殺戮の天使
【さつりくのてんし】
ジャンル
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サイコホラーADV
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対応機種
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Nintendo Switch
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メディア
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ダウンロード
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発売元
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PLAYSM
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開発元
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発売日
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2018年6月28日
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定価
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1,500円(税込)
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プレイ人数
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1人
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レーティング
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CERO:C(15歳以上対象)
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セーブデータ
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99個
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判定
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なし
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ポイント
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ゲームというよりは動画付の読み物 映画的演出に秀でた元フリゲー
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概要・あらすじ
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『RPGツクールVX Ace』で製作された同名のフリーゲームが原作。少女と殺人鬼が奇妙な約束のもと結託し、謎の建物からの脱出を図るサイコホラー。
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原作のフリーゲーム版をほとんどそのまま移植している。
登場人物
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レイ(レイチェル・ガードナー)
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頭は回るが感情が欠落している少女。人の死を目撃したためカウンセリングを受けに建物に連れてこられたようだが、そこまでの記憶が無い。
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とあることをきっかけに、「自分は罪深い存在であり、生きていてはいけない」という感情にとらわれる。ザックが外に出るのに協力する代わりに、「外に出られたらレイチェル自身を殺す」ことを約束させる。
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自殺をしようとしないのは、信仰する「神様」から禁じられているため。
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ザック(アイザック・フォスター)
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大鎌を得物にする連続殺人鬼。幼少期に全身に大やけどを負い、包帯に身を包んでいる。
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死を恐れないレイを不気味に思いつつも、彼女の頭の良さを買い「建物の外に出られた暁には彼女を殺す」という約束を結ぶことに。
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ダニー(ダニエル・ディッケンス)
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一応、レイチェルのカウンセラーのようだが他の精神病患者には全く興味が無く、レイチェルの瞳に異様な執着を見せる。
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グレイ
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神父のような衣装に身を包む初老の男性。常人には理解しがたい神学的な内容を話す。
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建物の成り立ち、建物にいる殺人鬼たちをよく知っており、レイを穢れた存在と認識しているようだが……。
特徴・ゲームシステム
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ゲーム舞台はスーパーファミコンのようなで平面絵で描かれる。レイチェルやザックを操作し、舞台となる謎の建物からの脱出を目指す。
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できる操作は移動(左スティック)、目の前の場所の調査(Aボタン)、必要に応じてアイテムを使うなどであり、ロックされた扉を開けていかなくてはならない。
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レイチェルを操作しているときとザックを操作しているときとで、できることが異なっており、プレイヤーが能動的に入れ替えできる機会はごく限られている。
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レイチェルは難しい文章も読めるが、高い場所への移動や力仕事はできない。ザックはその逆といったところ。
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アクション性が重視される場面もあり、制限時間内に特定の行動をしないとゲームオーバー、敵に追いつかれるとゲームオーバーといったシーンも挟まれる。
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ゲームオーバーに直結するパートの直前ではセーブができる。
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アイテムは、特定の場所に立ちメニューから選んで「使う」必要がある場合と、何かを調べると自動的に使う場合とがある。
評価点
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演出に力を入れている
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敵が襲い掛かってくるシーンでは、敵特有の笑い声や敵の一枚絵がカットで挿入されるなど、迫力は満点。
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グレイに裁判にかけられるシーンでは、フリーゲーム素材をふんだんに活かして、オペラのような視覚・聴覚演出が使われている。
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敵対するキャラクターにはそれぞれ専用の戦闘用BGMが用意されており、物語を盛り上げる。探索パートでは無音のことも多くメリハリがきいている。
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ゲーム中のオブジェクトをくまなく調べられる
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ゲーム中に登場する物体や壁の落書き等の、ほとんど全てを調べることができる。
