「ただいま――」 玄関の敷居をまたぐと同時に、自然に喉からおしあがってきたその声を、頼子は自分でも驚いて飲みこんだ。今、門の前でタクシーを降りるまで、玄関を開けたら奥にどう声をかけようか迷っていたのだった。別居に踏みきって三か月が、離婚してからも半月以上が過ぎている。その間、夫の、いや夫だった秋二とは何度か電話で喋ってはいるが、離婚届の印も伯父に頼んでもらってきてもらったのだし、つまり三か月ぶりに訪れる家である。
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