翌日、早速ドラえもんはジョンの店を出ることにした。
この日の為に廃車を改造して用意したジープに、長旅用の荷物を乗せてゆく。
そして準備を整えると、ドラえもんはジョンに最後の挨拶をした。
「ジョンさん、今まで本当にありがとうございました」
そう言ってドラえもんは頭を下げた。
「行っちまうのか、青狸。寂しくなるのう」
そう言って残念そうな表情をするジョン。
そしてジョンはドラえもんに封筒を差し出した。
それを受け取るドラえもん。
「ボーナスじゃ。1ヶ月しか働いておらんが、特別じゃぞい」
ドラえもんはジョンの言葉を聞くと、封筒の中を確認した。
「こんなにいいんですかジョンさん?」
「いいんじゃ。おまえのおかげで随分わしの店も繁盛したからの」
「ありがとうございます」
そうってドラえもんは頭を下げた。
「気をつけるんじゃぞい、青狸」
「はい、ジョンさんこそお元気で」
そう言うとドラえもんはジープに乗り込む。
そして、のび太、しずか、ジャイアン、スネ夫、出来杉。
この5人の内で出来るだけ近くにいる人、という条件で事前に倒したステッキの向いた方向に、ドラえもんはジープを走らせた。
目覚まし時計の音でホライは眼を覚ました。
目をこすりながら起き上がり、んっと間延びする。
「やっぱり家が一番落ち着くな。避難所のベッドは最悪だったぜ」
ホライの住んでる地区は、6日前の13基地防衛戦で被害をまともに受けた。
そのためすぐに住民達に避難勧告が出され、ホライ一家は昨日まで避難所生活を余儀なくされていたのだ。
「受験直前だってのに、最悪だ」
そう言って制服に着替えるホライ。
今日は士官学校の受験日だった。
一般受験は2ヶ月ほど先なのだが、指定校推薦や自己推薦等の受験日は本日実施である。
ホライは自己推薦に願書を出していた。
推薦入試は狭き門であったが、ここ数日になって士官学校側は募集人数を大幅に増やしている。
このひと月で急激に成績を上げたこともあり、ホライは合格できる可能性は少なくない、と踏んだ。
とは言っても、流石に受験当日である。
ホライは受験に落ちる事への不安でいっぱいだ。
緊張を解すつもりで深呼吸を一度すると、「よし」と言ってホライは自分の部屋を出た。
リビングではいつものようにホライの母としずかが朝食の準備をしており、ホライの父はTVのニュースを見ていた。
ホライが入ってくると、ホライの父がTVから視線を変える。
「とうとう今日が受験だな、ホライ」
と言って少し笑みを作るホライの父。
ホライはそれに「うん」とだけ返す。
「なんだ、緊張してるのか?」
「そりゃ緊張くらいするって」
「そう深く考え込むな。もっと肩の力を抜いていきなさい」
「それが出来てたらもうしてるさ」
ホライはそこで父親との会話を打ち切ると、ホライは食卓に座った。
食事を食べ終わると、すぐに受験の準備をするホライ。
そして準備をし終わり玄関に向かう。
そんなホライに彼の両親としずかが声をかけた。
「頑張って来いよ。だけど気楽にな!」
「大丈夫? 忘れ物は無い?」
ホライの両親は満面の笑顔でそう言う。
しずかも出来るだけ明るい表情をしようとする。
「ホライさん、頑張ってね」
しかし、そう言うしずかの顔は少し曇っていた。
そんなしずかの顔を見て、無理も無いなとホライは思う。
ホライはのび太を彼女から引き離した軍に志願しているのだ。
しずかにとって、それはのび太やしずかへの裏切りだと感じているに違いない。
いやしずかだけではない。
ホライの両親もホライが入隊する事に実際の所不安でいっぱいだった。
ただ大人である2人は。しずかに比べて演技が上手いだけにすぎない。
ホライはそんな両親の心にも薄々感づいていた。
だけど、ホライには信念があった。
「それじゃ、言ってくるよ」
そう言ってドアノブに手をかけるホライ。
両親やしずかへの後ろめたさを感じつつも、ホライは家を出た。
ホライを見送ると、ホライの両親はお互い一瞬だけ眼を合わせる。
