Chicken Police - Paint it RED!
【ちきんぽりす ぺいんと いっと れっど】
| ジャンル | アドベンチャー |  | 
| 対応機種 | Windows/Mac(Steam) Nintendo Switch
 プレイステーション4
 プレイステーション5
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| 発売元 | 【Steam/PS4/PS5】HandyGames 【Switch】THQ Nordic ジャパン
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| 開発元 | The Wild Gentlemen | 
| 発売日 | 【Steam】2020年11月5日 【Switch/PS4/PS5】2020年12月10日
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| 定価 | 【Steam】2,000円 【Switch/PS4/PS5】2,310円
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| プレイ人数 | 1人 | 
| レーティング | CERO:C(15才以上対象) | 
| 判定 | 良作 | 
| ポイント | 古臭くもカッコ良さ際立つハードボイルド・ミステリー 獣頭人身の織りなす官能的雰囲気
 演出・脚本全てが昔ながらのバディアクションもの
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概要
いわゆるフィルム・ノワールと呼ばれる、1940~50年代犯罪映画の雰囲気をふんだんに取り入れたクライム・サスペンス。
テキストを読み進め、巧みな話術で会話相手を尋問、手がかりを組み合わせて事件を推理、といったオーソドックスな流れのアドベンチャーだが、
モノクロかつ陰影を多用としたビジュアルと、動物の頭に人間の身体をコラージュした登場キャラクターたちが大きな特徴となっている。
ストーリー
動物たちが種族の隔てなく、捕食者と獲物という関係すら超えて手を取り合うべく作られた独立都市国家・クロービル。
しかし種族間の根深い差別意識や文化的軋轢は消えず、大物ギャング集団と公的機関との癒着など様々な治安的問題も抱えていた。
サンティーノ・フェザーランド(サニー)はかつて、相棒のマーティン・マクチキン(マーティ)と共に「チキンポリス」と謳われる英雄的存在だったが、
今は謹慎生活を送りながら退職までの日にちを数えるだけのくたびれた刑事である。
妻と娘にはとうに逃げられ、相棒とは喧嘩別れし、あげく大晦日の夜にタバコを買いに出たはずが財布を忘れ、己の情けなさを自嘲しながら薄暗い自宅に戻るところであった。
しかし、鍵をかけたはずの自室には一匹のインパラが立っていた。
デボラと名乗るそのメスは、サニーでなくては解決できない頼み事があると言った。それは自身の雇い主であるナターシャが脅迫されているというもの。
そしてデボラより渡されたメモには、サニーのかつての妻の名があった。
「このクソッタレの夜、過去に見つめられてる、そんな気がするのはなぜだ?」
ロートルに成り果てた雄鶏は、埃まみれの銃と偽造警官バッヂとシケモクを手に、雪のそぼ降るクロービルの闇へとクチバシを突っ込むのだった。
システム
本作は前述の通り、推理アドベンチャーとして標準的な構成となっており、多くの場面が背景内の気になる箇所の調査、動物への聞き込み、地図上での選択による場所移動によって成り立っている。
以下ではそれ以外の特筆すべき要素について記載する。
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尋問
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会話対象の動物がある程度「重要参考動物」だと絞れた際に実行できるコマンド。
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1~4種の質問候補を都度適切に選択し情報を引き出すことが目的となるが、ふさわしくない質問を行うと「刑事メーター」が低下し、0になるとゲームオーバー(やり直し)となる。
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但し、余程意図的に地雷選択肢を選ばない限りは、まずゲームオーバーになることはない。
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尋問終了までに選ぶ選択肢は概ね10個程度。
 
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尋問中はサニーによる対象への評価がヒントとして表示されるため、それを元に駆け引きしつつ、自白や証言を誘導していく。
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刑事メーターの多寡によってリザルトでの評価ランクが決定するが、ストーリーの進行には影響せず、実績にのみ関係する。
 
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ミニゲーム
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ストーリー中には「カーチェイス」「縄抜け」といったいかにもサスペンス的なミニゲームが数種類あり、いずれも制限時間内に定められた条件を達成しないとストーリーが進行しない。
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また、ダイヤル錠による解錠ミッションのような謎解きを求められる場面もある。
 
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推理
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ストーリーの節目で行われる、「重要動物」「手掛かり」「証拠品」を空欄に当てはめるクイズ。
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設問に対して適切な情報・アイテムを空き枠にドラッグし、それらの関係性を4択から選ぶ、というサイクルで進行する。
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他のミステリー題材のゲームでもよく見られる、プレイヤーに物語の再認識を促すためのパートといえる。
 
評価点
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コテコテなまでに完成された「ハードボイルド・バディアクション」感
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「かつて伝説的扱いを受けるも些細なトラブルから袂を分かった警官コンビが、厄介ごとを前に再結成」。これだけでキャラクター設定は成立したと言って差し支えない。
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しかも主人公のサニーは堅物でユーモアセンスのなさを自覚する男やもめ、相棒のマーティは軽口を叩くお調子者でサニーが厄介な状況にあると知るやわだかまりも忘れ大喜びで尾いてくる、といういかにも「ドタバタ名物コンビ」の構成である。
 
