注意:このページでは、『世界征服彼女』とファンディスクである『World Wide Love! 世界征服彼女ファンディスク』を扱っています。



世界征服彼女

【せかいせいふくかのじょ】

ジャンル 恋愛アドベンチャーゲーム
対応機種 Windows XP/Vista/7
発売・開発元 Navel
発売日 2010年12月24日
定価 8,800円(税別)
レーティング アダルトゲーム
判定 なし
ポイント 全体的にハイクオリティだが低知名度
Navel作品リンク

概要

SHUFFLE!』や『俺たちに翼はない』等、複数の人気シリーズを抱えるNavelブランドから2010年に発売された作品。
メインライターとしては『俺たちに翼はない』でシナリオ補佐であった東ノ助氏が、キャラクターデザイン・原画担当としては西又葵氏が参加している。
東ノ助氏は後に『月に寄りそう乙女の作法』シリーズのヒットにより高い評価を得るが、本作は同シリーズ外で氏がシナリオ全体を担当している唯一の作品である。

同社の完全新作としては初めてライセンス認証が導入されており、初回起動時にはインターネット接続環境とシリアルコードが必要である。


システム

  • テキストを読み進め、時折出現する選択肢によって展開が分岐するオーソドックスなアドベンチャーゲーム。
    • 各ヒロインは特定のイベントをこなすことでフラグを立てることができ、最終的にクリスマスイヴに共に行動することでそのヒロインの個別ルートに、誰のイベントも進行させなかった場合は夢子ルートに進む。
    • その後も選択肢はいくつか続き、内容次第で2つのエンディングに派生する。
      • これらのエンディングは内容的にはスタッフロールありのグッドエンド・スタッフロールなしのノーマルエンドにそれぞれ相当する*1
      • 夢子ルートのみ2つのエンディング両方でスタッフロールが流れるものの、いずれもノーマルエンド相当の結末しか見ることができない。
    • 夢子ルートのエンディングのどちらかと、他ヒロインのグッドエンドを全て見た後、特定の手順を踏むことで夢子のグッドエンド・(もう一つの)ノーマルエンドに続くアナザールート*2に突入できる。
  • それぞれのルートは避けるべき選択肢がかなり露骨であるため、ルートロック関連を除けば目指した結末にたどり着くのは簡単である。
  • 各ヒロインのグッドエンドを見るとギャラリーからそのヒロインのおまけシナリオを閲覧できる。
    • 内容は短尺の会話と少しのアダルトシーンのみであり、10分ほどで終わる本当におまけ程度の内容である。

特徴

  • 大層な作品名やあらすじ(後述)とは裏腹に、主人公と各ヒロインの恋愛描写を重視したかなり正統派な恋愛アドベンチャーゲームである。
    • 作中で描かれる物語は11月末からの2ヶ月間ほどの話であり、冬休みを挟む関係で学園モノとしての描写はほどほどにとどまるが、それぞれキャラクターの掘り下げが深く情報量が多い。
    • どのルートでもメインヒロインの夢子の扱いは非常に大きく、最終的には主人公+攻略ヒロイン+夢子の三角関係にフォーカスした展開となるのが特徴的。
  • 肝心の世界征服に関しては夢子の圧倒的な力によって政治的・軍事的な思惑の介入がコメディチックに封殺され、力関係が一方的すぎてあまり詳しく描写されない。
    • 作中の他キャラからの扱われ方としても冗談か夢子の持ちネタの一環程度の雰囲気であり、終始明るいムードでシナリオは進行する。

