- 29 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/04/05(日) 23:44:52.87 ID:pt78.Ak0
養成学校の食堂では、生徒達が一斉に昼食を取っていた。
食堂の席は自由席であり、基本的にどこに座っても良い。
しかし、食堂の中央の席は食堂のテレビモニターが見えやすく、常に上級生達が占領している。
下級生は細々と隅の席で昼食を取るのが一種の慣例になっていた。
ガヤガヤと、食堂のあちこちから生徒達の話し声が聞こえる。
彼らの視線は一様に食堂の中央の席に注がれていた。
生徒達の注目を一身に受ける生徒は、まだ初学年の生徒、ライ=バールだった。
「おいおい、あいつ一年の癖に何であの席座ってんだよ。あそこは4年お気に入りの溜まり場だぜ」
「俺ら3年でも絡まれるのがこえーから近づけねえってのに。隣の4年めっちゃくちゃアイツのこと睨みつけてんじゃん」
食堂での座る席にこれといった規則は無いが、学年ごとで固まる場所は大まかだが暗黙の了解があった。
しかし周りの生徒達の言うように、ライは4年生ばかりが固まっている席に座っていた。
それも4年に臆する姿勢など全く見せず、堂々と昼食をとっているのである。
その行動は4年生への挑発以外の何者でもなかった。
- 30 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/04/05(日) 23:46:23.92 ID:pt78.Ak0
「あの一年馬鹿じゃねーの」
ぶっ飛ばされるぜ、と飽きれたように笑う生徒。
「いやでも、アイツあれじゃん? あの13基地防衛の」
「おっ、マジだ。あの有名人が相手じゃ4年とはいえ簡単にシメるわけにはいかねえよな」
「確かにそうだけどよ、あいつまだ一年だぜ? 調子乗っていいわけじゃねーだろ」
教室のあちらこちらで、そんな会話が繰り広げられている。
しかし、当の本人であるライは涼しげな顔で、むしろ注目を浴びて喜んでいるようだった。
その隣では、4年生が今にも胸倉に掴みかかりそうな剣幕である。
そんな4年をライは完全にシカトしていた。
生徒の誰もがこれからどうなるのかと固唾を呑んだとき、ついに一人の4年生がライに声をかけた。
「おい一年。英雄だか何だかしらねえがよ、ここは学校なんだよ。ここで大人しく生活がしてえならここの規則に従え」
「は? 規則? なんだそれ」
4年生の言葉をライは鼻で笑った。
「俺が知る限り食堂の席はどこに座ろうと自由な筈だけどな」
4年生を嘲笑するように言うライ。
- 31 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/04/05(日) 23:50:16.39 ID:pt78.Ak0
「舐めてんじゃねえぞ。一年は一年らしく隅にいりゃいいんだよ!」
4年生は怒りに任せてライの襟首を掴んだ。
「気にいらねえな」
今まで余裕めいた表情を浮かべていたライだったが、一転して鋭い目で4年生を睨む。
「ここは4年しか座れねえって誰が決めたんだ? 年上なら実力が無くてもでかい態度取れんのかよ」
「実力が無い? 誰に向かって口きいてんだ、コラ」
「お前に決まってんだろ?」
「てめえっ!!」
そう怒鳴ると4年生は高々とこぶしを振り上げた。
しかし、ライは自分の胸倉にある4年生の手を取ると軽々とそれを捻った。
そしてそのままライは赤ん坊の体を操るように、相手の体を地面に倒した。
信じられない、という目つきでライを見上げる4年生。
「どうした先輩? 俺のことボコボコにしてくれんじゃねえのか」
「うおおおおおお!!」
4年生は起き上がると、またもや力任せにライに殴りかかった。
- 33 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/04/06(月) 00:04:56.98 ID:FKsi6WM0
しかしライは涼しい顔でそれを避けると、4年生の足元に自分の片足をスッと伸ばす。
4年生は空振りした勢いのままライの足に躓き、前のめりに地面に倒れた。
「その程度か雑魚。お前四年間何やってきたんだ? 格闘の基礎がまるでなってないぞ」
