カイ・シデン

登録日:2021/11/27 Sat 21:24:19
更新日:2025/03/21 Fri 22:07:20
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こういう時は臆病なくらいがちょうどいいのよね。


カイ・シデンは、宇宙世紀ガンダムシリーズの登場人物の一人で、初登場は初代『機動戦士ガンダム』。
CVは古川登志夫(『ガンダムさん』では下山吉光)。
ちなみに古川氏は特にTV放映時には永井一郎氏と並んで多くの兼ね役*1を担当していた(その都合か不自然にもカイの影が薄い回なんかも中盤辺りまでは存在した)。

名前の由来は、そのまま第二次世界大戦中の旧日本軍の戦闘機『紫電改』からだが、特にスピードに適正があるとかいうような設定は付けられなかった。


機動戦士ガンダム


ミハル、俺はもう悲しまないぜ。
お前みたいな娘を増やさないために、ジオンを叩く!徹底的にな!

ホワイトベースでセイラさん「軟弱者!」と罵られながらビンタされたことで有名な、痩せぎすな細面で底意地の悪そうな険のある顔つきをした17歳*2の少年。普段はぶっきらぼうだったり悪ぶったりしている。

若いながらも作業用機械のライセンスを取得し、サイド7で暮らしていたが、ジオン襲撃で正規の人員が居なくなったホワイトベースの臨時クルーに。
そのホワイトベースでは、アムロフラウハヤトの兄貴分としての尊敬を勝ち取る……なんてこともなく、暇があれば性質の悪い冗談や軽口、煽るような皮肉を口にしては周囲をささくれさせ、ブライトリュウに殴られ、アムロが脱走時には「死刑に決まってらあな」*3と発言し、フラウを激昂させた。
なお、ハヤト達も含めた数名で脱走しかけたとき殴られたのは彼一人である。日頃の行いって本当大事……と思わせられるが、そんな境遇故にか実は仲間意識も強く、ジャブローカツ達が降されかけた時には同乗させ続けることを認めさせたり、誉められる時にはあからさまに照れ隠しを見せているので、敢えて怒られるような態度をとりつづけたのは、ナイーブさを隠すためのブラフだろうか。やだ、ツンデレイケメン……。

アムロ達と同様に日系かと思いきや、実はプエルトリコ系で、劇中では特に説明されることはなかったものの、父親はサイド系技術者、母親は医者*4なのでそこそこのお坊ちゃん。

本編での活躍

初陣では言われるままに機銃席に就いたり、ハヤトと共にガンタンクを操縦*5

自分より年下ながら八面六臂の活躍を見せるアムロに辛辣な言葉や態度で接し、自分もガンダムでなら活躍出来ると思っていたようだが、ガンキャノン*6に乗った初陣で弾薬を撃ち尽くしてもなお奮戦することになった戦場の恐怖を経験してからはアムロや他のクルーとの信頼関係も強まっていった*7

しかし、最前線でのエース強敵との連戦続きに反発*8

一時降船したベルファストで、幼い弟妹を養うミハル・ラトキエに強く惹かれたことがカイの運命を大きく変えることになる。

思惑があって自分に近づくミハル*9に敢えて情報を流したことで、予想以上の危機に陥ったホワイトベースを見たカイは、修理が完了したばかりのガンタンクでハヤトを救出。弟妹達と変わらないカツ達や本心から惹かれたカイへの罪滅ぼし*10の為にミハルはガンペリーに搭乗。ホワイトベースを救うために発射したミサイルの爆風*11に巻き込まれたミハルの最期*12は、臆病者と自重するカイにジオンの打倒のため激化する戦場を生き抜く原動力を与えることになる。

実際、宇宙に上がってからは相当数のMSを撃墜*13し、ア・バオア・クーへSフィールドから上陸してみせた。
最終的にはガンキャノンを破壊されるも、仲間達と共に白兵戦でホワイトベースを死守。
仲間達と同じくアムロの「声」を聞いて無事に脱出しており、このことから他のクルー達と同様にニュータイプになれたと解釈される場合もある。



余談

アムロの実家が地球にある*14ことを知った際には「へっ、裏切られたな、奴もエリート族かよ」「地球に家があるだけでもエリートさ」とまるでスペースノイドのように語っていたが、「カイ・シデンのメモリー」の回想によれば、“まっとうな仕事”をしていなかった両親*15のせいで地球各地を転々とし、その果てにサイド7に「逃げ込むよう」に流れ着いたと表している*16

知り合った途端に自分をビンタして鼓舞しその後も戦場で背中を後押ししてくれる機会が多かったセイラに対しては、ミハルとの別離もあってひそかに好意を抱いていたと解釈されることがある。
実際、担当声優の古川はカイを演じていく中で自身でもそう解釈していたようで、ソロモン戦に向かう途中のセイラからの通信に対して「愛してるよ」と返す台詞を本気の告白と捉えて演技したものの、アテレコを聞いて「カイはそんな男ではない」として怒った富野監督演技をやり直させられた
このことは、古川にとって相当に悔しかった思い出とのこと。いやリハーサルの時点で「こういう演技をして欲しい」という打ち合わせを、互いにしてなかったのだろうか?