ストーリー

とにかく現状維持が最優先、日々平和に過ごすことがモットーの服部征人は、
幼馴染の闇野夢子とは生まれたベットからお隣同士・両親も公認の家族同然の付き合いだった。
幼少のころから天才的な頭脳を持ち、それ故に周囲から爪弾きにされる夢子を征人は守ってきたが、
彼女が開花した才能によって圧倒的な技術力と財力、権力を手に入れた今ではそれも遠い昔の話。
一年前、夢子は「世界征服兵器ゴッドリーム」を完成させていた。
もちろん世界各国の専門家達が対策を講じるも、あまりの科学力の差にお手上げ状態、
もはや彼女のご機嫌を取るぐらいしか打つ手はなかった。
そんなある夜、なぜかテレビに夢子が登場。突然こんなことを言い出した。
「世界中のみなさんこんばんは。闇野夢子です」
「みなさんのお陰で、一年かけた試運転も無事終了しました。なんで、これから本格的な活動を始めようと思います」
「キリがいいので年明けに世界征服します」
「ちなみにマジです」
いきなりの世界征服宣言に驚く征人。当然こんな大事には関わりたくないが、
かといって親しい夢子を無視はできない。
征人は夢子を止められるのか。世界はどうなるのか。そして彼らの関係の行く末はー

