はじめるセカイの理想論 -goodbye world index-
【はじめるせかいのりそうろん ぐっばいわーるどいんでっくす】
ジャンル
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アドベンチャー
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対応機種
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Windows 10/11
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発売・開発元
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Whirlpool
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発売日
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2024年2月22日
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定価
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10,780円(税10%込)
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レーティング
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アダルトゲーム
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判定
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良作
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ポイント
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異世界転生のその後を描く 全ルートがトゥルールートのような内容
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その答えはきっと世界を導くーー走り出す僕らのアンコール
概要
「Whirlpool」ブランドの新規タイトル。公式略称は「はじ論」。
パッケージとダウンロード版が同日に販売された。
フルプライスの過去作『pieces/渡り鳥のソムニウム』『アンレス・テルミナリア』などと同じくメイン原画家「水鏡まみず」、シナリオライター「近江谷宥」のコンビであり、これらのタイトルとは制作陣・ユーザーの双方から比較されやすい。
ストーリー
ここは、あなたが住む『そこ』ではないどこか。
主人公の少年・小野宮シンは、この世界を司る神の呼びかけに応えた『転生者』の一人。
「世界を正しく導いて欲しい」
神から託されたのは、この歪な世界の未来そのもの。
周りには彼と同じように異なる世界から招かれてきた仲間たち。
『世界の敵』と称される影の化け物と戦いながらも、どこか穏やかで賑やかな『日常』が続いていた。
少年の心には傷がある。
かつて彼が生きていた世界は嘘にまみれ、その嘘に彼は殺された。
この世界に転生した時、彼が神に願い獲得した能力は『ダウト』
それは、他人の嘘を見抜く力。
もう二度と、嘘が自分を傷つけないようにと。
しかし、その力は同時に仲間たちの心をも暴くものだった。
心に秘めていたことや、目を逸らしていたいもの。
そんな少女たちの傷に触れることで、ぎこちなく、少しずつ、両者の距離は縮まっていく。
日々、刻まれていく終末へのカウントダウン。
かつて自らの居場所を失い、「こうであるべきだった」という理想を胸に隠し、
招かれた少年・少女の思いによって世界は形を変えていく。
終末のその先。
誰かが掲げる理想の世界へ向けて。
(公式サイトより引用)
キャラクター
メイン
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小野宮 シン
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男主人公。嘘を強く嫌う青年。
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能力は「ダウト」。常時嘘を見破り、
嘘のテキストが赤文字
で表示される。
例
「
我は千年王ヘルミリア=ヴァン=ノクスローゼ
」
じゃあ誰なんだよ。
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2択の嘘は対の回答が真意と分かるが、上記のように、嘘をついていることは分かるが、真相は不明な場面も多々ある。
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ヘルミリア=ヴァン=ノクスローゼ
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角を生やした自称魔王だが、シンの説明で述べたように、嘘だと見破られている。
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引きこもりでゲームが趣味。
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能力は「絢爛たる12使徒」。魔物を召喚する。
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最上 ヒナギク
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弱き者を守るために戦う、戦闘好きの和の戦士。
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戦闘能力が高い反面、おバカ気味で猪突猛進な性格。
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能力は「鬼哭紅蓮」。喋る刀を用いて戦う。
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綾月 ハルカ
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高度な文明の世界出身のダウナー少女。
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図書館にいることが多く、真意が読みにくい実験を繰り返す。
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能力は「私のための物語」。持続時間30分などの縛りはあるが、魔法の本に書き込んだ内容が現実になるため非常に強力。
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ティア=フォーレンタイト
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聖女だが、愛を求めて下ネタを連呼するエロシスターである。
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とにもかくにも愛を求めており、パーティで唯一の男のシンには特にエロ絡みする。
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能力は「永遠の献身」。他人のダメージを自分が引き受ける。
サブ
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ノゾミ先生
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シン達が属する『救世委員会』の顧問。
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他人のサポートに生きがいを感じているが、時折暴走することもある。
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ヨル
