魔界七貴族の一つ、クロイツ家。
貴族という肩書きからは想像できない、むしろ軍隊とでも呼んだほうがしっくりくるほどの荒くれ者の集まりである。
当主ゼルは身長5mにもなる翼竜(ワードラゴン?)であり、貴族階級でも最も特異な外見を持っている。
彼に仕える家臣達もまた、人型とは少なからず離れた姿を持つ魔界獣達である。
とはいえ、そこに野卑さや粗雑さはない。一見野蛮に見える彼らも、高度な教育と戦いの訓練を受けた一流の戦士であり、厳しい規律の元に動く組織集団なのだ。
主の命令に絶対忠実、失敗や裏切りは死をもって償う潔さ。少数ながらも、クロイツの戦士たちはその一撃必殺の特攻力から「魔界の弾丸」と恐れられている。
『バラバ・クロイツ』。
「ウルフロード」の称号を持つワーウルフの戦士であり、クロイツ家の王室付近衛兵隊長である。
その隻眼にたたえた光は、幾たびの死線をくぐり抜けた者独特のものだった。
彼は一度、とある事件がきっかけで人間界に20数年間放浪したことがある。
その時の記憶を彼はほとんど忘れてしまったが、傷つき倒れた彼を介護してくれた人間の女性のことはかすかに覚えていた。
魔界に戻ったあとの彼は、クロイツの戦士として勇猛に活躍した。
かの デミトリをして「生涯に類なき好敵手」と言わしめたほどである。デミトリはバラバの戦う姿に一種の美学、他の下賎の者にはない戦いの哲学を感じとったのだ。
しかし......魔界に戻って数十年後、彼の姿は忽然と消える。
クロイツ家の主ゼルは臣下に命じ数年間にわたって彼を探し続けたが、結局バラバは見つからなかった。
風説によると、バラバは再び人間界に渡り、かの女性と再会し、結ばれたと言われている。もちろん、その真相を知る者はいない。
ガロンの母は、彼を生んだ直後に世を去った。父親にいたってはその素性を調べる手だてすらない。
自分がダークストーカー(ワーウルフ)であるとわかったときも、父や母に対して憎悪は沸いてこなかった。
両親はあくまで知識上の存在、物心ついたころから、ガロンは独りだったのだ。
「運命」という無形のものを呪うことで、彼は人の心を保つ。すべてを受け入れ、内なる欲望のままに振る舞えるほど、強い心を持ってはいなかった。
「己の限界を超えよ」という内なる声にしたがい、彼は「戦う」こと、「己の限界をきわめる」ことに没入していく。
それはこみあげる狂気に抗する人間としての誇りだったのだろうか。
先の パイロンとの戦いで、彼は呪いを打ち破り人としての姿を取り戻すが、それが一時的な思いこみの産物に過ぎなかったことをまざまざと思い知らされる。
結局、流れる血そのものを浄化することは不可能.....。意志が未来を変えることはかなわなかった。
今回、魔次元での戦いで、彼は己の中に潜む本性と対峙する。
「戦い」が導いた運命。呪いから逃れようとして求めた己の限界への道。
その先に取り返しのつかない破局がまっていようとも、彼は進み続けるしかないのだ。
電波新聞社『ALL ABOUTヴァンパイアセイヴァー』より
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