第1章 統治

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第1章 統治」を以下のとおり復元します。
[[阪本昌成『憲法1 国制クラシック 全訂第三版』(2011年刊)]]     &color(crimson){第Ⅰ部 統治と憲法   第1章 統治    本文 p.1以下}

<目次>
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*■1.政府と統治

**[1] (1) Government

国家や地方公共団体は、government と呼ばれることがある。
&color(green){&bold(){government}} は、&color(green){&bold(){担当機関を指すとき「政府」}}と訳され、&color(green){&bold(){作用を指すときには「統治」}}と訳される。
その語源は「舵取り」である。

政府としての国家・地方公共団体は、統治のための権力を独占的に与えられている。
与えられているからこそ、government なのだ。

本書では、機関としての government でもなければ、作用としての government でもない、&color(green){&bold(){第三のタームである state を「国家」と呼ぶ}}ことにしよう(地方自治を論ずる際には、地方公共団体と国家とは別々に扱う)。

&color(green){&bold(){&color(brown){憲法学}は統治を法的に統制するための装置について論ずる学であるにも拘わらず、政府という意味での government に焦点を当てない}}。
国家(※注釈:state)を軸に据え、その機関と権限を分析対象としてこれらを語る。
&color(green){&bold(){政府を語るのが&color(brown){政治学}}}、&color(green){&bold(){国家機関権限を語るのが&color(brown){憲法学}}}だ、という棲み分けが意識されているのかも知れない。
この意識以上に、政府なる用語・概念には具体的な人の姿や党派性が付き纏っている、とみられているようだ。
政府ではなく、国家・国家機関なる用語と概念は、抽象的で党派的に中立であって、偏向なき分析に適している、とみられるのである(大陸においては、“国家こそ公益性・公共性を独占する主体だ”といわれてきた背景も影響している。すぐ次に述べるように、“国家とは公民からなる政治的共同体だ”という見方は、国家こそ公共性を体現する団体だ、という理解と関連している)。

古くから&color(green){&bold(){国家の見方}}には civitas モデルと status モデルとが存在してきた。
&color(green){&bold(){civitas とは公民からなる共同体}}を、&color(green){&bold(){status とは権力機構}}を指した。
この冒頭で敢えて私の結論らしきものを急いでいえば、《&color(green){&bold(){国家は、統治に携わるための権力装置である}}》。
これが status モデルである。

**[1続き] (2) 統治の意義

では、&color(green){&bold(){統治(作用としての government)とは何をいうのか}}?

統治とは、一元的・統一的な権力支配を必須の要素とする国家の作用をいう。
権力支配とは、国家に居住する個人・団体に強制力を行使することをいう。
&color(green){&bold(){権力支配が一元的・統一的となるために、その作用はルールに従って為されるよう求められる}}。
この点が、ナマの権力の発動と権力支配との違いである。

統治のためには、組織体を必要とする。
国家統治のための諸組織体を法的地位としてみたとき、「国家機関」または「統治機関」という。
国家機関も、統治が一元的・統一的となるために、目的的ルールに従って階層的に構成され配置される。

上のことを纏めていえば、こうなる。
《&color(navy){&bold(){統治とは、国家機関を通して為す、一元的・統一的な権力支配をいう}}》。
先に、《&color(green){&bold(){国家は、統治に携わるための権力機構だ}}》と述べたのは、この言い換えである。
国家は、統治のための強制力を独占的にもち、これを正当に行使するからこそ国家なのである。
また、&color(green){&bold(){強制力をもつ国家だからこそ、それを規範的に制御するための理論が求められる}}のである([20]をみよ)。

すぐ後にふれるように、“国家は国民の政治的共同体だ”とか“国家は権力機構ではなく、公共的な役務を提供する社会団体の一つに過ぎない”といった見解もみられる。
が、これらの捉え方は、国家の本質を外している。
国家は共同体でもなければサーヴィス提供団体でもない。
共同体であるには、神聖視されている場所または神もしくは権力を共有し、人々が繋がっていることを条件とする。
この条件を人々が暗黙のうちに承認しているとき、構成員相互間に自然的な結合性向が客観的に見て取れるのである。
近代国民国家は、この共同体を崩壊させて成立したのだ(この点については、後の [5] でふれる)。

