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 ブータンの荒野を走るジープ。
 それに乗っていたのはホイ達であった。
「ホイさ~ん、もう1日中ジープの上だよ? もう兵隊も追って来ないよ。少し休もうよ」
 食事や仮眠の為に少しの休憩は取っていたが、それは長くても3時間程度で、ホイは直ぐに運転を再開していた。
 それも4日間である。
 運転しているホイは当然の事ながら、搭乗しているジャイアン達にも相当な疲労が溜まっていた。
 だがそれでもホイは運転を止めなかった。
「アトスコシアル」
 そう言ってハンドルを握り続けるホイ。
 この辺りは未だジオン軍と連邦軍の紛争が絶えない地域である。
 もしもこの地域で軍隊に見つかったら、相手が連邦軍であれジオン軍であれ厄介な事だ。
 何せホイ達が乗っているのはジオンの軍用ジープ。
 ジオンに見つかれば、即捕まるのは当然だが連邦に見つかっても下手をすれば攻撃される危険性があった。
 まずはこのまま連邦軍の占領地域の目の前までジープを走らせ、そこからは連邦の統治で安定した地域まで歩くのが得策だろうとホイは考える。
 それまで気を抜く事は出来なかった。
 ガソリンの残容量からも道草を食っている暇は無かったし、この辺りはMSや戦車の残骸が多い。
 それもかなり新しい残骸である。
 ホイは一刻も早くこの地域を通り過ぎなければならなかった。

 だが、そうしてホイがジープを走らせているとホイ達のジープに遠くから巨大な音が迫って来た。
 ズシン、ズシンと連続して鳴り響く地響きにホイ達は全員顔を強張らせる。
 MSだ、と全員そう思った。
 MSの走行音はジープの進行方向から聞こえてくる。
 不味い。
 そう思ってとっさにジープのハンドルを切るホイだが、既に遅かった。

「そこのジープ、今すぐに止まれ! さもなければ攻撃する」
 拡声用のボタンを入れると、渋沢はホイ達のジープにそう叫んだ。
 渋沢の声が聞こえたのか、ジープはすぐに停車する。
 それを確認すると、渋沢はメインカメラのデジタル望遠を使ってジープに乗っているホイ達の姿を確認した。
「軍服を着ていないな。それに子供が乗っている。民間人なのか?」
 しかし、彼らが乗っているのは明らかにジオン軍のジープである。
 何か訳ありだな、と思う渋沢。
 そんな渋沢に他のジムの操縦者が通信を入れた。
『彼らは民間人のようですね。どうします隊長?』
「どちらにせよ事情を聞く必要がある。これから俺が確保に向かうが、まだ彼らが文民と決まったわけじゃない。対人兵器の準備をしておけ」
『了解です』
 渋沢は部下の返事を確認すると、ジープのもとへMSを歩かせる。
 そしてジープの目の前でMSを止めると、渋沢は拳銃を手に持ちコックピットのハッチを開き、地上へと降りた
「両手を頭の後ろから動かすな」
 拳銃の銃口をホイに向けたまま、渋沢はジープに近づいていく。
「所持品を確認させてもらう」
 そしてジープの目の前に来ると、運転席のホイに手をかけた。
 その瞬間、渋沢は己の目を疑った。
「あなたは」
 渋沢には確かに、ホイの顔に覚えがあった。
「あなたはまさかコジマ大隊の歩兵部隊に所属していた、コーロウ曹長では?」
 そんな渋沢の意外な言葉に驚くホイ。
「俺を、知っているのか?」
「当然です。コジマ基地の格闘技大会で5年連続優勝。あなたの事を知らない人間はコジマ基地には居ません」
 格闘技大会とは、毎年コジマ基地に所属する兵士の中で格闘技に優れた者が行うトーナメントである。
 体が資本の兵士にとって、その大会で良い成績を収める事は大変な名誉だ。
 ちなみに渋沢は今年の準優勝者である。
「意外と俺は有名人なんだな」
 そんな渋沢の言葉に笑って返すホイ。
「えぇ、しかしあなたは軍を抜けたという話ですが。それがなぜジオンのジープなどに」
 渋沢の言葉にホイは苦笑した。
「色々とあったもんでね」

