霊幻道士

【れいげんどうし】

ジャンル アクション
対応機種 ファミリーコンピュータ
メディア 2MbitROMカートリッジ
発売元 ポニーキャニオン
発売日 1988年9月16日
定価 5,900円(税別)
プレイ人数 1人
判定 良作
ポイント 育成要素のある格闘アクションゲーム
滑らかに動くドットアニメ
ばかもん!ちょっと油断しただけじゃ!


概要

1985年に香港で公開され、翌86年に日本でも公開された同名のキョンシー映画をゲーム化したもの。
原作はアクション俳優から映画監督としても名をはせた「サモ・ハン・キンポー」氏の手がけた映画シリーズの1つで、無数に存在するキョンシーホラー系作品の祖となったと言える作品。
カンフーバトルとキョンシーを織り交ぜたホラーの体系を確立したゲームとしては、前年発売の『キョンシーズ2』がある。

本作のドットアニメーションの監修にはアニメーターの森山ゆうじ(森山雄治)氏が携わっており、パッケージ裏でも紹介されている。

システム

ゲームは全8エリアで構成され、旅をしている道士(と弟子)が立ち寄った村ではキョンシー絡みの事件が起きているのでそれを解決し、また旅に出る…の繰り返し。
村の中を歩き建物を選んで入る移動パートと、建物や墓地の中でキョンシー等と戦うアクションバトルパートの2つに分かれる。
原作のキョンシーは倒すには特別に清めた武器や術を使わないといけないのだが、 普通に殴って倒せる ので、キョンシーが出ていると聞いた場所に赴いてパンチやキックを用いて格闘を繰り広げるのが目的。
(一応相当する武器アイテムなどはあるが、あくまで補助アイテムであり無くてもクリア可能)

アクションパートでは左右で移動、下でしゃがみ、上でジャンプ。Aボタンでキック・Bボタンでパンチが出せる。
これで道士を操ってキョンシーにダメージを与えて倒すのが目的という、アクション格闘ゲームとなっている。
道士自身と敵キョンシーそれぞれに体力ゲージがあり、ダメージを与えてゲージを削りきれれば撃破。
パンチは出が早く近めの間合いにも当たるがリーチは短く威力も低め(最強技を除く)。
キックはパンチに比べれば出が遅いもののリーチも長めで威力も高い。
ジャンプは技を最後まで習得するととんでもない高さまで飛べるが、チョン押しで小ジャンプもきちんとできる。

弟子を連れているが、弟子は戦闘に参加しない。
役割は主に補助アイテムの管理と ゲームオーバー時の暴言 で、キョンシーとの戦闘で補助アイテムを使う場合は部屋の入口まで戻って弟子に話しかける事になる。
弟子誘拐イベントが発生している場合は弟子がいないため補助アイテムが使えなくなる。

コンティニューはパスワード方式。「どうしのこころ」と呼ばれる、ひらがな15文字で構成されるパスワードを入力する方式。
パスワードでは現在いるエリアから技の習得状況、その他アイテムの所持数まできちんと保持される。

エリアとなる村にある施設は主に以下の通り。


  • キョンシーに占拠されてしまっている。普通の家もあれば飲食店のような場所もある。奥に家人が残っている場合は助けたお礼のメッセージと「こほうしょ」や戦闘アイテムをくれる。 行き止まりで家人がいない場合もあるが、その場合は最奥部のキョンシーが「ひすいのたま」を持っている。取得時には体力が全快する。
    こほうしょをくれる人がいる家は入りなおすたびにキョンシーが復活するため、何度でもこほうしょを貰える。
  • 寺院
    キョンシーに占拠されていて、解放すると泊まれるようになる。1度クリアすればキョンシーは出なくなるので以降は体力回復の拠点にできる。このため、ここを真っ先に解放するのが重要。
  • 墓地
    「ひすいのたま」を持っているヤツがここにいる場合もある。入口に人魂が飛んでいることがありその場合は捕まると弟子が誘拐される。 弟子が誘拐されると施設が利用できなくなってしまう。弟子が誘拐された時は最奥で女の幽霊との戦いになり、専用の曲が流れる。倒すとコンシーを操るのに必要な鈴が手に入る。
  • 洞窟
    単純にキョンシーの住処になっている。中に人間がいる事は無く、奥行きもない。侵入できる洞窟がある場合は必ず「ひすいのたま」がある。
  • 道場
    道士にカンフーの技を教えてくれる場所。
    門番と道場主がおり、まずは門番が出すクイズを解く必要がある。クイズに正解すると奥に進む事ができ、道場主からの教えを受ける事ができる。
    技を教えてもらうには、技のランクに応じた数の「こほうしょ」を渡す必要がある。こほうしょはキョンシーに入られて困っている民家などの主から貰う事ができる。
  • ボスキョンシーがいる場所
    墓地だったり洞窟だったり何かの建物だったりエリアごとに違うが、その村の異変の元凶となっている何かが潜む場所。
    村の一番奥にありエリア開始時は入る事ができず、村のどこかに合計3個隠されている「ひすいのたま」を全て集めると封印が解かれて中に入れるようになる。

