- 257 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/10/17(土) 23:37:39.77 ID:XJVan2E0
バイタルチェックが終わると、クーとNT-002の青年はベッドに拘束されていた。
頭部には顔の上半分をすっぽりと包むヘルメットのような機器が取り付けられている。
四肢を見れば幾つかのチューブが腕に突き刺さっていた。
ヘルメット様の機械は脳波をとるためのもので、チューブはNT能力を引き出す為の薬物を投薬する為のものだった。
クーの視界は脳波測定用の機器を取り付けられているために真っ暗だった。
彼女の最も嫌いな時間だ。
嫌悪感と恐怖でいつも気持ちが一杯になる。
ただ、そんな感情も四肢の血管へ薬物が回ってゆく度に薄れてゆく。
意識そのものが呆っとして、まるで酩酊しているような感覚だった。
そうしている内に心が真っ白になっていく気がした。
リラックスしている、というのとはまた違う。
例えるなら、無理やり心を漂白されているような感覚だった。
そこに安堵感や心地よさを感じる事はなかったが、恐怖も嫌悪感も感じない。
やがてそんな心にあわせるように、真っ黒な筈の視界が段々と明るくなっていく気がした。
- 258 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/10/18(日) 00:30:23.00 ID:iSoyGsA0
「博士。NT-002、NT-003共に感応状態に入った事を確認しました」
被験者2人の脳波状況を映し出すモニターを見ながら、研究員の一人が言った。
「よし、レベル1でサイコミュを起動しろ」
フラナガンがそう言うと、研究員は「はっ」と返しサイコミュを起動させた。
ふと、真っ白だった視界に色が生まれた。
薄い、流動的な色。
オーロラのような光景だった。
無感になっていた心に初めて安堵感が生まれる。
色はやがて光の様に輝いて私を包む。
心地よい温かさを感じた。
『やあ』
ふと、知っている声が聞こえた。
「カインさん?」
クーはそう言って辺りを見渡した。
実際にはそうした訳ではない。
意識の中の彼女自身のイメージがそうしたのだった。
ただ、彼女はそこにカインの姿を見つけることは出来なかった。
見えるのはオーロラのような光だけだ。
『クー、元気にしてるかい』
カインと呼ばれた何者かは優しげな声でそう言った。
クーは黙した。
正直に言って、彼女の精神は日々磨耗していた。
「ううん」
クーは素直にそう答えた。
『クー……』
それに返すクーの声は悲しげだった。
- 259 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/10/18(日) 00:50:13.98 ID:iSoyGsA0
ふと、クーは彼女を取り巻くオーロラの輝きが増したように感じた。
それと同時に強い安堵感が心に広がる。
その心に、ふとカインの感情が入ってくるのをクーは感じた。
様々な感情が入り混じって。
言葉には言い表せないが、しかしその全てをクーは理解していた。
『クー、君が感じている通り、僕の心は日々壊れていってる。ここでの僕がはっきりしていくほど、ぼくは――』
カインの言葉にクーは何も返せなかった。
NT-002という被験者であるカインは、研究室で会うたび虚ろになっていた。
かつて何十人もいた被験者の子供達の中で、20歳の彼は最年長だった。
そんな彼は子供達の兄のような存在であり、時に父のようでもあった。
みんなカインのことが大好きだった。
だけど、研究室で会う現実の彼は、死に隣したようにやつれて、かつての面影は微塵もなかった。
「カインさん、私、どうすれば……」
張り詰める思いで、クーはそう言った。
途端、オーロラの輝きは一層増した。
『クー、君に僕の力を託す』
「えっ」
クーは絶句した。
その言葉だけでカインが何を言っているのか分かってしまったのだ。
「だめ、それじゃあカインさんが」
『そうすれば君は科学者達の手を借りなくても力を発揮できる』
「そんなのいい! 私は!」
『僕はもうだめなんだ、クー』
カインは悲しげな声で話を続けた。
- 260 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/10/18(日) 00:52:16.31 ID:iSoyGsA0
