSといえどただの鉄の塊に過ぎない。
 現状においてMSに有効な兵器を持たない連邦にとって、オデッサを落とす事は至上命題だった。
 オデッサを占領し地上における連邦の足場を固める事は、後に控えている宇宙のジオン要塞攻略計画にとっても非常な重要な意味を持つ。
 連邦軍は出来うる限り全ての地上戦力をこの一戦に投入していた。


「これは大変だぞ……」
 ドラえもんはジョンの家(家と言っても電気屋とくっついている)のTVでオデッサのニュースを見ながらそう呟いた。
 ジョンも食い入るようにTVを眺めている。
「連邦もついにでっかい戦をおっぱじめおったの。こりゃ今までで一番でかいん規模じゃて。こっちまで飛び火しなけりゃいいんじゃが」
 そう言ってジョンは顔を曇らせた。
 この世界に来てから1ヶ月。
 ドラえもんはこの世界についてかなりのことを学んだ。
 ジオン独立戦争に対する知識は、既にこの世界の一般市民よりも豊富と言っていいくらいである。
 この戦争の規模は異常だった。
 開戦初期の1週間で全人口の25%にあたる30億人もの人々が死んだのだ。
 そして地球全土が戦場となり、開戦から3ヶ月で地上の3分の2がジオンの占領下となった。

 しかし幸いなことに、ドラえもんがこの世界に来た10月上旬頃は戦況は膠着状態に入っており、大規模な戦闘は余り行われていなかった。

 だがそれも先日までの話である。
 連邦はオデッサに対し大軍をもって制圧に向かった。
 おそらく、これを皮切りに地上全土で連邦の反撃が始まるのだろう。
「こんな事をしている場合じゃない!」
 ドラえもんはそう言って立ち上がると、TVを置いてある部屋から出た。

 このまま戦線が拡大すれば、この世界のどこかにいる筈ののび太達がいよいよ危険な事になる。
 今までも十分に不安だったが、しかしこのオデッサ戦をもってそれは確固たるものになった。

 ジョンの店の機械修理の工房に入ると、ドラえもんは修理中の機械を置いてある棚の前に向かう。
 その棚にはドラえもんの4次元ポケットがあった。
 ドラえもんにとって、ジョンの店に来た事は正解だったといえるだろう。
 この店に来た事によって、この世界の機械の構造をかなり知ることが出来たし、タイムマシーンを修理するための道具を手に入れることもできた。
 棚の上の4次元ポケットを手に取るドラえもん。
 そしてポケットの中へ自分の手を入れる。
「だめだ、やっぱり4次元空間との接点が安定してない」
 悔しそうにドラえもんは呟いた。
 この世界に来た時の衝撃で、4次元ポケットは少しだけ傷ついた。
 しかしそれは4次元ポケットの機能を不安定にするほどの傷ではなかったし、そもそもこの世界に来てからちゃんとドラえもんが修理していた。
「やはりミノフスキー粒子のせいか」
 ドラえもんに思い当たる原因はもはやそれしかなかった。
 ミノフスキー粒子は電磁波等を妨害する性質がある。
 その為にミノフスキー粒子は敵軍のレーダー等を無効化するため、世界中に散布、拡散されていた。
 それが4次元ポケットの4次元と3次元を繋げる力場を不安定にさせている可能性があった。
 というよりそれ以外の理由がドラえもんには考えられないのだ。
 しかし、そうだとすればそれはかなり厄介な話である。
 4次元ポケットの機能を正常に戻すには、ミノフスキー粒子を除去しなければならないのだ。
 それは実質不可能だった。

 だが、ドラえもんには時間が無い。
 せめて「たずねびとステッキ」だけでもあれば、と思うドラえもん。
 ドラえもんは腕を組んで考えた末、奥の手を使うことにした。
「こうなったら最後の手段だ。外部からエネルギーを持ってきて、接合点の力場を広げよう」
 切羽詰った顔で呟く。
「下手をすれば、もうポケットは完全に使い物にならなくなるか知れない。だけどこれしかない」
 そう言うと、ドラえもんは4次元ポケットに電力を供給する装置を取り付け始めた。

 装置を取り付け終わると、ドラえもんは4次元ポケットにどんどんエネルギーを入れていった。
「まだだ、まだ空間の接点が開かない」
 そう言ってエネルギーを更につぎ込むと、4次元ポケットからバチバチと火花が散っていく。
「もうすこし、もうすこしだ! 保ってくれ!」
 4次元ポケットから飛ぶ火花がどんどん激しくなっるく。
 今にも壊れそうだ。
 そして、ついに4次元空間への力場が安定した。
「今だ! たずねびとステッキ!!」
 すぐさまポケットに腕を突っ込みそれを引き抜く。
 その瞬間、ポケットが大爆発してドラえもんは2~3mほど吹っ飛ばされた。

 爆発は時空震によるものだ。
 空間の接点を無理に広げようとしたために起きたのである。

「今の音は何じゃ!!!!」
 慌てて工房に入ってくるジョン。
「こりゃ! 青狸!!」
 そう言って工房の床に寝転んでいるドラえもんに駆け寄るジョン。
 ドラえもんの手には確かにたずね人ステッキが握られていた。
最終更新:2009年10月04日 01:13