探偵撲滅

【たんていぼくめつ】

ジャンル 探偵シミュレーションアドベンチャー

対応機種 Nintendo Switch
プレイステーション4
発売元 日本一ソフトウェア
発売日 2021年5月27日
定価 7,678円
プレイ人数 1人
レーティング CERO:D(17才以上対象)
判定 良作


ストーリー

『八ツ裂き公』を名乗る
謎の人物が起こした連続殺人事件により、
100人以上もの命が失われた。

社会全体に混乱が広がりつつある中、
政府は八ツ裂き公の対策として、
例外的な措置を発表する。

それは優れた探偵を集めた組織
『探偵同盟』への、捜査依頼。

『探偵ネーム』と呼ばれるコードネームで
呼び合うというその組織の探偵たちは、
年々犯罪率が高まる社会の中で、英雄視されていた。

平凡な高校生、北條和都も探偵同盟に憧れる一人。
そんな彼の元に、ある日『老師探偵』を名乗る謎の男が現れ、
「お前は探偵同盟のメンバーに選ばれた」と宣言する。
更に、有無を言わさず眠らされ、
名前も知らない島へと連行されてしまうのであった。
(公式サイトから引用)


概要

日本一ソフトウェアによる、「推理ADV+推理SRPG」という斬新な形式のアドベンチャーゲーム。
14人の個性豊かな探偵「探偵同盟」が殺人鬼「八ツ裂き公」の思惑によりクローズドサークルに閉じ込められ、一人また一人と犠牲を払いながらも犯人を追い詰めていく推理ミステリー。
特徴的な点として「捜査パートが戦略シミュレーションゲーム形式」であることが挙げられる。
プレイヤーは探偵同盟の司令塔となって探偵達を事件現場に適切に配置し、制限ターン以内に証拠や情報を収集完了させることでステージ(章)をクリアしていく。
なお同社は「ディスガイア」などのSRPGや、「ホタルノニッキ」などの残酷なADVを多数輩出してきたベテランメーカーである。


特徴

物語の進行について

  • 多くの推理ゲームと同様、1つの事件を1章とする章立て形式で話が進む。
  • 基本的には以下の3パートで構成されている。
    • ①アドベンチャーパート:事件発生前~直後。一般的な選択肢型のテキストADV形式。
    • ②捜査シミュレーションパート:調査と推理。本作のメインイベント。戦略シミュレーションRPG形式。
    • ③真相解明パート:事件解決。上記②で獲得した情報を元に結論を導き出す。選択肢多めのテキストADV形式。
    • ①⇒②⇒③⇒①⇒...の展開を繰り返し、物語が進展していく。
  • 物語が進むに従い、死亡等によってキャラクターはシナリオから脱落していく。
    • 本作は黒幕「八ツ裂き公」の話題を軸にストーリーが展開され、殺人も主にその影響で発生する。しかしあくまで「探偵たちが協力して一人の犯人を追い詰め、逃げる犯人の計略により犠牲者が出る」という展開に終始しており、『ダンガンロンパ』等のデスゲーム系作品のように味方同士の殺人を強要するような要素や、犯人が処罰されるような仕組みは存在しない。
    • 全編にわたって選択肢が設けられているが、シナリオが大きく分岐するようなものは無く、1本道である。

探偵同盟について

  • 主人公を含む全てのキャラクターは国際組織「探偵同盟」に所属する探偵であり、「科学探偵」「武装探偵」といった「○○探偵」という探偵ネーム(コードネーム)を持つ。
    • 本名の秘匿が探偵同盟の規則で定められており、各探偵は作中では基本的に「○○探偵」「○○さん」など、この探偵ネームで呼び合っている。
    • 各探偵の本名は後述の「残留思念」イベントにて知ることができ、作中の「探偵一覧」で見られる情報にも本名が追加される。
+ 登場キャラクター一覧

無能探偵 (男) 探偵序列100位 能力:???
本作の主人公であり、本名は「北條和都(ほうじょう わと)」。プレイヤーは彼を操作して事件を解決することになる。 他の探偵と違って特別な才能が見当たらないため、無能探偵と呼ばれることになる。

