「むー」
研究員が部屋を出て行くと、アリアは残念そうにそう唸る。
「私、MSの操縦なんてやだ」
そう言うアリアを見ると出来杉はそんなアリアを励ました。
「いいんだよ、気にすることは無いさ」
実際出来杉はそう思った。
むしろ「MSの操縦なんてやだ」と言ったアリアを嬉しいとさえ思う。
アリアはとても純粋な性格をしている。
そんな彼女に、MSなんて兵器を好きになって欲しくは無いのだ。
アリアに笑顔を投げかける出来杉。
「ほら、元気を出してアリア」
そんな出来杉にアリアも少しだけ明るさを取り戻す。
「うん」
小さく頷くアリア。
そんな彼女にツンも声をかける。
「確かにシミュレーターの結果なんて気にする必要ないわ。あんなものはNTの素質と何にも関係ないもの」
そう言ってアリアに向き合うツン。
「NTの能力は人と深く共感しあう事の出来る力なのよ。あんなコンピューターのMSを撃破するシミュレーションなんて、本質的には関係ない事よ」
ツンが言うと、出来杉もそれに同意する。
「僕もそう思う」
そう言って少し難しい顔をする。
「そもそも、NTの能力は戦争になんて使われるべきじゃないんだ」
その出来杉の言葉を聞くと、ツンとアリアも複雑な表情をした。
地球連邦軍統治下のタイ国境。
ここにジャイアン達を連れてたどり着いたホイは、翌日には自慢のその料理の腕で定食屋で働いていた。
その店はホイの専門である中華料理の店ではなかったが、ホイにはどんな料理でも作る自信がある。
実際、店長はホイの作った料理を試食すると即採用を決めた。
昼になって店が込んでくる時間帯になると、厨房は大忙しになる。
決して大きな店ではないが、それでも40人程度の客は入れるし出前もある。
「本当にホイ君がうちの店に来てくれてよかったよ」
休む暇なく料理をしてるホイをみて店長がそう声をかける。
「手際がいいし腕も確かだ。客の間じゃホイ君が来てからウチの料理が美味くなったって評判だ」
そう笑いながら話す店長。
「いえ、お礼を言うのは僕のほうですよ。こんな世の中で俺みたいな男を雇ってくれる人なんて店長くらいなもんです」
「ハッハッハ。こんな時世の中に、か。むしろこんなご時世だからこそ君を雇ったんだよ」
そう言いながら店長は料理を一品作り終え、それを皿に盛り付けた。
「お~い、タケシ! この品をアッチのお客さんに持って行ってくれ!」
店長がそう言うと、カウンターからジャイアンが入ってくる。
店長はそんなジャイアンに皿を渡すと、客の居るテーブルを指差す。
それに分かったと頷くと、ジャイアンは皿を持って歩いていった。
「やはり子供だよ。頭がやらかい。なんだかんだで言葉もすぐに飲み込んじまう。あの子達は確か日本人だっけか?」
「えぇ、そうです」
「日本の方じゃあ結構な激戦だそうだからな。島国だけにでかい戦闘が起こると逃げ場が無い。この辺りにもかなり日本人が逃げてきたが、口をそろえて酷い惨状だったと言ってるよ。あの子達もきっと相当な苦労をして来たんだろうな」
そう言いながら悲しそうな顔をする。
「日本に限ったことじゃねえ。戦争ってのは子供だろうと容赦はしてくれん。そんで、いつだって一番辛い思いをするのはなんの罪も無い子供達だ。だからこそ大人がしっかりして子供を守らなきゃならんというのに」
そういうと店長は何かを思い出すような遠い眼をしてた。
ホイにはその眼がとても悲しそうに見えて、きっとこの人にも何か辛い過去があったのだろうだろうなと彼は思った。
「子供を守るどころかこんなご時世じゃ自分一人食いつなぐどころか精一杯だ」
店長は乾いたように「ヘッ」と笑った。
「精々、こうしてフライパンをひっくり返すくらいしか出来やせん」
「店長、そんなことなんて無いです。俺はそれはとても素晴らしいことだと思います。現に俺もタケシもスネオも、そしてここのお客さん達だってみんなこの店に助けられてるんですから」
「ありがとうホイ君。そう言ってくれると本当に嬉しいよ」
そういうと店長は寂しげに笑顔を作った。
「だけど、俺は自分の息子が殺されたとき何も出来なかった。ただ銃撃とか砲弾の爆発に怯えてただけだったんだ。俺はたった一人の息子さえ守れない糞野郎だ」
「店長……」
ホイは店長の肩にそっと手を差し出した。
店長の目には涙が浮かんでいた。
連日ホイ達は忙しなく働いていた。
タイ国境の周辺には数え切れないほどの難民が集まっていたが、軍から支給される食料は明らかに不足している。
その為食料を求める人達は数多くおり、殆ど原価と変わらない値段でメニューを出しているこの店にはひっきりなしに客がやって来ていた。
気が付けばあっと言う間に閉店の時間というのがホイ達の毎日だった。