しかし2人ともすぐに目線を逸らし、そして自分たちの仕事に取り掛かった。
お互い、何を言えば良いのか分からなかった。
ホライが町を歩くと、改めて町の惨状に眼がついた。
流れ弾でも当たったのだろう。
町には6日前の戦闘で、完全に崩壊しいてる家屋が数多くある。
道路の舗装も惨憺たる状態だ。
それに、被害は建物や道路だけではない。
逃げ遅れた人々も数多く犠牲になった。
とにかく町のいたるところに戦闘の爪あとが残されているのだ。
ホライはそれが悲しかった。
そして怒りも感じた。
国家や軍人への怒りではない。
これだけ町の人々が苦しんでいるのに、何も出来ない自分が憎かった。
試験会場まではバスで行かなければならない。
なので当然向かうべきはバス停なのだが、ホライが歩いているのはなぜか違う方向だった。
結構な距離を歩くとホライは足を止めた。
ホライが立っているのは墓地の前だ。
墓標が無く、その代わりに花で埋め尽くされたこの墓地は、知らない人なら公園と見間違えるだろう。
しかし、そこは確かに墓地だった。
未曾有の早さで廻るこの戦争で、余りに多くの人々が死んでいった。
戦況下で、そんな人々を丁重に葬る暇など生き残った人々には無かったのだ。
だからこの町で死んだ人々は皆この場に集められ、そして墓標代わりに花を植えた。
今となってはそれが逆に町の人々に愛され、今でも戦災で亡くなった人々はこの墓地に埋め、そして墓標代わりの花を植えるのが風習となっている。
6日前の戦闘で死んだホライの友人も、この墓地に埋められた。
墓地に入るホライ。
そして一つの花の前に立ち止まり、その花に語りかけた。
「よう、元気してたかレイ?」
それはホライの幼馴染であるレイの墓標の花だった。
「とうとう今日が士官学校の受験日なんだ。レイには色々と嫌味を言われたけど、絶対に受かってお前を見返してやるからな」
そういって笑顔を見せる。
「だから、心して待ってろよ」
確かにホライの顔は笑顔だ。
なのに、ホライの眼は今にも泣き出しそうである。
そのまま、ホライは何も喋れなくなってしまった。
レイとの思い出で頭が一杯になる。
小さい時からいつも一緒にいて、中学も高校もずっと一緒で、これから先も腐れ縁が続くんだなと思ってた。
そんなレイのことを煙たく思ったりもした。
だけど、今は分かる。
本当に――
本当に俺は――
「俺はお前が好きだ、レイ」
そう呟くと、ホライは「じゃあな」と言ってその場を後にした。
午前8時。
今日もまたキャリフォルニア第1養成学校の朝が始まる。
生徒達は起床するとすぐに授業の準備に取り掛かり、寮から出て次々と教室へ集まってきた。
そして教官が来るまでの間、生徒達は雑談にふける。
そんな中ライやフレン、そしてのび太が入ってくるとその度に教室内が沸く。
養成学校ではのび太達は英雄扱いだった。
軍からはのび太達に感謝状と、軍に大きな貢献を果たした軍属に送られる勲章も与えられた。
実際に彼らは英雄なのである。
優秀な生徒である彼らはもともと一目置かれていたものの、今回の件で別格扱いとなった。
それは生徒間だけの話ではなく、教師の間でもだ。
彼らはシミュレーターの結果だけでなく、実戦でも十分以上に通用するレベルである事が今回の件で実証されたのだ。
軍からは彼らに優先的な養成を行い、一日でも早く軍へまわせとの通達が来ている。
こと、のび太に関しては明日にでもよこせと言わんばかりの剣幕だ。
更に彼らに飛びついたのは軍だけではなかった
いつものようにガヤガヤと騒がしい朝の教室。
だが、教室の戸を開けて教官が入ってくると、教室が一気に静まり返る。
教官は生徒達の点呼を取ると、今日の授業についての説明を簡単におこなった。
「さて」
一通りの説明を終えると、教官はそう言って話を切り替える。
「バール、ドリー、ノビ、ナシー、ウィキカンリオツ。お前達は授業の前に私についてきなさい。他の者達はすぐに次の授業に取り掛かれ」