理想探偵 (女) 探偵序列2位 能力:行動予測
本作のヒロインに当たる女性。常に穏やかな口調と笑みを崩さず、まるで未来を覗いているかのようにあらゆる事件を冷静かつ迅速に解決してのける探偵同盟の実質的なトップ。*1

外道探偵 (男) 探偵序列4位 能力:犯罪者の思考把握
既に何人も殺しているシリアルキラーの超危険人物。しかし、犯人側の思考からなる推理は皮肉にも探偵としても一流であったため、いつでも爆破出来る首輪を付けて探偵同盟に協力させられている、本作のトリックスター的キャラ。

華族探偵 (女) 探偵序列5位 能力:審美眼
世界的に有名な探偵を幾人も排出しているピンカートン家の子孫。
作中では事ある毎にポンコツっぷりを披露してしまうコメディ役兼清涼剤を担当しているが、物の真贋を見抜く眼や、人を上手く遣うという才能は紛れもなく本物。

社畜探偵 (男) 探偵序列10位 能力:堅実な捜査
昼はサラリーマン、夜は探偵という二足の草鞋を履く生活を送っている妻帯者。 飛び抜けた才能はないが、コツコツと推理を積み重ねる堅実さで序列10位に登り詰めた。

渋谷探偵 (女) 探偵序列22位 能力:コミュニケーション推理
他人と会話を重ねて、そこから解決の糸口を見つけるという推理法を用いる。 持ち前の明るさで基本的に誰とでもすぐ仲良くなれる。

魔界探偵 (男) 探偵序列7位 能力:オカルト調査
オカルトじみた事件を専門に扱う。 一見すると中二病を患ったアレな人に思えるが、実際はどんな荒唐無稽な可能性だろうと一蹴せず、様々な角度から推理することで解決に導くまともな人。

美食探偵 (女) 探偵序列9位 能力:超味覚
人の感情すら言い当ててしまうほどの味覚の持ち主。 食に対するこだわりは強く、食する自由を奪うという殺人行為を嫌う。 幼い頃から様々な物を食べてきたため、大抵の物なら毒物でも平気で食べられる耐性が付いている。

被虐探偵 (男) 探偵序列14位 能力:名探偵体質
超が付くほどの不幸体質であり、命を落としかねない事故や事件を何でも引き寄せてしまうおかげでネガティブな性格。 同時に危険を察知する能力も高いため何とか致命傷は避けられるものの、全身が常に傷だらけになっている。

文学探偵 (女) 探偵序列15位 能力:視覚記憶
無類の本好きであり、一度読んだ本なら全て記憶できる。 言葉を話す際はまるで小説のセリフのように「」を付けて話す。

科学探偵 (男) 探偵序列20位 能力:探偵友具の開発
先天性の病による車椅子で生活する少年だが、海外の大学で博士号も取っている俊英。 友具(フレンズ)と呼ぶ探偵サポートツールを開発し、事件の解明に協力する。

大和探偵 (女) 探偵序列25位 能力:超身体能力
幼い頃から野山で狩りをしながら生きてきたおかげで、人並み外れた身体能力と野生の勘を身に着けている。 しかし何かと腕力で解決しようとするほど単純な反面、人情には脆く、自分が一度信じると決めたら曲げない一本気で熱い性格。

武装探偵 (男) 探偵序列32位 能力:守護
様々な機能を搭載した特殊な甲冑に身を包む荒事担当。 推理力は探偵として乏しいものの、決して諦めない粘り強さで事件を解決してきた好漢。 しかし単細胞なうえに暑苦しいので周囲からの評価は低くなりがち。

老師探偵 (男) 探偵序列番外 能力:建築デザイン
探偵同盟の設立にも関わったベテラン探偵。 現役を引退しているため序列はないが未だその能力は健在。 他人の言動に点数を付ける癖があり、和都が事件に巻き込まれたのは彼が強引に連れてきたのがきっかけ。