 ホイはこれまでの経緯を渋沢に説明した。
「シーエンの辺りで連邦派のゲリラと、ジオンの小規模な戦闘があったと言う話は聞きましたが。それがまさかあなただったとは」
 渋沢はホイの話を聞くと驚いたようにそう言った。
「俺たちはただ逃げてきただけさ。それと少尉さんよ、敬語は止めてくれないか? 軍人の頃の癖で違和感がある」
「ですが、今あなたは民間人です。コーロウさんの方が目上なので、そういうわけにはいきません」
「ま、それもそうかね」
「それで、これからどうするんです?」
「タイの国境あたりまで行こうと思ってるんだが。あの辺りなら戦況は安定しているだろう?」
 ホイがそう言うと、渋沢は少し困った顔をした。
「確かに大隊の基地付近は連邦の統治下にありますが。まさかずっとそのジープで行くつもりですか」
「そのつもりだ。コイツ以外に移動手段が無いもんでな」
「まったく、そんなものに乗っていたらいつ攻撃されても文句は言えませんよ。そもそも、基地周辺の町へ外部から入るには許可証がなければ無理です」
 渋沢はホイに呆れながらそう言う。
 その時、渋沢の胸に付いている無線機が鳴った。
 すぐさまそれを手に取る渋沢。
「なんだ」
『敵の反応を感知しました。これは間違いなくMSです』
「MSだと? 分かった、すぐに戻る」
「おいおい、ジオンのMS部隊がこの近くに居るのか?」
 そんな渋沢の様子を見ながらホイが言った。
「そうです。戦闘に巻き込まれたくなければ早くここから離れてください。コジマ基地にはあなたたちの事は連絡しておきますから」
 そう言うと渋沢は急いで自分のMSへと戻って行った。
「武運があんたに味方する事を願う、少尉さん」
 そんな渋沢の背中を見ながら言うと、ホイはジープを再び発車させた。

 渋沢はMSに乗り込むと、すぐさまホバートラックの乗員に連絡を取る。
「敵の位置と数を教えてくれ」
『北北東です。敵戦力はMS2機、戦車一台。目的の部隊と見て間違いないかと』
「距離は」
『直線距離にして、およそ2.5kmです』
「了解だ」
 その距離なら、MSや戦車の索敵機能ではこちらの存在は恐らく悟られない。
 ならば渋沢の部隊が圧倒的に有利だ。
「よし、それでは敵さんに気付かれないように回り込んで奇襲をかける。全員気ぃ引きしめろ!」
 そう言うと渋沢は操縦桿を傾ける。
 何となく、渋沢はホイと一緒に居た子供達のことを考えた。
 あの子達はホイの家族なのだろうか? それとも孤児なのだろうか?
 どちらにしろ、ホイはあの子供達を守るために彼なりに戦っている。
 俺がジオンと戦って勝つことは、彼らを救う事になるのだろうか?
 そんな事を渋沢は考える。
 もしもそうなら、こんな場末の兵士にもちゃんと戦う意味があるということだ。
 そう思うと渋沢は少し嬉しかった。

 じっくりと時間をかけて、決して敵に悟られないようにジオンの小隊の背後に回りこむ17小隊。
 距離にして800m。
 既に敵を目視可能な距離である。
 モニターの画面で敵の小隊を確認すると、渋沢は無線のスイッチを入れた。
「敵さんとの距離が700まで縮んだら突撃をかける。それまでに敵さんに発見されても同じだ」
『了解』
「先手必勝。100mm機関砲を連中の背中にぶち込んでやるぞ」
 そう言ってゆっくりとMSを進め敵との距離をジリジリと詰めていく渋沢達。
 しかし、距離750mの地点で突如ジオンのザクの1機が背後を振り向いた。
「気付かれた!?」
 渋沢がそう叫んだとほぼ同時に、ジオンの小隊がこちらに振り向き戦闘隊形を取ろうとする。
「突撃だ!! 敵に陣形を整わさせるなっ!!」
『了解です!』
『うおおおおお!!』
 一斉に100mm機関砲を連射しながら突撃していく渋沢達のジム。
 ジオンのザク2機の内、反応に遅れた機体がまともにその射撃を喰らった。
 だが、そんなザクをもう一機のザクがとっさに左肩のシールドをジムに向けながら庇う。
 それにより被弾したザクは何とかランドセルの破損だけで被害を抑え、すぐさま反撃に移ってきた。
「チッ、流石に手馴れてやがるなジオンのパイロットっ!」
 奇襲に失敗し、悔しさの余りそう呟く渋沢。
 実際MSでの実戦経験が殆ど無い渋沢よりも、ジオンのパイロット達の方が手馴れていた。
 ザク2機はシールドのある左肩を渋沢達に向けて射撃をしてくる。
 マゼラアタックも渋沢に砲身を向けた。
 完全に敵に陣形を整えられ、怒りで歯をかみ締める渋沢。
「糞っ! シールドをいくら機関砲で撃っても無駄だ! 格闘戦を仕掛ける!」
『はいっ!』
 そう言って突進していく17小隊のジム達。
 それを必死に迎撃するジオンの攻撃に、渋沢機のマニュピレーターに持たせたシールドが吹っ飛ばされる。
 更に渋沢の部下のジム1機がマゼラアタックの砲撃をまともに喰らった。
 大きくコックピット部分が拉げ、胸部から煙を上げるジム。
「きさまらあああああああああああ!!」
 それを見て渋沢は叫んだ。
 脚部に装備されたビームソードを手に取ると同時に、渋沢はスラスターを最大出力で噴射させた。
 およそ400mの距離が一気に縮まってゆく。
 その渋沢機の突進に、すぐに武装のザクマシンガンを捨てヒートホークを手に取ろうとするザク。
 それを、渋沢機は貫いていた。 
「次っ!!」
 ビームサーベルをザクから引き抜き、すぐさま次のザクを切り付けようとする渋沢。
 だが、もう一機のザクは既にヒートホークを手に取っていた。
 ザクのヒートホークが渋沢機の肩部を破壊する。
 それはビームサーベルを装備していたマニュピレーターだった。
「ぐう、おああ!」
 ザクの攻撃の衝撃を、必死にこらえる渋沢。
 とっさにもう片方のマニュピレーターにビームサーベルを持たせようとするが、ザクの2撃目には間に合わない。
 ここまでか、と思った時、部下のジムが100mm機関砲でザクの頭部を破壊した。
『大丈夫ですか隊長』
「すまん、助かった」
 そう言いながら、渋沢は機体の体勢を整える。
 最後に残ったマゼラアタックは後退をしながら、渋沢達に砲撃していた。
「残るはアイツだけだ。回避運動を取りつつ、取り付くぞ!」
『了解!』
 渋沢と部下のジム2機はそれぞれ左右に散開し、マゼラアタックに向かって走ってゆく。
 マゼラアタックに狙われたのは渋沢の部下だった。
 ジムに向かって砲撃を繰り返すマゼラアタック。
 その攻撃を脚部に喰らい、あっさりと倒れるジム。
 そんなマゼラアタックの戦いぶりに、渋沢は敵でありながら感心した。
「やるじゃねぇか、戦車の分際で!」
 マゼラアタックはすぐに次の照準を渋沢機に変えてくる。
 だがその前に、渋沢のジムがビームサーベルでマゼラトップを垂直に串刺しにしていた