そう言うとライは4年生の襟元を掴んだ。
「おい、立てよ」
拳を振り上げるライ。
だがそれを制するように、フレンが2人の間に割って入った。
「ライ、もう止めろ」
「あ? 邪魔すんじゃねぇよ!」
ライは興奮した様子で言った。
「落ち着くんだ、ライ」
フレンはそんなライをなだめた。
「ライ、確かに規則に席の規定なんて無いさ。だけど無理に4年の中に割って入る事もないだろう」
「うるせえ! どこに座ろうがそんなもん俺の勝手だ。俺の邪魔する奴は4年だろうがぶっ潰す! 例外なんてねえ。俺の足ひっぱんならお前もぶっ飛ばすぞ、フレン」
そう言うとライはフレンから顔をそらし、食堂全体を見渡すようにして口を開いた。
「いいかお前ら! ここのトップは4年じゃねえ。MSの操縦でも、殴り合いでもこの学校のトップはこの俺だ! 年齢なんて関係ねぇ。俺がお前らのリーダーだ。 文句ある奴は直接かかって来い!!」
大きな声でそう叫ぶと、ライはそのまま食堂を後にした。
フレンが慌ててその後を追う。
- 34 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/04/06(月) 00:05:53.49 ID:FKsi6WM0
「ライ、いくらなんでもさっきのはやり過ぎだよ。あれじゃあ4年生に後で何されるかわから無いぞ」
廊下を歩くライに併走しながら、フレンがそう言った。
「そうしたらその度に返り討ちにしてやるだけだ。問題ねえよ」
「一対一ならいいさ。だけど集団で来られたらいくらライでも太刀打ちできないぞ」
「それでも俺は負けねえし、仮にその時やられてもその後で10倍返しにしてやんよ」
「ライ、頭を冷やせ」
フレンのその言葉を聴くとライは足を止めた。
「わかってる。わかってるよ!」
ライは悲痛な声で怒鳴った。
「本当は4年なんざどうでも良いんだ」
ライは今までとはうって変わって、静かな声で話し始めた。
「俺は、一度もノビタにMSのシミュレーションで勝てやしなかった。あんな馬鹿でノロマなガキにだぜ? こんな屈辱は俺の人生で初めてだ」
そう言うライの顔はとても悔しそうだった。
「俺はもっとあいつと一緒に戦いたかった。このままあいつが宇宙に行っちまったら、俺は、俺は……」
ライの表情は辛そうだった。
フレンもまた寂しげな表情でそんなライを見つめた。
「フレン、お前はどうしてそんなに冷静で居られんだよ」
「僕だって辛いさ。だけど一番辛いのはノビタ君本人だろう? 僕達が動揺したらノビタ君に余計辛い思いをさせてしまう。だから僕達のやるべき事は、笑顔でノビタ君を送り出す事だ。違うか、ライ」
フレンがそう言うと、ライはそれ以上何もしゃべらなかった。
フレンもただそんなライを見つめることしか出来なかった。
- 35 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/04/06(月) 22:17:19.07 ID:FKsi6WM0
朝。
いつものクラスの朝礼の後、担任の教官がのび太を呼んで教壇の前に立たせた。
ゴホン、と一度だけ教官が咳払いする。
「みんなも知っていると思うが、ノビが皆と授業を受けるのは今日で最後になる。宇宙行きの栄転だ。みんな拍手で送ってやれ。おめでとうノビ!」
そう言って教官が拍手をすると、クラス中が大きな拍手を贈った。
「ノビ。お前はもともと皆よりも遅い入学で、、年齢も他の生徒よりずっとも年下だ。勉強はてんでダメ。体力も無いし、そもそも言葉を覚えるので精一杯だった。MSの操縦は素晴らしいが、それ以外は全くダメ」
教官はそう言いながらしっかりとのび太の目を見据えた。
「正直言って、続きはしないだろうと思っていたよ。だが、ノビ。お前は今日までひたむきに頑張ってきた。必死に食らいついてきた。そんなノビを、俺は誇りに思う。ノビは我がクラスを代表する生徒だ!」
教官の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「宇宙へ行っても頑張るんだぞ」
のび太の肩を強く握る教官。
のび太はそれに「アリガトウゴザイマス」と一言会釈して返した。
やがて、生徒の代表としてフレンが花束とみんなのコメントが寄せられた色紙を渡すと、のび太は必死に涙を堪えながら皆に「アリガトウ」と言った。
