ノベルズ ゲームセンターあらしR
【のべるず げーむせんたーあらしあーる】
ジャンル
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サウンドノベル
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対応機種
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プレイステーション
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発売元
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ヴィジット
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開発元
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ビリケンソフト
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発売日
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1999年5月4日
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定価
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5,800円(税別)
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セーブデータ
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1~3ブロック
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判定
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なし
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ポイント
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肝心のあらしシナリオが…
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ヴィジットサウンドノベルシリーズ
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コロコロコミックシリーズ
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概要
大阪のメーカーであるヴィジットが世に出した8本のPS用ノベルゲームの第5作。
その8本の中で『ハイパーノベル』にも『タレント怪談』にも属さない唯一の存在である。
1979~83年に小学館の児童誌『月刊コロコロコミック』に連載され、TVアニメ化も果たした人気漫画『ゲームセンターあらし』を下敷きにしたソフト。
パッケージ裏に掲載されている、原作者・すがやみつる氏のコメントによれば、「『あらし』を応援してくれた人達へのプレゼント」「感謝の気持ちを込めて作った」ソフトとのこと。
特徴
パッケージ裏では「4つの本格サウンドノベルをプレイして、あの伝説の『ゲームセンターあらしR』がプレイできる、新感覚オムニバスサウンドノベル」と紹介されている。
「オムニバス」の名の通り、『あらし』を含めた5本のシナリオが収録されている短編集である。
しかし、実際には『あらし』のシナリオだけは最初はプレイできない。
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他の4本のシナリオには、それぞれ複数のエンディングが用意されているが、エンディングに辿り着くとそのエンディングに応じて一定の「ポイント」が与えられる。
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「4本のシナリオ全てで最低1000ポイントずつ入手し、なおかつ合計ポイントを20000以上にする」という条件を満たすことで、初めて『あらし』のシナリオがプレイ可能となる。
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バッドエンドなど、辿り着きやすいエンディングは得られるポイントも低い。一方で、トゥルーエンドなど読み進めなければ到達できないエンディングほど高いポイントを得られる。
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一度見たエンディングに再び辿り着いても、ポイントは得られない。
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合計ポイントが一定値を越えると「〇〇点突破!!」と短いムービーが流れるという演出がある。
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『あらし』シナリオが一度解禁されると、以後ポイントはこの「ムービーが流れる」という以外の意味はなくなる。
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『あらし』シナリオの各エンディングにも、やはりポイントは配点されているが、満点の合計10万ポイントになってもやはり「ムービーが流れる」以外の特典は無い。
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しかもこのムービーは再生機能が無いので、そのセーブデータで一度見たらそれきりである。とはいえ何度も見返したくなるようなものではないのだが。
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恐らく「ゲームでハイスコアを記録した」という、原作要素のつもりだと思われる。
シナリオ
いずれも主人公やヒロインの名前は固定であり、変更機能は存在しない。
また各シナリオの世界観や登場人物も完全に独立しており、繋がりは皆無である。
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『イーブルネット』(ホラー)
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シナリオはホラー作家の石田一氏。
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ゲーム会社に突然召喚されてしまった魔王の封印を目指すという内容。近未来型の高層ビルが舞台で、登場人物が次々とゾンビ化していく。
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エンディングは全16種、その中でトゥルーエンドは1つのみ。
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『ジャスティス』(SF)
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シナリオは2011年に直木賞候補者となる犬飼六岐氏。
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宇宙船の乗員に擬態した異生物を見付けだして倒すというストーリー。SFという触れ込みだが、実際はクローズドサークルの推理ものという要素が強い。
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エンディングは全19種と最多。その中でトゥルーエンドと呼べるものは2種類。
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『野望のお笑い王国』(コメディ)
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大阪を舞台とした実写もの。お笑い芸人となって一攫千金を狙う青年が主人公。
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特定の選択肢を選ぶことで増える「隠し数値」が存在し、終盤の結末はそれによって分岐する。
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エンディングは全10種。
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『毎日がスプラッタ』(ファンタジー…と説明書にはあるが、実際は現実系の話)
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女子大生が拾ったコウモリの子供を育てるというハートフル(?)ストーリー。
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キャラクターはイラストで表現されており、原画は作家の大迫純一氏。背景はCGである。
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エンディングは全6種、その中でトゥルーエンドは1つのみ。
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『ゲームセンターあらしR』
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原作漫画の最終回で宇宙へゲーム伝道の為に旅立ったあらし達が地球に帰還するも、新たな事件に巻き込まれる…というストーリー。シナリオは原作者のすがや氏自身。
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後に『あらし』には『サラリーマントレーダーあらし』(2007年)や『プロゲーマー編』(2018年)といった続編が執筆されるが、本シナリオはそれらとは繋がっていない。また説明書には「『あらし』の外伝」と紹介されている。
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エンディングは全6種、その中でトゥルーエンドは1つのみ。
評価点
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収録されているシナリオは、どれもジャンル・シナリオライター共に異なるため、バラエティには富んでいる。文章にも特に稚拙なところは無い。
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特に『ジャスティス』は、ライターが本作の翌年に小説現代新人賞を受賞するだけあって、文章のレベルは高い。
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『イーブルネット』と『ジャスティス』のグラフィックはフルCGだが、そのレベルは極めて高い。
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登場人物は『かまいたちの夜』などと同様にシルエットで描かれているが、男性は青・女性はピンク・敵キャラは紫と色分けされており、判別しやすい。
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ムービー及びスタッフロールのスキップ機能は存在する。
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背景色を変えることで文字を読みやすくする機能も存在する。
賛否両論点
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『イーブルネット』は、前述の通りレベルの高いフルCGからなっている。気合の入ったオープニングムービーから始まり、振動や画面効果など細かい演出も凝っている…のだが、選択肢を間違えるとほぼ即死するという一発死にシナリオである。
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しかし終盤では、最後の舞台へ向かうあたりから選択肢自体が1つも登場しなくなってしまい、トゥルーエンドまで文字通り一本道となる。最も盛り上がりそうな最終決着にも選択肢無しである。途中で力尽きたのか?