八つ裂き公
正体不明の連続殺人鬼として世界中を恐怖に陥れている謎の人物。 今回集められた探偵同盟のメンバーの中に紛れ込んでいるとされている。

  • アドベンチャーパートと真相解明パートは完全フルボイス。捜査シミュレーションパートでの一部台詞のみパートボイス。

捜査シミュレーションパート

  • 各章で、主に殺人事件が発生したタイミングで行われる捜査パート。
  • シミュレーションRPGのようなルールで各探偵を操作し、規定ターン内に協力して全ての証拠品を見つけ、捜査を完了させることを目指す。
    • 各探偵は「推理力」「調査力」「検証力」「連携力」「移動力」の各パラメータを持っており、それぞれ得意分野が異なる。パラメータはゲーム内で増減はしない。
    • 規定ターン経過しても証拠の取り残し、推理や検証のやり残しがあるか、後述のデッド・へリングにより本パート内でキャラが死亡してしまうとゲームオーバー、セーブデータまたはこのパートの最初からやり直しとなる。
  • 各ターンでは、マスに区切られた捜査現場マップにおいて、各キャラに以下の6つの行動を指定して行動させる。これを本作では「介入」と呼ぶ。
    シミュレーションRPGのように「移動(任意)→それ以外の行動」がワンセットとなっており、移動した後かまたはその場で、移動以外の何らかの行動を取るとそのキャラのそのターンの行動は終了する。先に移動以外の行動を取った後に移動をさせることもできるが、移動→行動→移動とすることはできない。
    • 移動:指定した探偵の位置を移動させる。移動できる最大マス数は各探偵が持つ「移動力」に等しい。
      • 全体移動:移動力に関係なく、マップ内の任意の位置に移動させられる。ただし、これを使うとそのターンの移動後の行動はとれなくなる。
    • 推理:隣接するミステリーポイントやデッド・ヘリングの数字を減らせる。減らせる数字は各探偵に設定された「推理力」に等しい。
    • 調査:探偵の周囲にあるものを調べる事が出来る。調べられる距離マス数は各探偵が持つ「調査力」に等しい。
    • 検証:「調査」コマンドで入手したエビデンス(証拠品)を詳しく検証して検証済状態にする。各エビデンスには検証難易度が存在し、各探偵が持つ「検証力」を超える難易度のエビデンスは検証できない。
    • 連携:「推理」コマンドを使用している探偵に隣接させてこのコマンドを使うと、推理する探偵の「推理力」に連携する探偵の「連携力」を足して計算することができる。
  • 各探偵の行動を「介入」で指示した後、「捜査開始」コマンドを実行することで、マップ上の探偵が全員指示した行動を行い、そのターンが終了する。
    • 行動を指示していない探偵は勝手に自己判断して行動する。
    • また、一部状況では主人公である無能探偵を信頼していない探偵が数名おり、それらにはこちらの介入で指示を出すことができない。捜査が進行することで指示が出せるようになる場合がある。
    • 「捜査開始」のほかに「先行捜査」というコマンドがある。このコマンドでは既に行動を指示した探偵を先に行動させることができ、完了してもターンは終了しない(再度そのターン中に未介入の探偵に指示を出して「捜査開始」ができる)。
      • 上手く活用すると「証拠品Aを調査する→検証できる証拠品が出てくる→それを検証した結果、ロックが解除される→他の探偵が近くにいたおかげですぐ調査が出来る→更なる検証が可能になる」という具合に、1ターンの間に一気に捜査を進めることが出来る。
  • マップ上にはさまざまな手がかりがあり、それらを調べていかなくてはいけない。
    • ミステリーポイント:現場に残された謎。HPのような数字が表示されており、探偵の「推理」コマンドで減らしていき、0にすれば解明されて消滅する。
      • ただし、一部のポイントは登場した時点では「ロック」されていて推理できない。捜査がある程度進展すればロックが解除される。
    • エビデンス・スクエア:現場に残った証拠品。「調査」することで手持ちのエビデンスに加えられるが、一部のエビデンスは見つけた後に「検証」コマンドで全容を解明しないと完了扱いにならない。
    • デッド・ヘリング:犯人の仕掛けた罠などが潜む危険地帯。ターン終了時に探偵がこのエリア内にいると、その探偵が死亡し即座にゲームオーバーとなる。ミステリーポイントと同様に数字が設定されており、「推理」コマンドで0にすれば消す事が可能。
    • ワードポイント:「調査」コマンドで調べることで、辞書要素にあたる「語録」が入手できる。事件とは無関係で調べなくてもクリアは可能だが、調べればより世界観を理解できる、ある種の収集要素。
    • 残留思念:メインキャラである探偵たちのうち、特定の探偵に関連するアイテム。ワードポイントと同様にクリアには関係なく、普通に「調査」しても事件に関係ないエビデンスが入手できるだけで何も起きないが、主人公である無能探偵が「調査」すると、その探偵の想い出となっているスキット(固有イベント)が見られる。このイベント内でその探偵の本名が明かされる。
      • 残留思念は通常マップに表示されておらず、マップをくまなく「調査」しないと見つからないが、前章の真相解明パートで高評価を取っていれば目視できるようになる。