そうして朝礼が終わる。
教官はいつもの表情に戻ると「最後だからといって特別扱いはしないからな、ノビ」と言って授業を開始した。
- 36 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/04/06(月) 22:18:17.95 ID:FKsi6WM0
最後だと思うと、何もかもが大切だった。
いつもは長く感じる訓練も、今日は驚くほど時間が早く過ぎてゆく。
気がつけば、最後のMSシミュレーションの授業になっていた。
のび太にとってこの学校での本当に最後のシミュレーションとなる。
教官が次々と今日のペアを発表していく。
生徒の誰もが、のび太の対戦相手は誰なのか固唾を呑んだ。
そして遂にのび太のペアが発表された。
「次、ノビタ=ノビ。お前はライ=バールと組め。使用するのは8番シミュレーターだ」
瞬間、生徒達が沸いた。
何せ、のび太の最後を飾る相手としてこれ以上ふさわしい相手はいない。
生徒達が喜ばないはずが無かった。
これ以上望むことの無い組み合わせである。
しかし他のどの生徒達よりも喜んでいたのは本人達だ。
のび太は決意のこもった目でライを見つめた。
それをみてライはヘッ、と鼻を鳴らす。
「いい眼する様になったじゃねえか、ノビタ」
ライは胸の中に沸く喜びと躍動、そして闘争心を隠し切ることが出来なかった。
- 37 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/04/06(月) 22:19:04.79 ID:FKsi6WM0
「言っとくけどよ。俺はわざと負けて笑顔でお見送りなんて小ざかしい真似をする気はねぇ。今日こそは絶対にお前をぶっ倒す!」
前面に戦士としての気迫を押し出すライ。
だが、内に秘める戦士の血を隠しきれないのは、のび太にとっても同じことだった。
「ボクハ、マケナイ」
のび太はそう言うと、シミュレーターに向かって歩き出した。
もうのび太はシミュレーターに乗り込むのも手馴れたものだった。
ボタンを押してハッチを開くと、座席に腰を下ろし体を固定するためのベルトをしっかりと括り付ける。
そしてMS起動準備の操作を行うと、モニターに光が入り、『機種選択』の画面が現れた。
「今日はMSを自由に選べるのか」
のび太はMSの一覧を順に見ていく。
今回のフィールドは森林。故に使用されるMSは地上でも使用可能なものに限られる。
ザクⅡJ型、グフ、ドム。そしてイフリートという機体もある。
しかしのび太にとって、機種選びは考えるまでも無かった。
運動性・耐久力、そして武装。
それらのどれをとってもドムが秀でていた。
イフリートもまたドムに引けを取らない非情に高性能なMSではある。
しかしイフリートは近距離戦闘を主眼に置いた機体であり、遠距離戦闘を得意とするのび太とはあまり相性が良くない。
さらに操縦システムも他の量産型とは異なり、資料いわく扱いづらい機体との事だった。
のび太は使用MSをドムに設定すると、次の操作へと移った。
- 38 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/04/06(月) 22:20:03.75 ID:FKsi6WM0
シミュレーターのハッチの中で、ライは静かに震えていた。
のび太との戦いへの喜びと高翌揚、そして興奮。
この学校の生徒なら誰もが知っている通り、ライは自信家であり好戦的な性格でもある。
今までこうして震える時、その原因はそんな彼ゆえの武者震いであるとライ自身思っていた。
現に、今までのどの戦いでもそれは正しかった筈だ。
しかし、この戦いは今までに明らかに違っていた。
ライの胸に広がっている感情の正体。
それは戦いへの喜びではなく、まして勝利への高翌揚でもなく、のび太と戦えなくなる事への悲しみと、そして負けることへの恐怖だった。
ライ自身、その感情の正体にうすうす感づいていた。
「俺は……負けねえ」
小さくそう呟くライ。
俺は負けない。
俺は誰にも負けない。
俺は。
俺だけは、誰よりも強くなくちゃいけないんだ。
俺だけは、誰にも負けちゃいけないんだ。
俺だけは、誰にも負けないと誓ったんだ!
