◇おしゃべり◇ |
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『ニュースピークの諸原理』 ニュースピークはオセアニアの公用語であり、元来、イングソック(Ingsoc)、つまりイギリスの社会主義(English Socialism)の奉じるイデオロギー上の要請に応えるために考案されたものであった。1984年の段階では、話し言葉にせよ書き言葉にせよ、コミュニケーションの手段としてニュースピークだけを使う者は、まだ一人としていなかった。 ・・・(中略)・・・ |
ニュースピークは2050年頃までにはオールドスピーク(即ち我々の言う標準英語)に最終的に取って代わっているだろうと考えられた。 ・・・(中略)・・・ |
ニュースピークの目的はイングソックの信奉者に特有の世界観や心的慣習を表現するための媒体を提供するばかりではなく、イングソック以外の思考様式を不可能にすることでもあった。ひとたびニュースピークが採用され、オールドスピークが忘れ去られてしまえばmそのときこそ、異端の思考-イングソックの諸原理から外れる思考のことである-を、少なくとも思考が言葉に依存している限り、文字通り思考不能にできるはずだ、という思惑が働いていたのである。 ・・・(中略)・・・ |
「自由な/免れた」を意味するfreeという語はニュースピークにもまだ存在していた。しかしそれは「この犬はシラミから自由である/シラミから免れている」とか「その畑は雑草から自由である/雑草を免れている」といった言い方においてのみ使うことができるのである。「政治的に自由な」あるいは「知的に自由な」という古い意味で使うことはできなかった。なぜなら、政治的及び知的自由は、概念としてすらもはや存在せず、それゆえ必然的に名称が無くなったのだ。 ・・・(中略)・・・ |
ニュースピークは思考の範囲を拡大するのではなく縮小するために考案されたのであり、語の選択範囲を最小限まで切り詰めることは、この目的の達成を間接的に促進するものだった。 ・・・(中略)・・・ |
イングソックに有害な思想は言葉を伴わない曖昧な形で心に抱くしかなくて、また、それを名指そうとすれば、様々な邪説全部を一括りにし、それらを明確に定義づけないまま断罪だけする実に雑駁な用語を使うより他ないのだった。 ・・・(中略)・・・ |
1984年段階では、オールドスピークがまだコミュニケーションの通常の媒体だったため、人がニュースピークを使うときにその元々の意味を思い出すかも知れないという危険が理論上存在した。 ・・・(中略)・・・ |
しかし二、三世代も経てば、そのようなふとした過失を犯す可能性すら消失してしまうはずであった。 ・・・(中略)・・・ |
ひとたびニュースピークがオールドスピークに取って代わられると、過去との最後の絆も断たれることになったはずである。歴史は既に書き直されたが、検閲の目をくぐって過去の文献の断片がここかしこに生き残っており、オールドスピークの知識を保持している限り、それらを読むことは可能だった。しかし将来においては、こうした断片がたとえたまたま生き残ったとしても、判読不能で翻訳不能なものになっているだろう。 ・・・(中略)・・・ |
これが現実に意味するところは、およそ1960年(※注:『1984年』の革命の年)より前に書かれた書物は全体を翻訳することが出来ないということである。 |