小説版

此方では、他のクルーと同様に最初から軍人として登場。
ハヤトと共にアニメでは曖昧だったニュータイプにも明確に覚醒。
そして、アムロすら途中で退場する中で最後まで生き抜き戦争の顛末を見届けるという破格ともいえる扱いを受けている。


ORIGIN版

本作ではTV版序中盤あたりのやさぐれた雰囲気というものを膨らませられたのか、年長者にもかかわらず留年を繰り返してアムロ達と同学年のワルという扱いに。
一方で、不良グループを束ねる社交性を発揮したりアニメ以上に何でも屋としての部分を強調されたり謎のガンキャノン愛を発揮したりといった妙なこだわりというか熱血な所も。
特に、ORIGINではガンキャノンが旧式MSの扱いで性能もそれに合わせて思いっきり低く描かれ大破を繰り返しているのにそれでもガンキャノンにこだわっていたりする。
また、ニュータイプの扱いがファーストよりも後続作品に近いのかカイは戦場で成長もしなければ最終局面でアムロの声も聞くことはなかった。


機動戦士Ζガンダム


『リーダーの度量があるのにリーダーになろうとしないシャアは卑怯だ』

一年戦争後は軟禁や監視は免れたようで、嫌っていた軍属からは離れつつも連邦の社会復帰プログラムを受けてベルファスト大学でジャーナリズムを専攻。*17
通信社勤務を経てフリーのジャーナリストとして活動するようになっており、数々の著作を残すまでになっている。
特に、立場によらず戦争を拡大させる勢力への批判を基本姿勢としているらしく、戦争屋ともいうべきアナハイム・エレクトロニクスを初めとする月資本への痛烈な皮肉を込めた『月の専制君主たち』は名著として名高いようである。

本編では、捕らえられたエゥーゴの女性士官レコア・ロンドがカミーユ・ビダンに助けられる場面にて登場。どうやらティターンズの台頭により暴走する地球連邦軍の内情を探ろうとジャブローに潜入した所で見つかり、レコアと同じく捕まっていた模様。
24歳になり相変わらず細面だが険が取れて柔和な顔つきになっている。
ジャーナリストになってからはやや青みがかったような白いスーツが基本の服装になっており、本人曰く「フリーのジャーナリストってさ、いつバチカンに取材に行くか分らないだろ?」との事だが、これが文字通りの意味なのか、それとも「いつ死ぬ(=バチカンに取材に行く)か分からない」という意味なのかは分からない。
制作スタッフによればかなり現場が忙しかったため「どんな状況でこれを使うのか」を明確にする余裕がないまま服装デザインを発注してしまい ジャングルに潜入する場面なのに白いスーツ姿しか設定画がなかったそうな。
「いつバチカンに~」のセリフはそれをごまかすために付けられたらしい。
因みに、この時にレコアは拷問として辱しめを受けてしまったらしく、それを止められなかったことをレコアに詫びる発言があった(後発の劇場版(新訳Ζ)では改められ(恐らくは辱しめを受けたという出来事自体が)無くなっている)。
小説版ではレコアがアーガマに連絡するための通信機が破損しており、「ならジャブロー内の通信機を使えばいいのでは?」とカイが助言し
それで潜入して捕まったために「俺がいらんことを言ったせいでレコアの体を『傷モノに』しちまった」というのが詫びた理由。

救出された後は、ジャーナリストの立場で旧知のブライトやハヤトが居るエゥーゴとカラバに協力。
一方で、一年戦争当時は直接には顔を合わせていなかったもののエゥーゴ士官のクワトロ・バジーナシャア・アズナブルその人であることを見抜いており、本来は人の上に立つ才覚も資格もある彼が一士官に甘んじていることへの不満と、シャアとしての正体を明かし態度を表明しないのならばなぜ(ハヤトやブライトが)共闘を続けていられるのか等の疑問を抱き、ハヤトへと正体を伝えている(TV版ではメモで、劇場版では直接に口頭で)。
劇場版では軟禁の立場にあったセイラ・マスと再会してシャアへのインタビューをする場面が追加されている。