そう言って礼をする教官。
教官が教室に出ると、のび太達も言われたとおりにその後を追って教室を出た。
そしてそのまま職員室まで歩いてゆく。
教官は自分の机のに座り、のび太達に話を始めた。
「お前たちの噂――13基地防衛戦の話だが。それは軍の方でも随分と広まっているそうだ」
教官の話を聞くと、それぞれ嬉しそうな顔をしたり得意げな顔をしたりする。
「ジオン国内でも注目を浴びている。お前たちにジオン国営放送からの取材依頼が来た」
その言葉を聞くと、のび太達は一斉に「えっ?」と声を上げた。
「TVの取材……ですか?」
驚いたようにナシーが聞き返す。
「そうだ。今日の午後に国営放送の記者の方達が来る。4時間目の訓練が終わったらすぐに第2会議室へ来い。分かったな?」
「はい!」
「それでは授業にもどれ」
のび太達は一礼をすると、全員そのまま職員室を出た。
「凄いな、僕らがTVだってさ」
フレンが心底驚いたように言う。
「ま、当然だろ。そこら辺の正規兵よりも、俺の方が圧倒的に有能なんだからな」
ライはいつものように口の端を歪めて笑った。
「でもジオン国営放送って言ったら全国ネットよ?宇宙でも放送されるんだから」
ナシーがそう言うと、ライは更に笑う。
「エースの船出としちゃあ、悪くはないな」
そんな自信満々のライ。
ライだけではなく、フレン達もみんな誇らしく思った。
丁度正午になった頃、ジオン国営放送のスタッフの乗った車が養成学校の駐車場に到着した。
車のドアを開くと4~5人のスタッフが降りてくる。
その中に1人の記者の女性が居た。
「やっとついたわね」
と言いながら養成学校の校舎を見上げる記者。
「ここが例のパイロット候補生のいる学校、か」
思っていたよりも小さいな、と彼女は思う。
そんな彼女の後ろではカメラマン等のスタッフが色々と機材の準備を始めた。
「少し時間がかかりそうね」
その様子を見ると、彼女は今回の取材の資料に目を通す。
取材企画のタイトルは『明日のジオンを担う若き戦士たち』だ。
その資料を見て、記者は頭を悩ませた。
これは軍からの圧力で生まれた企画だからである。
軍人・文民を問わず、有能な戦士の存在は国民からの人気を博す。
実際に赤い彗星や青い巨星、白狼等のエース達は国民から熱狂的な支持を得ている。
そういったエース達の存在を高らかに宣伝することは、兵士や国民の士気を高揚するのに非常に有用だ。
更にエースの価値はそれだけではない。
名の通ったエースの存在は敵軍に対しても大きな影響を与える事ができる。
恐怖や戦慄である。
それが故にエースパイロットは自機に固有のカラーリングを行い、わざわざその存在を誇示しているのだ。
そのメリットは決して小さくない。
いや、それこそが軍の狙いなのかもしれない。
とにかく、エースの存在は軍にとっては非常に大きいのだ。
そしてその宣伝塔としての国営放送である。
そこまで考えて、彼女はふぅ、とため息を付いた。
「報道の中立性、独立性……か」
ジャーナリストなんてものも地に堕ちたものだ、と思う。
独立の名の下に行われる先軍政治。
もはやジオンのメディアなど、軍のスピーカーでしかない。
『ネバダ基地で訓練生がMS操縦訓練を行っていた際、偶然連邦軍の部隊と衝突。数で勝る連邦の部隊を訓練生達は類稀なる操縦センスでこれらを撃退した。しかし、訓練生一名が戦闘で死亡』
まだ兵士ですらない子供が、戦争で命を落とした。
その報告書の文字に記者は眉をひそめる。
更に報告書に記載されている情報は何度見ても信じられないものだ。
『訓練生。ノビタ=ノビ 11歳』
11歳の子供がMSに乗って戦場で戦った。
それもこのノビタ=ノビに関しては今回が初めての戦闘ではない。
非公式だがこれ以前にも一度MSでの戦闘を経験しているというのだ。
ありえない、と彼女は思う。
しかしそれは紛れもない事実だった。
だからこその今回の企画である。
