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*シミュレーションRPGツクール 【しみゅれーしょんあーるぴーじーつくーる】 |ジャンル|ツクールシリーズ&br()(SRPG製作ソフト)|&amazon(B00005OVQR)&amazon(B000069U1W)| |対応機種|プレイステーション&br()セガサターン|~| |発売元|アスキー|~| |開発元|ペガサスジャパン|~| |発売日|1998年9月17日|~| |定価|5,800円|~| |判定|BGCOLOR(lightsalmon):''クソゲー''|~| |ポイント|素材と題材は非常に良質&br()題材ジャンルに対する研究不足が目立つ&br()メモカ全使用で容量SFC並み&br()異常に作りづらいイベント&br()思考ゴミな敵AI&br()痒いところに全然手が届かない&br()サンプルゲームもクソゲー|~| |>|>|CENTER:''[[ツクールシリーズリンク>ツクールシリーズ]]''| ---- #contents(fromhere) ---- ~ #center(){{ &big(){''~ 見知らぬ世界の物語 ~''} }} ~ ---- **概要 『RPGツクール』に代表される、手軽なゲーム作成ツール『ツクールシリーズ』の1作。PS版とSS版が同時に発売された。~ その名の通りシミュレーションRPGを作ることを目的としたものであり、1ターンごとにマップ上のキャラをコマンドで移動させ、攻撃させるというものになっている。 シミュレーションRPGというジャンルが非常に知名度をあげてきた頃の1作であり、期待値は高い作品であった。~ だが、制作はツクールシリーズでお馴染みの空想科学ではなく、シリーズでは新規参入のペガサスジャパンであった。~ 同社は、シミュレーションRPG『グレイストン・サーガ』シリーズを制作しており、経験や実績はある程度存在した。~ が、いざ作らせてみたら、ツクールの中身は問題だらけになってしまった。 **問題点 ***エディット面 -セーブデータの容量は大きい((PS版では必ずメモリーカード1枚をまるごと使う。))くせに、作成できるイベント容量は''SFCソフトの『[[RPGツクール1>RPGツクール SUPER DANTE]]』並み''。 --しかも、1マップごとの限界容量や設定できるイベント数も制限が厳しい。 --『[[RPGツクール3]]』のようにメモリーカードを複数枚用いる事も出来ない。 --キャラ、マップ、アイテムなどのシステムデータ関連は、作れる枠が多めに用意されているのだが、イベント容量がこれではゲーム中に出し切る事もできまい。 --また、ゲームデータのロード時間も非常に長い。 -どうした事か、エディットモードに''コピー・ペースト機能が存在しない''。イベントが作りづらい大きな理由の一つ。家庭用ツクールではSFC時代から毎回あるのだが…。 --制作会社が違うためノウハウがないから、なのだが主導しているのは同じなのだからそういった発想は生まれなかったのか。 -''一度作ったイベントの「開始条件」だけは、なぜか変更できない''。変更したければそのイベント自体を削除して一から作り直す必要がある。''コピペ効かないのに''。 -イベントで作れる事があまりにも限定されすぎている。 --HPが0になったキャラは死亡し、復活はできない。そして''この仕様は変更できない''。おかげで会話シーンを設定する時、いちいち気を遣わなければならない((著名作品でこの仕様の『ファイアーエムブレム(FE)』シリーズではこの問題のため『トラキア776』まで全ユニット基本のセリフは「加入時のセリフ」と「死亡時のセリフ」だけであった。なおFEシリーズでも主人公だけは「死ぬとゲームオーバー=全ステージに必ずいる」のでセリフが多く、今作も面ごとに「特定のキャラが死んだらゲームオーバー」という設定にはできるので「第5章のクリア後イベントでしゃべらせたいキャラAが第3章で加入」という場合、第3・4・5章で「Aが死亡するとゲームオーバー」という設定にすれば必ず第5章クリア時にAがいることになるという解決方法がある。))。 --敵・味方とも、面の途中で増援を出す事はできない。特定の仲間を強制出撃させる事も、退場させる事もできない(特定の敵を撤退させる事ならできる)。 --「敵キャラを説得して仲間にするイベント」は作れるのだが、''仲間にしたキャラはその面では使用できない''。 --「最初から出撃している初登場の味方キャラ」も設定できないので、「主人公達とは別に戦っていた人物と偶然出会って共闘する」というイベントも作れない。仲間が加入するシチュエーションは「敵を説得して仲間にする」「マップクリア時に加わる」以外に作りようがない。 --一度加わった仲間は外す事ができないので、別れのイベントも作れない。強制的に戦死させることも不可能。 --マップに登場できるキャラは「プレイヤー操作の味方」と「敵」のみで、NPCの味方ユニットや第三勢力を出す事は出来ない。 ---村人のような「敵にも仲間にもならないイベント用キャラ」を出したいなら、敵ユニットとしてマップに配置し、イベントが終わり次第撤退する扱いにすれば擬似的には再現できる。しかし''敵ユニットには全て「ENEMY」と小さく表示されている''ため、どうしても違和感が出てしまう。 --ユニットを自動的に動かすイベントも作れない。 --このように、出来ることがあまりにも少ないため、ガイドブックのイベント例も「画面を暗転させることで何かをしているように見せる」といった苦し紛れなイベントばかり載っている。 -マップ製作に関しては、明らかにマップチップのパターンが足りていない。 --チップ1つの大きさは『RPGツクール1』同様で、大きな単位でしか配置できない。パターンが足りない割に同じチップで埋めるなどの水増しも行っている。 --城や洞窟などのマップチップには内部の分しかないため、屋内と屋外を合わせたマップは製作できない。洞窟はまだ何とかなるが、城は無理。 -一部のBGMが変更不可能。 --ユニット編成画面、ステージクリア、エンディングのBGMは固定であり、変更ができない。エディットモードの不自由さと比べれば些細なことではあるが、それにしても制約が多すぎである。 ***戦闘面 -戦闘システムは『[[オウガバトルサーガ]]』のように、1~4人で1ユニットを形成するというもので、ユニットのリーダーを倒せばそのユニット自体を全滅させられるのだが、''戦闘はオートで行われるため、ユニット内の誰を攻撃するかは指定できない''。 --故に経験値目当てにユニット内のザコから潰すか、ユニット自体を減らすためにリーダーだけ狙うかといった作戦は立てようがない。 --更に''「移動してからの説得」は行えない''。そのため敵に隣接して次ターンで説得するか、敵の方から隣接してもらうかする必要があり、1ターンはその敵の攻撃に耐えなければならない。前述の通り攻撃は完全にオートなので、''反撃で倒してしまう事もあり得る''。 --敵のマップ上での思考ルーチンもどうしようもなくクソで、手近な敵をただ攻撃するだけ。 --回復魔法は同じユニット内のキャラにしか使用できない。このため1キャラ1ユニットにして役割分担させることもできない。 --シミュレーションRPGでありながら、戦略の立てようがない戦闘システムは致命的。本作最大の問題点と言っても過言ではない。 -武器の射程を設定出来ない。 --攻撃は全てにおいて''射程1''。広いマップが作れるのとは対照的に惜しい話である。無論マップ兵器も作れない。 --ユニット同士の戦闘中に「ユニット内の後列から攻撃できる」「敵ユニット内の全員を攻撃できる」という設定にならできるが、マップ上では隣接した敵ユニットにしかそもそも攻撃を仕掛けられない。 //---当然シミュレーションRPGには欠かせない弓兵などもいるのに、かなり勿体無い話と言えるし、これでは兵士の個性も付けづらい。 ---つまりこのゲームで想定されている弓兵は、弓で後列から攻撃する『[[伝説のオウガバトル]]』のアマゾネスのような存在と言える。 -レベルアップ時にHPと防御力は同数ずつ上昇する仕様であるため、バランス取りが非常に難しい。 --当然上昇を考慮して初期の値を弱くすれば良いというものでもない。これに限らず当時のツクールは初期値がそのまま上がり幅となる大雑把な設定なので余計に苦しい。 -無意味なパラメータが複数存在する。 --「運の良さ」のパラメータは、戦闘にはまったく影響せず、イベント発生条件にしか利用できない…のだが、''実は「技」のパラメータも同じである''。なぜそんなパラメータを2種類も用意するのか? ---しかも''説明書には運の方しかそう説明されていない''。 --各キャラには「サイズ」の概念があり、攻略本には「サイズ補正」なる設定が載っているが、''実際は働いていない''。 ---そのため「サイズの大きいキャラほどユニット編成が制限される」という程度の効果しかない。「大きいほど損」というだけ。 --地形効果パーセンテージも詳しい説明がないので、''何を意味しているのか不明である''。 ***サンプルゲーム 『ミンスター』というサンプルゲームが収録されているが、これもクソゲー。 -人間と魔族の関係など、非常に詳細な設定が冒頭で語られる。更に前半は長い会話が多く様々な情報が提示され、壮大な物語を予感させるが''それで容量を使い果たしたらしく''最後は露骨に尻すぼみに。 --全10面しかないのに、8面と9面はイベント一切なしの、ただの通過面。 --ラスボスを倒した途端、会話も何もなく突然スタッフロールに移行する。そして終了。 --BGMのチョイスもおかしく、シリアスなストーリーの割に''ゆったりした平和な曲ばかり使われている''。 ---ゲーム中盤から最終面までプレイヤーフェイズは何故かこの平和なBGMしか使われていない。曲自体のクオリティは高いのだが、いかんせん単調。 -ゲームバランスも悪い。 --マップはだだっ広いのに、殆どの味方の移動力は2か3。 ---これが特に響くのが7面。ゴールのマスに味方を送り込まないとクリアにならないのだが、''泣きたくなるほど遠くにある''。飛行ユニットを使えばショートカットできるが、''飛行ユニットは全員移動力がたったの2である''ためあまり状況は変わらない。 --ザコ敵は最初から強く、店は4面にならないと出てこない。 ---3面クリア後に仲間が増えるまでは、魔法使いの女1人ぐらいしか戦力になるキャラがいない。「なんでそんなに剣の腕が立つんだ?」と言われる仲間もいるが、''他のメンツと大差ない''。 --一応、最初の2面は敵を倒さず逃げてもクリアできるのだが…。 ---1面の敵は、名前の無いモブ兵士1人だというのに''とんでもなく強い''。勝てるかどうかはほぼ運である。しかし逃げようにも、こちらは移動力が低いので、すぐ追い付かれる。しかもここで経験値を得ておかないと、3面をとても突破できない。運任せに戦った方がマシである。 ---2面の敵は、やはり名前の無いモブ山賊なのだが、3ユニットもいるのでとても戦っていられない。こちらはアイテム回収と撤退を両立させやすいのが救いか。 --そして3面は敵を全滅させなければならない。他のメンバーを壁にして魔法をちまちま当てるぐらいしかないだろう。とはいえこの頼みの魔法も、命中率は低いのだが…。 ---ここまでは、アイテムも数えるほどしか入手できない。この面では新魔法を拾えるのだが、使えるのは前述の魔法使いの女だけ(つまり一番強い1人が更にちょっと強くなるだけ)で、自軍全体の戦力はあまり変わらない。しかも、この新魔法も''やっぱり命中率が低い''。 --しかも余計な事に''初期の仲間6人のうち3人は、1人でも死んだ途端ゲームオーバーになる仕様である''。更に後に仲間になる主要キャラ2人も死亡=ゲームオーバー仕様。 --そのくせラスボスが凄まじく弱い。''HPはザコ以下で、他のパラメータは全て0である''。しかも''なぜか1人で1ユニットなので瞬殺可能''。まるでネタである。 ---この最終面にはザコも数えるほどしかいない。一応ボスクラスの強さを持つ敵も配置されているが、何故か初期位置から一歩も動かないので存在しないも同然。ザコ2体を倒した時点でクリア確定である。 ---一応補足しておくと、ラスボスは悪政を敷く宰相であり、自身に戦闘力がなくても不思議ではない。シチュエーションとしては「強い護衛やモンスターを退け、悪の元凶を討ち取って戦いを終わらせろ」というものだが、だったら護衛やザコを前面に押し出せばよかったのではないか。 ---ちなみに名前は''「宰相」''。個人名は出てこない。確かに肩書きが名前になっているラスボスはいなくもない((例えば『ファイナルファンタジー2』や『テイルズ オブ ザ テンペスト』など。ただし、いずれも肩書き以上の設定が存在する。))が、ジョブ名=名前でそれ以上でもそれ以下でもないラスボスをシミュレーションRPGでやるのは、なんとも味気ない印象を与える。 -冒頭で長々と喋っていた3人の仲間は、その後一切イベントに登場しない。 --その後も台詞のある面々は死亡したらゲームオーバーなのに対し、この3人は死亡してもペナルティがないため。つまり結局は前述のようにツクール自体の仕様の問題である。 -''「親父さん」と呼ばれている味方キャラの戦闘時のグラフィックが、なぜか「お祈りしている女」''。会話画面の顔グラフィックは髭面なのに。 --性能的には回復魔法を使えるのだが、入手できるのは4面であり、それまではほぼ戦力外…どころか''いるだけキャラ''。 ---しかもその4面では仲間も増えており、回復魔法なんてなくてもどうにかなるようになっている。 -本作の仕様と容量から、このようにしか作りようがなかった…とも思えるが、移動力の足りなさと''「親父さん」の役立たずぶり''はフォローのしようがない。 --なお味方ユニットの中では''個人名も台詞もない「魔族の兵士3人」がやたらと強い''。彼らをユニット内の前列に出し、初期からのメンバーを後列に配置すれば、ほぼ負けなしとなる。問題は彼らが加わるのが4面なので、''地獄の3面を突破できるかどうかなのだが…''。 --余談だが、イベントガイドブックに載っているサンプルゲームは、小さめのマップに移動力の高い味方ユニット、豊富に用意されたイベント、と本作のサンプルとは正反対の作りになっている。 **評価点 -BGM、グラフィック、エフェクト素材のクオリティは高い。顔グラフィックは自作することも可能。 --戦闘時のキャラクターのアクションも、頭上で槍を回転させる騎馬兵や顔が巨大化するゴーストなど、個性的なものも多い。 ---しかし各キャラのアクションは1つずつしか用意されていないため、「装備した武器によってグラフィックが変わる」という演出はできない。 --特にBGMの評価は高い。これに関しては単純な曲の良さ以上に、ちゃんとほぼシミュレーションRPGに見合った内容のものが揃えられている。 ---戦闘用のデフォルトBGMであるNo.30は特に人気も高め。 ---PS版とSS版では、収録BGMや音調に若干違いがある。開発者の技術的問題などからSS版のほうが音質が良いことがあるのだが、本作においてはSS版のほうが音楽が安っぽい。どちらも性能は近いのだが、PSの方が高サンプリングレートの波形を扱えるのでおかしなことではない。 ---ちなみにBGMの半数を手掛けたのは畑亜貴氏。氏が楽曲担当した『ライトクルセイダー』からBGMが一曲流用されている。 -クラスチェンジに関しては様々なパターンを製作できる。途中で分岐したり、特定のアイテムを使わないとなれない職業も設定可能。 -戦闘画面やシステムの発想自体はそんなに悪くない。 --4人1組という性質上、戦闘のテンポもよくなるように考慮されているため、1人編成だけ同士の戦いがむしろ味気なくなる。 -『[[RPGツクール4]]』などと違って、前述の「サイズ補正」「地形効果」以外にバグは無い。 --言い換えれば''ほぼ仕様通りに完成しているのにクソ''という事なのだが…。 **総評 ろくなゲームがツクーレナイ…というか''ツクーリヨーガナイ''。~ BGMのクオリティは高いので、安値で売っているのを見たら''音楽鑑賞用ソフトとして買う''のがいいかもしれない。~ あるいは物語性を廃して、いかに突っ込んでくる敵を倒すかという無双ゲームとして割り切れば、ゲームとしては一応成立はする。~ それが本作の看板に見合っているかどうかは別であるが…。 否定以外しようのない内容であるが、発想やシステムなどは決して悪いものではなかった。特に素材は他のツクールと比較してもかなり良質な方である。~ つまり、もっと練りこめば良い制作ツールになったであろうことが見えるソフトというわけで、本当に勿体無い1作だった。~ こういうところは『RPGツクール4』に似ており、ノウハウのない会社に任せたが故の悲劇であると言えよう。 **その他 -本作のサンプルゲームに登場する回復魔法は「キュアライト」という名前だが、これは『RPGツクール1』のサンプルゲーム『フェイト』に登場する回復魔法と同名である。意識したのかどうかは不明。 -本作は96年から開発されていたが、度重なる発売延期により、本家である『RPGツクール3』の発売から1年弱経過してからの発売となった。それだけに発売を待ちわびていたツクールファンからの期待度は高かったが、「発売されない方がよかった」と言わざるを得ない出来にガッカリする結果となってしまった。 --出来が酷かったからなのか、あるいは『[[ティアリングサーガ ユトナ英雄戦記]]』の裁判の影響もあってか、改訂版がリリースされることはなかった。 --ちなみに『シミュレーションRPGツクール』という名義のソフトは、これに若干先んじて発売されたPC版『[[シミュレーションRPGツクール95]]』もあるが、そちらは本作のような問題点はほとんどなく、シンプル・拡張性に欠けた作りでありながらも工夫次第で独創的なゲームも作る事が出来た。いくつもの名作が生み出された優秀なツールである。