 戦闘が終わると、渋沢達は急いでコックピットに直撃を受けたジムのもとへ向かった。
 コックピットをこじ開け、中からパイロットを引きずり出す渋沢の部下。
「だめです。もう息がありません……」
 パイロットの様子を見てそう言う部下に、渋沢は「そうか」とだけ答えた。
 パイロットの亡骸の下へ歩み寄り、その手を取る渋沢。
「ありがとう。お前のおかげで俺たちは勝利できた。だから――安らかに逝ってくれ」
 もう何も喋る事の無い部下にそう語りかけると、渋沢は立ち上がった。
「英霊に黙祷を捧げる」
 そう言って胸に手を置く。
 そんな渋沢に続いて、小隊の兵士達も黙祷を捧げた。
 これは戦争だ。
 戦死する人間なんて珍しくは無い。
 今までだって、渋沢は何度も戦友を失ってきた。
 だけど、何度だろうと渋沢は胸に押し寄せるこの強い悲しみを抑えきれない。
 だが彼は小隊長として、部下の死を毅然と背負わなければならないのだ。
 それが小隊長としての彼の責務だった。
 強く拳を握る渋沢。
 仲間達の死を無駄にしないためにも、渋沢は立ち続けるしかない。
 味方の、敵の、多くの人々の死を背負いながら、それでも立ち続け、戦い続ける。
 それが渋沢達兵士がいる戦争だった。


 3晩の後、ホイとジャイアン達は無事コジマ大隊占領下のタイ国境までやって来た。
 そこまで来るとホイ達はジープを乗り捨て町へ続く道を歩く。
 しかし、町へ入る道を連邦の兵士が封鎖していた。
「兵士さん達よ。この道を通らせてもらいたいんだが」
「通行許可証を提示してください」
 ホイの言葉に、兵士はそう返した。
「通行許可証?」
「はい、現在基地周辺はテロ警戒中の為に、許可証の無い民間人はお通しすることは出来ません」
 兵士がそう言うと、ホイは渋沢達の言葉を思い出した。
 彼は確かに町には許可証が無いと入れないと言っていた。
 しかし、渋沢はホイ達のことをコジマ基地に連絡をしてくれているはずである。
「すまん、許可証も身分証明書も無い」
「それでは申し訳ないですがお引き取りください」
「ホイ=コーローの名前でそちらの基地に問い合わせてもらえないか? 連絡がいっている筈なんだが」
「基地、にですか?」
 兵士は不思議そうな顔でそう尋ね返す。
 ホイがもう一度頼み込むと、彼は仕方なく無線で本部に連絡を取った。
「こちらチェンライ検問所です。確認をお願いしたいのですが、ホイ=コーローという人物の通行許可は下りていますか」
 無線に向かってそう言う兵士。
 10分ほど無言の時間が過ぎた後、兵士は何度か「はい」と無線に返事をして無線を切った。
「コーローさん、確かに基地に連絡は入っていました。有志だとは知らずに、失礼をお許しください」
「いや、いいんだ。気にしないでくれ」
 頭を下げる兵士にそう言うホイ。
 ホイはあえて”有志”という言葉を否定しなかった。
 彼らはホイを連邦派のゲリラと思ってそう言ったのだろうが、そう思わせておいたほうがホイ達にとって都合が良い。
「んじゃ、もう通っていいのかい?」
「はい。ただし、身分証を持っていないということなので、別室で簡単な身分照会だけはさせていただきます」
「そんなもんでよければいくらでもさせて頂くさ」
 ホイがそう言うと、兵士は「ついて来てください」と言って連邦の施設に向かって歩き出す。
 ホイはジャイアン達を連れてその後を追った。


