本稿では、本編『景の海のアペイリア』(良作)とファンディスク『景の海のアペイリア ~カサブランカの騎士~』(判定なし)を紹介します。


景の海のアペイリア

【ひかりのうみのあぺいりあ】

ジャンル 恋と青春の科学冒険ファンタジーADV

対応機種 Windows XP~10
発売・開発元 シルキーズプラスDOLCE
発売日 2017年7月28日
定価 8,800円(税別)
レーティング アダルトゲーム
判定 良作
ポイント 濃厚なSFと丁寧な解説
下半身で戦う主人公

支配者は誰だ?


概要

「株式会社エルフ」「シルキーズブランド」関連のスタッフが独立して立ち上げた、「株式会社ナイトウィンド」の「シルキーズプラス」ブランドの4作目。
シルキーズプラスは「シルキーズプラスWASABI」「シルキーズプラスA5和牛」のように開発チーム名をブランド名の後ろに付ける。
本作は「シルキーズプラスDOLCE」チームとしては初の作品となる。
「WASABI」「A5和牛」は本作より先にゲームを発売したチームであり、本作に「A5和牛」という単語が出てくるのはブランド名を絡めた小ネタである。

パッケージ版とダウンロード版が同日に販売された。

ストーリー

名前も顔も居場所も知らない。 実在するかさえわからない。 お前を必ず見つけ出す―― 『このメールは未来から送信されている』

2045年 冬。

双葉学園 萌えるAI研究会に所属する 桐島零一 は、偶然にも自我のある人工知能 アペイリア の開発に成功する。 触れてみたい、とパソコンの中の彼女が言う。

零一はAI研究会の部員たちと共に、デジタルの彼女に触れる方法を模索する。 そしてアペイリアの機能を使い、完全没入型VRMMO『セカンド』を作った。

剣と魔法、科学の融合したその仮想世界は第二の現実で、彼らは馬鹿騒ぎをしながら冒険を始める。 だが、『セカンド』は制御の利かない危険なゲームだった。

仮想世界に囚われたアペイリアを救うため、零一たちは命懸けでログインするのだが……  自我を持った人工知能と、彼女を開発した零一。

 そしてその仲間たちが送る、恋と青春の科学冒険ファンタジー。 ――やがて彼は、一つの仮説に辿り着く。

アペイリアを奪おうとしている、何者かの存在に。

(公式サイトより抜粋)

特徴

  • テキストを読み進めるノベルゲーム
    • 選択肢により展開が変わるものの、実質的には一本道である。
  • VRMMORPG『セカンド』(以下『セカンド』と略す。)ではキャラクターが剣や銃を用いて戦闘するが、プレイヤーが関与する要素はなく、読み進めるだけである。
    • 主人公は『セカンド』での戦闘時のみボイスが付く。
  • シーン回想モードでは、エッチシーン以外にも重要なシーンが登録される。

評価点

  • 丁寧な解説
    • 「二重スリット実験」「他世界解釈」等の科学やSF用語に関して、図を用いて丁寧に解説されるため、この手のジャンルに疎くとも話についていけるようになっている。
    • 『セカンド』では地図を用いて、敵の勢力や味方の位置などが示されるため、進撃準備から戦時に至るまで状況が分かりやすい。
      • 絵や声が付いており、任意で読み進められるノベルゲームとの相性が良く、自分のペースに合わせて理解できる。
    • 強いAIの誕生こそ落雷という偶発的要素が含まれるものの、現実でもシンギュラリティが発生するとされている2045年を起点としているなど、説得力を感じさせる舞台となっている。
      • 問題を抱えつつも、機械に頼らないと生活が破綻するといった発言は、2017年時点でも十分に納得できる理屈である。
+ 二重スリット実験の解説動画