若き天才。
その存在は国民を強く勇気付けるだろう。
子供が命を賭して戦った姿に、戦士達もより一層戦いに励むだろう。
そして、その為に子供を利用する。
僅か11歳の子供すらも、戦争の為に骨の髄まで利用する。
その手伝いを彼女は率先して行わなければならなかった。
それはとても報道のあるべき姿とはとても思えない。
そんな体制を変えることすら出来ないでジャーナリストを続けている自分に、彼女は自己嫌悪を感じた。
しかしこれは仕事だ。
好き嫌いなど言っていられない。
「オネイ、準備が出来た。行こう」
機材の準備を終えたスタッフがそう言う。
「ええ」
そして彼女達は訓練学校の中へと入っていった。
のび太達が第2会議室に入ると、そこには既にジオン国営放送のスタッフが待ち構えていた。
全員が会議室に入り終わると、スタッフの一人の女性が立ち上がる。
「訓練生の皆さん、こんにちは。私はジオン国営放送の記者で、オネイ=サーンといいます」
オネイがそう挨拶すると、のび太達も一斉に礼をした。
「皆さんには幾つか質問をさせていただきます」
そう言いながらオネイは会議室の椅子に座る。
のび太達も椅子に座った。
「皆さんはこの学校でとても優秀な生徒さんだそうですね」
オネイの言葉にみんな照れたような顔をする。
「皆さんは普段学校ではどんな訓練をされてるんでしょうか?」
そんな質問を皮切りに、オネイは何気ない質問を次々としていく。
やがてのび太達が慣れてきたのを確認すると、オネイは本題の質問に移った。
「ところで、皆さんはネヴァダ州の基地で訓練中に連邦軍の部隊に襲われたそうですね」
今まで和やかに質問をしていたオネイの顔が変わる。
そんなオネイにのび太たちの表情も真剣になった。
「連邦は訓練生であるあなた達を容赦なく攻撃してきた。そして皆さんは戦わざるを得なくなった。その時の気持ちはどうでしたか?」
直球すぎるオネイの質問に、一瞬全員言葉を失う。
しかしライだけはそんな雰囲気に構わず口を開いた。
「連邦の連中を倒せると思うとワクワクしてましたよ」
そんなライの言葉に、わざとらしく感嘆の声を漏らすオネイ。
「とても頼もしいですね。恐怖はなかったのですか?」
「そんなものはありません」
ライは即答する。
「素晴らしいですね」
そう言うオネイ。
オネイはあえて他の生徒の意見をこの場では求めなかった。
「みなさんがその素晴らしい心意気でジオンの為に戦われた。しかし皆さんの級友は戦死なされてしまいました。連邦軍に対して一体どう思いますか?」
オネイがそう言うと、ここぞとばかりにカメラが訓練生たちの顔をアップにする。
次々とアップにされる生徒達の顔は全員俯いていた。
「悔しいです」
フレンが呟いた。
「連邦は卑劣だと思いました」
「許せません」
「俺が奴等に制裁を下して見せます」
他の訓練生たちも次々と答えていく。
そして最後にのび太が残った。
画面いっぱいにのび太をとらえるカメラマン。
「ノビタさんはどう思いますか」
オネイがそう尋ねる。
「ボクハ……」
一瞬黙すのび太。
そして。
「ボクハ。ミンナヲマモリタイデス」
小さく、しかし強くそう言った。
連邦軍カラカス基地に併設されたNT研究所の一室で、研究員は適性者の観察報告書に目を通していた。
このNT研究所はあくまで暫定的なものである。
この研究所の役割は、もっぱら研究と言うよりは単に地上のNT適性者を掻き集め選別するというものに過ぎない。
NTの能力についての本研究を行う場では無いのだ。
NTとは宇宙に出た人間のみが覚醒する。
よって、NTの研究は宇宙で行わなければ意味が無かった。
しかし宇宙の連邦軍唯一の拠点であるルナツーの研究所には片っ端から適性者を研究するだけの余裕は無い。
よって玉石混淆の適性者たちの中から玉だけを取り出し、それをルナツーの研究所に送ることがこの研究所の役目なのである。
研究者は11名の適性者たちのデータを注意深く確認する。