「コーロウさんの照会は完了しました。これが通行許可証です。今度から町を出入りする際は必ずそれを持ち歩くようにしてください」
 連邦の施設でホイの身分照会を終えると、兵士はそう言ってホイに通行許可証を差し出した。
「了解した。それにしても意外と早く終わるものだな」
 ホイは許可証を受け取りながら、そう言う。
 実際、1時間も経たずに手続きが済むのはホイの予想外だった。
「本来ならもっと時間がかかるんですけどね。コーロウさんの場合、コジマ基地に所属していた頃の資料が残っていたので」
「なるほど。それは運が良かった」
「アーネ=ジャーとオトー=ジャーの2人も、彼らの両親が連邦軍人だったのでもう直ぐ照会が終わります。ただ……」
 兵士は少しだけ表情を曇らす。
「タケシ=ゴウダとスネオ=ホネカワの2人は全く身分照会が出来ません。もう少し彼らについての情報は無いんですか?」
 それを聞くと、ホイも難しい顔をした。
「申し訳ないが、俺もアイツらが日本人ということ以外は何も分からないんだ」
「そうですか」
 ホイの言葉を聞くと、兵士は腕を組む。
「う~ん。それでは、あの2人に関しては臨時の通行許可証を申請しておきます。正式な通行許可証が発行されるのは時間がかかるでしょうが、当分はそれで支障無いはずです」
「申し訳ない。本当に感謝する」
「いえいえ、良いんですよこれくらい。ホイさんのような有志にはこれくらいの協力は当然です」
 そう言いながら笑顔を作る連邦兵士。
 そんな笑顔を見るとホイは少しばかりばつが悪かった。
「どうですホイさん。せっかくこの町まで来たんですから、コジマ大隊に復帰してみてはいかがです?」
 兵士の言葉に、ホイは首を振って返す。
「折角だが今はただの料理人でね。銃の扱い方は忘れちまったよ」
「そうですか」
 ホイの言葉を聞くと、兵士は少しだけ残念そうに言う。
「ところで今晩の宿の方は平気ですか? もしあれでしたら私が町の宿場に連絡を入れておきますけど」
「悪いけどお願いできるかな。何分、急いでシーエンから逃げてきたもんでね」
「分かりました」
 そう言うと兵士は机の上にある電話を取った。



 カラカス基地の司令室で、スカルチノフは定期的に行われる連邦軍総司令部との通信をしていた。
「とうとう後3日ですな」
 緊張しつつも、少し笑みがこもった表情でそう言うスカルチノフに総司令部の士官は『ええ』と返した。
『オデッサ作戦を円滑に進める為にも、明日の北米侵攻は重要です。大佐のカラカス基地には期待しています』
「それは誓って。しかし、ジムの配備はいつ頃になるものでしょうか」
『試作型は既にアジア戦線に実験的に配備されています。完成型のジムも既にジャブローでの生産が開始されました。もう暫くの辛抱です』
「もう暫く、ですか」
 だがその言葉にスカルチノフは落胆の色を隠せなかった。
 現状の戦力では戦線を維持するだけでも厳しいと言うのに、更にオデッサ作戦の為の陽動。
 それがどれだけ大変な事か、と思うスカルチノフ。
 スカルチノフと総司令部の士官は、2人とも同派閥の同士である。
 そんな2人でさえ、前線基地の人間とジャブローという総司令部の中に居る人間とでは意識に差があった。
 実際、ジムの配備に関しても総司令部は北米戦線に対してジムを出し渋っている感があった。
 それが来るべきジオン宇宙要塞の為に温存すべきと言う総司令部の考えであることはスカルチノフも承知はしている。
 しかし、スカルチノフにとっては目の前の戦線こそが全てだった。
 そんな事では再び足元をすくわれる、と思うスカルチノフ。
 まずは地上で足場を確固たるものにしてから制宙権の奪還をすべきだ、というスカルチノフの主張は戦争の早期終結を望む首脳部の中では少数派だった。
「わかりました。今ある戦力の中で、出来る限り暴れて見せましょう」
 心の中の不満を飲み込み、スカルチノフはそう言った。
『お願いします。健闘を祈っております』
「任せてください。それでは」
 そう言うとスカルチノフは通信の接続を切る。
 そして、「はぁ」と一度だけため息を付いた。
 オデッサ作戦をジオンに悟らせない為に、ジオンの意識を北米に釘付けにする。
 それがスカルチノフに与えられた任務だった。



