ワンダープロジェクトJ 機械の少年ピーノ
【わんだーぷろじぇくとじぇい きかいのしょうねんぴーの】
ジャンル
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コミュニケーションアドベンチャー
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 高解像度で見る 裏を見る
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対応機種
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スーパーファミコン
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メディア
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24MbitROMカートリッジ
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開発元
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アルマニック
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発売元
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エニックス
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発売日
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1994年12月9日
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定価
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11,800円(税別)
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周辺機器
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スーパーファミコンマウス対応 (通常コントローラも使用可能)
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判定
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良作
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ワンダープロジェクトシリーズ J1 / J2
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概要
人間と「ギジン」と呼ばれる機械人間が住む島「コルロ島」を舞台に、ギジンの少年ピーノの成長を導いていくゲーム
ジャンル的には育成シミュレーションに該当するが、従来的なジャンル作品とは一味違った「コミュニケーション」という要素を取り入れた育成スタイルと、児童向けアニメ風の牧歌的な世界観で注目を浴びた。
ストーリー
50年前の戦争で荒れ果てたコルロ島の復興のため、人々は新たな労働力としてギジンと呼ばれる人間型の機械人形を作り出し、
協力し合うことで見事、島を復興に導いた。
しかし、人々は人間よりも優れた性能を持つギジンの存在を次第に疎むようになり、ギジンに対する迫害が起きるようになった。
ギジンの生みの親である科学者ジェペット博士はそんな状況を改善すべく、人間とギジンの橋渡しになる存在として、
人間そっくりのギジンを作り上げ「ピーノ」と名付けるが、その直後、無実の罪で連行されてしまう。
博士が作り出したインターフェイスロボット・ティンカーは、プレイヤーと協力し、
博士を救うため、ピーノに仕込まれた「謎の回路J」の発動を目指してピーノを教え導いていく。
ゲーム概要
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プレイヤーはインターフェイスロボットのティンカーを操作し、指示を出すことでピーノを成長させ、ピーノに組み込まれた「謎の回路J」の発動を目指す。
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具体的には、「ピーノの行動の正否を指示すること」がメインとなり、指示したアイテムやオブジェクトに対してピーノがとった行動が正しければ褒め、間違っていれば叱る。場合によってはハンマーで叩く必要もある。
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なぜ叩く必要があるのかというと、一度覚えた行動を忘れさせるため。「正しい行動」を覚えてしまうと、忘れさせない限りは同じ対象について同じ行動しかとらなくなる。そのため、別の行動をさせたい場合は一旦忘れさせる必要がある。
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また、ハンマーには口に入れたものを吐き出させる効果もある。ピーノは人間でないため、クワだろうと本だろうと動物だろうと何でも食べてしまうため、望まない場合はハンマーで叩くことで阻止しなくてはならない。
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自宅には猫や鶏といったペットがいるがピーノが食べてしまうと消化され、以降は登場しなくなる。
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プレイヤー自身もピーノの教育係という立場で物語の登場人物の1人と位置づけられており、ピーノやティンカーはプレイヤーに向かって話しかけてくる。
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これによって、プレイヤー側からの一方的な干渉による育成ではなく、コミュニケーションによって相手の成長を促していくという本作独自のスタイルが表現されている。
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続編のプロローグにおいてもジェペット博士はプレイヤーと古い知り合いという事になっており、本作含めシリーズに深く関わる立場であることが強調されている。
評価点
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ピーノのアニメパターンが豊富。