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シン達と対立する存在の低身長のロリ。
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共通ルートのボス的存在だが、個別ルートも存在する。
前置き
ノベルゲームには「トゥルールート」や「グランドルート」という概念があり、条件を満たすと解禁され最後にプレイするケースが多い。
衝撃的な展開や専用楽曲が用意されて大きく盛り上がった状態でゲームを終えるため、上手くまとめあげれば「終わり良ければすべて良し」というように、作品全体の評価が高まる。
半面、それ以外のルートの印象が薄くなったり、トゥルールートで大きく取り上げられたヒロイン以外の扱いが軽くなるなどの短所もみられるため、キャラゲー的な内容とは相性の悪い部分もある。
このブランドの直近の過去作でも、フルプライスタイトルではトゥルールートを採用していたため、長所と短所もユーザーから指摘されていた。
そこで本作は過去作の評判を受け、「全ヒロインをトゥルーと感じてもらえるようなゲームにしよう」というコンセプトで制作された。(BugBugインタビュー記事より)
特徴
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「YU-RIS」エンジンによるノベルゲーム
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4人のヒロインと2人のサブヒロインに個別ルートが用意されている。
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選択肢は少な目。サブキャラと主人公のルートはロックされており、最初はメインヒロイン4人の個別ルートに入る。
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メイン一人攻略後にサブヒロイン2名のルートに入る選択肢が解禁される。
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他の全ルートを終えると主人公を掘り下げる最後のルートが解禁される。
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バッドエンドはなく、必ずいずれかのルートに入る。
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エロシーンはメインヒロインは4回、サブヒロインは2回ずつ。メインヒロインの4回目のみエンディング後にシーン回想モードに追加されるため、本編から独立している。
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システム
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画面下に固定のテキスト欄があり、話者の名前の下に1~2行の文字表示されるのが基本の形式。主人公目線の地の文など、話者欄が省略される場面もある。
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立ち絵鑑賞モードでは話者の欄まで使って4行の表示が可能。
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シーン鑑賞モードではR18シーンだけでなく、通常CGが使われたシーンの回想も用意されている。
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他のノベルゲームのフローチャートのような機能としてタイトル画面に「シーンジャンプ」の項目がある。
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共通7枠、メインヒロイン個別6×4枠、サブヒロインと主人公個別2×3枠が用意されており、それぞれにサブタイトルと簡単な概要が表示され、選択したところから話を見返せる。シーン鑑賞と異なり、セーブも可能。
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舞台設定
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転生者の集まりによる異世界転生もの。
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主人公達はパーティを組んで脅威となる敵と戦うが共通ルートで決着する。個別ルートではそれぞれの元の世界の情報が明らかになり、それらを踏まえてどのようなセカイを目指したいかが個別ルートのテーマとなる。
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主人公は戦闘向けの能力ではないので、戦闘は主にヒロインが担っている。
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過去作の小ネタ
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過去作のマスコットキャラクターが、緊急回避画像やヒロインの服に描かれているなどの小ネタがある。
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本筋には関係しないので、本作からのプレイでまったく問題はない。
評価点
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ノベルゲームに適合したシナリオ
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主人公の能力ダウトはプレイヤーにも視覚的に分かりやすく、バックログにおいてもきちんと赤文字が反映されている。
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嘘を見抜ける故に、口では強がっていても仲間を大切に思っていることが伝わるヘルミリア、序盤から嘘を繰り返すティアとの距離を感じるなど、プレイヤーも主人公と同じ目線に立てる。
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隠していたダウトの能力についてカミングアウトする場面では、ヒロインそれぞれの受け止め方の違いがよく出ている。
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SF要素の強いハルカ、愛を求めるティア、例外的に異世界に招かれたサブヒロインと方向性や掘り下げる題材が異なり、それぞれに一定の正当性を感じられる。分岐を用意できるノベルゲームと相性の良い題材である。
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主人公が能力を得るに至った過程、ヘルミリアが魔王になるまでの経緯、異世界での成長といった積み上げてきたものが生かされるヘルミリアルートは特に評価が高い。最後の二文は特に心に残る名文となっており、直後のエンディングムービーと合わせて非常に印象深い締めとなっている。
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メリハリのきいたテキスト
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美少女ゲームとしてはスタンダードな2行テキストで、小気味よい掛け合いが展開される。SD絵では複数人が登場するものも多く、コメディな場面の盛り上げに一役買っている。
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一方でシリアスパートは短いテキストの中に多くの情報が詰め込まれる。例としてサブヒロインのノゾミは個別ルートで秘密が明るみに出るが、その直後の過去回想はモブのちょっとしたやり取りだけで前世の無念が伝わってくる。
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ノゾミに限らず、シリアスパートほど長引かせずぴしゃりとまとめており、それでいて説明不足にならないような言葉選びとなっている。
シーンジャンプにおいても共通ルートなどは4行で概要が書かれているのに対し、共通ルート最後の選択肢や個別ルートの結末に関しては1~2行の短文でまとめられている。