『何をやっているんだノビ!! 早く第1会議室に集まれと言ったはずだ!!』
 のび太が目を覚ましたのは、自室に備え付けられた無線から発せられた教官の怒鳴り声だった。
 その余りの剣幕に、流石ののび太も飛び起きる。
 そして慌てて無線に返事をした。
「スミマセン! イマイキマス!」
 軍服に着替えながら、片言の言葉でそう言うのび太。
 のび太がこの養成学校に編入してから既に1週間以上が過ぎた。
 その間でのび太は必死に最低限の日常会話程度の言葉を覚えた。
 と言うより覚えさせられた。
 いくら学校では特例措置で翻訳官が常駐しており、意思疎通に不自由はしないと言っても、戦場にそんなものは居ない。
 戦場で生き残りたければ死ぬ気で言葉を覚えろ。それが教官ののび太に対する口癖だった。
 実際、それは真実だ。
 軍隊の用語やMSの操縦に関する言葉を知らなければそもそもパイロットとして使い物にならない。
 そして意思疎通も出来ない兵士など、実戦の部隊の中では足手まとい以外の何者でもない。
 例えそれが、どんなに優秀な操縦技術を持っていてもだ。
 そんな教官の言葉を思い出しながら、今日の訓練の時間割を確かめるのび太。
「あれ?」
 それを見てのび太はそう呟いた。
「今日は休みじゃないか」
 そう、確かに今日は週に一度の休日である。
 なら、なぜ自分は起こされたのだろうと思案するのび太。
 そしてその内、昨日のび太を含む数人のパイロットだけが教官に呼び出されていたのを思い出した。
「そうだ、今日は僕らだけ特殊訓練があるんだった」
 急いで仕度をするのび太の耳に、『まだか!!!』という教官の怒鳴り声が響く。
 のび太はそれに「イェッサー!」と答えると、自分の部屋から飛び出した。


 のび太がグラウンドに到着すると、すでにそこにはライやフレンなど5人の生徒が集められていた。
「貴様は一体何度遅刻すれば気がすむんだ!! 罰として腕立て50回!!」
 そう言って激怒する教官に、鼻水をたらしながらすぐさま腕立てをするのび太。
 30分以上かかってのび太が腕立て伏せをしたのを確認すると、教官はやっと点呼を取った。
「サイゾー=ウンコク、ナー=ナシー、ノビタ=ノビ、フンド=リー、マグ=ウィキカンリオツ、ライ=バール」
 全員の名前を呼び上げると、教官は全員の顔を見渡す。
「お前達は優秀な生徒が集められたAクラスの中でも、特に優秀な生徒6人だ。断言しよう。お前たちはシミュレート結果だけで見れば、既に十分実戦に通用するレベルにある」
 そう言うと、教官は少し間を置き、そして話を続けた。
「我が校は優秀な生徒には、それに見合う訓練を与えるのがもっとうだ。お前たちには他の生徒よりも一足先に、本物のMSに乗って訓練を行ってもらう」
 教官の言葉に、生徒達は一斉に顔を引き締めた。
「MSの実地訓練を行うのは、ネバダ州の第13基地だ。そこでお前達には最新型のMS、ドムに乗ってもらう。優秀な生徒には早くから新型に慣れてもらわなければならないからな。説明は以上だ。何か質問はあるか?」
 そう言って生徒達の顔を見る教官。
「質問がなければこれより第13基地に移動する。校門に車両を待たせてあるから、それに乗り込め」
 教官がそう言うと、生徒達は「はい!」と答える。
 そしてそのまま校門に向かって歩き出した。


 軍用車の中では、全員無口だった。
 ライは得意げに笑っていたが、それ以外の生徒達は非常に緊張した面持ちである。
 何せ本物のMSに乗り込むのは全員これが初めてだった。
 そしてそれが早くも実地訓練である。
 それで緊張しないわけが無い。
「緊張してウンコ漏れそうだぜ」
 とそんな事を小さく溢すサイゾー。
「大丈夫さ、シミュレーター通りにやれば問題ないよ」
 そんなサイゾー、いや他の生徒全員を勇気付けるためにフレンは言った。
 しかし、フレン自身不安でいっぱいだった。
 なにせ、ドムの操縦などシミュレーターでも殆どやったことが無いのだ。
 資料で他のMSとの操縦系の違い、特にホバー移動についての知識は入れてはあるフレンだが、それでも実際に触ってみないことには分からない。
 更に、彼らは実際の軍事基地へは授業の見学でしか行った事がなかった。
 のび太を除いて、ではあるが。