*シミュレーションRPGツクール 【しみゅれーしょんあーるぴーじーつくーる】 |ジャンル|ツクールシリーズ&br()(SRPG製作ソフト)|&amazon(B00005OVQR)&amazon(B000069U1W)| |対応機種|プレイステーション&br()セガサターン|~| |発売元|アスキー|~| |開発元|ペガサスジャパン|~| |発売日|1998年9月17日|~| |定価|5,800円|~| |判定|BGCOLOR(lightsalmon):''クソゲー''|~| |ポイント|素材と題材は非常に良質&br()題材ジャンルに対する研究不足が目立つ&br()メモカ全使用で容量SFC並み&br()異常に作りづらいイベント&br()思考ゴミな敵AI&br()痒いところに全然手が届かない&br()サンプルゲームもクソゲー|~| |>|>|CENTER:''[[ツクールシリーズリンク>ツクールシリーズ]]''| ---- #contents(fromhere) ---- ~ #center(){{ &big(){''~ 見知らぬ世界の物語 ~''} }} ~ ---- **概要 『RPGツクール』に代表される、手軽なゲーム作成ツール『ツクールシリーズ』の1作。PS版とSS版が同時に発売された。~ その名の通りシミュレーションRPGを作ることを目的としたものであり、1ターンごとにマップ上のキャラをコマンドで移動させ、攻撃させるというものになっている。 シミュレーションRPGというジャンルが非常に知名度をあげてきた頃の1作であり、期待値は高い作品であった。~ だが、制作はツクールシリーズでお馴染みの空想科学ではなく、シリーズでは新規参入のペガサスジャパンであった。~ 同社は、シミュレーションRPG『グレイストン・サーガ』シリーズを制作しており、経験や実績はある程度存在した。~ が、いざ作らせてみたら、ツクールの中身は問題だらけになってしまった。 **問題点 ***エディット面 -セーブデータの容量は大きい((PS版では必ずメモリーカード1枚をまるごと使う。))くせに、作成できるイベント容量は''SFCソフトの『[[RPGツクール1>RPGツクール SUPER DANTE]]』並み''。 --しかも、1マップごとの限界容量や設定できるイベント数も制限が厳しい。 --『[[RPGツクール3]]』のようにメモリーカードを複数枚用いる事も出来ない。 --キャラ、マップ、アイテムなどのシステムデータ関連は、作れる枠が多めに用意されているのだが、イベント容量がこれではゲーム中に出し切る事もできまい。 --また、ゲームデータのロード時間も非常に長い。 -どうした事か、エディットモードに''コピー・ペースト機能が存在しない''。イベントが作りづらい大きな理由の一つ。家庭用ツクールではSFC時代から毎回あるのだが…。 --制作会社が違うためノウハウがないから、なのだが主導しているのは同じなのだからそういった発想は生まれなかったのか。 -''一度作ったイベントの「開始条件」だけは、なぜか変更できない''。変更したければそのイベント自体を削除して一から作り直す必要がある。''コピペ効かないのに''。 -イベントで作れる事があまりにも限定されすぎている。 --HPが0になったキャラは死亡し、復活はできない。そして''この仕様は変更できない''。おかげで会話シーンを設定する時、いちいち気を遣わなければならない((著名作品でこの仕様の『ファイアーエムブレム(FE)』シリーズではこの問題のため『トラキア776』まで全ユニット基本のセリフは「加入時のセリフ」と「死亡時のセリフ」だけであった。なおFEシリーズでも主人公だけは「死ぬとゲームオーバー=全ステージに必ずいる」のでセリフが多く、今作も面ごとに「特定のキャラが死んだらゲームオーバー」という設定にはできるので「第5章のクリア後イベントでしゃべらせたいキャラAが第3章で加入」という場合、第3・4・5章で「Aが死亡するとゲームオーバー」という設定にすれば必ず第5章クリア時にAがいることになるという解決方法がある。))。 --敵・味方とも、面の途中で増援を出す事はできない。特定の仲間を強制出撃させる事も、退場させる事もできない(特定の敵を撤退させる事ならできる)。 --「敵キャラを説得して仲間にするイベント」は作れるのだが、''仲間にしたキャラはその面では使用できない''。 --「最初から出撃している初登場の味方キャラ」も設定できないので、「主人公達とは別に戦っていた人物と偶然出会って共闘する」というイベントも作れない。