  • キャラクター
    • 人差し指で〇×を作る愛らしいアペイリアや、ネトゲ廃人で臆病なましろ等のヒロインは特にキャラを確立しており人気が高い。
    • 敵の男性キャラクター陣も確固とした信念で動いており、行動原理に納得しやすい。
  • 構成
    • 主人公たちが世界の真相に手が届きそうになると強制的にループする。
      • 多くの作品がループを駆使して希望の世界にたどり着こうとする中で、本作はループの発生源や観測者を探すのが目的であり、主人公とプレイヤーに与えられる情報が同じなので感情移入しやすい。
      • ループ前にはメールを駆使して次のループへ情報を残す。何故メールを次のループにつなげられるのか? 等の理由は最後に明かされる。
    • ループ時には特定のヒロインと協力し、一般的なエロゲの個別ルートのように掘り下げが行われる。
      • 「AI」「スワンプマン」といった興味深いテーマに、それぞれのキャラクターの価値観がぶつけられ、キャラクターの信念を感じさせる。個別ルート単体でも一つの物語として見応えがある。
      • 伏線をばら撒くだけに終始せず、そのうえで終幕への布石にもなっているのが秀逸。
    • どのキャラクターも救いたいと思わせるだけの十分な魅力があり、早く先を読みたくなる。
  • 難解な点こそ多いものの、大筋やオチは分かりやすい
    • オープニングムービーや、あるキャラクターの発言・心情はクリア後に見返すと理解が深まる。

賛否両論点

  • 話が複雑
    • 前述したように仮想空間やタイムリープ現象に対する説明文は丁寧だが、仮想空間が複数存在し、それぞれが密接に連動している。
      • 物語が進むにつれ、キャラクターが置かれている立場が分かりにくくなってくるのは否めない。
    • 説明的な会話が多い。プレイヤーには図が提示されるが、作中のキャラは口頭で議論しているといった状況もある。
      • 賢いキャラ同士の会話なので、演出上間違ってはいないものの違和感も覚える。
    • ミスリードやどんでん返しもあるため、全ての情報を信頼しきれない点もややこしい。
  • 下ネタ
    • 簡単に説明すると、股間から出した光の剣が主人公の基本的な武器である。股間に手を添えて真剣な表情で敵を見据える姿はシュール。
      • 文字通り下半身で戦う主人公には賛否が強く分かれた。SFや思考実験の要素が複雑な分、バカ要素として緩急がついていてよいとも、単に下品でくだらないとも言われる。
    • 詳細は省くが、主人公と性交したヒロインは「絶印」の力を得てパワーアップする。
      • そのため、強敵との戦闘前にエッチシーンが入ることが多い。中盤からは「絶印」目的のエッチシーンが結構多い。
    • 一見下ネタの会話と見せかけて、別の意味を含ませていたりと侮れない部分もある。
  • エピローグがあっさり。もっとヒロインとの絡みを見たかったとも、余韻があって良いとも取れる。
+ 最後の演出
  • 「ログアウトする演出」の後にタイトル画面に戻る。
    • この演出が何を意味するかは解釈が分かれる。

問題点

  • 戦闘の演出
    • 『セカンド』では何度も戦闘があるが、基本的に同じ一枚絵と差分が切り替わるだけなので地味。終盤になるにつれ既視感が強くなっていく。
  • バックログジャンプがない
    • 変化する図を用いた解説等を読み直す際に、テキストしか遡れないのが難点。
    • こまめにセーブを取ることで対処できる。
  • 初期バージョンでは環境によっては強制終了が発生していた。
    • 現在は修正パッチにより鎮静化している。

総評

多くの要素を用いて構築された精密な舞台が最大の魅力。
ヒロインの個々のエピソードも見せ場があり、全てのヒロインを救いたいと思わせる説得力がある。

下ネタや説明文の多さは人を選ぶため、体験版が肌に合うか試すと良いだろう。



景の海のアペイリア ~カサブランカの騎士~

【ひかりのうみのあぺいりあ かさぶらんかのきし】

ジャンル 恋と青春の科学冒険ファンタジーADV

対応機種 Windows XP~10
発売・開発元 シルキーズプラスDOLCE
発売日 2017年12月22日
定価 5,800円(税別)
レーティング アダルトゲーム
配信 FANZA:2018年2月23日/2,852円
備考 本編や抱き枕カバーの付属版も販売されている
判定 なし
ポイント サブキャラクターの掘り下げ