補助アイテムに関しては以下の通り。装備した状態でBボタンで使用。いずれも何回か使うと壊れる。

  • おふだ
    キョンシーに直接貼り付けることで動きを一時的に止める。
  • とんてん
    敵を強制的にダウンさせる。ダメージは与えられない。
  • 聖剣
    武器として使用できる。威力は低いが、とんてん同様に敵を強制的にダウンさせる。

  • 上述の通りコンシーを操るのに必要。

評価点

  • グラフィックは上質。
    • 電源を入れると画面に棺が現れ、蓋が吹き飛んで中の死体の御札が取れて目を見開くデモが流れるが、このキョンシーがかなりリアルでホラー映画原作の雰囲気がしっかり出ている。
    • 各キャラクターのドットグラフィックも描き込まれており、どのキャラも左右どちらかの横向き状態が基本だが、道士自身は言うまでもなく敵のモブキョンシーにも振り向きモーション用の正面グラフィックが存在する。
      その他、各種動作も中間のグラフィックを挟んで滑らかに動く。アニメーターの森山氏が監修しただけあってそのこだわりぶりは見事なもの。
    • 建物の中の背景などもしっかり書き込まれており、場所によっては背景がきれいに地面や床に移っている所もある。
  • 育成要素がある。
    • レベルが上がったりする訳ではないが、技を覚えて道士を強化していくシステムがある。
    • これは単純に移動力を強化するものから攻撃の威力を高めるもの、初期状態では攻撃できない姿勢でも攻撃できるようにするものなど、多岐にわたる。
    • 中には攻撃の挙動が変わってしまうものもあり、好みによって特定の技だけ習得しないという選択肢もある。
  • 「コンシー」を使える。
    • コンシーとは、キョンシーは通常額にお札を貼る事で動きを封じる事ができるが、力のある道士ならばさらにそのキョンシーを操作する事ができるというもの。
      なお「コンシー」と言う言葉自体は中国語には別途存在しており、「お札でコントロールしている状態のキョンシー」をコンシーと呼ぶのは霊幻道士シリーズの造語である。
    • 中でも、子供と思われるキョンシーをこのゲームでは操作できる。『2』で生前親子だったキョンシーの物語が描かれており、そちらを意識したものと思われる*1
      • コンシーでラスボスを倒すとエンディングに入るときのメッセージが少し変わる。
  • キョンシーにも個性がある。
    • 雑魚モブのキョンシーに限っても、ノーマルな体形のキョンシーだけでなく、身体が小さくすばしっこいが体力が低く攻撃が当たれば大きく吹き飛ぶ事が多いチビキョンシー、背が高く打点が高いがその分しゃがみでかわすのが容易で攻撃も当たりやすいノッポキョンシー、動きが鈍いが一撃が重くこちらの攻撃を当てても吹き飛びにくいデブキョンシーなど種類がある。
      • 特殊なキョンシー戦ではBGMが通常と違うものとなる。
    • 同じキョンシーでもステージによって能力が上がっていく。さらに飛び跳ねる距離も一定ではなく、都度間合いを見てキャラを操作する必要があり、一定の間合いに立ったら蹴りを出しているだけと言うようなハメゲーにはならない。ステージが進むと色違いの強化版も出てくる。
    • ボスはこれらに加えて飛び道具を放ってくるもの、そもそもオリジナルグラフィックでキョンシーではないものもいる。
  • 道士と弟子のユーモラスなやり取り。
    • ゲームオーバーすると弟子が「なんて弱くて情けないんだ」「今日から僕が本家本元だ」等ととんでもない暴言を吐く(一応その後に冗談と言うが)。
      これに対し、コンティニューすると道士が「ばかもん!ちょっと油断しただけじゃ!」等と言い訳する。この時表示される二人の顔が妙にリアル。
    • 原作でも道士は別に完璧超人と言う訳ではなく人間臭い所もちゃんとある好人物。ゲーム内の会話は基本的に相手が一方的にしゃべるだけだが、道士にも相手に対して相槌を打ったり弟子の間抜けな質問に対して叱責する場面があり、道士のおちゃめな部分がちゃんと描写されている。
  • 家や墓地にいるキョンシーを全滅させて「こほうしょ」や「ひすいのたま」の取得後に戻る際、それまでに通過した部屋を飛ばして入り口まで戻ることができる。
    • 繰り返し行うことになる要素にショートカット機能があるのは地味に嬉しいところ。
  • BGMはファミコン時代ということもあり、数は少ないものの世界観・アクションゲームに合った軽快な曲が流れる。