そしてその中から見込みの強い適性者を3人リストアップした。
丁度その作業が終わった時、研究室のドアが開いて一人の男が入ってきた。
その姿を見て研究員は慌てて立ち上がり礼をする。
「司令、良いところにいらっしゃった。たった今、月末にルナツーへ送還する適性者を選別し終えた所です」
その研究員の言葉を聞くと、研究室に入って来たスカルチノフは「ほお」と眼を丸くした。
「どれ、それではそのリストを見せてもらおうか」
「はっ」
返事をしてまとめたばかりの適性者のファイルを取り出す研究員。
それを受け取り、少しの間眺めるとスカルチノフは小さく笑みを作った。
「私が目をつけたエイサイ=デキスギがいるな」
「はい。彼は司令が目をおかけになっただけあって、今のところ我が研究所の適性者の中ではNTの最有力です」
「そうか」
そう言って声を出して笑うスカルチノフ。
しかし更にリストに目を通しているとその笑いがおさまった。
少し不満げな表情を作る。
「全部で僅か3名か。これではNT部隊創設には厳しいな」
「既にルナツーでも本研究が始まっていますし、他の研究所でも数人有力な適性者が選別されています。件の構想には十分事足りるかと」
研究員はスカルチノフにそう注釈を入れた。
その言葉を聞いて「むう」と唸る。
「とにかく我が基地で出来うる事は全てやった。後はルナツーでの裁量次第と言ったところだな」
適性者の資料のファイルを閉じると、スカルチノフはそれを研究員に返した。
「ご苦労だった。しかし、彼らを宇宙へ送るまでは抜かりないようにな」
真面目な表情でそう言う。
「はっ」
研究員はそれに敬礼で返した。
NT研究所のラボの一室には出来杉とアリアの2人だけが椅子に座っていた。
出来杉とアリアは他の適性者たちと区別されて、数日前から彼らとは別のラボでNT適性実験を行っているからである。
もう一人区別された適性者がいるのだが、その適性者はまだこの部屋にはいない。
その適性者はいつも遅れて研究室に入ってくる。
きっと今日も寝坊しているのだろうと出来杉は思った。
「ツンちゃん遅いね」
アリアも同じことを考えていたのかそんなことを口にする。
出来杉はそれに「うん」と返した。
「ツンちゃんの部屋が私たちと同じB棟なら起こしに行ってあげられるんだけど」
そう言って残念そうな顔をする。
「仕方ないよ。A棟はB棟と違って警備が厳しいからね」
出来杉の言葉を聞いて、アリアはツンの部屋へ遊びに行こうとA棟へ立ち入ろうとした時に警備兵に怒鳴られた事を思い出した。
そんなイライラからか「ムー」と頬を膨らませながら唸る。
「ツンちゃんもB棟に来ればいいのに」
「そういう訳にも行かないんだよ」
と言いながらアリアをなだめる出来杉。
実際適性者の意見で自室を変える事は出来ないのだ。
そうして2人が時間を過ごしていると、ラボに研究員が入ってきた。
そしてラボにいるのがアリアと出来杉だけであることを確認すると研究員は顔をしかめる。
「デーレラはまた遅れているのか」
と、ため息まじりに言う研究員。
遅れてくるたびにツンを叱って矯正しようとしても、ツンの朝の遅刻は一向に変わらない。
こんな事ではいくらNTとして有望な人材とは言え実際の運用は辛いな、と思う。
遅刻を除けばかなり優秀な人材なだけに研究員には余計に惜しかった。
「まぁいい」
そう言うと研究員は気を取り直して実験に移ろうとする。
しかし丁度その時ラボの扉が勢いよく開いた。
「すいません! 寝坊しちゃいました!」
ラボに入ってくるなりそう言う女の子。
出来杉とアリアよりも2つ年上で、金髪のロールが印象的な彼女。
彼女こそがもう一人のNT適性者である、ツン=デーレラだった。
とことことラボを歩くツン。
遅れて来た癖に、彼女には反省の色が全く無い。
そんなツンに研究員は厳しい視線を向ける。
「デーレラ。君は一体何度遅れてくれば気が済むんだ?」
「次からは気をつけます」
