アットウィキロゴ
  • 277 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[saga] 投稿日:2009/11/01(日) 21:41:46.67 ID:GINqAm.o

 のび太をのせた偽装船は無事にパ・ア・ソークへの入港を果たした。
「よし、無事に入港手続きが終わった」
 通信でパ・ア・ソークの入港管理局とのやり取りを終えると、船長が安堵の声を漏らした。
「ったく、こん時ばかりは毎回ヒヤヒヤしちまうぜ」
 そう言うと船長は近くに居る部下に声をかけた。
 貨物船員に扮したジオン兵が、貨物を船から降ろす。
 のび太もまたそれを手伝った。

降ろした貨物を、全て輸送用のトレーラーに積み込み終わると艦長がのび太の肩に手を回した。
「それじゃあな」
 さっぱりとした、だけど力強い声だった。
 艦長とて、自分の任務をよく承知している。
 こうしてこのコロニーにNT適性者を運んできたのも一度や二度じゃない。
 いちいち感慨に浸っていてはこの仕事が勤まるはずもなかった。
 励ましてどうにかなる事でもないことは分かっている。
 だから彼は「頑張れよ」の一言は飲み込んでいた。

  • 278 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[saga] 投稿日:2009/11/01(日) 22:10:50.27 ID:GINqAm.o
「君もあのトレーラーに乗っていくんだ」
 艦長はトレーラーを指差しながらそう行った。
 はい、とのび太はそれに頷く。
「その間暇だろうから、これでも食いな」
 そう言って艦長はのび太にスナック菓子を差し出した。
「アリガトウ」
 のび太は笑顔でそれに答える。
 艦長は複雑な気持ちだった。
「ほら、トレーラーの運ちゃんが呼んでる。早くいきな」
「ハイ。ココマデハコンデクレテアリガトウ!」
 そう言ってのび太はトレーラーに向かって駆け出していた。
 艦長は細い目でその背中を見送った。



  • 279 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[saga] 投稿日:2009/11/01(日) 22:28:54.52 ID:GINqAm.o



 NT研究所の所長室ではフラナガンが高級なチェアに腰掛けていた。
 その表情は怒りを堪えられない様子だった。
「何故だ。何故こうも計画通りに進まん」
 小さく呟く。
 NT部隊創設。
 その計画の成就まであと一歩なのだ。
 ダというのに、その一歩がどうしても進まなかった。
 すでにサイコミュを搭載した試作機は完成している。
 プランとしては量産化を考慮した、低コストのサイコミュ搭載機も完成しているのだ。
 ララア・スンを筆頭に能力の高いNTも数体揃っている。
 後はNT能力を持つ人材の収集と養成がもう少し進めば良いだけなのだ。


  • 280 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[saga] 投稿日:2009/11/01(日) 22:37:47.17 ID:GINqAm.o

 だと言うのに、NT能力の人為的強化はことごとく失敗の連続だ。
 Cランク以下とはいえ、貴重な適性者を数十体も犠牲にし、得た成果は僅か4体。
 それすらも1体を連邦のスパイに奪われ、。
 残りの3体の内の2体も実験中に発作を起こし、1体は植物状態、もう一体も精神的に不安定になり病棟で療養を余儀なくされている。
 唯一良好な状態を保っているNT-001はキシリア少将の下に送った為に手元にはない。
 そもそもここまで適性者の数が減ってしまえば、強化実験の計画そのものが遂行出来なかった。
 よもや、NT適性者の強化計画は断念せざるを得なかった。
 苦渋の決断だが仕方ない。
 今は、残りのNT達のみを戦力として、それを一つも欠くことなく保持することが最大の目標であった。
 一人、黙するフラナガン。
「まあいい」
 ぽつりと呟く。
 そう、すでに起こった結果を悔やんでいる場合ではない。
 今は、ララア=スン達の高次能力者の力を存分に発揮させること。
 その為にサイコミュの完成度を高め、それに応える高性能機を完成させることが命題なのだ。
 そしてそれと並行してPCSと準サイコミュによる、新システムのNT用兵器の開発も行なわなければいけない。
 だが、こちらの計画も非常に難航していた。