真相解明パート

  • 捜査シミュレーションパートを無事にクリアすることで、事件の全容を解明する「真相解明パート」へと移行する。
    • 主人公である無能探偵が、捜査の中で得た情報や証拠から事件を解明していく。
    • 途中でいくつか3択の選択肢が存在しており、それぞれ正答できるまで答え直しになる。間違えると「信頼度」が減っていき、無くなるとゲームオーバー。一発で正答できれば回復する。信頼度は5目盛りで開始され、最大10目盛り。
    • パート完了時の信頼度によって、Sランクが最大のランク評価が行われる。高ランクでクリアすれば前述の通り、次章で発見できる「残留思念」が可視化される。
    • このパート中はセーブ不可となっている。

評価点

  • 個性豊かな多くの探偵達。
  • 強烈な思想・能力の登場人物が多く、誰一人没個性にならずキャラ立ちしている。
    • 「探偵」をテーマに「推理」「護衛」「捜索」など各業務へ細分化し、キャラ被り無く魅力的に描いている。
    • 例:「武装探偵:自他ともに認める脳筋だが、頑強な仕込み鎧と折れない精神で依頼人を護衛しながら事件を解決」
    • 基本的に全員クセはあるものの友好的で、会話の密度が高いためキャラクター像を掴みやすい。
  • 代表的同型ゲーム『ダンガンロンパ』の「超高校級の〇〇」同様、「○○探偵」という特徴を示す探偵ネームを最初から開示することによって多数のキャラが把握しやすくなっている。また「親しくないうちは本名を明かさない」という設定もプレイヤーの記憶力への負担を軽減している。
  • アドベンチャーパートでは探偵ネームに見合った特殊能力でいずれのキャラも活躍し、捜査パートにおいても得意不得意が数値化された各パラメータによって彼らの特徴が表現されている。
  • 収集要素である「語録辞典」「探偵一覧」「残留思念」にてキャラの本名や意外な過去、探偵同士の繋がりが判明する。ボリュームのある情報量で、各キャラクターの人物像をより一層肉付けしている。
  • 単なる孤島ミステリーだけに収まらず、先が読めないストーリー。
    • 序盤である1章から味方の死や脅威の出現など急展開の連続で、常に油断のならない緊張感のある展開が繰り広げられる。
    • 中盤以降は探索やサバイバル要素の趣も現れ、閉鎖空間での謎解きに留まらないシナリオへ発展していく。
    • 本作はほぼ全編が舞台となるモルグ島の中で進むが、サバイバル要素や複数の殺人事件が起こっても舞台の狭さは感じられない。
  • 捜査過程に焦点を当てた斬新な推理パート。
    • 本作は「探偵全員で証拠を揃える」ことをゲームのメインイベントに据えており、「謎や犯行の痕跡=敵モンスター」「推理力=攻撃力」と置き換えることで「敵(=痕跡)を攻撃(=推理)して倒し、宝(=証拠)をゲット」という日本一ソフトウェアお得意のSRPGへと転化している。
      • 「攻撃(=推理)向きではない探偵は移動力・調査力を活かしてマップ上の証拠を収集・検証」「援護攻撃(=連携)で味方の攻撃力(=推理力)を底上げ」「強敵(=必要数値の大きい謎)を味方で囲んで総攻撃(=推理)」など、推理ゲームの各要素を丁寧にSRPGへと落とし込んでいる。
      • 既存の推理ゲームの多くはポイントクリック形式やコマンド総当たり式が採用されているため、捜査パートは凡庸になりがち。本作では各キャラが独自のパラメータを持っており、得意分野を活かして他の探偵の弱みをフォローするという仕組みであるため従来の推理ゲームよりも一層「味方全員が能動的に捜査している」実感が湧くようになっている。同じくプレイヤー自身も「自分の意志で解いている」という実感が湧きやすい。
