大神伝 ~小さき太陽~
【おおかみでん ちいさきたいよう】
ジャンル
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アクションアドベンチャー
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対応機種
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ニンテンドーDS
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メディア
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1024MbitDSカード
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発売・開発元
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カプコン
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発売日
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2010年9月30日
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定価
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5,040円
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プレイ人数
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1人
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レーティング
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CERO:A(全年齢対象)
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廉価版
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NEW Best Price! 2000 2011年07月28日/2,000円
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判定
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シリーズファンから不評
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ポイント
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お涙頂戴狙いの酷いラスト 前作と矛盾するストーリー 前主人公のあんまりな扱い コロコロ変わる相棒 グラフィックとBGMは良好
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大神シリーズ 大神 / 大神伝 ~小さき太陽~
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概要
PS2で2006年に発売され、ゲームオブザイヤーも獲得した『大神』の続編。
『大神』は和風テイストのグラフィックとBGM、日本神話や歴史上の実話をミックスしたようなストーリーの斬新さと、後半の盛り上がりで「泣けるゲーム」として非常に高い評価を得た。
売り上げこそ多くはないが根強いファンも多く、その人気はHDリマスターの発売からも窺える。
今作も和風テイストは引き継ぎ、ストーリーは後日談として語られる。
しかし好評であった日本神話などのパロディはほとんど無い。有名どころは前作で使い切った感も確かにあるので、これは仕方がないかもしれない。
クローバースタジオが解散したため、完全にカプコン内製となった。
ディレクターであった神谷英樹氏をはじめ、前作のスタッフの多くは制作に関わっていない。
ストーリー
その昔、ナカツクニと呼ばれる地は、ヤマタノオロチという怪物によって、
かつてない脅威にさらされていた。
危機的状況にあるナカツクニを救ったのが、剣士スサノオとチビテラスの親であるアマテラスだった。
アマテラスによって、大自然と平和を取り戻した“ナカツクニ”。
その数ヶ月後、平和になったはずの“ナカツクニ”に再び怪しげな妖気が満ちてしまう…。
(公式サイトより)
システム(前作からの変更点)
基本システムについては前作記事を参照のこと。
相棒
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今作では主人公チビテラスの「相棒」として5人の子供が登場し、ほぼ全ての場面で行動を共にする(背中に乗せて行動)。
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相棒の詳細
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クニヌシ
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前作の登場人物、スサノオとクシナダの子。パッケージにも登場するので、一見彼がヒーロー的ポジションだが…。
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ナナミ
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同じく前作の登場人物、オトヒメの娘。人魚のような体をしている。
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マンプク
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最も必要性が疑問視されているキャラ。真剣な場面を台無しにしたり、プレイヤーを逆撫でするような言葉を発したりもする。
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クロウ
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前作プレイ済みなら、外見で一発でウシワカと関係があることが分かる。公式サイトでは「謎の少年」とされている。
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筆しらべ
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画龍や一閃などは基本変わらないが、吹雪、月光、霧隠れ、水蓮、壁足がリストラされ、新たに相棒を遠くに導く「輝跡」、鉄を引きつけたり、離したりする「双極」が追加された。
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筆技に時間制限が設けられたが、それほど時間を必要としないため特に影響は無い。
攻撃
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前作と同じく三種の神器を使うが、「表と裏」の概念はなくなり、「表」だけの装備となった。
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連続して攻撃を行い、敵を気絶させるという新たな戦法が加わった。
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相棒を使って追撃する(前述の「輝跡」を使用)システムがあり、追撃中は相棒にも体力の概念が発生する。
その他
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一部のイベント中を除き、今作はフィールド上で夜になることがない。
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他にも前作から削られたと思われる部分が見られるが、DSであるということを考えると許容範囲かもしれない。
問題点
システム上の問題点
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前述のように、攻撃が「表」に限定されたため、勾玉での射撃、鏡での防御などは無い。
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そのため戦略性が薄れ、殴るだけの単調な戦闘になりがち。
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前作では「筆しらべ」は干支をモチーフにした「筆神」から授かっていたが、新しく追加された2種は「ペンギン」「クジラ」と意図が分からない。
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一応、クジラはイランの十二支であり、前作で日本においては厳密に言えばカエルやシカなどと同じく「十二支になれなかった動物」である猫が含まれていたことを考えると、少なくともクジラは問題ないようにも思える。
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ペンギンは酉やガルーダ(インド)と同じく鳥類ではあるが、いまいち繋がりが見えない。
ストーリーの問題点
主に前作の続編・後日談としての問題点で、今作における一番の問題点である。
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主人公チビテラスについて
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「アマテラスの子」として登場するが、それ以外は一切謎のまま終わる。
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どうしてアマテラスに子がいるのか、どうやって子ができたのか、どこから来たのか、などは不明。ただ子犬を出したかっただけなのだろうか?