店長は客が全員帰ったのを確認すると、いつものようにジャイアン達に店の掃除を命じた。
ふと思い出したように店長が「そう言えば」とホイに話しかけた。
「ホイ君。君も聞いてると思うが最近ここいらは大分治安が悪い。兵隊の目を掻い潜って薬やなんやで商いしてる連中が増えた」
そう言って顔をしかめる店長。
「難民の多くには職もなければ金も無い。連中はそういう人達に付け込んで利用しようとする。君にも妙な話を持ちかけてくる人間が居るやもしれんが気をつけてな」
そう言う店長にホイは頷いた。
こういった事情は何処にいても同じなんだな、と思う。ホイが住んでいたシーエンは、確固とした統治が無かった分もっと酷かった。
戦争はあらゆる物を奪う。
財産を奪い家族を奪い、人の心も奪う。
誰だって生きるだけで精一杯になって、食っていくためには善も悪も言ってられなくなる。
そういう人間たちをマフィアが顎で使って、麻薬や覚せい剤をばら撒く。
そして最後にはチンピラや難民の命そのもので金を稼ぐ。
それはきっと何処に行ったって変わらない。
今は世界中が戦争で荒廃している。
真っ当に生きられるほど優しい世界じゃない。
だからこそだ、とホイは思う。
不意に掃除しているジャイアン達をホイは見つめた。
ホイにはいま4人の子供の命が圧し掛かっている。
だからこそホイが真っ当に生きなければならなかった。
キャリフォルニア第一MSパイロット養成学校の校長室で、校長は椅子に座りながら軍から送られてきた書類に目を通していた。
そして資料に一通り目を通すと、書類を両手でトントンと揃える。
資料は全てのび太達訓練生による第13基地防衛戦に関するものだった。
「訓練生のノビタ=ノビを送り出す件だが、どうやら一週間後という事で決定したらしい。それも月へではなくフラナガンの本部があるサイド6にだそうだ。わざわざ本国より通達が来たよ」
「なんですって」
初学年Aクラスの担当教官は驚きのあまりついそう漏らした。
そんな彼を尻目に、校長は話を続けた。
「あの活躍だ、軍が固執するのも無理は無い。何せ今のジオンにとってもっとも足りないものは人的資源だからな。その上彼は”若き救世主”としてジオン全土から注目を浴びつつある。ここから送り出すには彼は若すぎるが、この流れを我々が止めるなどできんよ」
校長は教官をなだめるように、優しげに話す。
しかし、教官の眼光は厳しかった。
「ですが学校長、ノビをフラナガンへ送り出すのはせめて基礎訓練を終えてからという条件だったはずです!」
教官は厳しい口調でそう言った。
校長はその教官の顔を見て、若いな、と思う。
生徒を想う情熱は理解できるが、しかしそのような情は時としては組織を乱し、瓦解させる。
教官とてそのくらいの事は百も承知だろう。
その上でこのようなことを口走ってしまうのは、やはり彼がまだ若いからに違いない。
だが校長として、彼はそんな甘さを容認するわけにはいかなかった。
校長は複雑な気持ちで一度だけため息をついた。
「君の気持ちは分かるがね、作戦というものも命令というものも流動的なものだ。我々はその歯車のひとつでしかない」
「しかし校長。彼にはまだ戦士として生き残る術も、志も、まだ何も教えられていません。いくら操縦技術に秀でていたところで、このままでは彼は――!」
「それ以上は慎みたまえ」
怒りの感情をあらわにする教官を、校長は鋭い目つきで睨み付けた。
「分が過ぎるぞ。君は一人の人間である以前にジオンの兵士だ。君も私も所詮は軍の資源にすぎん。それは生徒とて同じことだ」
「では、みすみす犬死させろと? エースなどとはやし立てられたところで、その実情は常に苦しい任務に回されるだけの、いわば上層部の尻拭い役ではないですか! そんな役をあんな年端も行かない子供に担わせろと?」
「黙らんかっ!!」
教官の言葉に、今度は校長が激昂した。
その剣幕に、教官も一瞬怯んだ。
「慎めと言っただろう。上層部の決定は絶対だ。それに逆らうというのなら、ジオンに逆らう反逆者と同義。一介の兵士風情に許されたことでは無いぞ」
怒りのこもった校長のまなざしに、教官は俯く。
教官は怒りをかみ締め、強く腕を握った。
「――、すみませんでした校長」
教官は顔を伏せながらそう言った。
彼にはそう言うしかなかった。
「分かればいい。このご時世どこで誰が聴いているかもわからんぞ。売国奴のレッテルを貼られたくなければ今後も口には気をつけることだ」
「はい」
「それでは、ノビタ=ノビの件は後はこちらで処理する。君は準備だけさせておけばそれでいい」
「はい。それではノビタ=ノビには、サイド6への移動の件を早速伝えます」
そう言うと教官は敬礼した。
その表情はひたすらに厳しかった。
のび太がサイド6へと移送されることを聞いたのはつい先日のことだった。