 軍用車両が第13基地に到着すると、生徒達は車両から下ろされた。
 そしてのび太は目を疑った。
「ここは……」
 この基地に、のび太は確かに見覚えがあった。
 ここは、僅か2週間ほど前にのび太が訪れた場所だった。
 そしてMSの操縦をし、軍に引きずり込まれた忌まわしき場所でもある。
 忘れるはずが無い。
 そうして戸惑っているのび太達を出迎えた人間は、のび太にとって最悪な人物だった。
「司令自ら出迎えていただけるとは。感激であります」
 そう言って13基地の司令に敬礼をする教官。
「そう畏まらなくてもいい。それで、この子達か。貴校屈指の優秀な生徒達と言うのは」
 そう言いながら生徒達の顔を眺める司令。
 のび太はそんな司令と目を合わせたくなくて顔を伏せたが、司令の方はのび太を見つけると嬉しそうに声を上げた。
「おぉ、やはり君も来ていたかノビタ君! 君、知っているかい? この子の推薦状を書いたのはこの私なのだよ」
 そう言って教官に笑いかける司令。
「そうでありましたか。ノビタ=ノビはMS操縦に関して非常に優秀な成績を収めております。さすが司令、人を見る目がおありになる」
「ふふふ、そうだろう? ノビタ君が戦場に出てエースになれば、この私の株も上がると言うものだ」
 司令は大笑いしながらそう言う。
 そして司令は俯いたままののび太の肩に手を置いた。
「どうだいノビタ君。学校を卒業したら私の基地へ来ないか? ん?」
 司令がそう言っても、のび太は何も答えない。
 そんなのび太の様子に司令は少し不機嫌になったが、直ぐに思い出したよう口を開いた。
「そういえばノビタ君は日本人だったね。それに緊張してるんだ、俯いてしまうのも仕方が無い」
 と、勝手にのび太の心情を解釈する司令。
「司令、ノビは基礎訓練が終了次第グラナダへ送るよう通達されているのです」
 そんな司令に注釈を入れるべく、教官が口を挟む。
「月へだって? なんと、それは残念だ」
 司令は拗ねたようにそう言う。
 教官はそれに適当に頷いておいた。
「それで、早速ですが生徒の実地訓練を始めさせていただきたいのですが」
 教官には、司令にいつまでも付き合っている暇はなかった。
 何せ、パイロット養成期間は少ない。
 その中で更に、彼らに特殊訓練を課すには本当に時間が惜しかった。
 のび太にいたっては基礎訓練の期間しか与えられていないのだ。
「あぁ、もちろんだとも。それではダディ君、彼らをMS格納庫へ案内してくれ」
 司令がそう言うと、彼の後ろに控えていたダディは「はっ!」と返事をしてのび太た達を格納庫へと案内する。
 その最中のび太と目が合うと、ダディはニコリと一度だけ笑顔を作った。

「凄い」
 MS格納庫にの生徒達が到着すると、生徒達は格納庫内の光景に驚いてそう漏らした。
 格納庫内に立ち並ぶMSは全部で6機。
 そしてその全てがドムであった。
「最新型のドムが6機も」
 誰ともなくそう呟く。
 そんな生徒たちを見ると、ダディは自慢げに口を開いた。
「ウチの司令がドムの開発元と個人的なコネがあってね。優先的にウチの基地に配備されんだ」
 ダディがそう言って生徒たちに説明すると、生徒達のもとに一人の白衣を着た男が歩いてきた。
 それはまたものび太の知る男だった。
 あのツィマッド社の若い科学者である。
「ようこそ、キャリフォルニア養成学校のみなさん。ま、ようこそと言っても僕はこの基地の人間では無いけどね」
 そう言って笑顔で生徒達を出迎える。
「どうだいみんな、ドムを見た感想は? ピカピカで格好良いだろう? なんせできたてホヤホヤの最新鋭、それも今朝到着したばかりの機体だからね」
 そう言いながら科学者は満面の笑みを浮かべた。
「ドムはザクから革新的に性能が上昇していると聞きます」
 フレンがそう言うと、科学者は笑顔で「その通りさ」と答える。
「君達みたいな優秀なパイロットがドムを使いこなしてくれれば、ジオンはまず負ける事は無いよ」
「当然です。連邦なんて、自分があっと言う間に滅ぼして見せます」
 そんな科学者の言葉に、今度はライがそう答える。
「頼もしい限りだ。君達の武勇に期待をしているよ。さて、それじゃあそろそろ機体の説明をはじめるかな。ダディ大尉、先生も一緒に来てください」
 科学者はそう言うとMSの管理を行っているコンピューターの前まで彼らを案内した。

 コンピューターの画面を使い、ドムの情報や、今までの機体との差異を事細かに教えると科学者は口を開いた。
「さて、これで僕からの説明は終わりかな。ドムについての情報は大体今ので分かってもらえたと思う」
 科学者の言葉に頷く生徒たち。
 説明が終わると、今度はダディが喋り始める。
「そんじゃあ先生、後は先生にお任せします。我々は全面的にバックアップしますんで」
 ダディがそう言うと、教官は彼に一礼した。
 そして生徒たちに振り返る。
「では、お前達にはこれよりドムに搭乗してもらう。質問はあるか?」
 そう言うって生徒たちの反応を待つ教官。
「質問がなければ今すぐMS搭乗用のリフトに乗れ。番号は先ほど指示したとおりだ。以上!」
 教官がそう言うと、全員一斉に返事をし、そしてMSのリフトに向かっていった。