心の中で何度も反芻する。
もしここで負ければ、おそらくはもうのび太とやり合う事は無いだろう。
つまり、ここで負ければ俺は永遠にのび太を超えることが出来なくなっちまう。
それだけは絶対に許され無い。
ライはフィールドをマップで確認し、MS選択に移る。
- 39 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/04/06(月) 22:21:33.73 ID:FKsi6WM0
「さて、どうするか」
射撃を得意とするのび太がドムを選んでいる事は予想に難しくない。
射撃が得意でなくとも普通ならドムを選ぶだろう。
性能的には運動性能の高いイフリートが並ぶが、この機体は量産機ではなく、熟練したパイロットでなければ扱いづらい機体だ。
本来ならば訓練生風情で性能を活かしきれる機体ではない。
普通の生徒からすれば扱いなれている分、グフの方がいい結果を出せるはずだ。
が、しかしそれは並みの訓練生の話である。
俺様は誰だ?
自問するライ。
イフリートの運動性能はドムと比較してもずば抜けている。
格闘戦主体という特徴もライの好みだ。
何より相手に接近しての格闘戦というのが唯一ののび太への攻略法なのである。
ライはイフリートに機種を設定させると、具体的にどのような戦略をとるべきか思案した。
単純に考えてとるべき道は3つ。
正面突破か回り込みか、待ち伏せか。
- 40 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/04/06(月) 22:23:29.89 ID:FKsi6WM0
正面突破は普通に考えて無謀だ。
が、イフリートの運動性能を加味しても、のび太の射撃を正面からかわすことは不可能に近い。
ならば回りこみはどうか。
これは選択される地形により多きく左右されるが、今回の地形は森林。
標高400m程度の小さな山もある。
この山をうまく利用し相手の背後へ回り込む戦法は悪くない。
待ち伏せはどうか。
これもやはりこの山がキーポイントだ。
また、木々が生えてる事も待ち伏せの戦法には有利に働くだろう。
どの戦法で行くべきか思案するライ。
答えは単純だ。
その全ての戦法全てを扱えなければ実戦じゃ使い物にならない。
要は、回り込んで、待ち伏せて、頃合が来たら突撃する。
それだけの事。
ライが心の中でそう呟くと、戦闘開始の合図のブザーがシミュレーター内に響いた。
- 41 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/04/06(月) 22:24:08.53 ID:FKsi6WM0
瞬時にパッシブソナーの適用範囲を最大まで広げつつMAPの確認をするライ。
MAPは3km四方の地形であり、その中央よりやや北に標高500mの山がある。
ライのイフリートが居るのはMAPの中心より西へ1kmほどの地点だった。
次いでデジタル望遠であたりの様子を探る。
思ったよりも山の丘陵は大きく、あたりにはなだらかだが幾重にも高低差があった。
木々の高さもあり、丘陵の谷間に入ればMSの姿を隠せる。
それを確認すると、ライは相手のパッシブソナーに感知されない程度のゆっくりとした動きでイフリートを進めた。
ひとまず北東へ向かい、山頂手前の丘陵に隠れることにした。
本来なら山の裏まで回りたいが、下手に動き回って相手に捕まってしまっては意味が無い。
ソナーには相変わらずのび太機の姿は映らなかった。
ライは「チッ」と舌打ちする。
互い相手の姿を発見できなければ対応のしようが無い。
それもこのまま相手が動かないのなら不利なのはライのほうである。
のび太からすれば長大な射程を誇るジャイアントバズを持っているのにわざわざ自分から動く必要が無いのだ。
見晴らしのよい場所に陣取り、ひたすら相手を待てばそれでよい。
相手が接近してくれば、ソナーでそれを探知できる。
あとはそれを射撃するだけの話だ。
ならば、今の時点でこちらの作戦はただひとつ。
どっちが先に動くか根競べだ。
ライは丘陵の谷間にイフリートをかがませひたすらに待った。