キャラクター

主人公とヒロイン

主人公達の学年は2年生の11月末時点からスタートする。
レギュレーションの関係で明記されないが、舞台となる学校は高等学校相当であると思われる。

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  • 服部 征人 (はっとり ゆきと)
    • 主人公。面倒臭がりやでズボラな少年。
      毎朝の起床から食事の準備、時には勉強まで夢子に手伝ってもらっているが、中々生活態度を改められないでいる。
    • 少年漫画のような言動もあり、普段の立ち振舞いはかなりギャグ色が強く、多少辛辣な扱いをされても気に留めない。
    • 一見ダメ人間だが様子がおかしかったり弱ったりしている相手へのフォローは繊細であるため、人間的にはあまり適当な印象は受けない。
      • ここぞという場面ではヒロインに対しては誠実かつ前向きで、的確な問題解決能力を見せる。
    • 総じて日常パート・シリアスパートの両方において概ね好漢な主人公だが、夢子に対する行動は(理由付けはあるものの)不手際が目立ち、その点を納得できるかによって印象が大きく変わるキャラである(後述)。
  • 闇野 夢子 (やみの ゆめこ)
    • 天才的な頭脳を持つ主人公の幼なじみ。
    • この手のゲームのメインヒロインの常としてハイスペックになることはごく一般的なことではあるが、 彼女に至っては界隈でも珍しい程盛りに盛った設定である。
      • 雑にまとめると、容姿端麗*3・頭脳明晰*4・莫大な財力*5に加えて世界的な権力*6を持ちながら家庭的*7で優しく*8、会話のノリも良い*9…といったところである。
    • 征人にただならぬ好意を持っており、上記のスペックのほぼ全ては彼のために手に入れたものだが、征人本人は全く気付いていない。
    • ゲーム全体における彼女の扱いは大きく、どのルートのどの部分であってもその存在感が消えることがない。
      • 彼女のスペックは単なるキャラ付けの一端ではなく、感情面・恋愛面では普通の少女と変わらないことや、一般人の主人公との立場的な格差等、シナリオに起伏や深みを出すにあたり有効に活用されている。
    • 彩度高めの赤毛にユニークな髪型であり、(作中の設定は別にして)ビジュアル面で少々癖があったためか本作発売前のキャラ人気投票ではヒロイン中最下位であった。しかし、発売後の投票では2位につけており、ユーザーからその内面やキャラクター性が高く評価されたことが窺える。
  • 冬野 桜子 (とうの さくらこ)
    • 主人公のクラスの学級委員長。
    • 誰に対しても穏やかに笑顔で接することができる、クラスの人気者。
      • 善人揃いの今作の中でも群を抜いて善良な人物で、ゲーム全体で考えても棘のある言動が一切無い。それでありながら基本的に思慮深く、問題の本質を冷静に把握し妥当な解決策を提案できる聡明さも兼ね備える。
    • 海外暮らしの親戚がおり、長期休暇の際はそちらで過ごしている関係で英語も堪能。
    • 征人・夢子の両人とは前の学校からの付き合いであり、公言はあまりしないが彼らとの関係は極めて大切に考えている。
      • 征人の初恋の人物である。かつて一度だけデートに行ったこともあるが、直後に征人が受験勉強に忙殺されることになったために進展は無かった。
    • 癖のない正統派なヒロインらしいキャラであるが、逆にそれが一つの個性と感じられるほどに彼女の人物描写は徹底している。
  • 花ノ宮 亜子 (はなのみや あこ)
    • 旧華族の花ノ宮本家の人間であり、極端な国粋主義思想の持ち主。
    • 「日本男児たるもの侍の如くあるべし」といったような台詞を大真面目に口にするほど偏った考え方であり、彼女の前で軟弱 (本人判定) な立ち振舞いを行えば竹刀か素手による制裁は免れない。
    • 他者には厳しいがそれ以上に自分に厳しく、毎朝の鍛練を欠かさない剣道の有段者である。普段は丁寧な言葉遣いであり、礼儀作法や伝統芸能に関する知識が(偏りはあるが)豊富。
    • 夢子と同じく超富裕層と言える財力・権力を持つが、庶民的な感覚を持つ彼女とは対照的に、特に金銭感覚は完全に一般常識から解離している。
    • 個性の固まりのような人物ではあるがかなり親切な性格で、自らに非があると分かれば素直に認める潔さもある。個性的な部分も作中ではギャグ描写の材料として処理されることが多く、意外な親しみやすさからプレイヤーからも作中のキャラからも人気を集めている。
    • 彼女の固有BGMは後年の『月に寄り添う乙女の作法』にアレンジされて使用されている他、 あろうことかシリーズ作品の一部には彼女本人がそれなりの尺で登場する (立ち絵は無し)。
      • この手のゲームの、それもメインヒロインの一人がシリーズ外の作品に出演し、かつ少なくない分量の会話が存在することは非常に珍しい。
  • 棟本 椿子 (むねもと つばきこ)
    • 主人公の一つ下の学年の後輩。
    • 男性不信の百合少女であり、夢子に心酔していてよくくっついている。
    • 常に夢子の隣にいる征人には恋のライバルとして当たりが強いが、根の部分は常識的であるため、征人もコミュニケーションの一環として深刻には考えていない。
    • 身長が145cmしかないのにもかかわらず並外れたプロポーションを持ち、無暗にナンパされる遠因にもなっているが、本人にその自覚は全くない。
    • 夢子に限らず恋した相手には積極的であり、個別ルートでの立ち振舞いの変化は段階を踏んで極めて丁寧に描かれている。
      • 男性不信を含め一見尖った言動だが、作中で明かされるその経緯を鑑みると性格は相当丸い方である。普段は亜子の国粋主義と同じくギャグ描写の一環として扱われることが多いため、プレイヤー目線で言えばむしろ好印象になりやすい。
    • 日常パートでの賑やかさや恋愛面での純粋で実直な態度が評価されてか、発売前後の人気投票では両方で1位に輝いている。
  • 古奈 菜子 (こな なこ)
    • 主人公のクラスに最近編入してきた転校生。
    • よくある無表情系のヒロインであるが、意外とノリは良く彼女の絡む掛け合いはユニークであることが多い。
    • 私服はジャージが主で年頃の女性らしい流行には疎い面があるが、料理や買い物の仕方が上手く生活能力は高い。
    • 共通ルートの間は本人の性格もあって会話数が少ないが、個別ルートに入ると他のヒロインにも増して大幅にエピソード数が増える。当然、彼女のパーソナリティーや性格についての情報も充実するため、描写不足を感じる可能性はほとんどないだろう。
      • 日常パートでの地味な面白さや所帯染みた性格も良い方向に作用し、総じて設定の割には親近感を持ちやすいキャラクターである。

サブキャラクター(一部)