その日の朝、のび太は一時間目の訓練が始まる前に突然教官に呼び出された。
そして突如一週間後に宇宙へ行ってもらうと告げられたのだ。
当然のび太は驚いたが、教官はそんなのび太を労わる様子も無く、早々に荷物をまとめておけ、とだけ言ってのび太を返した。
教室に戻るなり、のび太は早速フレンやライ達にそのことを打ち明けた。
みんな複雑な表情だった。
フレンやマグは「宇宙行きはジオン兵にとって光栄なことだよ」とのび太を称えたが、その顔はやはり寂しげだった。
みんな口々にのび太を勇気付ける言葉を口にする。
最初はこのクラスでのび太を認めているクスメートなんて居なかった。
しかし今はみんながのび太を仲間と認めていた。
特にフレンやライ達にとってのび太はただの友達ではない。
共に命を懸けて戦った戦友なのだ。
それはのび太にとっても同じである。
のび太は感情を抑えきれず涙を見せた。
それが昨日のことだった。
のび太は自室のベッドの上でそのことを思い出していた。
窓からは朝日が差し込んでいて、意識もしっかり起きている。
だけど、のび太はどうしても起き上がる気になれなかった。
授業は明日まで通常の訓練を受けるが、明後日からは宇宙への打ち上げに際する教習を受けなければならない。
つまり、これまでのようにみんなと授業を受けられるのは明日で最後なのだ。
それを考えると胸が張り裂けそうだった。
もともとこの学校だって来たくて来た場所じゃない。
それでもフレンやライ、そしてマグ、ナー。それ以外のたくさんの生徒達と友達になれた。
そんな仲間達が居たから今まで頑張ってこれたんだ。
その仲間達と離れるのは本当に辛かった。
まして、今度の行き先は宇宙である。本当の孤独だ。
いくらドラえもんだって、宇宙まで探し当てるとなると簡単な事じゃない。
もしかしたらもうドラえもん達に合うことも、もとの時代に戻ってパパやママに会う事もできないのかもしれない。
そう思うとのび太は嗚咽を漏らした。
しかし、そんなのび太の悲しみを砕くように、今朝も部屋の中へ授業開始を告げるブザーが鳴る。
のび太は目から溢れた涙を袖でぬぐうと、教材を鞄に詰めて部屋を出た。
教室に入る。
生徒達は一瞬のび太へ視線を向けると、すぐに教官へ視線を戻す。
教官がのび太に厳しい目つきで「また遅刻だぞノビ! 罰として腹筋300回!」と怒鳴る。
いつもと同じ光景だった。
MS戦術の基礎を説く授業は、いつも通りに淡々と進められる。
なのに、クラスの皆、教官までもがどこか悲しげな顔をしていた。
今日の教習と実技訓練が全て終わり、のび太は自室に戻った。
部屋の明かりも付けずに、ひとまずベッドの上に転がる。
二時間目の軍事近代史も。
三時間目の身体訓練も。
昼食の時間も。
四時間目のMSシミュレートでも、皆がのび太を気遣って優しく声をかけてくれる。
そしてのび太の宇宙行きを喜び、寂しがってくれている。
その度のび太はやっぱり皆と別れるのがとても辛くて、怖くて、考えるだけで泣きそうになってしまう。
だけど、とのび太は思う。
こんな僕でも皆は認めてくれた。
僕は胸を張って宇宙へ行かなくちゃいけないんだ。
のび太は心に誓った。
僕はもう泣かない、と。
窓の外を見る。
日は既に傾いていて、月が美しく輝き始めていた。
養成学校の食堂では、生徒達が一斉に昼食を取っていた。
食堂の席は自由席であり、基本的にどこに座っても良い。
しかし、食堂の中央の席は食堂のテレビモニターが見えやすく、常に上級生達が占領している。
下級生は細々と隅の席で昼食を取るのが一種の慣例になっていた。
ガヤガヤと、食堂のあちこちから生徒達の話し声が聞こえる。
彼らの視線は一様に食堂の中央の席に注がれていた。
生徒達の注目を一身に受ける生徒は、まだ初学年の生徒、ライ=バールだった。
「おいおい、あいつ1年の癖に何であの席座ってんだよ。あそこは4年お気に入りの溜まり場だぜ」
「俺ら3年でも絡まれるのがこえーから近づけねえってのに。隣の4年めっちゃくちゃアイツのこと睨みつけてんじゃん」
食堂での座る席にこれといった規則は無いが、学年ごとで固まる場所は大まかだが暗黙の了解があった。
しかし周りの生徒達の言うように、ライは4年生ばかりが固まっている席に座っていた。
それも4年に臆する姿勢など全く見せず、堂々と昼食をとっているのである。
その行動は4年生への挑発以外の何者でもなかった。
「あの1年馬鹿じゃねーの」
ぶっ飛ばされるぜ、と飽きれたように笑う生徒。
「いやでも、アイツあれじゃん? あの13基地防衛の」
「おっ、マジだ。あの有名人が相手じゃ4年とはいえ簡単にシメるわけにはいかねえよな」