  • 281 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[saga] 投稿日:2009/11/01(日) 22:38:51.75 ID:GINqAm.o
 唯一彼にとって救いと言えるのは、新しく今日ここへ配属されるNT適性者の存在だった。
 事前の資料によれば、その適性者はアースノイドの為現在はNTとしての確証があるわけでは無いと報告される。
 しかし、その資料が示す適性者のパイロット特性は十二分に期待できるものだった。
「まだ諦めたわけではない」
 そう言ってフラナガンはイスの背もたれに体重を預ける。
 丁度その時、机の上の通信装置が鳴った。
 それが部下からのものであることを確認すると、フラナガンはすぐさま通信ボタンを押した。
 モニターに部下の姿が映る。
「お忙しいところ失礼致します、所長」
「どうした」
「民間に共同開発を持ちかけた例の準サイコミュとPCSに関する事なのですが」
「どうかしたのか」
「はい。それが、各社から開発におけるデータ不足との連絡が入っておりまして」
「ほう、それで連中は何を欲しがってるんだ」
「NT適性者のテストパイロットを回して欲しいとの陳情が――」
 部下がそこまで言った途端、フラナガンは厭きれた様に声を出した。

  • 290 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[saga] 投稿日:2009/11/02(月) 22:46:22.79 ID:pB42Taw0
「馬鹿を言え。今、この研究所のどこにそんな余裕があるというのだ!」
「それは重々承知しております。しかし、先方からはNT適性者が回されない限り準サイコミュおよびPCSの開発は行なえない、と言われておりまして」
「連中め、足元を見おって……」
 軍に尻尾を振るしか能の無い軍需企業が、こんなときだけいい気な顔をする。
 そのことがフラナガンにとって非常に腹立たしかった。
 そもそも、現状で研究所のNTを外へ出せるわけが無い。
 だが、彼は軍需企業にNOと突きつけるわけにも行かなかった。
 PCSと準サイコミュの完成を頓挫させるわけにはいかないのだ。
「仕方があるまい」
 フラナガンは心底残念そうに言った。
「連中が提示しているプランの中で、一番まともな物を出しているのはどこだ」
「五十歩百歩で、なんとも言いがたいのですが」
「チーフとしての君の能力を信用している。思ったとおりに言ってくれ」
「恐らくはツィマッド社のプランが一番具体性の高いものかと」
 その言葉を聞くと、フラナガンはふむ、と頷いて間を取った。
「ならばツィマッドの連中に通達しろ。完全なNTでは無いが、適性の高いNT候補者を1人送ってやるとな」
「了解です」
「だが、向こうに送るのにはまだ時間がかかるとも伝えておけ。詳細なデータを送るのにも最低で1週間はかかるだろう」
「分かりました」
「頼んだぞ」
 そう言うとフラナガンは部下との通信を切った。
「――まったく、気に食わん」
 そう呟くフラナガンの表情は怒りをかみ殺していた。

  • 282 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[saga] 投稿日:2009/11/01(日) 23:15:45.06 ID:GINqAm.o

 コジマ基地の勢力下であるタイ国境であっても、 大量の難民の流入によって治安は大分悪い。
 そんな難民キャンプの中でも半ばスラムと化している一角があった。
 人とは不思議なもので、似た様な境遇同士の人間が自然と集まって共同体を作る。
 簡単に言えば、そこはゴロツキ達の居場所だった。

 そんなスラムの片隅で、青年と言うにはまだ早い少年がひとり佇んでいた。
 少年はただ人並みを見つめている。
 反吐が出そうだ、と少年は思う。
 マフィアの下っ端だの、兵隊崩れだの、こいつらはゴミみたいに生きてきた連中だ。
 そんな連中が嫌いで、そんな連中が集まったこの場所が大嫌いで、そしてそんな場所でしか生きられない自分がもっと嫌いだった。

