Lの季節 -A piece of memories-
【えるのきせつ あぴーすおぶめもりーず】
ジャンル
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アドベンチャー
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対応機種
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プレイステーション
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発売元
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トンキンハウス
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発売日
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1999年8月5日
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定価
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6,500円(税別)
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廉価版
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BEST PRICE 2001年6月7日/2,500円(税別)
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判定
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なし
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ポイント
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かなりの意欲作だが、出来が粗い
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Lの季節シリーズ Lの季節 -A piece of memories- / Missing Blue / Lの季節2 -invisible memories- / Lの季節ダブルポケット
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概要
現実界(普通の現代とあまり変わらない世界)と幻想界(人間以外の種族が当たり前に存在している世界)という二つの世界を題材にしたADV。
基本的にはそれぞれ登場人物の異なる独立した話だが、二つの世界は密接に関わっており、どちらの世界の主人公も手にした「七角ペンダント」を巡る事件で二つの世界が関わっていく。
キャラクターデザインに渡辺明夫(ぽよよんろっく)、主題歌に小松未歩の「手ごたえのない愛」を起用し、発売前から様々な雑誌で取り上げられ話題を攫っていた。
システム・特徴
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基本的にはテキスト文章を読み進め、表示される選択肢を選んでいくという一般的なノベルゲームの体裁。
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ただしいくつか独特なシステムも採用している。本作の発表された当時としては希少ながら、後世のアドベンチャーでは標準搭載となるような要素も多い。
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「口出し」システム
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物語の特定地点でプレイヤーの意見を「口出し」(キャラクターに対しての肯定的な意見か否定的な意見かを選択)し、それによりキャラの好感度や選択肢の内容を変更させるシステム。
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「選ばれていない側の主人公」が話しかけてくるという形式のため、もう一人の主人公と意識下で繋がっていることを暗示する側面もある。
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エモーショナルグラフ
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「主人公の女の子に対する感情」をグラフ化したもの。端的に言えば「好感度」。
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基本はグラフ表示のみなので、具体的な数値までは分からない。中央から外へ広がる形式をとっており、僅差のキャラ間のどちらが高いかなどは判別しにくい。あくまで雰囲気を楽しむもの。
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3Dマップ
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ルート分岐の繋がり方や現在位置をイメージ化した、3Dマップがほぼいつでも参照できる。
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現在行ける可能性のあるルートのみが表示される為、進行可能なルートが増えるとどんどん拡張されていく。
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なぜか3Dマップの表示機能が無駄に凝っており、並んでいるのがただの味も素っ気もないポリゴンブロックであるにもかかわらず、拡大縮小は当然のこと、縦横軸の回転までも自由自在。
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TIPS機能
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文中の難しい単語や、特別な用語の意味をボタン1つで参照できる。
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TIPSを見ないと攻略に詰まるような類の仕掛けは存在せず、原則はあくまで便利なメモ帳。シナリオ上のちょっとした演出として使われる場面もある。
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現在となっては目新しくもないが、当時は採用作品数が少なく珍しかった。
評価点
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3Dマップ
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当時としてはかなり珍しいシステム。
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攻略の上では非常に助かる便利な機能。どこのブロックからどこへ向かって、何本の枝分かれがあるのか視認できるのはありがたい。自分がいつ、どこからどのブロックへ移動したか、おおよそでも分かるのは便利。
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何周かして物語の構造が掴めてくると、地図を参考にある程度はシナリオを先読みできるようになってくるのが面白い。またブロックの繋がり方や配置などから、攻略上のヒントとしても機能する。
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ただし「分岐条件」は目に見えない為、選択肢もなく分岐した個所についてはその地点のシナリオの流れから分岐条件を想像するしかない。
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操作に慣れると、ぐるぐる回して動かすのが妙に楽しくもなってくる。
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女性のメインキャラはフルボイス。
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当時のPSソフトとしてはかなり珍しい。まして本作は文章量の多いアドベンチャーで、各キャラクターへ割り当てられた台詞が膨大なのだからなおのこと。
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演技も全体的に良好。