  • 同じ証拠品であっても発見した探偵ごとにリアクションが用意されているため、プレイヤー次第で捜査風景が異なる。
    • 例:同じ「水」という証拠品を調べる場合でも「この部屋に水気があるのは不自然だ」とヒントを喋るロジカルな探偵もいれば、「ペロッ……これは水!毒じゃなくて良かった!」と場を和ませるフィジカルな探偵もいる。(※真相解明パートでの効果は変わらない)
  • 戦略性などのゲーム的な観点で見れば、ターン制限も移動制限も緩く、同メーカーのSRPGに比べて難易度は高くは無い。
    • SRPGに不慣れなプレイヤーでも数回のトライ&エラーで「どの場所に、どのタイミングで、どんなパラメータを持った探偵を配置すべきか」が把握できる程度には余裕が用意されている。
    • SRPGの難易度が高すぎると推理ゲームとして楽しめなくなり、本末転倒であるため適切な難易度調整であると考えられる。
  • フルボイス。
    • フルボリュームの推理ゲームでは珍しく、全シナリオがフルボイスで展開される。
    • メジャー声優は少ないものの、各声優の演技力に申し分は無く、それぞれのキャラクターに合った演技を見せてくれる。
    • キャラクターの一人「渋谷探偵」はバーチャルYouTuber(VTuber)である鈴木あんずが担当している。人懐っこいあけすけなキャラをうまく演じており、ゲスト声優といっても本職声優と遜色無い演技。
  • スチル・立ち絵・アイコンを用いた演出
    • 重要なイベントはスチル(一枚絵)で表現されることはもちろん、事件ギミックの説明では簡略化された棒人間絵が複数用意されて各探偵の推論が表示され、プレイヤーが「その推論は図で見るとおかしくないか?」と気づきを得られるようになっている。
    • 口パク・まばたきなど一通りの立ち絵ギミックが実装されている上、立ち絵を場面に合わせて左右に動かしたり傾けたり透過することで「考えながら歩いていて転倒」やいわゆる「志村後ろー!」のようなシチュエーションを表現したりと、左右固定の紙芝居にならないよう意欲的な工夫が見られる。
    • 捜査シミュレーションパートでもかわいいアイコン状の探偵達がピョコピョコ動く姿は、視認性を確保しつつ舞台となる殺人現場の二次元の嘘による違和感を緩和している。
  • 人物背景・世界観が作りこまれている。
    • 各探偵には、パーソナリティ以外に探偵同盟での序列や、主に解決した事件といった情報が設定されている。
    • 収集要素の一つである「語録辞典」では、探偵一人一人がこれまでに解決した事件の概要や探偵になった経緯を見ることができ、そこから各探偵が個人で事件解決する際の傾向などを窺い知ることができる。ボリュームも全62個と数も多く読み応えがある。
    • 主人公だけが回収できる収集要素「残留思念」は、「その探偵がなぜ、そんな行動をとったのか?」といった動機につながるサブエピソードを見ることができる。クリア後の2周目から解放される残留思念も存在し、事件の裏側を垣間見ることができる。
    • 公式ホームページで公開されている外伝小説(前日譚小説(各探偵14名分)や広報小説)など、多くの補完エピソードが用意されており人物像のさらなる肉付けが為されている。
  • セーブスロット数は48と多く、各章の最初/捜査パートから始めることもできるので、収集要素コンプリート目的のリトライや好きなシーンの保存が容易。全編フルボイスかつ捜査シミュレーションパートが存在する本作においては非常に有用。