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歩いたり走ったり、何かを掴んだり食べたり、喜んだり怒ったり泣いたり楽しんだり叫んだり、ハンマーで殴られたり…等々、非常に滑らかに動く。天真爛漫な様子は、親心を刺激されること請け合い。
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また、様々な要所でピーノが喋る。CVは日高のり子氏が担当。
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ピーノ育成に対する自由度が極めて高い。
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普通にプレイするならば、アイテムの常識的な使い方を教えていくことになるが、滅茶苦茶な使い方(例えばボールを食べる物と教える)を教えることもできる。
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イベントシーンでは、プレイヤーは一切手出しできず、ピーノの判断と行動に全てを任せることになる。
プレイヤーのそれまでの育成結果が問われ、ある意味、親の心境になって見守ることになる。
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どのステータスカテゴリが一番高いかによって、ピーノの行動規範が変化する。
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感受性が高ければ祈ったり食べたりすることが多くなり、賢ければ理知的に行動したり考え込むことが多くなる。イベントではこの行動規範を特定の状態にしておかないと基本的に先に進めない。
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どのステータスが高いかはドアの開け方にも現れるようになる。攻撃性が高いとドアを蹴破り、運動性が高いと体当たりで開け、知性が高いとピッキングのようなことを行い、感受性が高いと祈りを捧げてドアを開く。
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正しいことを覚えさせることが重要なのだが、あまり何度も叱っているとストレスと不信がたまり、遂には何も言うことを聞いてくれなくなることも。
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ピーノの成長方法に関しても、アイテムを何度も使わせたり、施設を利用したり、あるいはチップ等で手っ取り早く性格を改竄したりと様々な選択肢がある。
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個性的な登場人物と、感動的なシナリオ。
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ピーノにはどんな願いでも叶えるという「回路J」が搭載されており、それを発動させるのがゲームの主目的となる。
そのため、ピーノは島内を駆け回り、様々な人物と出会い、色々な経験をしていくことになる。
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ゲーム終盤、ついに回路Jは発動するのだが、この際の演出に多くのプレイヤーは涙した。
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美しい世界観と感動的なBGM。
ジブリ映画を思わせる世界観に、森彰彦氏が作曲した壮大なBGMが流れる。
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サントラCDも出ているのだが、現在は大変なプレミアがついている。
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グラフィックの質も非常に高く、木漏れ日の美しい「コルロの森」などは人気の育成スポットとなっている。
問題点
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色々な育て方はできるものの、章ごとに特定の方向性での育成を強要されるため、全体の自由度は高いとは言えない。
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運動の得意なスポーツ少年に育てる章、優しさの低い攻撃的な性格の戦士に育てる章、歌の上手い優しい心の少年に育てる章など、章によって育成方針は大体決められており、また章ごとにピーノの性格およびステータスがコロコロ変わる。プレイヤーごとの個性が出しにくく、誰がやっても大体似たような育ち方になりがち。
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各章で様々な能力が要求され、またよほどのことがない限り一度高めた能力を著しく下げるようなことは起こらないため、ゲームを進めるにつれて「運動能力が高く知性も高くまじめで優しくて表現力があって魅力的で運も良い」といった万能なステータスに落ち着きやすい。
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各イベントでは常識的な行動を取らなければクリアできないことが多い。
そのため、結局は当たり障りのない育て方をすることになってしまう。
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しかし、一部では常識外な行動を取らせないといけなかったり常識外の行動の方がステータスの上昇がよかったりもする。もちろん、その場合は正しいことをしていても叱らなければならない。
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戦闘イベントのランダム要素が激しい。
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ある章で「格闘大会」に参加するが、ステータスを最高近くにしてあっても、的確に攻撃・防御してくれるかはほぼ運任せ(特に決勝戦)。クリティカルもあるのでさらにリアル運要素が強い。
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ゲーム終盤の戦闘イベントもランダム要素が強い。戦闘難易度自体は格闘大会より低いのだが、敵のライフが999もある上にジャンプ斬りでしかダメージが通らないので、長期戦になって体力が尽きることも多い。思うようにジャンプ斬りを出してくれないピーノにハラハラではなくイライラさせられたプレイヤーも多いだろう。