仲間が加入するシチュエーションは「敵を説得して仲間にする」「マップクリア時に加わる」以外に作りようがない。 --一度加わった仲間は外す事ができないので、別れのイベントも作れない。強制的に戦死させることも不可能。 --マップに登場できるキャラは「プレイヤー操作の味方」と「敵」のみで、NPCの味方ユニットや第三勢力を出す事は出来ない。 ---村人のような「敵にも仲間にもならないイベント用キャラ」を出したいなら、敵ユニットとしてマップに配置し、イベントが終わり次第撤退する扱いにすれば擬似的には再現できる。しかし''敵ユニットには全て「ENEMY」と小さく表示されている''ため、どうしても違和感が出てしまう。 --ユニットを自動的に動かすイベントも作れない。 --このように、出来ることがあまりにも少ないため、ガイドブックのイベント例も「画面を暗転させることで何かをしているように見せる」といった苦し紛れなイベントばかり載っている。 -マップ製作に関しては、明らかにマップチップのパターンが足りていない。 --チップ1つの大きさは『RPGツクール1』同様で、大きな単位でしか配置できない。パターンが足りない割に同じチップで埋めるなどの水増しも行っている。 --城や洞窟などのマップチップには内部の分しかないため、屋内と屋外を合わせたマップは製作できない。洞窟はまだ何とかなるが、城は無理。 -一部のBGMが変更不可能。 --ユニット編成画面、ステージクリア、エンディングのBGMは固定であり、変更ができない。エディットモードの不自由さと比べれば些細なことではあるが、それにしても制約が多すぎである。 ***戦闘面 -戦闘システムは『[[オウガバトルサーガ]]』のように、1~4人で1ユニットを形成するというもので、ユニットのリーダーを倒せばそのユニット自体を全滅させられるのだが、''戦闘はオートで行われるため、ユニット内の誰を攻撃するかは指定できない''。 --故に経験値目当てにユニット内のザコから潰すか、ユニット自体を減らすためにリーダーだけ狙うかといった作戦は立てようがない。 --更に''「移動してからの説得」は行えない''。そのため敵に隣接して次ターンで説得するか、敵の方から隣接してもらうかする必要があり、1ターンはその敵の攻撃に耐えなければならない。前述の通り攻撃は完全にオートなので、''反撃で倒してしまう事もあり得る''。 --敵のマップ上での思考ルーチンもどうしようもなくクソで、手近な敵をただ攻撃するだけ。 --回復魔法は同じユニット内のキャラにしか使用できない。このため1キャラ1ユニットにして役割分担させることもできない。 --シミュレーションRPGでありながら、戦略の立てようがない戦闘システムは致命的。本作最大の問題点と言っても過言ではない。 -武器の射程を設定出来ない。 --攻撃は全てにおいて''射程1''。広いマップが作れるのとは対照的に惜しい話である。無論マップ兵器も作れない。 --ユニット同士の戦闘中に「ユニット内の後列から攻撃できる」「敵ユニット内の全員を攻撃できる」という設定にならできるが、マップ上では隣接した敵ユニットにしかそもそも攻撃を仕掛けられない。 //---当然シミュレーションRPGには欠かせない弓兵などもいるのに、かなり勿体無い話と言えるし、これでは兵士の個性も付けづらい。 ---つまりこのゲームで想定されている弓兵は、弓で後列から攻撃する『[[伝説のオウガバトル]]』のアマゾネスのような存在と言える。 -レベルアップ時にHPと防御力は同数ずつ上昇する仕様であるため、バランス取りが非常に難しい。 --当然上昇を考慮して初期の値を弱くすれば良いというものでもない。これに限らず当時のツクールは初期値がそのまま上がり幅となる大雑把な設定なので余計に苦しい。 -無意味なパラメータが複数存在する。 --「運の良さ」のパラメータは、戦闘にはまったく影響せず、イベント発生条件にしか利用できない…のだが、''実は「技」のパラメータも同じである''。なぜそんなパラメータを2種類も用意するのか? ---しかも''説明書には運の方しかそう説明されていない''。 --各キャラには「サイズ」の概念があり、攻略本には「サイズ補正」なる設定が載っているが、''実際は働いていない''。 ---そのため「サイズの大きいキャラほどユニット編成が制限される」という程度の効果しかない。「大きいほど損」というだけ。 --地形効果パーセンテージも詳しい説明がないので、''何を意味しているのか不明である''。 ***サンプルゲーム 『ミンスター』というサンプルゲームが収録されているが、これもクソゲー。 -人間と魔族の関係など、非常に詳細な設定が冒頭で語られる。更に前半は長い会話が多く様々な情報が提示され、壮大な物語を予感させるが''それで容量を使い果たしたらしく''最後は露骨に尻すぼみに。 --全10面しかないのに、8面と9面はイベント一切なしの、ただの通過面。 --ラスボスを倒した途端、会話も何もなく突然スタッフロールに移行する。そして終了。 --BGMのチョイスもおかしく、シリアスなストーリーの割に''ゆったりした平和な曲ばかり使われている''。 ---ゲーム中盤から最終面までプレイヤーフェイズは何故かこの平和なBGMしか使われていない。曲自体のクオリティは高いのだが、いかんせん単調。 -ゲームバランスも悪い。 --マップはだだっ広いのに、殆どの味方の移動力は2か3。 ---これが特に響くのが7面。ゴールのマスに味方を送り込まないとクリアにならないのだが、''泣きたくなるほど遠くにある''。飛行ユニットを使えばショートカットできるが、''飛行ユニットは全員移動力がたったの2である''ためあまり状況は変わらない。 --ザコ敵は最初から強く、店は4面にならないと出てこない。 ---3面クリア後に仲間が増えるまでは、魔法使いの女1人ぐらいしか戦力になるキャラがいない。「なんでそんなに剣の腕が立つんだ?」と言われる仲間もいるが、''他のメンツと大差ない''。 --一応、最初の2面は敵を倒さず逃げてもクリアできるのだが…。 ---1面の敵は、名前の無いモブ兵士1人だというのに''とんでもなく強い''。勝てるかどうかはほぼ運である。しかし逃げようにも、こちらは移動力が低いので、すぐ追い付かれる。しかもここで経験値を得ておかないと、3面をとても突破できない。運任せに戦った方がマシである。 ---2面の敵は、やはり名前の無いモブ山賊なのだが、3ユニットもいるのでとても戦っていられない。こちらはアイテム回収と撤退を両立させやすいのが救いか。 --そして3面は敵を全滅させなければならない。他のメンバーを壁にして魔法をちまちま当てるぐらいしかないだろう。とはいえこの頼みの魔法も、命中率は低いのだが…。 ---ここまでは、アイテムも数えるほどしか入手できない。この面では新魔法を拾えるのだが、使えるのは前述の魔法使いの女だけ(つまり一番強い1人が更にちょっと強くなるだけ)で、自軍全体の戦力はあまり変わらない。しかも、この新魔法も''やっぱり命中率が低い''。 --しかも余計な事に''初期の仲間6人のうち3人は、1人でも死んだ途端ゲームオーバーになる仕様である''。更に後に仲間になる主要キャラ2人も死亡=ゲームオーバー仕様。 --そのくせラスボスが凄まじく弱い。''HPはザコ以下で、他のパラメータは全て0である''。しかも''なぜか1人で1ユニットなので瞬殺可能''。まるでネタである。 ---この最終面にはザコも数えるほどしかいない。一応ボスクラスの強さを持つ敵も配置されているが、何故か初期位置から一歩も動かないので存在しないも同然。ザコ2体を倒した時点でクリア確定である。 ---一応補足しておくと、ラスボスは悪政を敷く宰相であり、自身に戦闘力がなくても不思議ではない。シチュエーションとしては「強い護衛やモンスターを退け、悪の元凶を討ち取って戦いを終わらせろ」というものだが、だったら護衛やザコを前面に押し出せばよかったのではないか。 ---ちなみに名前は''「宰相」''。個人名は出てこない。確かに肩書きが名前になっているラスボスはいなくもない((例えば『ファイナルファンタジー2』や『テイルズ オブ ザ テンペスト』など。ただし、いずれも肩書き以上の設定が存在する。))が、ジョブ名=名前でそれ以上でもそれ以下でもないラスボスをシミュレーションRPGでやるのは、なんとも味気ない印象を与える。 -冒頭で長々と喋っていた3人の仲間は、その後一切イベントに登場しない。 --その後も台詞のある面々は死亡したらゲームオーバーなのに対し、この3人は死亡してもペナルティがないため。つまり結局は前述のようにツクール自体の仕様の問題である。 -''「親父さん」と呼ばれている味方キャラの戦闘時のグラフィックが、なぜか「お祈りしている女」''。会話画面の顔グラフィックは髭面なのに。 --性能的には回復魔法を使えるのだが、入手できるのは4面であり、それまではほぼ戦力外…どころか''いるだけキャラ''。 ---しかもその4面では仲間も増えており、回復魔法なんてなくてもどうにかなるようになっている。 -本作の仕様と容量から、このようにしか作りようがなかった…とも思えるが、移動力の足りなさと''「親父さん」の役立たずぶり''はフォローのしようがない。 --なお味方ユニットの中では''個人名も台詞もない「魔族の兵士3人」がやたらと強い''。彼らをユニット内の前列に出し、初期からのメンバーを後列に配置すれば、ほぼ負けなしとなる。問題は彼らが加わるのが4面なので、''地獄の3面を突破できるかどうかなのだが…''。 --余談だが、イベントガイドブックに載っているサンプルゲームは、小さめのマップに移動力の高い味方ユニット、豊富に用意されたイベント、と本作のサンプルとは正反対の作りになっている。 **評価点 -BGM、グラフィック、エフェクト素材のクオリティは高い。顔グラフィックは自作することも可能。 --戦闘時のキャラクターのアクションも、頭上で槍を回転させる騎馬兵や顔が巨大化するゴーストなど、個性的なものも多い。 ---しかし各キャラのアクションは1つずつしか用意されていないため、「装備した武器によってグラフィックが変わる」という演出はできない。 --特にBGMの評価は高い。これに関しては単純な曲の良さ以上に、ちゃんとほぼシミュレーションRPGに見合った内容のものが揃えられている。 ---戦闘用のデフォルトBGMであるNo.30は特に人気も高め。 ---PS版とSS版では、収録BGMや音調に若干違いがある。開発者の技術的問題などからSS版のほうが音質が良いことがあるのだが、本作においてはSS版のほうが音楽が安っぽい。どちらも性能は近いのだが、PSの方が高サンプリングレートの波形を扱えるのでおかしなことではない。 ---ちなみにBGMの半数を手掛けたのは畑亜貴氏。氏が楽曲担当した『ライトクルセイダー』からBGMが一曲流用されている。 -クラスチェンジに関しては様々なパターンを製作できる。途中で分岐したり、特定のアイテムを使わないとなれない職業も設定可能。 -戦闘画面やシステムの発想自体はそんなに悪くない。 --4人1組という性質上、戦闘のテンポもよくなるように考慮されているため、1人編成だけ同士の戦いがむしろ味気なくなる。 -『[[RPGツクール4]]』などと違って、前述の「サイズ補正」「地形効果」以外にバグは無い。 --言い換えれば''ほぼ仕様通りに完成しているのにクソ''という事なのだが…。 **総評 ろくなゲームがツクーレナイ…というか''ツクーリヨーガナイ''。~ BGMのクオリティは高いので、安値で売っているのを見たら''音楽鑑賞用ソフトとして買う''のがいいかもしれない。~ あるいは物語性を廃して、いかに突っ込んでくる敵を倒すかという無双ゲームとして割り切れば、ゲームとしては一応成立はする。~ それが本作の看板に見合っているかどうかは別であるが…。 否定以外しようのない内容であるが、発想やシステムなどは決して悪いものではなかった。特に素材は他のツクールと比較してもかなり良質な方である。~ つまり、もっと練りこめば良い制作ツールになったであろうことが見えるソフトというわけで、本当に勿体無い1作だった。~ こういうところは『RPGツクール4』に似ており、ノウハウのない会社に任せたが故の悲劇であると言えよう。 **その他 -本作のサンプルゲームに登場する回復魔法は「キュアライト」という名前だが、これは『RPGツクール1』のサンプルゲーム『フェイト』に登場する回復魔法と同名である。意識したのかどうかは不明。 -本作は96年から開発されていたが、度重なる発売延期により、本家である『RPGツクール3』の発売から1年弱経過してからの発売となった。それだけに発売を待ちわびていたツクールファンからの期待度は高かったが、「発売されない方がよかった」と言わざるを得ない出来にガッカリする結果となってしまった。 --出来が酷かったからなのか、あるいは『[[ティアリングサーガ ユトナ英雄戦記]]』の裁判の影響もあってか、改訂版がリリースされることはなかった。 --ちなみに『シミュレーションRPGツクール』という名義のソフトは、これに若干先んじて発売されたPC版『[[シミュレーションRPGツクール95]]』もあるが、そちらは本作のような問題点はほとんどなく、シンプル・拡張性に欠けた作りでありながらも工夫次第で独創的なゲームも作る事が出来た。いくつもの名作が生み出された優秀なツールである。

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