賛否両論点

  • ラスボスが『霊幻道士3』の女妖術士オーボー。
    • 『3』の日本公開は本作発売のおよそ半年前であり、ちょうどその時旬のシリーズ最新作ではある。オーボーは道士と繰り返し対峙し最終的に悪霊に成り果ててまで立ちはだかってきた難敵であるが、このゲームでは最後でのみ現れて1回倒しただけで終わる。
    • 一応、各地の異変はこの妖術師がキョンシーを操って蘇らせているせいだ…とストーリーで語られてはいるが、原作ではオーボーは別にキョンシーを操ってはいない。というか香港オリジナル版ではそもそもキョンシー自体が出てきておらず、香港版で幽霊などと呼ばれていたものが日本語吹き替え版でキョンシーとされているだけである。
    • とは言え、『1』と『2』が「1つの巨大な敵」に立ち向かうストーリーではないため、霊幻道士ゲームとして「キョンシー」を出しつつ、かつ明確なラスボスを設定するためにはやむを得ないキャスティングと言えなくもない。

おバカな点

  • 先にも挙げた道士と弟子のやり取りにも垣間見えるが、家人の会話も「よりよく生きる秘訣は1つは朝寝じゃ、2つ朝酒じゃ、3つ朝湯じゃ」「あのきょんしーってやつをなんとかしてくれよお!ぼこぼこのうりうりにかためてよお。」など、攻略に関係ない可笑しなセリフが多い。
    • 中には「必殺の奥義を教えよう。全身の えねるぎー を拳にあつめ こすもぱわー を最大にし、キョンシーのひこうをうつべし!うつべし!うつべし!うつべし!…じゃ。」などといったパロディを込めた発言も*2
    • 原作のコメディチックさを再現する意味では、これはこれでありなのかも知れない。
  • 謎のクイズ。
    • 道場に入ると門番にクイズを出され、正解しないと中に入る事ができない。このクイズが、キョンシーに関わるものもあれば、何の関係もないものもあり、選択肢のどれを選んでも正解になるものまである。そして、間違えると「 たこ! 」と罵られる。
      キョンシーネタについては霊幻道士なので原作をある程度知っている前提にしていることや世界観の演出には良いが、特に関係のない中国の歴史に関するクイズや、中国関連ですらないプロレス技の話も稀に出てくる。*3
    • ちなみに道場に入るのにクイズを課される理由としては、「道士たるもの学も無ければいかん」と言うもっともな理由。
  • 道場に「空手道」と書いてある。
    • 言うまでも無いが霊幻道士は中国が舞台の物語であり、道士が使う武術もカンフーである。「空手の源流は中国武術」と言う説もあるが、だからと言って中国でカンフーの事を空手と呼ぶ事は無い。*4

