アラビアンドリーム シェラザード

【あらびあんどりーむ しぇらざーど】

ジャンル アクションRPG
対応機種 ファミリーコンピュータ
メディア 2MbitROMカートリッジ
発売・開発元 カルチャーブレーン
発売日 1987年9月3日
定価 5,300円
プレイ人数 1人
備考 パスワードコンティニュー
判定 ゲームバランスが不安定
ポイント 時空をこえる壮大なスケールの冒険
個性豊かな仲間達
子供向けのイメージに反して大人も匙を投げ出しかねない謎解き


概要

スーパーチャイニーズや飛龍の拳をリリースした 有限会社日本ゲームズ が、社名を 株式会社カルチャーブレーン と改めてから初めて送り出したファミコンソフトで、中世アラビアをモチーフにしたファンタジー世界を冒険するアクションRPG。
上記の2シリーズと比較すると知名度は低いが、過去や未来を旅する壮大なスケールの舞台と、数々の独創的なシステムが盛り込まれた意欲作である。


ストーリー

昔々、アラビアは魔物達のあふれる暗黒の地でした。大魔神ゴルゴラが力を奮い、すべてが禍々しいもので満ちていたのです。 そこへ、伝説の魔法使いイスファが現れ、光の封印の聖なる力をもって、大魔神ゴルゴラを封じ込め、アラビアに平和をもたらしたのでした。

それから三千年経った或る日、大魔道士サバランは、アラビアを支配しようと野望にかられ大魔神ゴルゴラの封印を解いてしまうのでした。その所業を止めようとしたシェラザード姫は、何処ともなく連れ去られ、再びアラビアは暗黒が、支配するようになったのです。

イスファの生まれ変わりと云われた若き魔法使いが、サバランにさらわれた恋人シェラザード姫を救おうと、魔物達と勇敢に戦いましたが、大魔神ゴルゴラの力を得たサバランの前にあえなく敗れ、時空の彼方、異世界へ飛ばされてしまったのです。

―――時空の彼方、遥かアラビアの世界で魔物と戦っていた若き魔法使いとは、紛れもなく貴方のことです。その証拠に貴方には助けを求めるシェラザード姫の声が聞こえる筈です。 貴方は伝説の英雄です。しかし貴方は一人でサバランに立ち向うことはできません。そう、貴方には共に戦う仲間が必要です。そのためには、時空を越え、ある時は魔物も恐れぬ戦士にまたある時は賢い聖者に輪廻転生し、仲間を捜し出さなければなりません。 さあ、勇気を奮い起こし、再び魔法の世界へ旅立ちましょう。時空の扉は、いつも貴方の為に、開かれているのですから…………。


特徴

5つのステージを攻略するステージクリア形式のアクションRPG

  • 主人公は大魔道士サバランを追うと同時に、復活した大魔神ゴルゴラを再封印する鍵となる「光の封印」を求めて、封印を守るステージのボス「魔神」が待ち受けるパレスを目指すことになる。
    • そのためには時空をまたに掛けた冒険をし、ステージに散らばる仲間や様々な人と出会い、魔神に対抗する術を集めなければならない。

個性的な仲間達

  • ゲーム開始時点では「時の精霊コローニャ」との2人旅だが、ステージが進むごとに個性豊かな仲間が続々加わり、最終的には主人公を含めて最大12人という大所帯となっていく。
+ 仲間の紹介
  • カシム (名前変更可):主人公。伝説の魔法使いイスファの生まれ変わり。レベルアップで使える魔法が増える。
  • コローニャ :猫の獣人のような姿をした『時の精霊』。隠し階段のある所に行くとメッセージで教えてくれる。
  • ケバブー :『指輪の精』。ボスや魔法使いから退却したい時は、彼女の力を借りることで結界を破り、脱出することができる。
  • ファルーク :『ランプの精』の兄弟のひとりで、屈強な見た目に違わぬ腕力を持つ。アクションシーンでは攻撃アイテムとして力を借りることができる。
  • ガンメカ :昔のアララートの主言語だったペケペケ語を研究している『通訳ロボット』。
  • スピカ :イタズラ好きな『空飛ぶサル』。砂漠や森を迷うことなく飛び回ることができる。
  • イーピン :ダークパレスに囚われている『木の人形』。手に持った笛は吹くと不思議な力を発揮する。
  • プーキン :シマロンの実から生み出された『木の王』。暗闇を照らしたり、影をまとった敵の正体を暴く。
  • ムスタファ :フローズンパレスに居る『水晶の精』。アクションで敵の行動を鈍らせる魔法を使いこなす。
  • グビグビ :ビンのような恰好をした『毒消しの精』。敵の変身魔法を解くことができる。*1
  • レーニー :雨を自在に操る『雨の小人』。炎の魔神に対抗できる唯一の鍵。
  • ハッサン :『ランプの精』の兄弟のひとり。魔法合戦でファルークと編成すると、最強の陣形「ドラゴンの陣」が組める。
  • 主人公は冒険を続けるにあたり、幾度となく仲間たちの力を借りることになるだろう。
    • なお力を借りるにあたってMPを使用する仲間もいる。力を使い切ったり後述の魔法合戦によって死んでいる場合は、アクション画面で力を借りることができなくなる。