賛否両論点

  • SF要素、オカルト要素が存在する
    • 第1章から現代では存在しないような殺人ロボットやハイテク機器のオンパレードであり、SFの域に足を踏み込んでいる。
      + そしてオカルト要素(序盤のネタバレ有)
    • 「第1章で惨殺されたヒロインが、第2章からは主人公とだけ会話できる背後霊として常時同行する」という、人によってはご都合主義と受け取れる展開が発生する。
      • 主人公以外の人物に干渉できない背後霊というポジションに「ヒロイン 兼 漫才相手 兼 師匠役 兼 ゲーム上のナビゲーション役 兼 主人公の知らない舞台設定を説明する役」…という便利な役割を無駄無く詰め込んでおり、収まりが良い。
  • 「逆転裁判」「ダンガンロンパ」という先例通り、推理ゲームとSF要素・オカルト要素との相性は決して悪くはない。本作においてもSF要素・オカルト要素ともに賛否の賛の声が多く、隙あらば鬱展開を挟む日本一ソフトウェアにしては珍しい救済要素でもあることから肯定的に受け取られている。
  • 個性豊かな探偵達であるが、一方で、キャラ設定が良く言えば王道的、悪く言えばマンネリ気味。
    • 全体的に大体のキャラが「○○キャラ」のような括りで分けられる設定である。それ自体はよくあることであり、「文学探偵」「武装探偵」といった肩書きに見合った活躍をいずれのキャラもこなしている。
    • 一方で「こういうシチュエーションにはこのキャラ」といった当て嵌めが強すぎる感もあり、意外性のある活躍を見せるシーンはやや少ない。この辺りでインパクトの弱さ、キャラのテンプレート感を指摘する声は見られる。
+ 終盤の展開で若干のネタバレ有
  • ラストの黒幕との対決シーンに尺がかなり長く取られている。
    • 黒幕が判明してからは、死生観に関する黒幕の動機を打ち負かす展開になる。しかし、これに関してはイデオロギーのぶつかり合いであり、どちらが正しいという話ではない。全体的には主人公サイドの意見に同調するプレイヤーが多いだろうが、必ずしもそうかというと恐らくNOであり、同調できたとしても、本作内で黒幕側の意見を完全にやり込めていると感じられるかは議論の性質上微妙なところ。
    • おまけにこの丁々発止のやり取りが、ボイススキップ無しだと50分を超えるかなり長い時間に渡って繰り広げられる。主人公が一旦挫けて立ち上がるシーンなども含まれており、ただの舌戦が延々と続く訳ではないが、答えの無いやり取りであることもあって、ここでちゃんと没入できるかはかなり人を選ぶ。