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  • 矢式 百春 (やしき ももはる)
    • 主人公の親友。
    • 高身長かつドイツ系クォーターのイケメンではあるが、自身の恋愛には無関心。
    • 歌舞伎役者を志しており、作中でも日常的に稽古に勤しんでいる。
      • 役者志望だからか芝居がかった話し方であり、少年漫画風の話し方をする征人の会話はショートコントのようである。
    • 夢子と征人の関係をよく観察しており、ゲーム全体を通して彼の助言によって事態が好転・進展する場面は多い。
    • ユニークさと冷静さ・問題解決能力を持ちながら友情に厚い面もあり、地味に非の打ちどころのない人物と言える。
  • 花ノ宮 良子 (はなのみや よしこ)
    • 花ノ宮家の次女で亜子の妹。
    • 今作では花ノ宮本家の屋敷に住んでいる関係上出番は少ないが、下記のファンディスクでは他のヒロインと同程度のボリュームの攻略ルートが実装された。
    • 主人公の二学年下であり、幼いころから周囲に愛されて育った天使のような少女。
      • 立ち振舞いに全く棘がなく穏やかではあるという点は前述の桜子と同じだが、良子の場合は人の悪意や争いに無縁で人に攻撃的に接するという発想がそもそも無いという側面もある。
    • 学業面では全ての教科に関して極めて優秀である。特に古典文学に関する教養は自身の趣味でもあるため並外れており、日常会話の中にもしばしば和歌が交えられる。
    • 夢見がちな印象ではあるが有事の際には世俗の都合も飲み込んで我を通す芯の強さを持ち、その点は姉の亜子と通ずる部分がある。
    • キャラデザインはゲーム雑誌である電撃G'magazine上の企画で一般公募され、採用されたものを西又氏が完成させる形で作成された。

評価点

テキスト

  • 好評であった『俺たちに翼はない』シリーズから続くテキストのクオリティは健在であり、多方面において本作の完成度を引き上げている。
    • もちろん場面ごとの方向性の違いはあれど、共通するのはその情報量の多さであり、プレイ体験として満足度が高い。
  • 日常パートのテキストはギャグセンスが光る。1~3クリックごとに意外性のある言い回しや比喩表現、ボケやツッコミが入るほど密度が高いシーンも複数存在する。
    • 実際のプレイ中は声優諸氏の演技や効果音、演出上の工夫等の様々な構成要素も上手く噛み合い、文面上のイメージよりもさらに賑やかな印象となる。
  • 国内外の歴史やネットスラング、近年のサブカルチャー的文化を踏まえた上での表現もあり、ライターの引き出しの多さが窺える。一般的な表現であってもどこか言葉選びや表現にアイデア性があり、読んでいて安定して面白い。
    • 明らかに手癖で書けるクオリティではなく、制作上の労力は想像を絶する。
  • そこまでギャグに振っていない静かめの日常のシーンも和やかな雰囲気が上手く表現されている。
    • 主人公の征人には友達が少なく、その分新しい友人の知らない一面を発見したり良好な関係性を喜んだりする描写が多いため、温かい気持ちでプレイできる。また、そうした丁寧な説明は作中のキャラや主人公の属するグループへの愛着、ひいては以降の展開への感情移入にも貢献している。
  • シリアスなシーンでは、特に各キャラクターの細かい仕草や感情の機微が重点的に補足される。
    • 本作のシナリオそのものは案外王道的、悪く言えば予想通りな部分も多いのだが、テキストによる臨場感が大きいためプレイ感覚としては内容が濃く、興味深く感じやすい。
  • 人物描写は表面的な情報だけでなく、それを踏まえた上での内面や感情的な部分の解説も充実しており、キャラクターの掘り下げの深さに寄与している。
  • 話そのものの見せ方にも幅がある。日常描写が長く続く部分ではあえて時系列を半日ほど飛ばしてから回想で経緯を補足するパートを入れたり、切羽詰まった場面では独白文を減らしてキャラの台詞のみでスピード感のある進行をさせる等、様々な工夫が凝らされているため読んでいて飽きにくい。