 少年がしばらくの間辺りを眺めていると、彼の前に初老の男が歩み寄ってきて声をかけてきた。
 その男の頭は無残に禿げ散らかっている。
 少年はこの男と知り合いだった。

  • 283 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[saga] 投稿日:2009/11/01(日) 23:19:27.98 ID:GINqAm.o
「ようワン。随分暇してるみてぇだが、仕事の方は順調なのか」
 男はそう言うと、笑いながら片手の人差し指をクイクイと折り曲げた。
「いや、このあたりじゃもう金目のもん持ってる奴はいないよ」
 ため息混じりにワンと呼ばれた少年はそう答える。
「だったらこんな所で呑気にしてる場合か? 検問所の方のキャンプの連中は色々と持っとるだろ」
「冗談。あっちじゃ兵隊の監視が厄介だってのはアンタに教わったことだぞ」
「そりゃそうだがな……で、どうする? このまま餓死する気か?」
 半ば冷やかすような口調で言う男にワンは冷めた表情で返す。
「そのつもりはねえよ」
「かと言って他に方策もねえんだろ?」
 男の言葉を聞くとワンは黙ってしまった。
「そんなこったろうと思ったわ。だが、それも仕方ねぇ。お前の世話してくれてたアンちゃん、殺されちまったんだろう?」
 口を真一文字に結んで黙ったままのワンを尻目に男は話を続ける。

  • 284 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[saga] 投稿日:2009/11/01(日) 23:21:05.57 ID:GINqAm.o
「俺もそんなお前を不憫に思ってよ、今日はもうけ話を持ってきてやったんだ。どうだ、乗るか?」
 もうけ話、という言葉に反応してワンは少しだけ顔を上げた。
「乗るかどうかの前に話の中身を教えてくれよ」
「勿論だ。だがこの話は絶対に漏らすんじゃねえぞ。コイツは相当なシノギだからな。そこら辺のチンピラにでも知られりゃただじゃすまん」
「何を今更。チンピラのシノギなんて今までに幾度となく首を突っ込んできただろ、あんた」
「今回はそんなレベルじゃないんだよ。もの凄い量のヤクだ。それもこんなド田舎じゃまず手にはいらん代物のな。それをタダ同然の値段で腐るほど仕入れた」
「ヤクをタダ同然で?」
 それはワンにとって信じられない話だ。連邦の検閲の厳しいこの難民キャンプに薬を持ち込むのはとても難しい。それでも少量の薬を持ち込んでくる人間はいるが、売値は非常に高騰していた。
「一体どこから」
「それは言えんな」
 男の様子から仕入れ先はそこら辺のチンピラで無いことは確実だった。
「ワン、お前はとにかく薬をばら撒いてくりゃいいんだ。他のことは知る必要は無い」

  • 285 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[saga] 投稿日:2009/11/01(日) 23:22:20.06 ID:GINqAm.o
 きな臭い、とワンは思う。
 しかし金は必要だった。
 世の中は明日の命も分からない人間で溢れている。
 特に難民の未来なんて絶望的だ。
 神にすがったって生活は良くなんてなりはしない。
 すがりつけるものが何も無いから、ここでは薬がよく売れる。
 死体を貪るハイエナみたいな稼業だ。
 だがその分この商売に手をつけたら最後。
 いつ、誰に殺されるかわからない。
 この稼業は足を突っ込めば突っ込むほど命の価値が安くなる。
 実際シノギのいざこざでゴミみたいに死んでいった人間をワンは嫌と言うほど知っていた。
 しかし選択の余地なんてものは無い。
 ワンは男から薬の売り手を引き受けると、男と共に人ごみの中へと消えて行った。
最終更新:2009年11月27日 10:53