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OPアニメの雰囲気がよく、小松未歩の歌うテーマソングも合わせ引き込まれる。
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シナリオやキャラクターが魅力的で、微妙に不自然な点や粗い要素もあるにせよ全体的な完成度は高い。
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だれすぎない程度に充実している一周回あたりの文章量に、豊富な分岐パターンも完備。
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大雑把にくくっても現実界と幻想界、更にはそれぞれのメインとサブで四つの大きく異なるルートに分岐する。そしてその中でも選択肢によってさらに展開や結末が変わり、あるいは細部の細かな描写も選択肢によって反応が変わる。
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当たり前のことに思われるかもしれないが、本作くらい精密なフローチャートを構築し、丁寧な分岐の処理を行っているアドベンチャーはそう多くない。当たり前のことを当たり前にやっているからこそ実はすごいという典型。
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単純な文章量からも、気分的な充実感としても、そしてプレイ時間から見たコストパフォーマンスも優秀。
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ただ単にダラダラと長いわけではなく、適度な長さで一ルート分の攻略は終了すること、そして共通部分の描写もそこそこ細かく変化し飽きさせないことは評価に値する。
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それでも限度というものはあり、やり込みプレイや特定エンドを狙う際には、このボリュームが仇ともなってくるのだが。それは後述。
賛否両論点
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達成率システム
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ゲーム中、いつでも「全ルート分岐のうちのどれだけを踏破したか」がパーセント表記で参照できる。
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表示されるだけなら邪魔になるわけでもなく、やり込みたいプレイヤーの参考になっていいのだが……。
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問題はこの「達成率」が、ゲームのシステム要素追加や、一部の分岐解放条件にもかかわっているということ。
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システム面で解放される要素は、やり込みの参考になる情報の開示。またこちらの条件はさほど厳しいわけでもなく、特にルート回収を意識していなくとも、大抵は一通りのエンディングを見終えるより早く達成できる。
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特定ルート解放の方が厄介で、こちらは条件を達成するのがかなり大変。そう長くない余談的なエピソードのため、無理をしてまで達成する必要はないのが救いと言えるかどうか。
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根本的に難易度が高い
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いわゆる「ノベルゲーム」としてはかなり高めの難易度を誇る。
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メインルートを適当に一つクリアするだけならば、そこまで極度に難しいというわけでもない。ただしそれですら選択肢の先読みや好感度の変遷を意識することが必要であり、一般的な「それっぽい選択肢を数回選べばいいだけのヌルいギャルゲー」とは一線を画す。
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「クリアするだけ」ならば偶然で突破できる見込みがあるとはいえ、「メインルートのハッピーエンド」へたどり着く条件の中には前代未聞の仕掛けもある(後述)。
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サブルートはメインのハッピーエンドを一つ見るまで解放されない。実はこのおかげで、最初に限ればメインルートがクリアしやすくなっていたりする。裏を返すと、サブルートが解放されて以降はメインルートの攻略難度も上昇する。
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そして全てのエンドを見ようとすると、一気に難易度が跳ね上がる。選択肢がその場ですぐに反映されるとは限らず後々の分岐に影響していたり、事前の選択や口出し、あるいは好感度の高低によって「消滅する」選択肢まであるというのが曲者。
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分岐の条件等は分かってしまえば概ね納得のいくものが多く、攻略のし甲斐があるとして評価する声も多い。
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現実界・幻想界共、メインルートのハッピーエンドを迎えるためには、直前に逆側の世界観(現実界をクリアするなら幻想界、幻想界をクリアするなら現実界)で特定のバッドエンドを経由している必要がある。
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それ故に今度こそという気持ちにもなる為、それ自体は賛否あるものの、バッドエンドを迎えたクリア状況を引き継がないとどうやってもハッピーエンドに進めないのはさすがにちょっと不便。
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厳密に言うと「メインルートのハッピーエンド」からでもメインルートのハッピーエンドへ繋がるが、そのハッピーエンドを見るためどのみち先に一度はバッドを迎えていなければならない。
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つまり一周目は確定でバッドエンドである。3Dマップの表示もバッドエンドまでで行き止まり。どちらかのバッドへ一度でも到達すると、双方ともにグッドへ続くルートが追加で表示される。ただし厳密に言うとこの時点では、逆側の世界のハッピーエンドへしか行けない。同じ世界では先のプレイと同じ地点でバッドエンドになる。
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見た目の上の変化は、全く同じ個所で「選択肢が出る(バッドエンド直行か、ハッピーエンドを目指せる展開かの分岐)」か、「出ないで強制バッドエンド(間違った選択肢を選んだ場合と同じ展開)」かのみ。それでいて何かのエンドを迎える度にフラグが立ったり消えたりしており、ここを通過するための前提条件はとてもややこしく分かりにくい。
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現実界・幻想界を問わず、サブルート側のエンドへ行ってもフラグが消えてしまう。なのでメインルートはメインルート、サブルートはサブルートと集中的に攻略しなければ余計に負担が増える。
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物語上、互いのルート展開が影響を及ぼし合っている気配があり、意図的な演出として織り込まれた要素とは思われる。だがこの仕様により、攻略条件の把握が必要以上に難しくなってしまった。また理解していても、「メインルート攻略へ戻すためバッドを回収しに行く捨てプレイ」が発生したりするわけで……。
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そもそも普通、「前のプレイで見たエンディング」がフラグに関わっているなんて気付かない。
問題点
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シナリオの問題点
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幻想界側主人公に感情移入しにくい。