「確かにそうだけどよ、あいつまだ1年だぜ? 調子乗っていいわけじゃねーだろ」
教室のあちらこちらで、そんな会話が繰り広げられている。
しかし、当の本人であるライは涼しげな顔で、むしろ注目を浴びて喜んでいるようだった。
その隣では、4年生が今にも胸倉に掴みかかりそうな剣幕である。
そんな4年をライは完全にシカトしていた。
生徒の誰もがこれからどうなるのかと固唾を呑んだとき、ついに一人の4年生がライに声をかけた。
「おい1年。英雄だか何だかしらねえがよ、ここは学校なんだよ。ここで大人しく生活がしてえならここの規則に従え」
「は? 規則? なんだそれ」
4年生の言葉をライは鼻で笑った。
「俺が知る限り食堂の席はどこに座ろうと自由な筈だけどな」
4年生を嘲笑するように言うライ。
「舐めてんじゃねえぞ。1年は1年らしく隅にいりゃいいんだよ!」
4年生は怒りに任せてライの襟首を掴んだ。
「気にいらねえな」
今まで余裕めいた表情を浮かべていたライだったが、一転して鋭い目で4年生を睨む。
「ここは4年しか座れねえって誰が決めたんだ? 年上なら実力が無くてもでかい態度取れんのかよ」
「実力が無い? 誰に向かって口きいてんだ、コラ」
「お前に決まってんだろ?」
「てめえっ!!」
そう怒鳴ると4年生は高々とこぶしを振り上げた。
しかし、ライは自分の胸倉にある4年生の手を取ると軽々とそれを捻った。
そしてそのままライは赤ん坊の体を操るように、相手の体を地面に倒した。
信じられない、という目つきでライを見上げる4年生。
「どうした先輩? 俺のことボコボコにしてくれんじゃねえのか」
「うおおおおおお!!」
4年生は起き上がると、またもや力任せにライに殴りかかった。
しかしライは涼しい顔でそれを避けると、4年生の足元に自分の片足をスッと伸ばす。
4年生は空振りした勢いのままライの足に躓き、前のめりに地面に倒れた。
「その程度か雑魚。お前4年間何やってきたんだ? 格闘の基礎がまるでなってないぞ」
そう言うとライは4年生の襟元を掴んだ。
「おい、立てよ」
拳を振り上げるライ。
だがそれを制するように、フレンが2人の間に割って入った。
「ライ、もう止めろ」
「あ? 邪魔すんじゃねぇよ!」
ライは興奮した様子で言った。
「落ち着くんだ、ライ」
フレンはそんなライをなだめた。
「ライ、確かに規則に席の規定なんて無いさ。だけど無理に4年の中に割って入る事もないだろう」
「うるせえ! どこに座ろうがそんなもん俺の勝手だ。俺の邪魔する奴は4年だろうがぶっ潰す! 例外なんてねえ。俺の足ひっぱんならお前もぶっ飛ばすぞ、フレン」
そう言うとライはフレンから顔をそらし、食堂全体を見渡すようにして口を開いた。
「いいかお前ら! ここのトップは4年じゃねえ。MSの操縦でも、殴り合いでもこの学校のトップはこの俺だ! 年齢なんて関係ねぇ。俺がお前らのリーダーだ。文句ある奴は直接かかって来い!!」
大きな声でそう叫ぶと、ライはそのまま食堂を後にした。
フレンが慌ててその後を追う。
「ライ、いくらなんでもさっきのはやり過ぎだよ。あれじゃあ4年生に後で何されるかわから無いぞ」
廊下を歩くライに併走しながら、フレンがそう言った。
「そうしたらその度に返り討ちにしてやるだけだ。問題ねえよ」
「一対一ならいいさ。だけど集団で来られたらいくらライでも太刀打ちできないぞ」
「それでも俺は負けねえし、仮にその時やられてもその後で10倍返しにしてやんよ」
「ライ、頭を冷やせ」
フレンのその言葉を聴くとライは足を止めた。
「わかってる。わかってるよ!」
ライは悲痛な声で怒鳴った。
「本当は4年なんざどうでも良いんだ」
ライは今までとはうって変わって、静かな声で話し始めた。
「俺は、一度もノビタにMSのシミュレーションで勝てやしなかった。あんな馬鹿でノロマなガキにだぜ? こんな屈辱は俺の人生で初めてだ」
そう言うライの顔はとても悔しそうだった。
「俺はもっとあいつと一緒に戦いたかった。このままあいつが宇宙に行っちまったら、俺は、俺は……」
ライの表情は辛そうだった。
フレンもまた寂しげな表情でそんなライを見つめた。
「フレン、お前はどうしてそんなに冷静で居られんだよ」
「僕だって辛いさ。だけど一番辛いのはノビタ君本人だろう? 僕達が動揺したらノビタ君に余計辛い思いをさせてしまう。だから僕達のやるべき事は、笑顔でノビタ君を送り出す事だ。違うか、ライ」
フレンがそう言うと、ライはそれ以上何もしゃべらなかった。
フレンもただそんなライを見つめることしか出来なかった。
朝。
いつものクラスの朝礼の後、担任の教官がのび太を呼んで教壇の前に立たせた。
ゴホン、と一度だけ教官が咳払いする。