「その言葉は聞き飽きたぞ」
強い口調でそう言うがツンはやはり全く堪えていない。
研究員はそんなツンに心底呆れ果てた。
「もういい。席に座りなさい」
「は~い」
ツンは笑顔でそう言うと出来杉の隣の席に付いた。
「おはよ、エイサイ。アリア」
「おはよう」
出来杉とアリアが同時に返す。
そんな3人の様子を見ると研究員は改めて呆れたように口を開いた。
「まったく、あれほど今日は大事な話があると言っておいたのに」
そう口を吐くと、研究員は気を取り直した。
「まぁいい。さて、それでは早速本題に入るぞ。既に説明している通り、君達は我々が発掘したNT適性者の中でも特に優れている人材だ。君達にはより効率よくNT覚醒を促すために他の適性者達とは別のメニューをこなして貰う必要がある。彼らよりも先に進んだ内容をな」
研究者の言葉にツンは得意げに笑みを作った。
自分が特別な存在であることが誇らしいのだ。
「この研究所の施設、そもそも地上という条件そのものがNT覚醒への大きな枷だ。よって君達には宇宙の研究施設へ行って貰わねばならない。つまり宇宙における我が軍唯一の拠点、ルナツーだ。
先日も話したが、5日後にジャブローからルナツーへ物資輸送用のシャトルの打ち上げがある。そのシャトルに若干の余裕があるそうだから、そこに乗り込んでもらう。急ではあるが我慢して欲しい」
出来杉達の表情が若干強張る。
3人ともいずれはルナツーへ送られることを知ってはいた。
しかし、それを改めて言い渡されると困惑せずにはいられない。
だが、研究者はそんな3人の反応を無視して話を進める。
「明日8時よりジャブローに向かって出発する。その後2日ほどジャブローに待機し、そしてシャトルに搭乗してもらう」
そう言いながら研究員は資料の束を取り出した。
「これがシャトル搭乗の際の留意事項だ。更にこっちはルナツーの施設についての説明が書かれている。一通りのことは今から話すが、部屋に戻ったら必ずそれらに目を通して置くように」
研究員がそう言うと、出来杉達はそれぞれ「はい」と返事をする。
それを聞くと、研究員はこれからの予定についての詳しい説明を話し始めた。
研究員の説明はかなり長引き、NTの実験が始まったのはいつもよりも3時間も遅い時間だった。
MSシミュレーターの設置されている部屋へ移動すると、出来杉達はいつものように脳波を測る装置を頭に装着する。
全員が装着した事を確認すると、研究員は3人にシュミレーターに乗るように促した。
3人はそれに従い、それぞれシミュレーターに搭乗していく。
そして少し間を開けて研究員がシミュレート開始の信号を送ると、一斉にMSシミュレートが始まった。
一度のシミュレート時間は40分。
本来なら一日にそれを3度行い、その後感応実験へと移る。
しかし、時間が遅れていたために今日は一度だけでシミュレート訓練は終わりとなった。
「MSシミュレートはこれで終わりだ。感応実験までの間休憩しなさい」
研究員はそう言いながらシミュレート結果がプリントアウトされた紙を出来杉達に手渡す。
出来杉とツンは普通にそれを受け取ったが、研究員はアリアに紙を手渡す時に口を開いた。
「アリア、君のシミュレート結果は2人に比べてあまり芳しくないな。特に射撃の命中精度が低い。もう少し努力したまえ」
研究員にそう言われると、アリアは俯きながら紙を受け取った。
アリアは決してMS操縦能力に劣っているわけではない。
普通のパイロット候補生と比べれば段違いにアリアの方が優れている。
ただ、あまりに出来杉とツンは優れていた。
そんな2人よりも操縦技術が劣っているのは仕方のない事ではある。
実際それだけなら研究員もさほど気にしないだろう。
が、アリアには敵機を撃つ事に躊躇う節があった。
回避に関しては、アリアの操縦技術は決して出来杉とツンに引けを取らないのだ。
だから研究員にはそれが気がかりだった。
最終更新:2009年10月05日 12:34