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そしてこの2人を迎えるのが「ギャング」「屈強な用心棒」「高級娼館」、そして「危険な女」「予期せぬ殺人」「カーチェイス」。まるでハードボイルドとだけ打ち込んでAIに続きを書かせたかのような逸脱のなさを見せつけてくれる。
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洒落た掛け合いも忘れていない。燃える船内に閉じ込められた際に「ロマンチックな海の旅は嫌いじゃない」と言ってみせたり、腐れ縁のカフェの店主に開口一番「やあ二羽とも!まだ俺が礼儀を忘れてない内に、とっとと店から出てってくれ!」と言われたり。
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蠱惑的な魅力を持つメスに慇懃無礼に「では、不愉快な尋問を始めていいですか?」と問うて、「来ていただいたのは得意なことをやっていただくためよ」と妖しく返される、緊張感を伴った大人な雰囲気の掛け合いもあり、全編通してクサすぎるほどに文法が守られている。
 
 
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フルボイスの割にやたらボリュームの多い会話量
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そして、こうした台詞群が全てフルボイスで再生される。
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音声は英語のみ対応ではあるが、このゲーム、進行に無関係な箇所での会話発生がやたら多く、カフェのメニューを調べては互いの食の話になったり、モブの動物を見かけては過去に担当した事件の思い出話をしたりと、やたらとテキスト量が多い。
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中にはゲーム内での種別間差別に対する言及など、世界観の補強に繋がるものもあり、思わず背景もきちんと調べたくなってしまう。
 
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演技については日本語圏ユーザーが聞いて違和感のあるものではなく、むしろ「チキンポリスの協力者である吃音持ちの雄ウサギ」「ケチな犯罪で何度もしょっぴかれ警官とも奇妙な友情を持つ老トカゲ」のような癖の強いキャラクターの演じ分けが感じられるレベル。
 
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そこそこに意図が汲み取られた日本語訳
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概ねローカライズのレベルは高く、特に、人間文化であれば存在しない表現への言い換えが徹底されている。
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例を挙げれば「×人生 ○鳥生」「×お二人さん ○お二羽さん」などがあり、他に主人公たちへの蔑称が「羽毛枕」であったり、脚の負傷に言及して「モモ肉」と表現したり、努力が窺えるものとなっている。
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何せ生物としてはあくまで鶏扱いなため、「俺がヒヨコの頃…」がひよっ子の脱字でないのも本作の面白い所である。
 
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残念な点としてわずかに誤字が見られることと、話者の口調がおかしくなる場面があるが、物語の理解を損ねるほどではない。
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ちなみに後者についてはローカライズあるあるなのだが、小説と異なりゲームでは各台詞をIDで管理しているため、会話の繋がりや誰のセリフかという情報が翻訳者に伝えられないことがままある。本作においても翻訳自体にミスはないのに、会話に参加しているうち誰の発言なのか翻訳者が分からなかったせいで、こうした事故が発生していると思われる。
 
 
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頭が動物で体が人間という奇妙な絵面のインパクト
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どのキャラクターも、人間としての身体と動物としての頭は実物を撮影した写真が用いられており、当然質感はリアルだし、その分インパクトも強い。
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そこにリアルであるがゆえの違和感は当然あり、だからこそ、女性キャラの腰のラインもベテラン刑事の出っ腹も妙に際立って感じられ、各キャラクターの造形に何とも言えない魅力が伴っている。
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特に裸婦画や、娼館の受付に何枚も掲示されたコールガールたちの裸の写真は、異質な生々しさを抱かせる。
 
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またこの獣頭人身という設定はビジュアル的奇抜さのみを狙ったものではなく、物語上でも関与している。
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まずクロービルが総合的にうまく行っている国ではない事情に「種族間での差別的感情」があるが、これを人間キャラでやってしまうとあまりにデリケートな問題に見えてしまう。そこを「動物の」種族間とすることで、悲惨さは変えないまま、角の立たない表現に落とし込んだといえる。
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そのクロービルにおいてとりわけ昆虫族は貧民層・被差別階級にあたる存在であり、「自身の産んだ幼虫を食用として売らざるを得ない」と言ったエピソードで過酷な生活を無駄なく表現している。
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加えてギャングの死体処理手段として「昆虫族の居住区に死体を放置して食わせる」といった手口が示唆されている。このあたりも「半分動物だから」無理なく物語に組み込めたものだろう。
 
 
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世界観が求めているであろうそのままのBGM
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アコースティックで中低音域がやや強調されたシャッフルビート中心の楽曲は、まさに「刑事ドラマの劇伴」そのもの。
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日本国内ドラマで言えば『古畑任三郎』の楽曲群に印象が近い。カッコよく、しかし一方でどこかコミカルな、まるでシリアスな状況をも楽しんでいるかのような小気味良い調子のものが多い。
 