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同じくCGのレベルが高く演出も凝っている『ジャスティス』も、一発死にシナリオに近い。
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こちらは「どちらを選んでも問題無し」という選択肢も少しはあるのだが、『イーブルネット』と違って最初から最後までまんべんなく即死選択肢が仕込まれている。
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冒頭で「地球から離れたところに浮かぶ宇宙船内で、半年間日常的に過ごすという実験」「遊んでいてばかりでは日常的とは言えないためか、室内で何らかの仕事や勉強を行える人ばかりが集められた」と明言されているが、なぜか職業軍人の軍曹や、日本料理の板前まで参加している。前線で働くのが仕事の軍曹や、板前が宇宙船内で仕事を行えるのだろうか?
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板前に関しては後半の謎解きのひとつに関わってくるため設定させられた…という作者の都合が拭えない。
問題点
シナリオ関連
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根本的な問題点として、『あらしR』のシナリオが最初はプレイできない事実を、パッケージ裏で明記していない。
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また他の4本のシナリオは、パッケージ裏ではタイトルと2枚の画面写真が載っているだけで、具体的なジャンルやシステムの紹介が一切無い。
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従ってタイトルの『あらし』シナリオを目当てに購入した人は、説明書を読んでその仕様に戸惑うことになる。
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そしてその『あらしR』のシナリオだが、グラフィックは原作漫画をフルカラー化した上で継ぎ接ぎしたもので、全て流用である。
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ストーリーも、話が進行するたびに「さてここで質問である。この人物は何者か?」「これは何という技か?」と、原作に関するカルトクイズが表示される。同シナリオにおける選択肢は、ほぼ全てこのカルトクイズである。
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結末も、黒幕がその後どうなったのか一切の言及が無く終わってしまうため、なんともぶん投げ感が漂う。
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前述の通り『イーブルネット』『ジャスティス』は、エンディング数自体は豊富なのだが、基本的に「一度選択肢を間違うと即バッドエンド」という一発死にが多く、水増し感がある。
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一方で、『野望のお笑い王国』『毎日がスプラッタ』の2本はエンディングが少ないうえ「共通の展開が続き、最後だけ分岐する」という結末もあるため、上記の2本と比べて両極端な作りとなっている。
システム関連
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バックログは、直前のページしか閲覧できない(つまり1ページまでしか巻き戻しできない)。
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文章は1ページ分を一度に表示できるが、スキップはできない。
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セーブは、各シナリオを特定の場所まで読み進めると現れる「セーブポイント」でしか行えない。
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セーブはシナリオごとに別々にできるが、あるシナリオでセーブすると別のシナリオのセーブ箇所がズレるというバグがある。
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再開は「そのシナリオの最初」または「直前にセーブしたポイント」のどちらかからしか行えない。同メーカーの旧作『最終電車』のようなチャート機能は存在しない。
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『毎日がスプラッタ』は、使用されているBGMが3曲ほどしかなく、しかも後半まで同じ曲が延々流れ続けている。その上この曲はMSXレベルのチープさで、クオリティが低い。
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『あらしR』のシナリオでトゥルーエンドに到達すると、本ソフト自体のスタッフロールが流れるのだが、黒い背景に各シナリオのタイトルとスタッフ名が流れるだけで、味気が無い。
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また、そのスタッフロールでは『野望のお笑い王国』が『お笑い野望の王国』と、『毎日がスプラッタ』が『毎日がすぷらった』と、それぞれ誤表記されている。
総評
スタッフロールで確認できる人数の少なさや、画面効果の少なさなど、露骨な低予算臭漂うソフトではある。
しかしシナリオのバラエティ自体は間違いなくあるので、ノベルゲーム好きのプレイヤーにとっては気に入るシナリオも見付かる…かもしれない。
問題は上記の通り、タイトルになっている『あらし』のシナリオ目当てに購入した人にとってはすぐにプレイできない・クオリティも高くないという大きな難点を抱えていることなのだが…。
余談
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原作者のすがや氏が2024年に自身のSNSで語ったことによれば、本作も『ギャラクシーウォーズ』と同じく「複雑でした。おまかせしすぎたせいです」とのことで、ソフトの具体的な内容にはあまり関わっていないことがうかがえる。
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太田出版の書籍『超クソゲー2』で本作が扱われた。これは後の『超クソゲー1+2』にも再録されている。
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内容はほぼ『イーブルネット』での主人公の死にっぷりに費やされており、『ジャスティス』には触れられてすらいない。
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発売の翌年、『毎日がスプラッタ』のシナリオライター・北山しお氏が、シナリオの内容を勝手に変更されたとして開発元のビリケンソフトを訴えている。
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その結果、ビリケンソフトは慰謝料を払うことになり、この事件は著作権判例の1つとなった(参照)。
最終更新:2024年07月07日 14:00