- 42 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/04/06(月) 22:25:40.76 ID:FKsi6WM0
のび太もまたドムに乗り、谷底でライが動き出すのを待っていた。
ライがどんな機体に乗っているかは分からないが、先に見つけてさえしまえばこのマップ程度の範囲ならすぐさま対応できる。
のび太が居るのはMAPの中心より東北へ1,2kmの地点。
MAPのほぼ端である。
機体の後方にライが居ない事はデジタル望遠で確認していた。
ならば注意を向けるべき方向は自然と限られる。
のび太とて、もっとも注意すべきなのがマップのほぼ中央にあるあの山である事くらい分かっていた。
だが相変わらずソナーにも視界にも反応が無い。
そのままどれほどの時間が経ったのか。
先に痺れを切らしたのはライだった。
ドンという大きな音がMAP上に鳴り響いた。
明らかに射撃翌用武器の攻撃音。
ジャイアントバズともザクマシンガンとも違う音だな、とのび太は思った。
こんな時はどうするんだっけな、と今まで授業でやってきたことを思い出すのび太。
「そうだ、音声解析だ」
そう呟くと、のび太は先ほどの攻撃音を音声解析にかけた。
結果はイフリートという機体専用のショットガンの銃声音。
つまり、ライが乗っている機体はイフリートということになる。
- 43 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/04/06(月) 22:26:13.57 ID:FKsi6WM0
イフリートといえば格闘戦主体の機体だ。
今までほかのどの生徒も試みてきた事だが、ライもやはり格闘戦で仕掛けてこようというのだろう、とのび太は思った。
しかし、それは要するにこのまま射撃を構えていれば絶対に勝てるという事だ。
のび太は音の聞こえてきた方向に照準を合わせた。
しかし、やはりライは出てこない。
変わりにまたもやショットガンによる攻撃音が鳴り響いた。
今度はさっきよりもやや西側から発せられたようだった。
おびき寄せようとしているのだろうか。
そうでなければああやってわざわざ自分の居場所を教えるようなことをしても何のメリットもない。
そもそもライは正面きって敵とぶつかりたい、そういう男なのである。
のび太はその事を十分承知だった。
またもやショットがんの音が鳴り響く。
ライはまたさらに西へ動いていたようだった。
相手の挑発に乗るべきかどうか思案するのび太。
だがこれは真剣勝負、なにも相手の思惑通りに突撃して行って格闘戦に持ち込む気は無い。
だけど、のび太はこのまま引き分けに持ち込む気も無かった。
- 44 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/04/06(月) 22:27:02.97 ID:FKsi6WM0
ならばどうすればいいか。
単純に考えて相手が格闘戦に持ち込めない距離を保ちながら、こちらが射撃できる位置まで回り込めばいい筈だ。
のび太は相手が最後に発砲した位置を確認すると、そこへ回りこむべく大きく北へ回りこんだ。
その時だった。
突如北側の丘陵影からイフリートが飛び出してきた。
それはのび太が予想していたイフリートの位置よりも遥かに東だった。
「やられたっ!」
とっさに迎撃運動をとるのび太。
しかしイフリートが現れると同時に発砲してきたショットガンがのび太のドムを直撃した。
イフリートとドムの間に距離があった為、散弾の性質上たいしたダメージではない。
しかしその衝撃でジャイアントバズの照準がずれた。
そのちょっとのズレを見透かしたかのように、イフリートはとっさにのび太の砲撃をかわし、突撃してくる。
「俺がまだ西に居ると思ったか? 甘いんだよ!!」
西に移動し待ち構えていると見せかけ、東に戻る。
単純と言えばあまりに単純なその策にまんまと嵌ったのび太をライは一喝した。
しかもどうやら、偶然にもショットガンによる攻撃はジャイアントバズの照準器を破壊したらしい。
これならば格闘戦に持ち込める。
イフリートの機動性をもってすればヒートサーベルで切りつけられる距離までもう少しだ。