アクション画面の概要

  • 画面切り替え方式の見下ろし型のアクション。
    • ポーズ中の操作で使用する武器・アイテム・魔法などをAボタン・Bボタンに割り当てるシステム。何も割り当てられていないボタンはジャンプボタンになり、幅の狭い水場や茂みを飛び越えることができる。
      • 主人公は主に剣や杖を使い敵を攻撃、撃破していく。ゲームを進めると攻撃や回復の魔法を覚えることができ、仲間の力などの様々なアイテムが手に入る。
      • 街の中では「はなす」コマンドで街の人に話しかけられる。逆に攻撃を当てると「いたいっ!」などのリアクションが必ず返ってきて、話しかけた時の会話の内容が専用のものに切り替わる。
    • ゲーム開始時は3つ残機が与えられている。主人公のHPが0になるか水などに入ってしまうと1ミスとなり、残機が無くなるとゲームオーバー。
      • ゲームオーバー画面では本作のパスワード「 時空 (とき)をこえる呪文」が表示され、タイトル画面に戻る(START)かコンティニューする(CONTINUE)かを選択できる。コンティニューの場合は特にペナルティなしでステージのスタート地点に戻される。

敵キャラクター

  • アクション画面のフィールドやダンジョンでは、画面が切り替わるごとに確率で敵キャラクターが出現する。
    • 敵を倒すごとに経験値が手に入り、主にお金をはじめとしたアイテムをドロップする。
      • ゲームが進むと、影をまとい攻撃を無効化する敵が出現する。特定の魔法で影を消し去るか、プーキンの力を借りることで対抗できる。
      • 特定の位置には結界を張った敵の魔法使いとの固定エンカウントが待ち構えている。変身魔法を使い、手下を無限に呼び出す難敵で、撃破するか特定の能力を使用しないと離脱できない仕掛けとなっている。

称号

  • ゲーム開始時に選択する他、モスクで変更することのできる、所謂ジョブシステムに近いもの。
  • パラメータ値の変化ではなく、アクションモードにおける武器の扱いの得手不得手で能力の差別化がされている。戦士だからといって覚えた魔法が使えなくなるということはないため、そこは安心して欲しい。
    • また特定の称号でないと進行できないイベントも存在しており、そのためストーリー進行に応じて適宜モスクに立ち寄ることになる。
      • 戦士 :剣の性能が上昇したり、特殊な効果を引き出すことができる。
      • 聖者 :盾や靴といった装備品の効果を引き出すことができる。
      • 魔法使い :杖の性能が上昇する。

街の施設

  • RPGで馴染み深いアイテム屋や宿屋を始め、お金(単位はルピア)を使って利用する様々な施設が存在する。
    • 宿屋 :仲間全員のHPとMPを回復させる。
    • :アイテムの購入の他、お金を借りることができる。アイテム購入の際「まけてよ」コマンドを使うと、場合によっては値切ることも……?
    • 傭兵所 :魔法合戦の助っ人となる傭兵を雇う事ができる。
    • モスク :称号の変更や、死んだ仲間の復活が可能。
    • カジノ :お金を賭けてルーレットを遊ぶことができる。称号が聖者の場合は入ることができない。
    • 魔法大学 :授業を受けてテストに合格することで新しい陣形を教えてもらえ、また卒業記念として貴重なアイテムを手に入れられる。