シナリオ

  • 突飛な設定とは裏腹にきちんと段階を踏んだ順当な恋愛描写がなされており、展開に妥当性と説得力がある。
    • 各ヒロインの1ルートあたりのエピソード量が充実しており、買い物に行ったりそのキャラの身の上話を聞いたりといった何気ない描写の積み重ねは没入感の一助となり、キャラクターをより奥行きある存在にしている。
  • 特に桜子ルートと椿子ルートは主人公とヒロインの心情や葛藤、変化していく関係性を様々なシチュエーションの蓄積によって丁寧に描いており、主人公とヒロインのそれぞれの魅力が特に強く出ていることもあって評価が高い。
  • ルート外のヒロインの使い方も効果的。必ず一定の出番が存在するのはもちろん、さらにその行動や顛末もルートによって変化する等、多様な展開が見られる。
  • グッドエンドはもちろん、ノーマルエンドもよく作り込まれている。
    • グッドエンド以外の結末がヒロインごとに個別に存在することそのものも珍しいが、本作に至っては(スタッフロールが無いこと以外は)その尺も内容もグッドエンドと同等と言える。各ルートの人間関係に起因する複数の可能性を丁寧に描いており、その展開はグッドエンド寄りのものからコメディチックなものまで非常にバリエーション豊か。
      • 主人公や各キャラクターの行動にも無理がなく妥当性のある結末であるため、ルートロックやおまけシナリオの解放には貢献しないが一見の価値はある。

キャラクター

  • 各ヒロイン・サブキャラクター共に個性的な人物が揃っており、全員の人気が高いと言っても過言ではない。
  • 基本的に悪意が無く全員が善良でありながら、有事の際には割と頭が回るキャラも多く、一部シーンの主人公を除いて(後述)能力面でのストレスも皆無。
  • 前述のシナリオとテキスト上の工夫もあり、その性格や趣味等の一つ一つに理由付けやエピソードがある場合が多く、人物像をイメージしやすい。
  • ギャグパートでは良い意味で三枚目的なはっちゃけぶりも見られ(特に亜子)、総じてスペックが高いキャラ達の割には親近感を持ちやすく受け入れやすい。
    • 声優諸氏の演技もこれ以上なくマッチしており、特に各ヒロインを担当する方々の演技力は本作の優れたプロットの面白さを何倍にも引き上げている。
      • 主人公を除く登場人物全員がフルボイスであり、出番が非常に少ないモブキャラクターであってもそれぞれの個性が出ている。

CG

  • 本作は16:9のワイド画面比率に対応した初のNavel作品であり、そもそもグラフィック面でのイメージがこれまでの作品とは大幅に異なる。
  • 西又氏のCGは全身が写るシーンでは怪しくなるものの、ヒロインのビジュアルはこれまでの作品と比べても一層魅力的に描けている。多少の崩れが見られる箇所も日常やコメディシーンが多いこともあり気になりにくい。

演出

  • 紙芝居なのだが効果音やエフェクト、立ち絵の配置や動きがかなり工夫されており、見ていて賑やかで面白い。
  • 各ヒロインのルートに入るとウィンドウのデザイン(とシステムボイス)が固有のものに変化し、以降は自由に切り替え可能となる。
    • 今作のウィンドウデザインは後のNavel作品と比べても最も凝っていると言っても過言ではない。色だけでなく細かい意匠やヒロインによっては「save」や「load」といった文字ごと別の表現に変化するほどの作り込みである。
+ ルートロック周りの演出について。ネタバレ有
  • ルートロック解除時点で短いテキストとムービーが流れ、 タイトル画面に「RESTART」の項目が出現してシナリオの丸々最初からスタートする。
  • 内容として通常のプレイとほぼ同じでありながら、ここにきて各所で夢子の恋愛感情に正面から向き合う選択を取ることができるようになる。
  • 同じシチュエーションでも征人の台詞が優しいものに変化する等、その違いはとても分かりやすいものである。本作は共通~個別ルート全体を通して夢子の好意を袖にする展開が多く、ここまでプレイしたユーザーにとっては非常に感慨深い演出となっている。
    • ただし、これは中盤までの話で、当然それ以降は違った展開に分岐する(後述)。