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元ネタの天照大御神には五柱の子がいたとされるが、おそらく関係は無い。
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アマテラスは「太陽の神」であり、ラスボスBGMも「太陽は昇る」と、太陽が重要な役割を担っており、太陽を出現させる「光明」の筆しらべの出番も多かった。しかし今回太陽の出番はほぼ無い。「夜」の概念が無くなったのも影響し、「光明」を使う機会はほとんど無い。そのため「神」らしさが大幅に薄れた。
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アマテラスと同じくゲーム中で言葉を発することは無いが、今回は何故か動物が平気で喋るため、チビテラスの影が薄くなる。
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さらに終始相棒のいいなりに動き回るため、もはやただの乗り物に。
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ただ言葉を発しない分、マンプクのように言動でプレイヤーをイライラさせることもなく、また後述するが相棒にも愛着が湧きにくく、主人公として悪いわけでもない。
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前作から「9ヶ月」という設定
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あまりに短すぎる。数十年か数百年ならまだしも、たった9ヶ月で「信仰心が薄れ、そのせいで妖怪が再び現れた」ということにされている。
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前作でのラストが、「アマテラスの活躍で人々がふたたび信仰心を取り戻し、祈りを捧げることによってアマテラスは力をもらい、悪を打倒する」という熱い展開だったので、あの感動は何だったのか…と前作ファンの心はいきなり踏みにじられてしまう。
更に言うなら、前作は年老いたある主要人物を語り部として進行する物語である。
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そもそも、最後までプレイしてもこんなに短くする必要性は見当たらない。
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コロコロ変わる相棒
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物語が進むにつれて5人の相棒が次々に交代していくのだが、エンディングまで大して長くないので相棒でいる期間が短い。そのため、ほとんど感情移入できない。
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特に最初の相棒であるクニヌシは、序盤が終わるころに一度別れるとラストまで全く登場しない。
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一応相棒ごとに独自のストーリーはある。だが皆大体「チビテラスとの友情が芽生え、苦境を乗り越える」というひねりのない展開。その友情も何もしていないのに勝手に芽生え、しかも早々に別れる。ため、かなり押し付けがましい。
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そんな中でも4番目の相棒となるクロウは中盤〜終盤の重要シーンで活動を共にすることが多く、見た目も前作の人気キャラに瓜二つであるため愛着が湧きやすいだろう。しかし…(後述)
終盤にかけての展開
ラスボスとなるのは「悪路王」というキャラだが、その設定や行動が不評を呼んでいる。
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悪路王は、前作のラスボス「常闇ノ皇」のもとになる、つまり「子常闇ノ皇」と言える存在であり、前作のアマテラスの行動がさっそく無駄になる。
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悪路王が本来の力を取り戻すために、「ヤマタノオロチの血」を必要としていると言うのだが…。
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そもそもヤマタノオロチは常闇ノ皇が作り出した存在であり、常闇ノ皇の分身のような存在である悪路王がなぜ血を必要とするのか全く分からない。
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血を手に入れるためにヤマタノオロチのいる過去の十六夜の祠へ行く悪路王を、チビテラスらも追うのだが…。
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前作と繋がり、アマテラスとオロチが対峙している所に出くわす。が、何故かスサノオの登場シーンが変更。へっぴり腰のスサノオを、チビテラスが無理矢理押し出すという登場の仕方にされている。前作の「真スサノオ」はどこへ?