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ノゾミルートのネタバレ
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男A「これみんな廃棄かよ。ピッカピカの新品なのにな」
男B「どこのメーカーも作りすぎなんだよな……機能にゃたいした違いもないくせに」
(原文ママ)
ノゾミがロボットだと判明した直後に流れるテキストが上記である。
モブによる自然な短文のやり取りだけで、使われることなく破棄された機械の無念が伝わり、その後にノゾミによるモノローグの補足が入る。
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イラスト
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万人受けしやすい可愛い絵柄であり、別世界からの集まったパーティのために、キャラの見分けも安易。
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エロ方面ではぷっくりとした乳首と大きめの乳輪が特徴的であり、騎乗位などでは胸がよく強調されている。
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見返しが安易なシステム
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概要が書かれたシーンジャンプとCGのシーン回想により、セーブを取り忘れた部分も見返しやすい。
賛否両論点
ルート格差
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上述したように、全ルートに力が入っているが、個別ルートの評価には差がある。
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槍玉に上がりやすいのは、メインキャラのヒナギクとシンの2名。どちらも比較的ストレートな展開であり、単独で見ればまとまってはいる。しかし、他3人のメインヒロインはやや変則的かつ感動路線を成立させていたため、それらと比べると評価が低くなりがちである。
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サブヒロイン2名
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メインヒロインの個別シーンは6枠に対し、サブヒロインは2枠しかないため、あっさり気味。
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ヒロインのCGが次々と表示されるエンディングムービーも、人物のいない背景やSD絵などでどうにか繋いでいる。
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ただ、サブヒロインは元々そういうものなので、箸休め的なポジションとして捉えられ、こちらへの批判は少ない。
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メインルートの軽いネタバレ
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ヒナギク
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前世で大切な人を守れなかった無念を引きずっており、異世界でも贖罪のために戦いを望んでいる。
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ダウトによりヒナギクの真意が判明する終盤など見どころ自体はあるが、他と比べて世界観の掘り下げが浅い。ヒナギクの目指すセカイも素直な結論である。このルートが素直なため、他ルートが際立っているため、踏み台的なポジションという見方もできる。
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こういった事情からか公式が最初に攻略するのを推奨している(プロデューサーの「アラガー」のX及びブランドのブログ)。
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ノベルゲームのユーザー間では面白いルートを後に回すのが攻略推奨順になりがちなため、4ヒロインの中ではやや評価が落ちるルートと言えるだろう。
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シン
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必ず最後に読むことになるルートでありながら、サブヒロインと同じ2枠しかない。
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理想のセカイを追求する過程で暴走するシンをヒロインたちが諭す、というシナリオだがこれも比較的ありがちかつ、他ルートと似た部分を持つ結論に至る。
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総括的な内容とも言えるが、悪く言えば二番煎じでもある。個別ルートが面白かったから、最後のルートはもっと面白いのでは? という期待には応えられていない。
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ただし、このルートが正史というわけではなく、ヒロインたちの個別ルートと同等の立ち位置であるため、他ルートの否定などにはなっていない。
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問題点
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寂しい演出面
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大切に育てていた花壇が荒らされたという場面では花壇も犯人もCGがないなど、一部でCGが不足している。
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ヘルミリアの召喚獣を除き、モブの立ち絵などもほとんどない。
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システムの惜しい点
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ムービー鑑賞はオープニングのみ対応。エンディングムービーは登録されない。
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立ち絵鑑賞モードは同時に表示できるのが3キャラまで。メインヒロイン4人を同時に並べるような遊びは不可能。
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誤字脱字の存在
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修正パッチで一部は対応された。
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しかし、肝心な場面で「長い話」とすべきところが「長い話し」になっているなどのミスが残っている。
総評
日常パートで登場人物に愛着を抱かせ、終盤のシリアスパートに深みを持たせるスタンダードなキャラゲーの文法である。
主人公を含めた7人それぞれの過去描写を経て、それぞれの抱えたものと目指すセカイを描くシナリオはノベルゲーム媒体をうまく生かせたと言えるだろう。
余談
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Whirlpool公式ファンボックスでは前日譚『はじ論SS第0話』が無料公開されている。
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テキストは黒一色のため「*嘘の文字*」のように*で文章を挟んでダウトを表現している。
最終更新:2024年10月20日 09:33