BGM

  • 単独で目立つ楽曲は少ないが、各キャラクターやシチュエーションに非常にマッチしたBGMが揃っている。
    • 夢子のテーマである「Yu」や、学校のBGMである「8時間目ェ」、クリスマス関連のシーンで流れる「ジングルソング」など、それぞれがダイレクトに作中のシーンを想起させるものであり、添え物としては見事な働きであると言える。
  • OPテーマ以外のボーカル曲である「For my dearest」、「約束カガク」、「DDT (Dreamin' Drug Time)」は、いずれもよく聞くとシナリオとの関連性・メッセージ性が非常に強く、特に読了後のプレイヤーに深く刺さる内容である。
    + それぞれの曲の詳細
  • 「For my dearest」は夢子ノーマル及び他のヒロインのグッドエンドのテーマである。
    • 本編終了後の征人目線と思わしき内容であり、夢子に対する感謝や遠く離れてしまった寂しさ、恋人となったヒロインと共に前向きに暮らす意志が窺える歌詞となっている。
      • シナリオ中は征人が取り立てて多くを語りはしなかった部分であり、結末部分の彼や夢子、各ヒロインの気丈な印象も合わせて物語の余韻を効果的に残す楽曲である。
  • 「約束カガク」と「DDT (Dreamin' Drug Time)」はそれぞれ夢子アナザールートの冒頭とエンディングのテーマである。
    • この二曲は双方の雰囲気こそ全く異なるものの、いずれも作中の夢子の胸中を巧みに連想させる歌詞となっている。
    • 独特な曲調から気付きにくいものの、彼女の征人への恋愛感情や振り向いてもらえない寂しさ、かつての楽しかった思い出等が徹底して綴られている。
      • 夢子の心中は本編中では断片的にしか語られていなかったため、ここまでプレイしたユーザーにとっては非常に考えさせられる内容となっている。

賛否両論点

主人公

  • 大半のシーンでは問題ないものの、長年の付き合いが仇となって夢子に対する恋愛方面の鈍感さは異常なレベルであるため、その点の印象は良くない。
    • 理由付けや説明は作中で何度もされ、終盤では彼自身もそれを反省するシーンはあるが、その上でも納得できずに彼を苦手とするプレイヤーも少なくない。

展開のワンパターンさ

  • 夢子ルートを除くとどのルートも終盤は似た展開を経由する流れになる。もちろんエンディングに至るまでの経緯はヒロインごとに異なるため、その点を楽しめるのであれば問題ないが、やはり先が読みやすいという点は否定のしようがない。
    • また、どのヒロインを攻略していても夢子が介入してくる形になるため、シナリオの展開ではなく夢子の存在そのものに苦手であるという感想も存在する。

夢子アナザールートの展開

+ 多くのネタバレを含むので注意
  • ルートロック解除の演出~ルート中盤までの演出や展開は良く、ノーマルルートでおざなりだった夢子への扱いがより思い入れを感じさせるものになるなど、後半に向けての期待感は高まる内容である。
  • が、肝心の後半のクリスマスイヴにプレゼントを受け取る場面で かなりお粗末な理由でこじれる。
    具体的には
    夢子が主人公にプレゼントをする
    →主人公は受け取れないと返答(トラブルで夢子へのプレゼントを用意出来なかったためだが、 何故かその説明を省略 )
    →夢子、泣きながら走り去ってしまう( 何故かここで主人公の話を聞かない )
    という流れ。
    • 言うまでもなくこの一連のやり取りは根拠も妥当性が薄く違和感がある。さらにはこの問題が解決した後も同じような経緯でもう一度喧嘩する始末。
      • 主人公も夢子も勘違いと説明不足が酷く、本筋の恋愛関係の進展の描写が大味になっている。ルートロック前の夢子ルートも含め、他のルートでは彼らはここまで物分かりの悪い人物ではなく、むしろ相手の感情の機微には敏感で適切な心配りが出来ていた方だったので違和感がある。
  • 結末部分では上記のすれ違いとはまた別の問題が提起される。その内容は「主人公は開花していく夢子の才能を前に、無意識に追いかけるのを諦めてしまった」という妥当かつ深刻なものであるが、なぜかこちらの問題は短い尺であっさり解決されてしまうためあっけなく感じてしまう。
  • 総じて良質な他のヒロインのルートと比較すると粗が目立つ。強制的に最後にされることも合わせてこのルートがプレイヤーの印象に残るため、あたかも作品全体がぱっとしないかのような後味になってしまっている。
    • ただし、内容は別として後味は悪くない締め方であるため、その点を評価して楽しめたという感想も一定数ある。