- 45 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/04/06(月) 22:28:42.91 ID:FKsi6WM0
だが後一歩のところでのび太のドムの胸部から激しい光が迸った。
ドムの胸部に内蔵されている拡散ビーム砲である。
出力が弱い為それにより敵機を破壊する事は出来ないが、直撃すればモニターを焼きつかせる眼くらましにはなる。
だが、ライはコックピットの中で不適に笑った。
「お前の動きなんざお見通しなんだよ!」
ライのイフリートはとっさに片手で頭部のメインカメラをかばっていた。
これによってメインモニタの焼きつきを防ぐ事が出来る。
しかしそうする半面で、ライはそんな必要も無いと考えていた。
ライにはのび太の次の動きも分かっていたのだ。
ライの予想する次ののび太の動き。
それはライを拡散ビーム砲で足止めし、即座に自分のドムを後方へ退避させる。
そしてジャイアントバズの射撃が可能な程度距離をとると、照準黄による自動ロックではなく視認によって射撃をしてくるつもりだ。
並みの生徒が相手なら、ライにとってそんな攻撃をかわすのは余裕である。
がのび太にはそれを驚異的な早さで行なうだけの射撃センスがある。
のび太に撃たせれば、避けるのは容易くない。
ならば、なにも相手の好きにさせなければいいのだ。
- 46 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/04/06(月) 22:29:38.23 ID:FKsi6WM0
このまま前進し、ヒートサーベルで切りつける。
それでのび太のドムは終わる。
何も拡散ビームの光がやむのを待つ必要も無い。
モニターなど頼らずとも、目の前の敵を切りつけることなど”俺にとっては”造作も無い。
ライは迷うことなくイフリートを前に踏み込ませた。
大丈夫だ、俺はやれる。
ライには確信があった。
例えどんなにのび太が射撃の天才だろうと、そんな事では揺らぐ事の無い確固たる自負。
そう、のび太が射撃の天才と言うのなら
――紛れも無く、俺は格闘の天才だ。
「堕ちろっ!!」
ライはそう叫ぶと拡散ビームの光の中でヒートサーベルを一閃した。
「何っ!!」
ライはとっさにそう漏らした。
ヒートサーベルがドムを切りつけたらしき手ごたえが無いのだ。
拡散ビームの光が落ち、視界が戻る。
やはり目の前にドムは居なかった。
- 47 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/04/06(月) 22:30:37.65 ID:FKsi6WM0
「横に回りこんだのか!」
おかしい、とライは思った。
射撃に移るなら絶対に後方に下がるはずなのに、何故。
しかしその思い込みこそがライの命取りだった。
確かにのび太は射撃の天才である。
しかし何ものび太はスナイパーというわけではない。
MSが行なう白兵戦とはありとあらゆる局面が想定される。
当然射撃だけをすればいいというわけじゃない。
それはのび太とて同じである。
ライがヒートサーベルを持った背後のドムに気づいたときには、すでにメインカメラへのヒートサーベルの一撃は避け切れなかった。
のび太がシミュレーターから降りると、生徒達から歓声が沸いた。
「流石だぜのび太。やっぱりライに勝てるのはお前しかいない!」
「まさかのび太がヒートサーベルでライを倒すとはな!」
「よっ、エースパイロット!」
のび太はそんなみんなに笑顔で返した。
- 48 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/04/06(月) 22:31:20.50 ID:FKsi6WM0
そんなのび太の前に、同じくシミュレーターから下りてきたライが現れた。
ライは無表情な顔つきでのび太の眼を覗き込んだ。
ライそのままのび太をジッと見つめている。
回りの生徒達は皆次にライがどんな態度をとるのか固唾を呑んで見守った。
なにせあのライの事だ。
負けた事に逆上して怒りだしかねない。
だけどのび太には分かっていた。
ライはそんな事をする為に自分の眼を見つめているのではないと。
お互い、同じ死線を越えたもの同士の通じる何かがあった。
「完敗だ」
一言ライはそう言った。