問題点

  • 寺院解放後、利用する際には泊めてくれるお坊さんの部屋に行くまでキョンシーと戦った部屋を通過する必要がある。
    • ステージが進むと途中の部屋が増え、移動にかかる時間も増えてしまう。上述のショートカット機能が寺院利用時に無いのは惜しい所。
  • 一部の使いにくい技。
    • 終盤に習得可能な「とびげり」は前歩き中に蹴りを出すと移動しながら攻撃できるという技だが、まるでブランコを漕いでるかのように 腰から下だけを前に向けるドロップキック とでも言うべき妙な技で、上半身の高度が変わらないまま横に滑っていくシュールな技となっている。
    • 中盤で「まわしげり」という攻略の要となる便利な技を習得できるのだが、その後で「とびげり」を覚えてしまうと、振り向きざまに「まわしげり」を出そうとして暴発しやすく邪魔な技になりやすい。アクション性を損ねると考えて、敢えて習得しなかった人もいるだろう。
    • と言うかそもそも「とびげり」と言う名前から真っ先に連想されるのは「ジャンプ中に蹴りを出せるようになる」と言う効果だが、それは「ふうしゃげり」と言う技を習得した時の効果。どちらかと言えば逆では?
      そしてこんな技にもきちんとドットグラフィックの動きが描き込まれている。
  • コンシーが弱過ぎる。
    • 動きが鈍いうえにリーチが短く力も弱いため、最弱クラスのザコキョンシーにすら苦戦する有り様。ほとんど使い物にならない。
    • しかも、アイテムを使えないうえに道場を利用できないというデメリットもあるため、使わない方が無難。
  • パスワードが自由に発行できない
    • このゲームは前述の通りパスワード方式だが、パスワードを発行できるのは「1つの村をクリアして次の村に行く時」と「ゲームオーバーした時」のみ。
    • この手の仕様自体は当時のゲームでは珍しいものではなかったが、このゲームでは育成要素やそのための稼ぎプレイが存在するため、エリアの途中でパスワードが発行できないのは不便。
      • 一応、わざとゲームオーバーすれば任意のタイミングでパスワードを発行できるが、ゲームオーバーすると補助アイテムを全てとこほうしょを半分失うという割と重いペナルティがあるため、気軽に利用できるものではない。
  • 最終ステージでは寺院と道場が利用できない。体力の回復は「ひすいのたま」取得時のみとなり、覚え忘れた技の修得もできなくなる。

総評

当時大ブームを巻き起こした人気映画をゲーム化したキャラゲーではあるが、単なるガワ替えゲームでもなく、破綻しているやっつけゲームでもない、きちんと完成されたゲーム。
パスワード周りの不便な点など幾つかの粗はあるが、ゲームとしてきちんと成立しており、原作もしっかり再現されているため、霊幻道士シリーズのファンはもちろん、原作未見の人もプレイして損はない作品。


余談

  • 海外では『Phantom Fighter』のタイトルで発売された。
    • デモ画面のデフォルメ調のグラフィックからリアル調へと変更されているなどの違いがある。
  • 本作の音楽と脚本は後に18禁ゲーム界で名を馳せることとなる田所広成氏が担当している。
  • どうしのこころどうしのこころへ 」という語呂合わせパスワードが有名。
    • これを入力して開始すると、いわゆる無敵状態でゲームが始まる。
      技の習得状態こそ微妙な状態で始まるが、補助アイテムおよび「こほうしょ」を無限に所持している*5ため、技はすぐにコンプできるし、コンプしなくてもそもそも無敵なので何やっても勝てる。
      さらには部屋内にいるキョンシーを倒さないと先に進めない扉や、「ひすいのたま」を3つ集めていないと侵入できないボスエリアの入り口など、あらゆる進入制限を無視して先に進めるようになっており、一種のデバッグ用パスワードだと思われる。
      そんな状態でエリア6という後半から始まるが、この手のパスワードにありがちな、必須なフラグアイテムが欠けていて実はクリア不能なんていう落とし穴もない*6ため、手っ取り早くゲームをクリアしたいプレイヤーに重宝された。
    • 「あちちちちちちちちちちちちちち」というパスワードも有名。
      • こちらはエリア2から始まり、コンシーを連れている状態で始まる。例によって無敵化しており侵入制限を無視できる。
        コンシー自体はどちらかと言うとお遊び要素に近く別に強くない(というかコンシーがいなくならないと道場で技を教えてもらえない)上、始まるのも序盤なので手っ取り早いクリア目的にはあまり向いていない。

最終更新:2024年05月25日 19:52

*1 コンシーという名前自体は上記の通り「コントロール状態にあるキョンシー」の呼称で、子供のキョンシーの略称ではない

*2 道場とは違い、この会話を聞いても必殺の奥義を習得することはない。

*3 中には「問.三国志で有名な砦の名前は? 答.梁山泊」と、間違っているものすらある。梁山泊が登場するのは水滸伝。

*4 クイズの中に「問.中国武術のことを普通何と言うか? 答.カンフー」というものがある。じゃあ、なぜ空手道なんてものがあるんだ……。

*5 厳密にはこほうしょは無限ではなく85本所持で追加取得すればここから増えるが、技を教えて貰っても減る事がない

*6 そもそもこのゲームにはそのエリア内で手に入れるひすいのたま以外にフラグアイテムは無いが