概要(FD)

  • 本編発売から5ヵ月も経たないうちに発売されたファンディスク。
    • 本編はパッケージ版とDL版が同時発売だったが、本作はDL版が遅れて配信された。
  • 本編の『セカンド』で協力関係にあったサブキャラクター2人が攻略対象。
  • 本編をプレイした前提の内容であり、ゲーム起動時にも本編を先にプレイすることを勧められる。

ストーリー(FD)

友人がいなくなった。

沙羅と七海から相談を受けた零一は、パウンダリーIIαシステムというアプリの存在を知る。 一ヶ月間もセカンドへログイン状態だという友人の謎を解くため、零一は再びセカンドへログインする。 それは、新たな事件の幕開けだった。

αシステムに閉じ込められた零一は、ログアウトの方法を模索する。 しかし、彼はアペイリアの記憶を失っていたのだった――。

(公式サイトより抜粋)

特徴(FD)

  • 2択の選択肢が一箇所のノベルゲーム
    • どちらを選んでも読み進める順番が変わるだけで、実質的な一本道である。
  • 立ち絵・BGM・UI等の多くの要素が本編から流用されている。
    • 前作の印象的な一枚絵も何枚か流用されている。

評価点(FD)

  • ストーリー
    • 説明的な会話が減り、気楽に読みやすくなった。
    • だいぶ簡略化されてはいるが、本編のようなデスゲーム・ループを組み込んでおり小粒にまとまっている。
    • 粒子加速器によるブラックホール生成等のSF要素も残っている。
+ FDの終盤・本編のネタバレを含む
  • 本編では基本的に敵キャラクターであった、シンカーが名前を変えて再登場
    • 本作では主人公の味方となり、頼もしい戦力となってくれる。RPGの強敵が仲間になったような熱い展開である。
    • 再登場した理由も最後に明かされ、本編と同じく切なさを残す。
  • ネタ要素
    • 本編の記憶を引き継いでいるため、冒頭からキャラクター同士の距離感が近く、ノリの良い掛け合いが展開される。
    • 主人公の戦闘時の一枚絵に全裸が追加された。戦略的な理由ではあるが、やはりシュール。
    • 本編の下ネタは人を選ぶ要素だったが、本作はFDという性質上、本編のノリが好きな人しか購入しないため今回は好意的に受け入れられた。

賛否両論点(FD)

  • 本作のメインヒロイン沙羅と七海は本編では百合カップルであり、そもそも攻略対象となることへの戸惑いの声もある。
+ エンディング・本編のネタバレを含む
  • 本編は「誰を選ぶかは後で考えよう」というハーレムエンドだったが、本作もハーレムを拡張しての同じようなエンドである。
    • 決着をつけてほしかったとも、無難な解決策とも言われる。

問題点(FD)

  • 本編のメインキャラクターの出番が少ない
    • サブキャラに焦点を当てたFDとして紹介されてはいたものの、冒頭と結末にしか出番がなく、新規一枚絵が全くないのはガッカリ要素であった。
  • オミットされた要素
    • 恋愛に主軸を置いているため、高度な心理戦やSF要素はかなり薄れた。
    • 精読や考察を必要としない分、読み応えを求めると物足りなさを覚える。

総評(FD)

高度なSF要素が薄れ、読み味が軽くなったファンディスク。
本編の戦闘描写やサブキャラクターが好きだった人には購入を勧められる。

余談

  • ループ・MMORPGといった要素から、『STEINS;GATE』『ソードアート・オンライン』と比較されることが多かった。
    • 実際にプレイすると分かるが、似たような要素を含んではいるものの別物であり、本作のアイデンティティは十分にある。
  • 2018年7月27日に販売された『シルキーズプラス5周年記念豪華BOX』に本編とファンディスクが収録されている。
    • ファンディスクのムービーはこのBOXでのみ観られる。
最終更新:2020年06月04日 08:46