村落大抵鶴沼川の岸に縁りて南より北に連なり、山高く澗深くして水田少なく菜園多し。採薪の便よくまた漁釣の利あり。3、4月の頃に雪やや消えれば、丁壯山に入りて葛根を掘り、女童家に在りてこれを粉に製し或いは蚕を養う。
桑原・舟子・芦牧・沼尾等の村々は、柴薪を伐り炭をやき山灰を製して府下に出し生産の̪資とす。
この組及び弥五島・松川・楢原の4組は俗に下郷と唱へ。
皆山中なれば府下に比するに寒強く暑弱く農務の候10余日の差あり。
常に鹿猿多く中にも数十の野猪郡をなし田園の害をなすに因り、春より秋に至るまで野外に小屋をかけ村民輪番にこれを守り、鳥銃を放ち或いは板を撃ち農器を敲いて逐い退く。
土地最煙草に宣し。多く種えて産業とす。
毎年9月頃上郷・下郷の商人、弥五島組白岩村に会集し価の高下を定め結城・下妻の方に売り出す。
農隙には下野・常陸の方に出て屋上を葺き又杣人の業をなす者あり。
秋は栗を拾って勝栗に製し府下及び他邦に鬻ぐ。
この組及び弥五島・松川・楢原・田島・高野・熨斗戸・古町・和泉田・黒谷・大塩の組々にて3月11日を地神下という。この日未明に虚臼を搗けばその聲に應じて地神降臨ありとて、虚臼を搗き粢を製してこれを祭る。10月10日を地神上という。この日は地神天上の日とて、又虚臼を搗き粢を供える。
大寒の後105日に霜ふるを百五の霜という。もっとも諸物を傷うとて、3月の頃霜祭とて生土神に参詣しその日遊楽す。
また弥五島・松川・楢原・田島・河島・高野・熨斗戸7組とこの組とには3月中兄弟契ということあり。老若男女、各年歯に従って会集し舊を話して相歓す。
門田荘に属する村1ヶ村あり(小塩村)。余は皆湯原郷に隷し長江荘と称す。
最終更新:2020年03月29日 17:01