機動戦士ガンダムUC

35歳となり、ジャーナリストとして更に名声を高めている模様。
ネオジオン残党襲撃後のダカールに招かれ、地球連邦政府の移民問題評議会のローナン・マーセナス議長より直々に「ラプラスの箱」を巡るこの一連の動乱におけるビスト財団の関与の証拠を呈示され、公開するよう求められるがこれを固辞。
この時の会話から隕石落としを決行したシャアに対しては徹底的な批判の立場を取っているらしく、結果として反(ネオ)ジオンの立場をとっている。
その為、OVAでは相変わらずブライトにも協力を求められネオ・ジオンのスベロア・ジンネマンとの交渉役を任されたりもしているものの、当人としては不本意な仕事だったのだろう。

漫画版では大幅に出番が増加しており、シャンブロの襲撃により壊滅したダカールを舞台に彼を主役としたエピソードが存在する。
『獅子の帰還』では釈放されたリディ・マーセナスバナージの生存を伝えている。


【その他の作品】

漫画『機動戦士ガンダム THE ORIGIN アルテイシア0083』では、ノア夫妻の依頼で新聞記者を装いイギリスでアストライア財団の一員として戦災孤児救援の為に働くセイラのボディガードとして送られるも、自分の軟弱者ぶりを痛感。その事によりジャーナリストへの道を歩んだと語られる(ORIGINの世界観なので違和感がある位に軟弱であるかもだが)。

漫画『機動戦士Ζガンダム デイアフタートゥモロー ―カイ・シデンのレポートより―』では、劇場版『Ζ』に基づいた世界観で主役として抜擢。
グリプス戦役当時の活躍が描かれ、カラバのジャケットを着る姿も。

漫画『機動戦士VS伝説巨神 逆襲のギガンティス』では、ロンド・ベル隊発足記念式典に出席したアムロを影武者と発表するも撤回する騒ぎを起こしている。

漫画『機動戦士ガンダム ピューリッツァー -アムロ・レイは極光の彼方へ-』では、かつての仲間であるキッカがアムロを知りたいという事で協力する事となる。
この協力に関してはキッカへの親切心もあるが、一番の動機は「葬式」…アムロの死をまだ信じられない自分に対するけじめの意味も込められている。
かつてのホワイトベースクルー達との交流は今も続いており、その事でキッカを手助けするのだが…。
なおアムロやハヤトが死んでからはブライトやセイラさんに並ぶ「要注意人物」として扱われているらしい。
それとキッカがトラブルでバスタオル姿になっているときは目をそらす等、彼女をしっかりと「大人の女性」として扱っている粋なシーンもあったりする。

ゲームブック『機動戦士ガンダム シャアの帰還』では、ルオ商会を探しているシャアとホンコンシティの酒場で出会い、シャアが再び歴史の舞台に立つ事を信じ、ルオ商会への紹介状を渡した。ちなみにカイと出会うルートを通らずにルオ商会へ行くと袋叩きにされる。

劇場版機動戦士ガンダムNTでは作中で発生したサイド6ヘリウム3備蓄基地臨界爆発事故について、独自の見解を記したコラムを投稿した。(劇場第2週来場者特典)

伝説のクソゲーゲーム作品『GUNDAM 0079 THE WAR FOR EARTH』ではガンキャノンのパイロットとしてガンタンク担当のリュウとともに正規のパイロットとして登場。CVも原作と同じ。髪型は前面禿……ではなく黒い髪をオールバックにして後ろで縛っている。
周囲に対してひねくれた態度をとることはなくリュウと共に高い協調性を持つ。本来民間人の主人公がガンダムで次々と戦果を挙げることに素直に感心している。(まぁそれは選択肢を間違わなければの話で、プレイヤーからすればゲームオーバーの山でストレスが溜まってるところにこう言われて原作とは別ベクトルでイラっとした人も)