その目は何かを認めるようにのび太を見据えている。
「いいかのび太。宇宙に行っても絶対誰にも負けるな。お前が負けるって事はお前に負けた俺も負けるって事だ。そんなことは絶対に許さねぇ。いいか、いずれお前を倒すのは他でもねえこの俺だ」
ライはのび太を見据えたままそう言った。
「約束しろ。誰にも負けるなよ」
ライは厳しい口調だったが、ここに居るだれもがそれが恨み言なんかではない事を分かっていた。
- 49 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/04/06(月) 22:31:54.97 ID:FKsi6WM0
「マケナイヨ」
のび太は真顔でそう言うと、少し沈黙をおき再び口を開いた。
「ライニモネ」
のび太は笑顔でそう付け加えた。
「なめやがって」
ライもそれに笑顔で返した。
そんな2人に周りの生徒達も大きな拍手を送った。
教官もそんな彼らを優しい眼で見守っている。
「頑張れよ」
ライはのび太にしか聞こえないくらいの小さな声でそういった。
のび太もやっぱり小さな声で「うん」と答えた。
そうしてとうとう訓練学校を出発るする日になった。
いつもよりも随分と早い時間に起きて宇宙へ持っていく荷物を改めて確認するのび太。
そうしている内にのび太の部屋へ教官がやってきて、のび太はそのまま校長室に案内された。
校長室にのび太が入ると、校長は笑顔で彼を出迎えた。
そして「君は本校始まって以来の逸材だ」と褒め称え、本来学校を主席で卒業するものだけに与えられる金の鷹勲章をのび太の胸へかけた。
そうして色々と校長は話をしたが、のび太はあまりその話に興味をもてなかった。
そんな事よりも、のび太はフレンやライ達のことばかり考えていた。
- 50 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/04/06(月) 22:32:46.81 ID:FKsi6WM0
「アリガトウゴザイマシタ。シツレイシマス!」
のび太はそう言うと一礼してから校長室を出た。
そんなのび太の背中に「がんばりたまえ」と校長は声をかけて見送った。
教官はいつものように感情を表に出さない顔でのびたを案内する。
しかし内心では校長や上層部への怒りをひたすらに耐えていた。
だがこれも仕方が無いことなのだ。
軍という流れの中で、一人の人間の力など無力といっていい。
教官には己の職務を全うする以外の選択肢は無かった。
そうして教官はそのままのび太を軍用のジープへ乗せる為、屋外の駐車場へと連れ出した。
この駐車場は軍用のヘリやMSの搬入も想定されている為にとにかく広い。
言うなればコンクリートの平原だ。
そんな駐車場を埋めるほどの数の車両が止まっているわけも無く、ジープの数はまばらだった。
その中のひとつのジープの周りにだけ、なぜだか人だかりが出来ていた。
のび太には顔をみずともそれが誰かなんて分かっていた。
もちろん全員初学年A組の生徒である。
- 51 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/04/06(月) 22:33:13.09 ID:FKsi6WM0
のび太がジープへ歩いていくと、みんな「おめでとう」という言葉と共に拍手でのび太を迎えた。
「ミンナ、ホントウニアリガトウ」
皆の前に立つと、のび太は心のそこからみんなにそう言った。
みんな各々にのび太へ応援の言葉を返す。
そんな中、フレンが一人前へ出た。
その手には花束を持っている。
ゆっくりとフレンは口を開いた。
「ノビタ君、例えどこにいようと君は僕達の親友だ。絶対に忘れないよ」
「アリガトウ。ボクモゼッタイニワスレナイ」
そういってクラスメート一人一人を見渡すのび太。
みんなひとりひとりと思い出がある。
こうして最後にみんなに会えて本当にのび太は嬉しかった。
ただ、ライの姿だけここには無くて、それもまたライらしいなとのび太は思った。
そうしてのび太は皆に見送られてジープに乗り込んだ。
みんなはのび太のジープが見えなくなるまで、ずっと「ジークジオン」と声を張り上げていた。
最終更新:2009年09月28日 10:42