 そんな様子をダディと科学者はジッと見つめていた。
「まさかと思いましたけど。いましたね。ノビタ君」
 ポツリとそう呟く科学者。
 ダディはそれに「ああ」とだけ返す。
「僕らのせいなんですよね、ノビタ君が学校に編入されたのって。責任感じちゃうなぁ」
 科学者は暗い声で言った。
「そうだ、全て俺たちの責任だ。だから俺たちに出来ることは全てやらなきゃならねぇ。ノビタ君達の為にも、そしてジオンの為にも」
 そう言ってダディは歯を食いしばる。
 そんな彼を、科学者は複雑な思いで見つめていた。

 リフトがコックピットの位置で止まると、生徒達は次々とドムへ乗り込んだ。
「ヘッ、MSに乗れるんだ。折角だから連邦の連中でも攻めてきてくれねぇかな」
 ライはMSに乗り込むなり、嬉しそうにそう呟いた。
 新型に乗る緊張なんてものは彼には全く無い。
 むしろ自身の優秀さを見込まれてドムに乗れることに、彼は優越感しか感じなかった。
「ライ=バール、搭乗完了」
 ライは無線のボタンを押すと、そう言った。

「凄い。パワーレベルはザクの倍以上だ」
 モニタの情報を確かめながらそんなことを言うフレン。
 実際、ザクやグフと大差ないだろうと考えていたフレンにとって、ドムの性能は彼の予想以上のものである。
 これなら本当に連邦に勝利するのも時間の問題かもしれない。
 そんなことを思いながら、フレンは搭乗を完了した事を無線で教官に知らせた。

「このコックピット、あの時のと同じだ」
 のび太はコックピット内を見渡す。
 それも当然である。
 操縦系自体は試作型との差は無いのだ。
 これなら意外と簡単かもしれない、とのび太は思う。
 だけど、のび太はそんなことよりもこの基地で訓練を行う事に複雑な気持ちを抱いていた。
 怒りや屈辱感、しずかやホライ達に会いたいと言う気持ち。
 しかし今、のび太は確かにジオンのパイロット候補生だった。
「ノビタ=ノビ、モビルスーツニノリマシタ」

 生徒たちが全員乗り込んだのを確認すると、教官は全機に対する無線通信のスイッチを入れた。
「さて、全員準備は完了したな? 俺の指示に従って、一機づつ格納庫からMSを出せ。いいな? それでは1番機から順に発進させろ」
 教官がそう言うと、『はっ!』という言葉と共に、1番機のドムが動き出す。
 そのドムが格納庫から出ると、さらに2番機のドムが動き出した。

 全部の機体が格納庫からでたのを確認すると、教官は更に無線を入れる。
「それではこれより実地訓練を始める。まずは基本の小隊編成を組め。α小隊はドリー、バール、ノビ。β小隊はウィキカンリオツ、ナシー、ウンコクだ。小隊長はそれぞれドリーとウィキカンリオツが務めろ」
 その教官の言葉に『はい』と答える生徒達であったが、ただ一人ライだけはそれに舌打ちで返した。
『隊長、なんで小隊長が俺じゃなくてドリーなんですか?』
 不満そうに言うライ。
 しかし教官はそんな彼を一喝した。
「文句を垂れるなバール! 貴様等は俺の言葉に従えばいいんだ」
 だが、ライはそれに全く納得できなかった。
 確かにフレンは優秀な生徒だ。
 自分と並べるレベルにいる生徒はこの中でもフレンしか居ない、とライは思っている。
 しかし、それでもライには自分の方がフレンよりも勝っている自信があった。
「糞。納得がいかねぇ」
 頭に血を上らせて呟く。
 しかしライは、この気性こそが指揮者向きでないと判断されている理由だと知らなかった。
 戦況に応じて正しい判断を取ることの出来る冷静さ。
 フレンに有って、ライに無いものがそれだった。

 小隊編成を組むと、教官は次の指示を出した。
「それでは全機マップのデータをモニタに表示させろ。マップには進行ルートが2つ表示されている筈だ」
 生徒達はすぐさまモニタ画面を操作する。
 表示された13基地周辺のマップには、確かに2つの進行ルートを示すラインが表示されていた。
「東側のルートをα小隊が、西側のルートをβ小隊が進め。途中トラップや射撃用の的があるが、小隊の隊形を崩さずにそれらをクリアしろ。いいな!」
『α小隊、了解』
『β小隊、了解』
「よし、それでは両小隊発進しろ」
 そう教官が言うと、それぞれの小隊はルートに沿ってMSを走らせた。