「みんなも知っていると思うが、ノビが皆と授業を受けるのは今日で最後になる。宇宙行きの栄転だ。みんな拍手で送ってやれ。おめでとうノビ!」
そう言って教官が拍手をすると、クラス中が大きな拍手を贈った。
「ノビ。お前はもともと皆よりも遅い入学で、、年齢も他の生徒よりずっとも年下だ。勉強はてんでダメ。体力も無いし、そもそも言葉を覚えるので精一杯だった。MSの操縦は素晴らしいが、それ以外は全くダメ」
教官はそう言いながらしっかりとのび太の目を見据えた。
「正直言って、続きはしないだろうと思っていたよ。だが、ノビ。お前は今日までひたむきに頑張ってきた。必死に食らいついてきた。そんなノビを、俺は誇りに思う。ノビは我がクラスを代表する生徒だ!」
教官の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「宇宙へ行っても頑張るんだぞ」
のび太の肩を強く握る教官。
のび太はそれに「アリガトウゴザイマス」と一言会釈して返した。
やがて、生徒の代表としてフレンが花束とみんなのコメントが寄せられた色紙を渡すと、のび太は必死に涙を堪えながら皆に「アリガトウ」と言った。
そうして朝礼が終わる。
教官はいつもの表情に戻ると「最後だからといって特別扱いはしないからな、ノビ」と言って授業を開始した。
最後だと思うと、何もかもが大切だった。
いつもは長く感じる訓練も、今日は驚くほど時間が早く過ぎてゆく。
気がつけば、最後のMSシミュレーションの授業になっていた。
のび太にとってこの学校での本当に最後のシミュレーションとなる。
教官が次々と今日のペアを発表していく。
生徒の誰もが、のび太の対戦相手は誰なのか固唾を呑んだ。
そして遂にのび太のペアが発表された。
「次、ノビタ=ノビ。お前はライ=バールと組め。使用するのは8番シミュレーターだ」
瞬間、生徒達が沸いた。
何せ、のび太の最後を飾る相手としてこれ以上ふさわしい相手はいない。
生徒達が喜ばないはずが無かった。
これ以上望むことの無い組み合わせである。
しかし他のどの生徒達よりも喜んでいたのは本人達だ。
のび太は決意のこもった目でライを見つめた。
それをみてライはヘッ、と鼻を鳴らす。
「いい眼する様になったじゃねえか、ノビタ」
ライは胸の中に沸く喜びと躍動、そして闘争心を隠し切ることが出来なかった。
「言っとくけどよ。俺はわざと負けて笑顔でお見送りなんて小ざかしい真似をする気はねぇ。今日こそは絶対にお前をぶっ倒す!」
前面に戦士としての気迫を押し出すライ。
だが、内に秘める戦士の血を隠しきれないのは、のび太にとっても同じことだった。
「ボクハ、マケナイ」
のび太はそう言うと、シミュレーターに向かって歩き出した。
もうのび太はシミュレーターに乗り込むのも手馴れたものだった。
ボタンを押してハッチを開くと、座席に腰を下ろし体を固定するためのベルトをしっかりと括り付ける。
そしてMS起動準備の操作を行うと、モニターに光が入り、『機種選択』の画面が現れた。
「今日はMSを自由に選べるのか」
のび太はMSの一覧を順に見ていく。
今回のフィールドは森林。故に使用されるMSは地上でも使用可能なものに限られる。
ザクⅡJ型、グフ、ドム。そしてイフリートという機体もある。
しかしのび太にとって、機種選びは考えるまでも無かった。
運動性・耐久力、そして武装。
それらのどれをとってもドムが秀でていた。
イフリートもまたドムに引けを取らない非常に高性能なMSではある。
しかしイフリートは近距離戦闘を主眼に置いた機体であり、遠距離戦闘を得意とするのび太とはあまり相性が良くない。
さらに操縦システムも他の量産型とは異なり、資料いわく扱いづらい機体との事だった。
のび太は使用MSをドムに設定すると、次の操作へと移った。
シミュレーターのハッチの中で、ライは静かに震えていた。
のび太との戦いへの喜びと高揚、そして興奮。
この学校の生徒なら誰もが知っている通り、ライは自信家であり好戦的な性格でもある。
今までこうして震える時、その原因はそんな彼ゆえの武者震いであるとライ自身思っていた。
現に、今までのどの戦いでもそれは正しかった筈だ。
しかし、この戦いは今までと明らかに違っていた。
ライの胸に広がっている感情の正体。
それは戦いへの喜びではなく、まして勝利への高抑揚でもなく、のび太と戦えなくなる事への悲しみと、そして負けることへの恐怖だった。
ライ自身、その感情の正体にうすうす感づいていた。
「俺は……負けねえ」
小さくそう呟くライ。
俺は負けない。
俺は誰にも負けない。
俺は。
俺だけは、誰よりも強くなくちゃいけないんだ。
俺だけは、誰にも負けちゃいけないんだ。
俺だけは、誰にも負けないと誓ったんだ!