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曲が浮かばないスランプから「魔楽譜」の力に頼ろうとする設定だけでなく、プレイヤーの選択や通るルート次第では他人に暴言を浴びせたり器物破損に至ったりと問題行動が多い。
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黒幕による干渉もあったとはいえ、本編中の事件は概ね主人公のせいで発生しかつ悪化していく。その動機も極めて身勝手なものであり共感しにくい。
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一部に謎が残る。
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現実界冒頭で意味ありげに登場した「青いヒガンバナ」だが、結局シナリオに微塵も絡まない。
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独立していないシステムデータ
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周回を前提にしたゲームシステムなのにセーブデータとシステムデータが兼用である為に、達成率を上げづらい。
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エンディングに至らないとまた最初から始められず達成率が上がらないという仕様である為、何度も最初からプレイしなければならない。
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口出しシステムが不便
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実際のところ「ボタンを押さない事による会話のスルーが出来る」事を除けば、選択肢の一種でしかない。
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「会話をそのまま流す選択肢を選ぶ」という余計な手間が増えない利点もあるにはあるが。
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また3ページ分ほどの猶予がある為、通常プレイ中は問題ないが、周回プレイ中の致命的な問題として早送りしていると容赦なく飛ばされる。
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その為、「既読スキップをしていたら選択肢まで飛ばしてしまった」という状況に陥るので、口出し箇所を覚えていない場合にはうかつにスキップもできない。
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後述の通り本作のスキップ機能は速度が遅い為、一応、スキップ中でも慌てて止めれば間に合いはするが、不便には変わりない。
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エモーショナルグラフの不便な点
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前述の通り、グラフ表示のみなので、キャラ間のどちらが高いかなどは判別しにくい。
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結果として一見するとグラフ上の好感度が高いヒロインを差し置き、別のキャラがメインのルートへ進行してしまうこともある。
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もっとも選択肢による分岐の方が重要なので、実際に高さ比べが影響する場面は少ない。
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ただし好感度の多寡や事前の口出し選択により、特定の選択肢が消滅することもある。つまりある程度は意識していないと、そもそも肝心の選択肢が選べなくなる。
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スキップ速度が遅い
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なまじ本文にボリュームがあるため、この遅さで周回プレイは辛い。
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早すぎると口出し場面が一瞬で通り過ぎてしまい、反応できないからかもしれないが…。
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また、使用中はスキップボタンを押し続ける必要があり、オートスキップ機能はない。
その他の問題点
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3Dマップの問題点
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ごく少数ながら、地図の間違っている箇所がある。
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実際には繋がっていない分岐がのびていたり、逆に移動できる場所が繋がっていないなど。
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やたら機能が豊富なせいでマップ自体の使用感は悪い。変な挙動をしていて動かしにくいという感想を抱くことの方が多い。
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攻略上のガイドとして意外に重要な機能であるため、使い勝手の悪さが理解を拒む原因となってしまっているのは惜しい。
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男性キャラのみ一切ボイスがない。
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主人公やモブにボイスがないのはともかく、それ以外の重要人物でも男性キャラはボイスなし。本文上では喋っていても、彼らの台詞は音声がつかない。
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大半の主要キャラがしっかり喋ってくれている分、喋らないキャラの会話箇所が不自然に浮いてしまっている。
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女性キャラのフルボイスという点は評価すべき要素なのだが、結果としてこちらに違和感が発生していることも無視はできない。
総評
3Dマップを筆頭に独自システムを投入した意欲作だが、粗削りなシステムや感情移入しにくい異世界主人公編等、粗も多い。
全体的なシナリオやキャラの評価は高く、コアな人気は付いており、トンキンハウスオリジナルの代表作となった。
余談
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コンシューマゲームとしては珍しくスクリーンセーバー機能がついている。
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エンディングまで含めたイベント画像がフル活用された凝った出来だが、その結果、クリアしたことのあるヒロインのものしか選べず、初期状態では使えない。
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当時はブラウン管タイプのテレビでプレイする家庭が多かったため、プレイ中の寝落ち等の放置時には焼き付き対策にはなったが、どちらかと言えばおまけのキャラ別PVとしての意味合いが強い。
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この機能は続編『Missing Blue』にも搭載された。
続編
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2001年に世界観を共有する実質上の続編、『Missing Blue』が発売された。
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異様なまでにボリュームがありシナリオ評価は概ね好評なもののやりこもうとすると大変である。詳しくは該当記事を参照。
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2009年に本作の直接的な続編である『Lの季節2 -invisible memories-』(及び本作とのセットパッケージ『Lの季節 ダブルポケット』)が5pb.からPSPで発売された。
最終更新:2023年01月15日 12:55