『ここに居た皆が苦しんで、僕はそれを守れなかった。そんな僕だけがまだここに残っている。だからせめて今の僕に出来る唯一の事を、僕の願いを君に託させて欲しい』
カインの感情がクーの心に突き刺さる。
カインの気持ちは痛いほど分かっていた。
子供達の中で比較的年長であったクーも、妹や弟のようだった子供達を守りたくて、だけど守る事が出来なかった。
だからこそ、カインの言葉が何より辛い。
「私を一人にしないで下さいっ!!」
それをどうする事も出来なくて。
クーは我が侭だと知りながらそう叫んでいた。
そんな彼女を癒すかのように、光がクーを包み込む。
クーの頬を涙が伝った。
『耐えるんだクー。きっと時が来る』
最後にそんなカインの声が聞こえたかと思うと、クーの意識は光の中に溶け込んでいた。
「どうしたというのだっ!!」
突如NT-002とNT-003の2人の脳波が異常値を示したのを見て、フラナガンが叫んだ。
「わかりません! サイコミュの出力をレベル3まで引き上げた途端に――」
「今すぐサイコミュを切れ! すぐに2人の処置をしろっ!!」
研究員の返答にフラナガンが怒号を飛ばした。
すぐに救護班がNT-002とNT-003の治療を行なう。
「いやあああああああああ!!!」
NT-003の錯乱し、泣き叫ぶ声が研究室中に響いた。
「鎮静剤を打て」
救護班のチーフがそういうと、NT-003の腕に精神を沈静化させるための薬剤が注射される。
鎮静剤の効果があらわれるまで、クーは力の限り泣き叫んでいた。
- 262 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/10/18(日) 03:03:06.47 ID:iSoyGsA0
サイド6、パ・ア・ソークコロニーに向かう一隻の船が宇宙を航行していた。
小型の一般的な貨物船である。
だが、その船は貨物船の他にもう一つ裏の顔を持っていた。
それはジオンの密輸船としての顔である。
サイド6は中立のコロニーであり、特別な許可が下りない限り連邦・ジオンの両軍の軍人の渡航は禁止されている。
無論、表向きにはサイド6内に両軍の軍事施設は存在しない。
しかし実際には、サイド6の中立地域という立場を利用すべく、一般の組織に偽装した軍事施設がサイド6内には存在していた。
パ・ア・ソークにあるフラナガン機関の研究所もそのひとつである。
このような組織へ軍関係者が赴く場合、貨物船などに乗り密航するか、偽造パスポートを使うしかなかった。
その為、フラナガン機関へ向かうのび太もまた、この貨物船の船員にカモフラージュし乗船しなければならなかった。
のび太は貨物船の窓からコロニーを眺めていた。
「君は宇宙に出たのは初めてだから、コロニーを生でみるのも初めてだろう。どうだい、でかいだろコロニーってのは」
普通の貨物船の作業員服に身を包んだジオン兵がのび太に語りかけた。
- 263 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/10/18(日) 03:06:48.30 ID:iSoyGsA0
「ハイ」
そう答えたのび太は素直にその光景に感動していた。
そして同時に、昔ドラえもん達と宇宙に出て様々な冒険をした時の記憶を思い出していた。
みんなで改造したプラモの戦車で、ちっちゃな宇宙人の王子様を助けたりしたっけな、と思い出にひたる。
あの頃にはもう戻れないかもしれない、とのび太は思った。
地球を発って、宇宙に浮かぶこんな人工島のもとまでやってきてしまったのだ。
ドラえもんだって、そんなのび太を見つけるのは難しいだろう。
ドラえもんどころか、ホライやしずちゃんとも会えないかもしれない。
それが辛くないはずは無い。
しかしそんな気持ちとは裏腹に、のび太は既に自分を飲み込んでいる運命を受け入れつつあった。
例えドラえもんが助けてくれなくても生き延びなければならない。
助けてくれないからこそ、自分の力で生き延びなければならないのだ。
状況はのび太がジオン兵として生きざるを得ないように追い込んだ。
だから、のび太は兵士として強くなるしかないのだ。
自分を守る為に。
そして、自分を送り出してくれたライやフレン達の為にも。
最終更新:2009年10月19日 10:41