アイテム

  • 閉ざされた扉を開く「シクラスの鍵」や、敵に掛けられた変身魔法を解く「おまもり」など、バリエーション豊か。
    • 「ゴトラトのパン」「マシュルーブ」は回復アイテムで、それぞれHP、MPが尽きた時に持っていると自動で50ポイント回復してくれる仕組み。お金に余裕があれば最大限まで買い込んでおきたいところ。
      • 変わり種は「マジカルボイス」。コローニャが「怪しい」とメッセージを出している場所で使用すると秘密の入り口(以後、隠し階段と称する)が現れる、本作を象徴するアイテムである。「アリババと40人の盗賊」の有名なシーンにちなんでか、このアイテムのみIIコントローラーのマイクに対応しており、説明書でもその点をアピールしていた。

レベルアップ

  • 主人公にはレベルが設定されており、レベルが上がるごとに自分と仲間のHPとMPの最大値が上昇し、新しい魔法を覚えることができる。
    • レベルアップするには経験値を一定以上集めた上で、ステージのどこかにある迷宮に囚われた王族たちを救出する必要がある。
      • 救出対象は1ステージごとにひとりずつ存在し、シェラザード姫の3人の姉妹を含めた合計5人となる。

魔法合戦

  • 本ゲームでは基本的に戦闘をアクション画面で行うが、一定の確率でエンカウントが発生し、コマンド入力式の戦闘画面に移行することがある。これを本作では「魔法合戦」と呼ぶ。
    • 魔法合戦では主人公を含む最大3人で「陣形」を組み、持っている回復アイテムを仲間に分け与えた状態で戦う。特定の陣形を組むことで専用の合体魔法が使え、その陣形が敵グループに対して有効な場合、防御力にボーナスが掛かる。
      • 戦いを無傷で避けたい場合は「和平」を申し込むことが可能。お金が必要となる上、中には和平に応じない敵も居るが。

時空の扉

  • ステージのどこかにある「 時空 (とき)の扉」は、同じステージの違う時代へ繋がっている。
    • 例えば500年前のアララートは現代と違い砂漠が無いといった風に、同じステージでも時の移り変わりによって地形が大きく変わっていることが多い。
      • ステージクリアのためには現代と別時代をそれぞれ攻略する必要があり、その橋渡しとなるイベント。

アララート日食

  • ステージを冒険中に極稀に起こる現象で、日食中はフィールドの色彩が暗くなる視覚効果が入る。
    • 本作の世界観において太陽は悪魔のシンボルという立ち位置であり、その太陽が聖なる月によって一時的に封じられたことでプレイヤー側に様々な恩恵が得られるという設定。
      • 具体的には敵キャラクターの能力が下がる、大魔法が使用できる、など。なお時間経過、もしくは特定のイベントで日食は強制的に終了する。

大魔法

  • ステージのどこかに居る賢者に、同じくステージのどこかで手に入る合言葉を伝えることで授かることのできる、特殊な魔法。
    • アララート日食の時のみ使用可能で、通常の魔法とは一線を画した効果をもたらすが、一度使用すると無くなってしまう*2

評価点

アラビアンナイトをモチーフとした独創的で壮大な世界観

  • 架空のアラビアという舞台で千夜一夜物語をベースに味付けを行い、カルチャーブレーンならではの独特な世界観を作り上げている。
    • また、違う時代を冒険するというファクターは、ゲームのスケールアップに貢献するだけでなく、散りばめられた情報からそのステージが時代と共にどう移り変わったのかを想起させ、世界観に奥行きを与えている。
      • アララート日食や気候の変化が、視覚的特徴の変化やプレイヤーにメリットをもたらすイベントだけに留まらず、世界観の構築に一役買っている点も注目すべき所。
      • そしてストーリー最終盤、主人公はついに大魔道士サバランを追い詰め、シェラザード姫との再会を果たすことになる。当然苦労は半端なものではないが、それだけに姫との再会のイベントには目頭が熱くなったという声も聞かれる。

カスタマイズ性に富んだアクション

  • アクションで使用するボタンコマンドは、ポーズ中に対応するボタンを押して使いたいものを選択する、当時としては画期的な操作形態。
    • AボタンとBボタンの2つのみだが、状況や用途に応じてコマンドをカスタマイズでき、慣れると快適にゲームを進められる。
      • 使用例をいくつか挙げると、ガッツリ戦闘したい場合は剣と杖を、サクサクと進みたい場合は攻撃魔法とジャンプを、道を塞ぐ敵を強引に突破する場合は保険として回復魔法をセットする等。もちろんこれ以外の組み合わせも自由自在。