問題点

ルートロックの仕様

  • 基本的に作中ではどのルートでも夢子を袖にする展開になるため、プレイヤーの一定数は後味を悪く感じたりマンネリ解消を考えて途中で夢子ルートに入ろうとする。が、 ここで回り道を強制される ため仕様を知らなかったプレイヤーからは印象が悪い。
    • 仕様上選択肢のグレーアウト等の兆候が無いため、初見ではルートロックはされているの否かの判断も困難である。また、ミスリードを誘発し得るテキストもある*10ため、ロックに気付かずに無駄に選択肢を試行錯誤してしまう可能性もある。
  • 前述のアナザールートの内容も関連して、人によっては作品全体の印象がかなりイマイチになってしまうため、 このルートロックが無いだけでも本作の評価は違っていたのでは との意見もしばしば見られる。

総評

主人公や夢子のキャラクター性や特殊なシナリオコンセプト、ゲームシステムの仕様が悪い方向に噛み合い、作り込みの割に評価が分かれてしまった非常に惜しい作品である。
テキスト・シナリオ・キャラクター等、作品の構成要素の全体的なクオリティはどれも高く、
多少気になる点はあれど十分に楽しめた良作との感想も少なくない。
前述のいくつかの賛否両論点や問題点を割りきれるのであれば十分オススメできるタイトルと言える。


World Wide Love! 世界征服彼女ファンディスク

【わーるど わいど らぶ せかいせいふくかのじょふぁんでぃすく】

ジャンル 恋愛アドベンチャーゲーム
対応機種 Windows XP/Vista/7
発売・開発元 Navel
発売日 2011年10月28日
定価 8,800円(税別)
レーティング アダルトゲーム
判定 なし
ポイント 本編前提だが高い完成度

概要及び特徴(FD)

『世界征服彼女』の続編兼ファンディスク。
制作スタッフはいずれも本編と共通となる。 前作で攻略ヒロインであった5人のアフターストーリーに加え、本編準拠の花ノ宮良子ルートを実装。
最初に選択可能なシナリオは桜子・亜子・椿子・菜子の4つのアフターシナリオで、それらを終えた後に夢子アフター・良子ルートのシナリオが同時に選択可能となる。
良子ルートの本格的な内容は本編の1月9日~の時系列となるため、それまでのシナリオはダイジェスト形式で描写される。


評価点(FD)

各アフターシナリオの完成度

  • テキスト・シナリオ共に本編と全く遜色ないクオリティであり、 シリアス・コメディ要素のバランスが良い。
  • シナリオはエンディング後の主人公のヒロインとの関係や社会的な将来の展望を集中的に描いたものであり、他のキャラの出番は少ない。
    • 本編では夢子の存在もあり、恋人として落ち着いて向き合うシーンが少なかったヒロインも存在するため、特にキャラクターに思い入れのあるプレイヤーにとっては意義の大きい内容と言える。
    • 一方で夢子シナリオはヒロイン全員が続投しており、本編にも増して学園モノらしい賑やかな日常が描写されている。恋愛関係の問題がひとまず解決しているだけにその内容は極めて明るく、ここまでの紆余曲折と照らし合わせると感慨深いものがある。
  • どのシナリオにも一定のシリアスさあるが、恋人の存在の影響か主人公・ヒロイン共に前向きであり、適度な読みごたえがありつつもな安心感を持って読み進められる。

