- 329 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[saga] 投稿日:2009/11/25(水) 00:46:15.17 ID:kBiZAMMo
年頃で言えばのび太達とさほど変わらない少年だった。
服は擦れてあちこちに穴が開いており、頬にも大きな傷跡がある。
そして、子供とは思えない眼光の鋭さがその少年の歩んできた人生を物語っていた。
「やあやあ、君が助けてくれたんだね。どうもありがとう」
ドラえもんはそう言うと笑顔で握手を求めた。
そのドラえもんの様子に少年も安心したのか、少年もまた安堵の表情を見せる。
しかし、それでもまだドラえもんを警戒しているのだろう。
少年は少しドラえもんから距離を取っていた。
しかし、そんな少年の反応にドラえもんは慣れていた。
どうもこの世界では、MSなんていう巨大なロボットが居る割に、ドラえもんのような家庭用ロボットが普及しているわけではないのだ。
おかげで行く先々で彼は奇異な視線に晒されて来た。
まぁ、そもそもそれは20世紀でも同じ事だったのだが……。
「ぼく、ドラえもんて言うんだ。よろしくね」
少年を安心させようと、ドラえもんはニッコリ笑った。
「そうだ、助けてもらったお礼に何かプレゼントをあげないと。まあプレゼントなんて言っても、乾パンくらいしかなんだけd――」
ドラえもんはその先を話そうとして、絶句した。
――無い。
- 331 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[saga] 投稿日:2009/11/25(水) 01:00:26.88 ID:kBiZAMMo
――無い。
無いのだ。
リュックも。
その中に入っていた食料も、工具も。
そして、”たずね人ステッキ”も、何もかもみんな無いのだ。
ショックのあまりドラえもんはしばし固まってしまった。
食料や道具だけならまだ良かった。
そんなものは何かしらで代えはきく。
しかし、たずね人ステッキだけは無くすわけにはいかなかった。
「あ、あの! 僕が倒れてた辺りにスッテキなかった!?」
少年の両肩を掴んで思い切り前後に揺する。
すると少年は驚いた様子で何かをドラえもんに訴えた。
ドラえもんには『何言ってんだかわからないよ!』と少年が伝えようとしているのが分かった。
「ほんやくこんにゃくがあれば……」
そう言ってみたところで、ドラえもんの四次元ポケットは完全におしゃかだ。
困惑のあまり、表情が曇る。
「しかし、本格的に困ったぞこれは」
とにかくたずね人ステッキだけでも探し出さなければ。
そう思い、自分が倒れていた場所を問いただす。
だが、どんなに説明しても少年には意図が通じないようだった。
- 333 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[saga] 投稿日:2009/11/25(水) 01:18:34.56 ID:kBiZAMMo
「仕方ない。こうなったら一人で探そう」
ドラえもんは少年に助けてくれたお礼を言うとテントの外へ出ようとした。
しかし丁度その時、外から一人の男が入ってきた。
薄毛の初老の男だ。
男がジロリとドラえもんを睨む。
「やあー、どうも! ここはあなたとあの子のテントなんですか? お世話になりました」
すかさずドラえもんはフレンドリーな口調で話しかけた。
しかし、男の表情はかなり不機嫌そうである。
(うーん、このおじさんにはも嫌われてるみたいだなぁ、どうも)
男を怒らせないように愛想を振りまきつつ、後ずさりするどらえもん。
しかし、男はあっさりドラえもんから視線を逸らすと、少年に向かって口を開いた。
「青狸のヤツ目が覚めたみてぇだな、ワンよ」
「うん。ジジイのおかげだ!」
少年は純粋な笑顔を作る。
男は咄嗟にワンから視線を逸らした。
子供のこういう表情は苦手だ、と思う。
「お前の言ってた通りだな。この青狸、本当に言葉を話すみてぇだ」
「だろう? でも外国語みたいで俺には何言ってるか分からないんだ。ジジイは分かる?」
「俺にもよお分からん。だが、日本語じゃねぇか? 難民キャンプの日本人達のしゃべり方に似てる」
「へぇー。じゃあコイツ日本人なんだ」
「日本人……ねぇ」
どっちかってーと”日本狸”って感じだがな、と内心男は思う。
「まぁそんな事はどうでもいい。コイツが何狸だろうと俺の知った事じゃねぇからな」
男は咳払いした。
そして改めて鋭い眼差しをワンに向ける。
「ともかくだ。青狸も元気になったみてぇだし、ソイツ連れてとっとと出てってくれ」
男の言葉に、ワンの表情は一気に暗くなった。
- 334 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[saga] 投稿日:2009/11/25(水) 01:20:13.55 ID:kBiZAMMo
「もう少しだけ頼むよ」
「ダメだ」
「お願いだよジジイ!」
「ダメだったらダメだ」
「ジジィ~~!!」
「もうその手には乗らねぇぞっ!」
男は突き放すように言った。
俯くワン。
ドラえもんはそんな2人を、なす術なく見守っている。
「こちとら手前の生活があるんだよ。兵隊に顔割れてるお前と、そんな訳の分からねぇ青狸に居座られたんじゃ稼業にならねぇ」
「でも!」
「”でも”じゃねぇ。ガキだからって駄々こねんな。いいか、これだけは覚えとけ。このご時世ガキだの、弱者だの、そんな事で助けて貰えると思うな。今はどいつもこいつ自分一人守るんで精一杯なんだよ。ガキだからって甘えてると、野垂れ死ぬのはお前自身だぞ」
「……」
ワンは黙ったまま考え込んでいるようだった。
「……分かったよ」
ワンは寂しそうにそう言った。
そしてドラえもんに振り返ると、手で『ついて来い』と合図した。
「今までありがとうな、ジジイ」
ワンはテントを出る間際にそう言った。
しかし、男はワンに背を向けたまま返事をすることは無かった。
- 335 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[saga] 投稿日:2009/11/25(水) 01:22:40.97 ID:kBiZAMMo
ジュージュー!
カシャンカシャン!
強力な火力と、豪快なフライパン捌きの織り成す調理音が今日もホイ達の店に鳴り響いていた。
フライパンで炒めたチャーハンを、サッと手早く皿に盛り付ける。
そのボリューム感たるや難民キャンプで店を構えてるとは思えないほどである。
「マスター、ご馳走さま!」
客の一人の男が大きな声で言った。
「あいよ!」
店主が気のいい笑顔でそれで返す。
「どうもありがとうございます」
調理をしている店長に代わってホイが客から代金を預かる。
それを清算し釣りを手渡す。
「しかし、この店の存在はほんと有難いよ」
ホイから釣りを受け取りながら客が言った。
「ここに来ると昔の生活を思い出せるんだ。なにせ、こんな状況だろ? 前の生活と何もかも変っちまった。金なんて殆ど、紙くずに鉄くずみてぇなもんだ」
「いえ、大事な御代ですよ」
ホイはそう言って頭を下げた。
「本当だよ、店員さん。だからこそ嬉しいんだ。こうして金払って、飯を食って。そんな当たり前の生活も、ここに来ねぇと忘れちまうんだわ」
「僕もそうですよ。こうしてお客さんと接していると活力が沸くんです」
「まったく、まだ一年も経ってねぇって言うのにねぇ」
客はそう言うと深刻な顔をした。
しかし、すぐに思い直したように笑顔を作る。
「っと、すまねえな店員さん暗い話しちまって! 俺も頑張るから店員さんも頑張ってよ! この値段設定じゃ自転車操業だろうけどさ」
「はは、全くですよ。またお待ちしてます!」
笑顔で帰っていく客をホイは見送った。
最終更新:2009年11月27日 11:05