アクションゲームとRPG、各々の要素の程良いバランス

  • 本作のゲームデザインの特徴として、操作の上達そのものはゲームの攻略自体にさほど寄与しないものとなっている。
  • また従来のRPGと同様、ストーリーを進めることで着実にできることが増えるが、攻略法が定められているボスを除けば、アクションの遊び方の多くはプレイヤーの裁量に委ねられる。
    • 例えば水辺を遠回りする正規ルートがあるが、2マス分の水辺をギリギリジャンプで飛び越えることでショートカットが可能、など。
    • 敵との戦闘もあくまで剣と杖にこだわる質実剛健なプレイを貫くもよし、多彩な魔法を操ってスマートに難局を切り抜けるのも自由である。
      • 魔法は燃費が悪いと敬遠されがちだが、本作における魔法を使うためのMPは回復アイテムの存在もあいまって他のRPGと比べると潤沢な部類にあり、ボス攻略のために温存が必要なケースを除けば積極的に活用していけるレベル。
    • 通常のポーズでは画面が切り替わることがないため、アクションが苦手な人はポーズを活用して一旦足を止め、状況と照らし合わせて何か手は無いかを模索するといった、RPG風の遊び方もできる。
      • このように、本作ではRPGとアクションゲームの要素が良い塩梅で両立しており、どちらか、もしくは両方のジャンルが苦手なプレイヤーでも、システムをある程度理解すれば順当にストーリーが進められるバランスとなっている。

仲間達と冒険をしている雰囲気を感じさせる試み

  • ゲームで直接操作できるのは主人公のみであるが(魔法合戦のコマンドを除く)、仲間達は随所で存在感を発揮しており、共に冒険をしているという感覚を味わわせてくれる。
    • 主人公と最初から共に居るコローニャは、街や怪しい場所があるごとにメッセージで知らせてくれるため、特に印象深い。またその可愛らしいビジュアルから、本作屈指の人気キャラクターでもある。
      • 戦闘中に援護してくれる仲間、敵にダメージを与える仲間、道案内をしてくれる仲間など、キャラクターごとに異なる活躍の場面が与えられていることで、より個性が強調されている。
    • ステージクリア後のデモシーンでは仲間たちによる会話が繰り広げられ、仲間同士で和気藹々とした様子を見せてくれる。

随所で凝ったビジュアルと演出

  • 電源を入れるとタイトル画面に入る前に、アラビアの情景のシルエットをバックにストーリーテリングが始まる。
    • ストーリーテリングによる導入は、主にストーリー重視型のゲームで既に積極的に取り入れられていた手法だが、本作ではタイトル画面に至るまでのグラフィック描写の推移と、BGMの盛り上がるタイミングが上手く噛み合うことで劇的な演出効果を生み出しており、高い評価につながっている。
  • 魔法合戦も一見シンプルな画面構成に見えて、魔法や杖などのアイテムを使うとエフェクトが飛びかったり、状態異常の効果を受けるとグラフィックが変化したりと、視覚・聴覚ともに分かりやすいものとなっており、中々に力が入っている。
    • 特にド派手な合体魔法は条件が揃った時の威力が絶大で、並みいる敵の集団を撃滅した時は独特の爽快感がある。
  • 素早さの概念はなく、キャラクターがどんな行動をしたかでターンの行動順が決定され、具体的には「敵の合体魔法>味方の合体魔法>傭兵>魔法>特殊攻撃>遠距離攻撃(弓・杖)>近接攻撃」の順となる。
    • このうち遠距離攻撃のみ複数のキャラクターが使用すると同時に行動したという扱いになり、エフェクトと共に攻撃が交錯するような演出がなされ、その後にまとめてダメージ処理が行われるという、2023年現在でもゲームでは中々見られないものも。
      • 非常に描写が凝っている反面、ゲームのテンポを削ぐという側面もあるのだが、それについては後述の問題点にて。
  • 店などの施設、シェラザード姫の姉妹の救出など、仲間以外のNPCと対面するイベントは顔グラフィックが採用されており、キャラクターのビジュアルを通してゲームの雰囲気を上手く伝えている。
    • 本作における顔グラフィックの描写は、他のカルチャーブレーンの作品と比べるとかなりリアル寄りの作風。
      • キャラクターを積極的にアピールした会話シーンは後のスーパーチャイニーズシリーズや飛龍の拳シリーズに通ずるものがあり、本作はその先駆けとも言えるものかも知れない。