良子ルートの完成度

  • こちらもハイクオリティでかなり評価が高い。この手のゲームの追加ヒロインは取って付けたようなシナリオになることもままあるが、他のヒロインのシナリオに劣らず順当かつ丁寧な内容となっている。凝った見た目の専用ウィンドウデザインも完備。
    • 良子はヒロイン中唯一主人公と同じ学校でない等、設定面で恋愛させるのには少々ハードルがあるキャラであった。しかし、今作では絶妙な話の構成によって見事に自然に距離が縮む展開がなされ、主題である恋愛面の描写が充実している。
    • 本編の他のルートよりも主人公が良子との関係そのものに悩むシーンが多い。今作の他のヒロインの後日談シナリオで描かれるような恋人としての在り方や将来設計といった問題もまとめて描写されているような形であり、彼女が他のヒロインと比較して本編の共通ルートで不在であったハンデを補って余りある内容の濃さである。

賛否両論点(FD)

コメディシーンの減少

  • 恋人となったヒロインとの甘い生活の描写は充実している一方、本編で好評だったギャグ・コメディ描写は少し控えめとなっている。
    • しかし、これは元々の本編側のギャグ描写の水準が高い・本作は登場キャラクターを絞っている・そもそもシナリオのコンセプトが異なる…等の事情があるため、感想程度の意見はあれど不満としてまで述べるプレイヤーは皆無である。

問題点(FD)

ボリューム

  • 良子ルートを除き、さすがに本編と比較すると半分~3分の1程度までボリュームダウンしており、さらに値段はフルプライスのままであるため割高であることは否めない。
    • ただし、これは比較対象が完全新作であるという相対的な問題もあり、全体のプレイ時間としては十数時間はかかるため短すぎるというほどでもない。
      • 質的には前作のユーザーの満足度は高く、コストパフォーマンスが原因で今作全体に低評価を下す意見はほとんど見られない。

総評(FD)

ファンディスクであるため本編ありきではあるものの、シナリオ・テキスト・キャラクター等の多方面の長所を順当に継承している。
内容として特にこれといった欠点も無く、人によっては本編より高く評価するほどの完成度であるため、前作に愛着が少しでもあればプレイして損は無い作品と言える。


その後の展開

  • 2012年2月24日発売の『ネブ*プラス』に本作のヒロインが出演している。
  • 2025年5月22日に『世界征服彼女』Nintendo Switch版が発売。
最終更新:2025年05月22日 10:50

*1 ゲーム中では各エンディングの正式名称は無いが、当記事では便宜上グッド・ノーマルに区別している。

*2 ゲーム中の正式名称は無いため、当記事での便宜上の呼称。

*3 影ながらトレーニングや美容研究を行っている。母親はかつて海外のミスコンで優勝していた程の美人であり、本人の努力もあって夢子自身も劣らずの美貌を持つ。

*4 IQは高すぎて測定不能。学業面では古文や日本史はやや苦手なものの、理数系科目は当然ながら英語も普通に話せる等優秀。

*5 発明品による利益に加え、日頃から企業や研究機関に技術協力を依頼されて高額の報酬金を得ている。

*6 世界征服をも可能な性能を持つ兵器を個人で開発・所持しているため、各国の政府からも要人扱いされている。

*7 主人公の家族の家事全般を日頃から手伝っており、料理の腕はかなりのもの。買い物も普通のスーパーやコンビニ等で行う・電気の消し忘れを気にする等、経済力の割りに庶民的な感覚も備えている。

*8 世界征服を宣言する割には情に絆されやすく人間的である。保有する兵器の攻撃対象は建造物や(威嚇のために)海が多く、怪我人や死傷者は1度も出したことがない。

*9 征人と会話する際はかなりフレンドリーで、彼と即席で漫才が打てる程ノリが良いが、彼と共通の知り合い相手だと関係悪化を恐れて大人しくなってしまう。

*10 周回プレイを暗示するメッセージや回収されない伏線があり、ルートロックではなく好感度不足と誤解しやすい。