ゲームスーパーロボット大戦シリーズ』ではファーストガンダムが扱われる作品が稀であるため、基本的にZ・UC時代のジャーナリスト姿でNPCとして登場する。

ギレンの野望シリーズ』では原作を反映した高い射撃能力を持つエースとして登場。最初期は原作イベントの都合で自由に運用できないが、昨今の作品では早期から使用可能。格闘や回避もある程度育ち、射撃は連邦系パイロットでは随一の数値を誇る。伝統的に射撃能力が重要なゲームと言う事もあり、最終的にはユウ・カジマとすら並ぶ連邦オールドタイプエースとして活躍してくれる。
一年戦争verは、原作通りにホワイトベース隊に所属。何度か提案される解散指示を下せば、レビルの指揮下に入る。ただ、ベルファストで解散させた場合は、件のスパイと駆け落ちするようだ。また、小説版ベースのネオジオン・キャスバル編では、キャスバルがニュータイプとしてアムロ達に呼びかける事で、ホワイトベース隊と共に合流。ガルマ率いる新生ジオンでも、アラインメントで加入。
クリア回数を重ねていると、成長した姿でエゥーゴに加入する。能力に然程変わりはないが、相変わらず頼りになる。ホワイトベース隊との掛け合いも一年戦争verから変更されており、是非合流させて会話を楽しんでもらいたい。連邦軍LAWルートでも、エゥーゴ合流から少し遅れるが加入する。

Gジェネレーション DS』では序盤*18は敵。宇宙世紀ルートではエゥーゴにパイロットとして復帰する他、一年戦争の終盤でアムロが死亡する事で突入する隠しルートがあり、その場合にカイは上記の小説版オマージュとしてニュータイプに覚醒してジオン軍人と共にギレンを討つ展開の後、エゥーゴでνガンダムに乗っている。


【余談】

ポジションや外見が前々作『無敵超人ザンボット3』に登場する神江宇宙太(CV.ガルマ)によく似ている。
なお同作での古川氏は主人公と序盤は敵対するが、最終的に「一般人サイドの主役」とも呼べる重要キャラ・香月慎吾を演じている。それと同時に、ブッチャーの補佐として嬉々として人間爆弾等の残酷な作戦を実行するガイゾックの士官バレターも演じている。後、いっぱい。



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最終更新:2025年03月21日 22:07

*1 オスカ・ダブリン、オムル・ハング、ジョブ・ジョン、バンマス、マーカー・クラン、イリューシン、イワノフ、カヤハワ、コム、コワル、サグレド、ジェイキュー等、割と出番の多い他のホワイトベースクルーをも兼任。

*2 U.C.0061年生まれなので、セイラさんより一つ年上

*3 ブライトも苦笑しつつ認めていた上、人のことを言えた義理ではないセイラも暗に支持していた。セイラは命令を偽って戦場に飛び出し、危うく鹵獲されかけたので、マチルダから「本来なら銃殺刑は不可避」と釘を刺されている。しかもこのセイラ暴走のエピソード、アムロ脱走事件の前話である。

*4 両親とも医者という記述もあり。

*5 ガンタンクの砲手は初出撃の第3話以降「大型特殊の免許をいくつか持っている」とハヤトから駆動系を担当。

*6 第8話で「ガンキャノン、ガンタンク発進準備にかかれ!」とブライトが命じた直後に乗りこんでいる

*7 アムロへの劣等感が顕著になって空回りするようになったハヤトとは対照的。

*8 文字通り流されるままに人殺しに加担することの異常性を受け入れられる程戦争へ参加することの意味を持てなかったのだろう

*9 この時には既に地球の住人は全てエリートという認識は改めている

*10 ホワイトベース潜入時にカイに発見され「カイについていきたかった」旨の言い訳を彼に否定された後、「半分は嘘じゃない」と本音を漏らしている。

*11 夢中だったせいか一つずつミサイル発射レバーを押さなければならないのを忘れていたため

*12 28話『大西洋、血に染めて』はファースト中でも屈指の名編と言われ、担当声優の古川も思い入れがあると語っている

*13 放映当時の雑誌などでは「アムロに次ぐ連邦のNo2エース」と紹介されたが、ヤザン・ゲーブルユウ・カジマ、テネス・A・ユングやサウス・バニングやブレイブ・コッドなどの超凄腕軍人はいる

*14 本編でアムロも「(自分は)地球には住んだことはありませんから」と言い出す場面があったりする(第8話)。この時はサイド7に戻らずに地球に住むと主張する女性の「こんな気持ち、あなたにはわからないでしょうね」という発言に返しているので、面倒だから嘘をついた可能性あり。

*15 詳細は不明。戦争に先駆けて諜報活動などをしていたのだろうか?

*16 シリーズの展開途中で設定が変わったのか、単にカイが自分のことを隠してただけなのか、それとも地球で落ち着いて生活できなかったので“故郷”はないという意味か

*17 この設定からも、一年戦争後にはミハルの幼い弟妹達のことが気にかかって数年間だけだとしてもベルファストに身を落ち着けていたとも考えられるのだが、さっぱりと掘り下げられていない。それどころか弟妹達は反対に不幸な境遇となったとする外部作品がある程である。

*18 一年戦争のソロモン戦以降をジオン視点でプレイする。