「ライ、機体を余り先行させないでくれ。隊形を乱しちゃダメだ」
 隊形の右翼を担うライ機は中央のフレンきよりも前を進んでいる。
 小隊の基本隊形は中央の隊長機が一番前を走り、その後を左翼と右翼の機体が追うというものだ。
 教官からの命令は、この基本隊形で訓練を行えというものである。
 それを無視するライを諭したフレンだが、ライはそれを無視した。
「ケッ。要はターゲットを早く潰せばいいんだろ? 隊形なんて関係ねぇよ」
 そう言うとライはドムの走行速度を更に上げる。
「待つんだライ!」
 そう言うフレンにライは「ケッ」とだけ返す。
「ひゅ~。それにしてもホバー走行ってのは乗り心地が最高だぜ。こんだけスピード出しても殆ど振動がねぇ」
 そんなことを呟いている内に、ライ機のセンサーにターゲットの反応が映る。
「さぁ~て、まずは1匹めと!」
 ライは敵戦車を想定した標的をロックオンすると、すぐさまそれをジャイアントバズで打ち抜いた。
 爆発と共に大破するターゲット。
「最高だぜ、実弾の感触はよ」
 そう言ってライは笑った。



 連邦軍の北米侵攻が開始されたのはこの少し前だった。
 スカルチノフもまた、カラカス基地の全空軍戦力をフロリダ海峡に面するジオン軍基地に対し発進をさせていた。
「全ては連邦軍勝利のために。諸君、健闘を祈る」
 無線を通じて兵士達にそう言うと、スカルチノフは司令室の窓から発進していく戦闘機を見つめる。
 今回の連邦軍戦力は、連邦が北米から完全撤退した後では最大級のものだ。
 そう、既に連邦の第反抗作戦は事実上始まったのである。



 ジオン側も、ミノフスキー散布量が急激に増えた事から連邦の攻撃を察知していた。
 各基地に警戒及び索敵を命ずるジオン軍本部。
 だがしかし、それによって察知した連邦軍の戦力はジオン側の予想を圧倒的に上回っていた。

「なんだと? 情報は確かなのか?」
 13基地の司令は、慌てて情報伝達の為にやって来た兵士の言葉を聞くと驚いてそう呟いた。
「はい。確かに師団級の連邦の部隊が北米に対して一斉に侵攻を始めたそうです」
 恐怖に声を震わせて言う兵士に、司令もまた顔をしかめる。
「師団級だと? 今の連邦の戦力で、この北米を制圧できるとでも思っているのか?」
 北米はジオンの強力な統治の下にある。
 その戦力は地上においては最大級だ。
 それを打破するだけの力が連邦にあるとは思えなかったが、しかし師団級の戦力となれば相当な脅威である。
「それで、どれくらいでここまで来る?」
「メキシコ国境付近で連邦が戦力を温存させていたようで。おそらく10分程で空軍、そして30分以内に陸軍が攻めてくると思われます」
 それを聞くと、司令は怒りで顔をしかめた。
「30分だと? そんな距離で気が付かなかったのか? 貴様等は一体何をやっている!」
「すみません!」
 スカルチノフの怒号を聞くと、兵士は必死で返す。
「まったくもって反吐が出るわ! この役立たず! それで我が基地の部隊状況はどうなっている」
「戦闘機小隊、戦車小隊は両隊共に既にスタンバイが出来ております。しかしMS小隊のドムは現在訓練生達が使用している為にまだ準備が出来ておりません」
「何だと? 馬鹿者! 早く訓練生を戻らせろ!」
 しかしそう言った瞬間、司令は「いやまて」と自分の言葉を否定する。
 彼は思い出したのだ。
 前回の連邦の攻撃の時にも今と似たような状況であった事を。
 そしてその時、のび太が圧倒的な能力で連邦の戦車部隊を滅ぼした。
 司令は、少しの間無言で思案する。
「訓練生の部隊は今どの辺りの位置に居る」
「基地から南南東へ約2kmの地点ですが」
「その位置なら、丁度連中が攻めて来るのに対応できるな?」
 そう言って笑顔を作る司令。
「はい、確かに位置的にはそうですが。まさか司令」
 ありえない己の予想に言葉を詰まらせる兵士。
「そのまさかだよ、君」
 それに司令はそう返した。
「今からMS小隊を基地に戻らせ、改めて配備し直すのは時間的に考えれば非常に危険だ。それに彼らの能力は折り紙付。違うかね?」
 そして仮に彼らが死亡しても、司令には13基地への新たなる兵員を本部に請う必要が無い。
「急いで彼らに通達しろ。これより訓練ではなく、本当の防衛線を行ってもらうとな」
 司令の言葉を聞くと、兵士は「分かりました」と言って急いで司令室を出た。

「実戦、ですって?」
 兵士からの伝達を聞いた教官は、信じられない思いでそう返した。
「はい。司令の命令であります」
「だが彼らはまだ正式なパイロットでは!」
「ですが、訓練生達は正規兵でなくともあなたはれっきとしたジオン軍人です。速やかに指示に従ってください」
 戸惑う教官に、兵士はそう言い放った。
「……!!」
 納得など到底出来るはずが無い。
 だが、既にここは戦場だった。
 戦場においては例えそれが不条理であろうと、司令の命令は絶対である。
「それでは彼らへの指揮はこれより我々が行います。あなたは下がっていてください」
 そんな兵士の言葉に、教官は張り詰めた思いで従った。
最終更新:2009年10月05日 13:06