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この時はオロチとの戦闘は無いのだが、どういうわけか止めはチビテラスが刺す。「スサノオがカッコよく決める」という展開を想像していたプレイヤーをガッカリさせた。
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流れを考えると、このオロチイベントの必要性はほぼ無い。ただ前作に踏み込みたかっただけと思われるが、そのせいで矛盾が生じているのでつくづく意味がない。
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この後、前作と同じく百年前にタイムトリップするが、そこでも問題が。
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百年前のアマテラス(シラヌイ)が、何故か地下で氷漬けになって登場。理由も不明。チビテラスに助けられて一命を取り留めるが、無敵キャラだったシラヌイ像は崩壊。
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極めつけは、悪路王がシラヌイを殺すという衝撃の展開。前作ではおおまかに「百年前から来たシラヌイが、アマテラスと仲間を体を張って助け、瀕死になりながらも百年前に戻り、イザナギをオロチの攻撃から庇って死ぬ」となっており、特に後半の「イザナギを助けて犠牲になる」という部分は、前作のプロローグで語られた内容である。今作の展開はその前提を覆すことに。
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一応、「実は悪路王が関わっていた」と少し手を加えただけではあるが、いずれにしてもシラヌイは文字通り犬死にである。
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ちなみに、前作には無かったシラヌイが人々に看取られて死ぬシーンがあるが、ここでも「皆あんまり悲しんでいない」と、これまた前作ファンの心を踏みにじる展開に。
ストーリー終盤
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百年前でのイベントも終えて、ついに悪路王がオロチの血を手に入れてしまう。そして真の力を手に入れた悪路王が登場するのだが…。
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真の悪路王について(ネタバレ)
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なんと容姿が完全にクニヌシなのである。どうやら憑依されているようで、しかもクロウがその側近になっている。
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ここでクニヌシはスサノオの実子ではなく、拾ってきた子供だと判明する。それはともかく何故クニヌシの姿でなくてはならないか、明確な理由は不明。
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さらに、チビテラス達がボスの妖怪を何体か倒すことで、逆に真悪路王の復活に一役買っていたという事実が判明。またまたプレイヤーの努力が無駄に。
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その後クロウとの戦いに突入。
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いよいよラスボス戦かと思いきや、残りの相棒を全員呼び出すイベントが発生。
皆そろって今度こそラスボス戦だ!と思いきや、今度は呼び出した相棒全員が捕まり、軟禁されるという事態に。
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ご丁寧にも一人ずつ別々の場所に捕らえられ、それぞれ同じようなことを繰り返して救出。わずかな盛り上がりもこのイベントで完全に萎えてしまう。
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皆を助け、協力してラスボス撃破だ!と思いきやなんと誰一人協力してくれない(一応擁護すると、ラスボスの手によってまた囚われる)。チビテラスにも乗らない。
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呼び出した意味も、助けた意味もなく、イベント前と何も変わらない。ただテンポが悪くなっただけ。
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肝心のラスボス戦も…。
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チビテラスにクニヌシが乗って登場。何とこれがラスボスである。
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悪路王といういかにもな悪役を出しておいて、どうしてこうなった。
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冒険に出たばかりの頃のチビテラスとクニヌシを敵役として出し、感慨に浸らせようという意図は誰にでも分かるが、クニヌシへの思い入れが浅い可能性が高いので、完全にスベっている。
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終盤にかけてのグダグダさと冷めるだけの演出で、「ラスボス戦が一番つまらない」という評価も。
そしてあんまりなラストを迎える。
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ネタバレ注意
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クニヌシは意識を取り戻し、ここでクロウが現れて悪路王の動きを封じる。そして次のように語るのである。
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クロウは、前作の重要人物である「ウシワカ」のクローンであり、この事態を見越したウシワカが用意していたものである。
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なぜ子供であるのかは不明。それにあのウシワカならばもっと有効的な備えができたはずである。
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しかもウシワカから一方的に使命を押し付けられたクロウはその過酷さに耐えかね、逆に悪路王を利する行動に出てしまった。最終的にクロウは使命を果たしたものの、作戦としては最悪の結果につながりかねないものであり全く有効だったとはいえない。
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前作未プレイヤーに対してウシワカを無能で悪辣な人物だと誤解させかねない展開である。彼がそのような人物では決してないことは前作を最後まで遊んだプレイヤーなら十分に知っているだろう。
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クロウの使命は、その身を犠牲にして悪路王を撃退することである。
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犠牲になる必要性も特に無い。チビテラスと協力して悪路王を倒す方が、前作へのオマージュとしてはより良いのでは?