問題点

  • ボイス音量の調整があまり良くできていない。
    • 普通、もしくは少し抑え目に話しているシーンだと、台詞がBGMに埋もれてしまいよく聞こえないような場面が少なくない。手動での音量調整がなされていない印象を受ける。
    • 特に、主人公である無能探偵は普段はやや気弱な性格であることや、内心の声にもボイスが入ること、主人公ゆえ終始中心となって話すことからこの調整不足が目立ちがちである。
  • ゲーム上における推理要素の流れがややちぐはぐ。
    • 本作の中心となる捜査シミュレーションパートはあくまで捜査であり、解決編である真相解明パートは主人公が1人で事件の真相を話すパートとなる。そのため、普通にやっていると 「捜査パートの方が解決パートよりも長い」 ということになりがち。
    • 捜査が終わった時点で主人公が真相を掴んでいるため、真相解明パート自体がさほど長くもなくあっさりしている。事件について議論が紛糾するようなシーンもほぼ無く、難事件に立ち向かっているような感覚はやや薄め。
    • 事件が起きた時点では主人公もかなり悩むものの、ひとたび捜査を終えてしまえば主人公は一人で全ての謎を解いてしまう。推理を披露する際に他の探偵の協力を得たりはあるものの、捜査パートで協力して捜査している感を出しておきながら、肝心の解決パートでは周囲の優秀な探偵を尻目に主人公の独壇場となるため協力感は薄い。
      • 主人公は新米探偵かつ特に秀でた能力もないことから「無能探偵」と序盤で名付けられるが、この推理力で無能とは到底言い難い。一度決めた探偵名は変更できないため、呼び名として「無能探偵」「無能くん」などと呼ばれ続けるのはおかしくないが、この辺りの活躍とのギャップをほとんどの探偵が突っ込まないところに違和感は残る。
      • 強いて言えば、第3章の捜査シミュレーションパートにおいて、とある箇所のミステリーポイントを主人公に推理させ、ある探偵を主人公と連携させて解明すると、「『無能探偵』なんて呼び名がおかしく感じるくらい見事な推理よ」(要約)と言われる。
      • これだけ推理力があるはずの主人公が、捜査シミュレーションパートにおける推理力のパラメータは2とかなり低めで、ゲーム中特に成長もしないというのも割とツッコミ所である。
  • 一部の捜査シミュレーションパートが高難易度。
    • デッド・へリングなどのゲームオーバー要素の配置が一部の章でシビアになっている。
      • 例1:「介入」できない探偵は勝手に行動するが、その探偵のすぐそばにデッド・へリングが存在する章が序盤にある。このリスクに初見では気づきづらいためトライ&エラーで解法を探す必要がある。
      • 例2:不可視の敵から身を守る章があり、立ち回りのミスが即ゲームオーバーとなる。攻略法はトライ&エラーで挑戦を繰り返すほかない。
  • 捜査シミュレーションパートにおける「全体移動」の忘れられやすさと強力さ。
    • 2章以降はこの機能を使わないとクリアが難しく、収集要素を含めた完全クリアもほぼ不可能である。だが、1章では全体移動のチュートリアルがなく口頭で説明されるだけであり、全体移動がなくてもクリア可能であることから、本格的に使うようになる頃には全体移動の存在を忘れており、詰まってしまった人がそこそこ多かった模様。
    • また、逆に使うとなるとキャラクターの移動力に関わらず何処へでもワープ出来てしまう。普通に移動しても1ターンで届かない場所ならどのみち行動は出来ないので、全体移動を使用したターンは行動不能になるというデメリットが意味を成しておらず、使わないという選択肢がほぼない。*2
    • 推理・検証能力は低いが元気の有り余っている武装探偵などが使える特殊コマンドとして活用出来たのならば、キャラの設定にも合ったシステムになっただろう。
  • 最後に黒幕「八ツ裂き公」の正体を当てるシーンは真相解明パートがない。主題が「黒幕の持論を論破する」へとシフトしている。
    • つまりプレイヤーはただストーリーを見ているだけで、黒幕が誰か当てるための選択もできない。大詰めと言えるシーンでこれは拍子抜けである。
    • クリア後に開放される章選択名でもそのシナリオは「エンディング」としてクレジットされているため、ゲームとしては既にクリアされており、RPGで言うところの勝利が約束されたイベントバトルというのがスタッフの想定だと思われる。
  • 一部の戦闘シーンの迫力不足。
    • 本作は戦闘シーンも多く、特に中盤に多発する。重点的に固有イラストを設ける努力は感じられるのだが、全てをカバーできている訳ではなく、濃い緊迫感を演出できているとは言い難い箇所もある。
    • 特にそれを感じるのは主人公が戦闘に参加する場面。満身創痍になり死を覚悟するほどのかなり緊迫した戦闘が繰り広げられるのだが、最後のクライマックスしか固有イラストがなく、そこまでに剣撃エフェクトとボイスだけのやりとりで行われる戦闘がかなり長い間続くのはやや気になるところ。
  • 人数の減ってくる後半のシミュレーションパートでは介入できないキャラがいなくなる。そのため、難易度的には後半の方が簡単というゲームバランスになっている。
    • 見方を変えれば、それだけ主人公が仲間から信頼されたという証でもあるのだが。
    • 人数が減ることでデッド・へリング等を対処する難易度が上がっているため、その点への調整と考えられる。
  • 探偵同盟の設定を持て余している感が否めない。
    • 探偵同盟のルールの一つに「 探偵の間で意見がぶつかった場合、明確な証拠がない限りは序列が上の探偵には従う必要がある 」という設定があり、これが序列の低い主人公が他の探偵に捜査介入を行う根拠として機能しそうなのだが、作中ではそういった状況はほぼ皆無。
      序列関係なく捜査介入が出来る協力的、非協力的なキャラが分かれているため、結局は主人公に好意を抱いているか否かというふわふわした影響しか機能していない。
  • かなり気に掛かる程度には誤字脱字が多い。
    • 前半はさほどでもないのだが、3章辺りから目に見えて誤字脱字の量が増加する。
    • 軽い誤変換や1文字2文字抜けているぐらいのものが多いものの、特定のフレーズが誤って重複しているような、かなり目立つものも複数回出て来る。
    • 評価点「フルボイス」の通り全セリフが音読されているため、正しい読みは声を聴けば判別できる。