心の中で何度も反芻する。
もしここで負ければ、おそらくはもうのび太とやり合う事は無いだろう。
つまり、ここで負ければ俺は永遠にのび太を超えることが出来なくなっちまう。
それだけは絶対に許されない。
ライはフィールドをマップで確認し、MS選択に移る。
「さて、どうするか」
射撃を得意とするのび太がドムを選んでいる事は予想に難しくない。
射撃が得意でなくとも普通ならドムを選ぶだろう。
性能的には運動性能の高いイフリートが並ぶが、この機体は量産機ではなく、熟練したパイロットでなければ扱いづらい機体だ。
本来ならば訓練生風情で性能を活かしきれる機体ではない。
普通の生徒からすれば扱いなれている分、グフの方がいい結果を出せるはずだ。
が、しかしそれは並みの訓練生の話である。
俺様は誰だ?
自問するライ。
イフリートの運動性能はドムと比較してもずば抜けている。
格闘戦主体という特徴もライの好みだ。
何より相手に接近しての格闘戦というのが唯一ののび太への攻略法なのである。
ライはイフリートに機種を設定させると、具体的にどのような戦略をとるべきか思案した。
単純に考えてとるべき道は3つ。
正面突破か回り込みか、待ち伏せか。
正面突破は普通に考えて無謀だ。
が、イフリートの運動性能を加味しても、のび太の射撃を正面からかわすことは不可能に近い。
ならば回りこみはどうか。
これは選択される地形により大きく左右されるが、今回の地形は森林。
標高400m程度の小さな山もある。
この山をうまく利用し相手の背後へ回り込む戦法は悪くない。
待ち伏せはどうか。
これもやはりこの山がキーポイントだ。
また、木々が生えてる事も待ち伏せの戦法には有利に働くだろう。
どの戦法で行くべきか思案するライ。
答えは単純だ。
その全ての戦法を扱えなければ実戦じゃ使い物にならない。
要は、回り込んで、待ち伏せて、頃合が来たら突撃する。
それだけの事。
ライが心の中でそう呟くと、戦闘開始の合図のブザーがシミュレーター内に響いた。
瞬時にパッシブソナーの適用範囲を最大まで広げつつMAPの確認をするライ。
MAPは3km四方の地形であり、その中央よりやや北に標高500mの山がある。
ライのイフリートが居るのはMAPの中心より西へ1kmほどの地点だった。
次いでデジタル望遠であたりの様子を探る。
思ったよりも山の丘陵は大きく、あたりにはなだらかだが幾重にも高低差があった。
木々の高さもあり、丘陵の谷間に入ればMSの姿を隠せる。
それを確認すると、ライは相手のパッシブソナーに感知されない程度のゆっくりとした動きでイフリートを進めた。
ひとまず北東へ向かい、山頂手前の丘陵に隠れることにした。
本来なら山の裏まで回りたいが、下手に動き回って相手に捕まってしまっては意味が無い。
ソナーには相変わらずのび太機の姿は映らなかった。
ライは「チッ」と舌打ちする。
互い相手の姿を発見できなければ対応のしようが無い。
それもこのまま相手が動かないのなら不利なのはライのほうである。
のび太からすれば長大な射程を誇るジャイアントバズを持っているのにわざわざ自分から動く必要が無いのだ。
見晴らしのよい場所に陣取り、ひたすら相手を待てばそれでよい。
相手が接近してくれば、ソナーでそれを探知できる。
あとはそれを射撃するだけの話だ。
ならば、今の時点でこちらの作戦はただひとつ。
どっちが先に動くか根競べだ。
ライは丘陵の谷間にイフリートをかがませひたすらに待った。
のび太もまたドムに乗り、谷底でライが動き出すのを待っていた。
ライがどんな機体に乗っているかは分からないが、先に見つけてさえしまえばこのマップ程度の範囲ならすぐさま対応できる。
のび太が居るのはMAPの中心より東北へ1.2kmの地点。
MAPのほぼ端である。
機体の後方にライが居ない事はデジタル望遠で確認していた。
ならば注意を向けるべき方向は自然と限られる。
のび太とて、もっとも注意すべきなのがマップのほぼ中央にあるあの山である事くらい分かっていた。
だが相変わらずソナーにも視界にも反応が無い。
そのままどれほどの時間が経ったのか。
先に痺れを切らしたのはライだった。
ドンという大きな音がMAP上に鳴り響いた。
明らかに射撃用武器の攻撃音。
ジャイアントバズともザクマシンガンとも違う音だな、とのび太は思った。
こんな時はどうするんだっけな、と今まで授業でやってきたことを思い出すのび太。
「そうだ、音声解析だ」
そう呟くと、のび太は先ほどの攻撃音を音声解析にかけた。
結果はイフリートという機体専用のショットガンの銃声音。
つまり、ライが乗っている機体はイフリートということになる。
イフリートといえば格闘戦主体の機体だ。