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キャラクターのコメントが聞けることもあり、場合によっては敵対するキャラクターの性格や悪行の数々に関して考察できる。
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狂気に溢れつつも人情味もある描写
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序盤のザックは、欺瞞や他人の幸せへの怒りから惨い殺人を犯してきた異常者として描かれる。しかし物語が進むにつれて、彼が登場人物内でも屈指の常識的な考えを持つ人間として描かれるようになる。レイとの協力のきっかけも上記の約束であるが、一種の契約のような関係から「人間としての情」へと展開していく部分に見所あり。
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シナリオのネタバレ注意
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脱出しなくてはならない建物はカルト宗教のもと成立している。宗教が独自に奉る「神」、そして救いようの無いレベルまで狂いきった殺人鬼たちが「救済の天使」として収容されているという設定にエグみがある。
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「神」という存在に屈せず、レイをひとりの人間として生きさせようとするザックは純粋にかっこいい。レイもそんなザックに影響され、神本位の機械的な考え方ではなく、人間としての感情を持つようになっていく。
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ヒロインが守られるだけの存在ではない
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レイは幼いながらも非常に頭がよく、体が頑丈なザックとお互いを補い合う関係である。
賛否両論点
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キャラの設定
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建物の区画を担当する敵キャラ(殺人鬼)の趣味・嗜好には多様性があるが、基本悪人・精神異常者しか出てこないため好みが分かれると思われる。
問題点
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物語重視でゲーム性が弱い
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ゲームのプレイ時間の半分近くは「物語を読む」ことに終始する。シナリオ分岐も特にない。
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脱出ゲームのようなゲーム性もあるにはあるが、基本的にはキャラが思った(あるいは口走った)ことを淡々と実行していくだけ。謎解きも皆無ではないが、ほぼそういった機会は無いとみていい。
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逃げ方・避け方を覚えつつ一発死のギミックを回避する、制限時間内に特定の作業をする、といった場面がゲーム中に5回程度あるだけ。
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演出面に重きを置いた作風なので、物語を楽しむ分には良い調整なのかもしれないが……。
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フリーゲームの内容とほぼ同一なこと
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移植元の再現度はばっちりといえるのだが、余程のことが無いは限りフリーゲーム版(もちろん無料)をDLしたほうがお得。
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ただしフリゲ版はデータ量の都合のためか4部に分かれている。一括でプレイできるようにしたいのであればこちらを選択する余地も一応ある。
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終盤にかけての展開、設定作りがやや強引
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物語の結末にかかわる設定は序盤から少しずつ仄めかされてはいるが、初見では気づきにくい。
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物語をバックログで見返す機能もないので、序盤のほんの些細なフラグは見逃しやすい。
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ネタバレ注意
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レイチェルが「自分は罪深い存在だから死ななくてはならない」という理念に至った理屈は終盤にならないと説明されず、その説明も十分とはいえない。
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つまるところ幼少期の度重なるストレス等が原因で、彼女の精神的なタガが外れてしまった、と推測する他ない。創作として見れば面白いかもしれないが、整合性を求めるならいまいち腑に落ちない。
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今まで大勢の人を殺してきたザックが逃避行を続ける結末に関しては、素直に喜んでいいのかは微妙なところ。
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彼らの半生も壮絶なので同情の余地は全く無いわけではないし、レイとザックの絆に感動したプレイヤーにとっては、無事に外の世界に出て逃げおおせることを願うばかりなのかもしれないが。
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総評
ADVと銘打ってはいるがシナリオ分岐も無く、謎解き要素もあまりない。本作の魅力は映画のような演出と、それに彩られる残酷ながらも美しい物語にある。
シナリオは一部説明不足な部分もあるが、壮絶な過去を持つ主要人物ふたりの関係と、その移り変わりには、ひとつの物語としての見所があると言えるだろう。
余談
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2021年4月22日にプレイステーション4及びXboxOneでも配信された。
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本作とほぼ同時期の2015年〜2020年にかけて、コミカライズ版が月刊コミックジーンにて連載された。全12巻。作画は「名束くだん」(前作「霧雨が降る森」のコミカライズ版も担当していた)。
本作のストーリーを忠実に再現している他、追加の描写やシーンが数多く描かれており、本作で説明不足だった部分が丹念に掘り下げられている。
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4コマ形式でシリアスな本作とは対照的にギャグテイストに描かれた「さつてん!」がゲームマガジンの電ファミニコゲームマガジン マンガ劇場や月刊コミックジーンが連載された。全5巻。作画はnegiyan。
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本編に至るまでの過程を描いた前日譚「殺戮の天使episode.0」が MFCジーンピクシブシリーズにて2017年〜2023年にかけて連載された。全7巻。作画は本編コミカライズ版同様「名束くだん」。
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2018年にテレビアニメ化を果たし、7月~9月にかけて放送された。全16話(テレビでの放送は12話まで。13話以降はAmazonプライム・ビデオ等で配信)。制作はJ.C.STAFF。
細かい部分で多少の省略や改変はあるものの、コミカライズ版と同様、ストーリーは概ね忠実に再現されている。
PVもYouTubeで異様なレベルの再生数を叩き出し、アニメ版「ひぐらしのなく頃に」レベルの盛り上がりが期待されたのだが…放送中は前評判が嘘の様に話題にならなかった。
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しかし2018年7月30日にアプリゲーム「#コンパス 戦闘摂理解析システム」にコラボ参戦し、ザック&レイチェルの二人一組のユニットとして登場した。このおかげでアニメの存在やゲームの話題が再燃した。尚、唯一のフリーゲーム枠である。
最終更新:2023年10月26日 07:51