また、国家が実在するかのように語ること、国家が公共事業体であるかのように考えることは、誤導的な思考だと私は確信している。
国家は意欲する主体でもなければ、単なる公益団体でもない。

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*■2.統治の特徴

**[2] (1) 統治の独占

国際経済に与える影響や我々の日常生活に与える影響は、日本国や小さな地方公共団体と比べて、トヨタやソニーといった巨大営利企業のほうが大きいかも知れない。
巨大営利法人を「社会的権力」と称し、その構成員や取引の相手方などの「人権」保護の観点に立って、営利法人の自由を憲法的に統制しようとする憲法学者がいるのは、そのためなのだ。

ところが、国家・地方公共団体は、民間の企業とは法的性質を決定的に異にしている(いわゆる私人間効力に関する論争と、三菱樹脂事件最高裁大法廷判決を想起されたし(*注1))。
その相違は統治権力を保持しているかどうかという点にある。
民間企業がいかに巨大であっても、それは我々に課税したり逮捕・拘禁したりすることはない。
トヨタやソニーに就職希望している貴方の「契約自由」が、いかに絵空事のように見えても、貴方にはまだ無数の選択肢が残されている。
たとえ、希望通りに事が運ばないとしても、それは、一部は貴方の資質、一部は運のためだ、としか言い様がない。

国家の統治権力は、我々の希望や選択肢を無視しながら発動される。
一方的で、有無をいわさないところにその特質がある。
国家は、公共的な財やサーヴィスを提供することもあるが、それに尽きることはないのである。

|BGCOLOR(lightgray):(*注1)&color(crimson){三菱樹脂事件について}&br()この事件は、基本権が私人間の法的関係をどこまで統制するのかという、いわゆる私人間効力の争点を提起した事案である。&br()『憲法2 基本権クラシック』 [33] を参照願う。|

**[3] (2) 統治と政治

統治と似た概念として「政治」がある。
これも捉えどころのない、論争を呼ぶ概念である。
本書では、《&color(green){&bold(){政治とは、対話、説得、金銭、権力等を使いながら、人々の利害に影響を与えこれを調整する人間の活動をいう}}》としておこう。

政治の概念に注目したとき、こう言われるだろう。
“国家機関は統治だけでなく、政治にも従事しているではないか”と。
確かにその通りである。
ところが、統治と政治は同義ではない。

&color(green){&bold(){統治と政治との違い}}は、
|BGCOLOR(khaki):①|BGCOLOR(khaki):前者の統治が一元的であることを目指すのに対して、|BGCOLOR(khaki):後者の政治はその方向性を必然としていないこと、|
|BGCOLOR(khaki):②|BGCOLOR(khaki):前者の統治が国家の公式機関を通して為される組織的活動であるのに対して、|BGCOLOR(khaki):後者はそうとは限らないこと、|
|BGCOLOR(khaki):③|BGCOLOR(khaki):統治は、国家機関の活動であるだけに、ルールに従って為されなければならないのに対して、|BGCOLOR(khaki):政治はそうとは限らないこと、|
等に表れる。

&color(green){&bold(){統治について語るのが&color(brown){国法学}(または&color(brown){憲法学})}}、&color(green){&bold(){政治について語るのが&color(brown){政治学}(または&color(brown){政治社会学})}}である。

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※以上で、この章の本文終了。
&color(green){※全体目次は[[阪本昌成『憲法1 国制クラシック 全訂第三版』(2011年刊)]]へ。}

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*■用語集、関連ページ

[[阪本昌成『憲法理論Ⅰ 第三版』(1999年刊)]]

*■要約・解説・研究ノート

|BGCOLOR(#CCCC99):統治とは、|BGCOLOR(WHITE):国家機関を通して為す、一元的・統一的な権力支配をいう |BGCOLOR(WHITE):⇒憲法学(国法学)|
|BGCOLOR(#CCCC99):政治とは、|BGCOLOR(WHITE):対話、説得、金銭、権力等を使いながら、人々の利害に影響を与えこれを調整する人間の活動をいう |BGCOLOR(WHITE):政治学(政治社会学)|

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