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警察署BGM『NOT ALL COPS ARE PIGS』はとりわけ人気があり、フルートとウッドベースのリズミカルなユニゾンに、合いの手としてブラスの少し気の抜けた下降グリッサンドが入り、ペット隊も入って盛り上がったところでフルートソロに入るというお手本のようなつくり。マーティとの再会の場である大晦日の慌ただしい署内のイメージにもよく合っている。
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殺人現場で流れる『DEAD FLY TELL NO TALES - PART2』は、ピアノとストリングスの低音域を下地にトランペットがゆったりとメロディを歌い上げる、明るく切ない曲調であり、それが却って状況のおぞましさを強調しているといえる。
 
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開発の裏側を含むおまけのアートワーク
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タイトル画面から閲覧できるアートワーク集では、作中のイラスト、設定資料などを見ることができる。
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更にコラージュする前のキャラクターの写真、つまり立ち絵として用いられたモデルの方々の写真が人の分も猫の分も収録されている。
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少量ではあるのだが、メイキング好きにはたまらないところ。
 
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他に動物園への取材風景などもあり、制作の裏側を覗ける面白いコンテンツとなっている。
 
賛否両論点
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筋書き自体は手垢のつきまくった内容
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起きることしゃべること何もかもがハードボイルドの定番であり、それは評価点としても記載したポイントなのだが、本作を推理アドベンチャーとして捉えると満場一致で賞賛とは言いにくいものになっている。
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まずメインの謎が古典ミステリの最初期レベルであり、本作リリース時点でアンフェアとか一周回ってアリとかを通り越して、ただただ「陳腐」と評価されるようなシロモノである。
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更にどんでん返し的な展開も無く、プレイヤーが物語の進行の中で自然に疑いを向けた相手がそのまま真犯人となって終わる。
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そのためある程度終盤に差し掛かると、突然物語が慌ただしく閉じていくような印象を持つ可能性がある。
 
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とはいえ本作を「2羽組のタフガイが暴れ回るクライムアクション」として評価するにあたり、ミステリであることがどれほど重要だろうか? と言ってしまうと、「このくらいがサクッと消化できるいい落としどころ」というボリュームではある。
 
問題点
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詰まりやすいポイントにおける少々の理不尽感
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基本的にはストーリーを進行するにあたり、詰まりやすい点はあまりない。多くの場合、人から話を聞き、調べられるすべてのポイントを調査すれば何かしらフラグが立つ。
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しかし詰まりやすいポイントが少量あり、かつ、それぞれ意地悪さが感じられる。
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例えば作中動物の隠し物を見つけるためにある物品を破壊する必要があるが、これが本作唯一の「カーソル変化しないのに調査可能な箇所」となっている。
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これまでのゲームルールを無視しているといっても過言ではなく、詰まる可能性はかなり高い。
 
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あるアイテムに電話番号がかかれており、ストーリー中でそこに電話する必要があるのだが、アイテム画面に拡大機能がなく、しかも調べても読み上げてくれない。
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プレイ環境によるが、スクショを撮って自前で拡大しないと読めない可能性あり。
 
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また、本作の調査シーンではカーソル移動は左スティック、視点移動は右スティックで分かれている(コンシューマ版)。これがゲーム中で説明されないため、まず部屋から出られないということになりがち。
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全体的に不完全なシステムや不親切さをプレイヤーが補完する形での攻略を求められるため、少々不公平に感じられる。
 
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足止めになりやすい一部のミニゲーム
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随所で挿入されるミニゲームについて、ストーリーの盛り上げとしては機能しているのだが、ゲームバランス面で褒められないものがある。
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特に燃え盛る船における「縄抜け」が難しい。
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複雑に絡んだロープの始点から終点までをドラッグして辿るというゲーム
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ロープ同士の重なる箇所が多く、しかもカーブするポイントが別のロープで隠れていたりするため、非常に視認しにくい。加えてモノクロでハイコントラストな本作の画調となれば、殆ど運頼みで軌道を予測するほかない。
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ゲームオーバーとなってもすぐリトライできるので何ということはないのだが、やりなおし回数のかさみやすいシーンである。
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この場面では「3回ゲームオーバーになる」のを条件とする実績があるが、狙うつもりがなくても自然に解除しがち。
 
 
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テキストウインドウに収まらない長文が勝手にスクロールされていく
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刑事モノという特性上、長セリフのある会話が多いが、対してテキストウインドウは2行分しかない。この時、末端あたりまで文字が到達すると勝手に行送りされ、1行目が見えなくなってしまう。
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テキストウインドウ内でスクロールが利くといったこともなく、バックログもないので、単純に見逃しが発生しやすい。
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一応機能として「リプレイ」というものがあり、現在再生中の一連の会話を最初からやり直ししてくれるというものなのだが、それよりは適切なUIでカバーしてほしかったところである。
 
総評
小ぶりだが、犯罪ドラマとして、そしてバディものとしての雰囲気を押さえた一作。
少々惜しい点はあるが、世界観や雰囲気をぶち壊すようなミスは少なく、老いてなおトラブルの中でしか生きられない男の生きざまがしっかり描かれている。
公式の紹介動画やサンプル画像を見て、くぐもったジャズとバーボンの匂いを感じたなら、期待を外すことはないだろう。
最終更新:2024年08月18日 02:51