今までほかのどの生徒も試みてきた事だが、ライもやはり格闘戦で仕掛けてこようというのだろう、とのび太は思った。
しかし、それは要するにこのまま射撃を構えていれば絶対に勝てるという事だ。
のび太は音の聞こえてきた方向に照準を合わせた。
しかし、やはりライは出てこない。
変わりにまたもやショットガンによる攻撃音が鳴り響いた。
今度はさっきよりもやや西側から発せられたようだった。
おびき寄せようとしているのだろうか。
そうでなければああやってわざわざ自分の居場所を教えるようなことをしても何のメリットもない。
そもそもライは正面きって敵とぶつかりたい、そういう男なのである。
のび太はその事を十分承知だった。
またもやショットガンの音が鳴り響く。
ライはまたさらに西へ動いていたようだった。
相手の挑発に乗るべきかどうか思案するのび太。
だがこれは真剣勝負、なにも相手の思惑通りに突撃して行って格闘戦に持ち込む気は無い。
だけど、のび太はこのまま引き分けに持ち込む気も無かった。
ならばどうすればいいか。
単純に考えて相手が格闘戦に持ち込めない距離を保ちながら、こちらが射撃できる位置まで回り込めばいい筈だ。
のび太は相手が最後に発砲した位置を確認すると、そこへ回りこむべく大きく北へ回りこんだ。
その時だった。
突如北側の丘陵陰からイフリートが飛び出してきた。
それはのび太が予想していたイフリートの位置よりも遥かに東だった。
「やられたっ!」
とっさに迎撃運動をとるのび太。
しかしイフリートが現れると同時に発砲してきたショットガンがのび太のドムを直撃した。
イフリートとドムの間に距離があった為、散弾の性質上たいしたダメージではない。
しかしその衝撃でジャイアントバズの照準がずれた。
そのちょっとのズレを見透かしたかのように、イフリートはとっさにのび太の砲撃をかわし、突撃してくる。
「俺がまだ西に居ると思ったか? 甘いんだよ!!」
西に移動し待ち構えていると見せかけ、東に戻る。
単純と言えばあまりに単純なその策にまんまと嵌ったのび太をライは一喝した。
しかもどうやら、偶然にもショットガンによる攻撃はジャイアントバズの照準器を破壊したらしい。
これならば格闘戦に持ち込める。
イフリートの機動性をもってすればヒートサーベルで切りつけられる距離までもう少しだ。
だが後一歩のところでのび太のドムの胸部から激しい光が迸った。
ドムの胸部に内蔵されている拡散ビーム砲である。
出力が弱い為それにより敵機を破壊する事は出来ないが、直撃すればモニターを焼きつかせる眼くらましにはなる。
だが、ライはコックピットの中で不敵に笑った。
「お前の動きなんざお見通しなんだよ!」
ライのイフリートはとっさに片手で頭部のメインカメラをかばっていた。
これによってメインモニタの焼きつきを防ぐ事が出来る。
しかしそうする半面で、ライはそんな必要も無いと考えていた。
ライにはのび太の次の動きも分かっていたのだ。
ライの予想する次ののび太の動き。
それはライを拡散ビーム砲で足止めし、即座に自分のドムを後方へ退避させる。
そしてジャイアントバズの射撃が可能な程度距離をとると、照準器による自動ロックではなく視認によって射撃をしてくるつもりだ。
並みの生徒が相手なら、ライにとってそんな攻撃をかわすのは余裕である。
が、のび太にはそれを驚異的な早さで行なうだけの射撃センスがある。
のび太に撃たせれば、避けるのは容易くない。
ならば、なにも相手の好きにさせなければいいのだ。
このまま前進し、ヒートサーベルで切りつける。
それでのび太のドムは終わる。
何も拡散ビームの光がやむのを待つ必要も無い。
モニターなど頼らずとも、目の前の敵を切りつけることなど”俺にとっては”造作も無い。
ライは迷うことなくイフリートを前に踏み込ませた。
大丈夫だ、俺はやれる。
ライには確信があった。
例えどんなにのび太が射撃の天才だろうと、そんな事では揺らぐ事の無い確固たる自負。
そう、のび太が射撃の天才と言うのなら
――紛れも無く、俺は格闘の天才だ。
「堕ちろっ!!」
ライはそう叫ぶと拡散ビームの光の中でヒートサーベルを一閃した。
「何っ!!」
ライはとっさにそう漏らした。
ヒートサーベルがドムを切りつけたらしき手ごたえが無いのだ。
拡散ビームの光が落ち、視界が戻る。
やはり目の前にドムは居なかった。
「横に回りこんだのか!」
おかしい、とライは思った。
射撃に移るなら絶対に後方に下がるはずなのに、何故。
しかしその思い込みこそがライの命取りだった。
確かにのび太は射撃の天才である。
しかし何ものび太はスナイパーというわけではない。