総評

クローズドサークルの舞台に異常な才能を持った人物が集められ事件が発生するなど、身も蓋もないわかりやすい言い方をしてしまえば『ダンガンロンパ』系の作品である。
しかし、システムなどの差別化を図ることで単なる後追いの二番煎じには収まらないように創意工夫されており、細かい難点こそあるものの、全体的には程よくまとまったアドベンチャーゲームである。
日本一ソフトウェアの得意分野である戦略SRPG要素を推理ゲームに持ち込んだことで、地味になりがちな捜査パートを華の有るものへ昇華している。
「値段以外は良作」と評されがちな日本一ソフトウェアであるが、本作は「値段相応の良作」と太鼓判を押せる出来になっている。


余談

  • 本編の第一章を丸々遊ぶことができる体験版が配信中。システムやプレイ感はこの体験版でしっかり確認できる。
  • 公式HPでは各探偵が主役の外伝小説(各探偵に1話で合計14話)が掲載されている。中にはゲーム本編と関わりがあるものも含まれるので、プレイ前に一通り読んでおくとゲームのストーリーがより深く理解できる。
  • さらに小説投稿サイト「カクヨム」では上記のストーリーに加え、本編の前日譚と後日談が公式によって掲載されている。
    • 内容の都合上本編のネタバレも含まれるので、読むならば本編をクリアしてからが推奨される。
  • 元ネタと考えられる作品に、作家の清涼院流水氏が1990~2000年代にかけて発表した『JDC*3シリーズ』がある。異能の探偵集団が途方もない怪事件に荒唐無稽な探偵術で挑むという内容で、超能力じみた探偵の能力、成績による序列付けといった本作に採用されている要素が見られる。
  • 本作には動画配信ガイドラインが制定されており、発売後一定期間ごとに1章ずつ配信可能なチャプターが解禁されて行った。
    • 発売1ヶ月半で5章までが動画配信を許可され、発売約1年後の2022年6月にゲーム全編が配信可能となった。
    • 渋谷探偵役のVTuberである鈴木あんずも、非公式的に実況を行っている*4
最終更新:2023年11月05日 14:14

*1 序列1位の探偵は決して表舞台に出てこず、本作では名前のみの登場

*2 一応は普通の移動なら、移動しつつ証拠品の検証を行うなどの無駄を省けるが、検証難易度が高い証拠品を調べられるキャラは限られるので、結局は検証力の高い科学探偵などがそれを行い、他のキャラは移動するだけに留まってしまうことが多いため。

*3 Japan Detectives Club=日本探偵倶楽部。

*4 発売直後であったため、実況されたのは2章までとなっている。