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クロウが敵側に回ったのは、その運命を受け入れられず、逃げたかったから。だがチビテラスとの戦いで友情を感じ、心を決めた。
そして悪路王を、その動きを封じているクロウごと倒すことになる。
チビテラスとクニヌシは了承するが、執行人はもちろんプレイヤー。「一閃」で斬り殺すというやるせない最期に。
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ここで操作をしなかったり一閃をわざと失敗させた場合、イッシャクに「ちゃんとやれ」「クロウの覚悟を無駄にする気か」と怒られて一閃のやり直し。鬱展開が待つのを分かっていようが、プレイヤーに拒否権はない。
結果、子供が子供を殺す、最もしてはいけないことをするハメになる。あまりに後味が悪い。
そしてゲームを振り返ると、クロウは最も長く共に過ごした相棒である。その彼を、序盤で別れラストにひょっこり出てきたクニヌシで斃すというのは、クロウの扱いがあまりにもぞんざいである。
前作はラスボス前後の展開が感動を誘う話であったが、それとは真逆で虚しさ、やるせなさに泣くことになってしまった。
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こんな報われない終わり方でも、どうしたことかハッピーエンドになる。
人々に感謝されて終わる。正直プレイヤーにとっては全くハッピーではない。
評価点
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グラフィックは当然前作には劣るが、DSのソフトとしてはかなり高水準。
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ストーリーの前半については、続編として楽しめる出来。
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批判の多い後半についても、前作のトラウマスポットとして名高い沈没船が現役の商船だった頃の船内を冒険したり、アマテラスと同時進行で攻略する十六夜の祠など、シチュエーション自体は悪くはない。
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インターフェイスのDSとの相性は抜群。
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PS2での前作は、筆の動きはコントローラーのスティックでの操作であり、多少違和感もあった。またのちに発売されたWii版はリモコンでの操作で、むしろやりづらいとの声もあった。
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一方で本作の画面は携帯機ゆえに小さいものの、タッチペンでそのまま線を引けるので格段にやりやすくなった。
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前作未プレイであればストーリーもそこまで違和感や酷さを感じさせないため、単体として見ればそこそこの出来である。
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前作で一瞬だけ登場した「若かりし日のイッシャク」が終盤で行動を共にするようになった。シラヌイの相棒を務めていた彼とコンビが組めるのは前作ファンには嬉しいサービスだろう。
例のラストシーンで嫌いになったプレイヤーもいるかもしれないが
総評
高く評価された前作と比べられるのが続編の宿命とはいえ、本作は「『大神』の後日談」として見た場合はあまりにもお粗末な点が多い。
「前作の主人公の行動を否定し弱体化」「彼のテーマ曲すらも出さず矛盾だらけの理由で殺す」という時点で設定やシナリオ展開を悪い方向で覆すような筋書きが多く、プレイヤーを泣かせようとする露骨な演出も多く含まれている。
やたら子供を登場させるのも恐らくその一環と思われるが、そのせいで無意味な設定や出来事、つまらない矛盾を引き起こしており、しかも唐突すぎたり説明不足であったりで、ほとんどが興ざめで終わるというどうしようもないことになってしまった。
スタッフ曰く「『大神』が大好きな人が集まって作った」という点や新規キャラクターによる前作ジャック等の点を踏まえると、ストーリーに関して言えば「自称ファンによる微妙な二次創作」の型にはまってしまっている。
「名作の続編」の看板を背負うにはあまりに荷が重すぎたといえるだろう。
DSのインタフェースに合った操作体系など評価できる点もなくはないので、前作を未プレイの人は手に取ってみてもいいかもしれない。
余談
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2010年11月10日にオリジナルサウンドトラックが発売されている。DS音源そのままではなく、音質が前作並みに修正されており、さらに好評である。
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本作の評判が原因で、前作のディレクター神谷英樹氏に「もう大神を作らない」と公言させてしまった。前作ディレクター自身も続編の評判が良くなかったことを耳にしていた。
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2016年には大神10周年の際「続編が作られる噂に動揺して発表、発売となる頃には当時ヤサグレていたから(感情的に)答えたのかもしれない」と明かしている。
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神谷英樹氏は「生きてるうちに続編を作ってみたい」「カプコンのエラい人、ご用命の際はどうぞ遠慮なくお申し付けください」と発言していたり、2019年に中村育美氏と共に「大神をまた作りたい」と諦めたわけではない様子。
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そして2024年12月13日の「The Game Awards 2024」で、ディレクターとして復帰した神谷氏の指揮のもとに『大神』の完全新作が製作されていることが発表された。
最終更新:2024年12月13日 15:56