MSが行なう白兵戦とはありとあらゆる局面が想定される。
当然射撃だけをすればいいというわけじゃない。
それはのび太とて同じである。
ライがヒートサーベルを持った背後のドムに気づいたときには、すでにメインカメラへのヒートサーベルの一撃は避け切れなかった。
のび太がシミュレーターから降りると、生徒達から歓声が沸いた。
「流石だぜのび太。やっぱりライに勝てるのはお前しかいない!」
「まさかのび太がヒートサーベルでライを倒すとはな!」
「よっ、エースパイロット!」
のび太はそんなみんなに笑顔で返した。
そんなのび太の前に、同じくシミュレーターから下りてきたライが現れた。
ライは無表情な顔つきでのび太の眼を覗き込んだ。
ライはそのままのび太をジッと見つめている。
回りの生徒達は皆次にライがどんな態度をとるのか固唾を呑んで見守った。
なにせあのライの事だ。
負けた事に逆上して怒りだしかねない。
だけどのび太には分かっていた。
ライはそんな事をする為に自分の眼を見つめているのではないと。
お互い、同じ死線を越えたもの同士の通じる何かがあった。
「完敗だ」
一言ライはそう言った。
その目は何かを認めるようにのび太を見据えている。
「いいかのび太。宇宙に行っても絶対誰にも負けるな。お前が負けるって事はお前に負けた俺も負けるって事だ。そんなことは絶対に許さねぇ。いいか、いずれお前を倒すのは他でもねえこの俺だ」
ライはのび太を見据えたままそう言った。
「約束しろ。誰にも負けるなよ」
ライは厳しい口調だったが、ここに居るだれもがそれが恨み言なんかではない事を分かっていた。
「マケナイヨ」
のび太は真顔でそう言うと、少し沈黙をおき再び口を開いた。
「ライニモネ」
のび太は笑顔でそう付け加えた。
「なめやがって」
ライもそれに笑顔で返した。
そんな2人に周りの生徒達も大きな拍手を送った。
教官もそんな彼らを優しい眼で見守っている。
「頑張れよ」
ライはのび太にしか聞こえないくらいの小さな声でそういった。
のび太もやっぱり小さな声で「うん」と答えた。
そうしてとうとう訓練学校を出発るする日になった。
いつもよりも随分と早い時間に起きて宇宙へ持っていく荷物を改めて確認するのび太。
そうしている内にのび太の部屋へ教官がやってきて、のび太はそのまま校長室に案内された。
校長室にのび太が入ると、校長は笑顔で彼を出迎えた。
そして「君は本校始まって以来の逸材だ」と褒め称え、本来学校を主席で卒業するものだけに与えられる金の鷹勲章をのび太の胸へかけた。
そうして色々と校長は話をしたが、のび太はあまりその話に興味をもてなかった。
そんな事よりも、のび太はフレンやライ達のことばかり考えていた。
「アリガトウゴザイマシタ。シツレイシマス!」
のび太はそう言うと一礼してから校長室を出た。
そんなのび太の背中に「がんばりたまえ」と校長は声をかけて見送った。
教官はいつものように感情を表に出さない顔でのびたを案内する。
しかし内心では校長や上層部への怒りをひたすらに耐えていた。
だがこれも仕方が無いことなのだ。
軍という流れの中で、一人の人間の力など無力といっていい。
教官には己の職務を全うする以外の選択肢は無かった。
そうして教官はそのままのび太を軍用のジープへ乗せる為、屋外の駐車場へと連れ出した。
この駐車場は軍用のヘリやMSの搬入も想定されている為にとにかく広い。
言うなればコンクリートの平原だ。
そんな駐車場を埋めるほどの数の車両が止まっているわけも無く、ジープの数はまばらだった。
その中のひとつのジープの周りにだけ、なぜだか人だかりが出来ていた。
のび太には顔をみずともそれが誰かなんて分かっていた。
もちろん全員初学年A組の生徒である。
のび太がジープへ歩いていくと、みんな「おめでとう」という言葉と共に拍手でのび太を迎えた。
「ミンナ、ホントウニアリガトウ」
皆の前に立つと、のび太は心の底からみんなにそう言った。
みんな各々にのび太へ応援の言葉を返す。
そんな中、フレンが一人前へ出た。
その手には花束を持っている。
ゆっくりとフレンは口を開いた。
「ノビタ君、例えどこにいようと君は僕達の親友だ。絶対に忘れないよ」
「アリガトウ。ボクモゼッタイニワスレナイ」
そういってクラスメート一人一人を見渡すのび太。
みんなひとりひとりと思い出がある。
こうして最後にみんなに会えて本当にのび太は嬉しかった。
ただ、ライの姿だけここには無くて、それもまたライらしいなとのび太は思った。
そうしてのび太は皆に見送られてジープに乗り込んだ。
みんなはのび太のジープが見えなくなるまで、ずっと「ジークジオン」と声を張り上げていた。
最終更新:2009年11月26日 18:13