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戦闘がメインでは無い章なら、ステータスと行動学習で確実に乗り切れる。
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雑魚の撃破が若干面倒
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機会こそ少ないが、雑魚キャラが道を阻んでいる場所がある。隙を見て走り抜けるなり攻撃して倒すなりするのだが、攻撃する場合が面倒なことになっている。
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そもそも、このゲームにはイベント以外では敵を狙って攻撃する、というアクションが存在しない。
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プレイヤーが、武器をいい感じの場所に置き、タイミングを合わせて注目させて、その武器を使ったアクションに巻き込む形で攻撃する必要がある。
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武器の扱いが上手くなると、大振りな上に一歩前進する攻撃モーションになるため、空振りしたときに敵に接触する可能性が増えてしまう。そのため、雑魚敵を倒すだけなら武器の扱いは下手なほうがやりやすかったりする。
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マルチエンド方式を取っているが、一周目は固定エンドであり、分岐するのは二周目から。
トゥルーエンドを見るには、二周目で最上級の評価を取らねばならず、達成するにはシステムを熟知した上で計画的なプレイが要求される。
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中盤のサーカスイベントで大成功しないと先に進めないのだが、中成功だと大金獲得の上で再挑戦となるため、わざと中成功を繰り返すことで資金稼ぎができる。一周目でお金を溜めておき、二周目で回復アイテムを大量購入することでどうにでもなったりする。
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最上級の評価を得る上で最難関となるのは、上述の格闘大会である。普通にクリアするだけでも大変なイベントなのに、一度のミスもなく連勝しなくてはならないので非常に難易度が高い。
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連戦という都合上、無敵アイテムを使った攻略も確実ではない。肝心の決勝戦に辿り着く頃には無敵効果が切れてしまうので、結局運バトルになる。
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能力が全て同じ数値となった場合、「攻撃性」が優先されるため、店に入るたびに「魅力」が下がってしまう。
総評
「自立行動するロボットのNPCを用いてストーリー」を進めるというゲームシステムは当時としては珍しく、『森川君2号』『シーマン』『ピカチュウげんきでチュウ』などに代表される「ゲームで自立行動するキャラにちょっかいを出して反応を楽しむ」という、PS以降で流行ったコミュニケーション系ゲームの基礎を作った作品といっても過言ではない。
ロボットを育成し、問題を解決するというシステムの面白さもさることながら、日高のり子氏演じるピーノの喜怒哀楽の豊かな感情表現や、往年の子供向け名作アニメ的な懐かしさや温かみに溢れるテイストを内包した感動的な世界観やシナリオもしっかり作り込まれている。
当時は先進的で"夢のようなゲーム"である今作は今プレイしても面白い。是非あなたの手でピーノを育てて見てほしい。
余談
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「移植・リメイク希望作」の話になると必ず話題に上がるほど根強いファンの多い作品であり、2008年のたのみこむの「復活して欲しいレトロゲーム」で1位となった。
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しかし、デベロッパーのギブロ(アルマニックより改名)はSSの『七ツ風の島物語』を発売後に倒産。それ故デベロッパーが現存しない以上、移植は難しいと言われている。続編は携帯電話向けに移植されたが、肝心の当作はいまだに移植されていない。
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後述の平野氏によれば今シリーズの権利は今も昔もスクウェア・エニックスが一貫して持っており、少なくとも権利面ではスクエニがその気になれば移植等はできる状態らしい。
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しかし、発売から29年半経過した2024年4月26日に2020年頃から本作のリメイク版の企画を水面下で進めていたで事をX(旧Twitter)を突如公表し、ファンを驚愕させた。しかし、企画が凍結した事が同日公表された。
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企画段階でのタイトルは『コンペット』と言うゲームの中の生き物を教育して育てるゲームで、基本的なシステムは本作に継承されている。後に企画が全面的に改定され、『
ジェペットの息子
』と言う企画に改定された。文字通りピノキオをモチーフとしたADVだったが、本作にあったギジンを取り巻く世界観はまだ無かった模様。
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開発者である米田喬(平野文鳥氏)のTwitterによれば「魔女の宅急便」公開前後の頃に前述の『コンペット』の開発協力を依頼する為に宮崎駿氏と会うことがあったが宮崎氏は平野氏がゲーム開発の人間と知るや
「命を記号化した遊びを楽しむ人間や、それを作る人間の気がしれない」と開口一番にゲームを否定し、ショックを受ける平野氏を宮崎氏の弟子の飯田馬之助氏が慰めるほどだった。
だが、この時に宮崎氏から受けた罵倒をバネにそれに反するゲームを作ろうとして生まれたのが今作であり、またアニメデザインもこの時の事を思い出して飯田氏含めた作画スタッフが新たに参加することとなり、この宮崎氏に叱られた一件がなければ(今作は)今のような形ではできていなかったとのこと。
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約20年後の飯田氏の葬儀の席で平野氏と再会した宮崎氏は当時のことを謝罪して、今はゲームのことを否定していない旨を述べたという。
最終更新:2024年05月01日 00:01