バリエーション・質共に良好なBGMの数々

  • 演出面でも触れたストーリーテリングにおけるBGMは、タイトルへ続くビジュアルと曲の盛り上がりが相乗効果を生み出し、その悲しくも美しいフレーズをより引き立たせている。
  • フィールドBGMは明るい雰囲気の通常時、ノスタルジックな過去、悲愴感を湛えた未来といった風に、曲ごとにメロディや音色の使い方も特徴的なものとなっており、シーンの特色を強く印象付けている。
    • その他にも不思議な音階で奏でられる戦闘シーンやショップ、不気味さや得体の知れなさを前面に出したダンジョンやボス戦など、個性的な曲も多くバリエーションにも富んでいる。
      • 本作をプレイしたユーザーの多くはやはり幻想的なイメージに惹かれるのか、ストーリーテリングやフィールドBGMの評価が特に高い。

賛否両論点

文字の読みにくさ

  • 当時のスペックではカタカナを使用するのが難しかったのか、文字はひらがなと英数字のみ。その世界観故に見慣れない名前が他の文章と共にひらがなで並ぶため、初見では固有名詞がスムーズに頭に入りにくい。
    • またフォントも独特のものを使用していることから*3、やや形がいびつで読みづらい傾向にあり、「時空をこえる呪文」を写し間違える要因になったことも。

画面の点滅について

  • まだガイドラインが敷かれる前の時代で、他のゲームにも多かったことだが、様々なシーンで白色の激しい明滅を伴う演出が多用されている。
    • 特に魔法使い出現時と時空の扉イベントはこの明滅が激しい。ゲーム進行上避けては通れず、何度も見ることになるのでプレイの際は注意。

マジカルボイスの仕様

  • マジカルボイスで発見した隠し階段は、画面切り替えで元の状態に戻ってしまう。本作は画面スクロール方式ではないため、1画面分の移動もこれに該当する。
    • ごく一部ではあるが、壁や水辺で完全に仕切られた場所にも隠し階段が存在する。その場合階段の無い側で使用してしまうと、ただの無駄遣いとなってしまう。
      • コローニャのメッセージも画面内にあることを示すだけで、具体的な位置までは教えてくれない。2マス分の水辺であればギリギリジャンプで対岸に渡ることも可能なのだが……。

振れ幅が広すぎるアイテムの物価と品揃え

  • 品物は店によって物価が異なり、また品揃えが極端に違うこともしばしば。
    • ひとつ20ルピアの回復アイテムがよそでは100ルピアだったり、そもそも置いていなかったりするので、効率よくゲームを進めたいプレイヤーはその点を念頭に入れて、賢く買い物をしなければならない。
      • 条件が揃えば値切ることも可能だが、調子に乗って失敗するとすごい剣幕で店から追い返される上、若干数のルピアを巻き上げられてしまう。人によってはこの時の商人の顔がトラウマになったという声も……。

問題点

移動の煩雑さ

  • ファストトラベルの類はほぼ存在せず、「じゅうたん」という、ダンジョンの場合はその入口に、フィールドの場合は最寄りのモスクに立ち寄る、使い切りのアイテムひとつのみ。一度行った場所であれ、目的地までは自力で移動するしかないケースが多い。
    • 極端なシチュエーションとして、違う時代の町でイベントを起こした後、現代に戻ってフラグを立て、再度違う時代に飛ぶという手順を踏むイベントが存在する。マップが想像以上に広いこともあり煩わしい。

称号の格差

  • 主人公の設定が魔法使いということもあってか、最終的には遠距離攻撃が強化できる魔法使いの称号が最も強くなる。
    • 戦士・聖者はそれに比べてデメリットの方が大きく、進行フラグを解消するためだけに称号を変更することになってしまいがち。

時空をこえる呪文の仕様

  • 中断用の呪文には、厳密にはステージ途中のフラグ管理は含まれていない。
    • 例として、特定の人物「A」に話を聞いてから会うとイベントが発生するNPC「B」が居たとすると、「A」に話を聞いた時点で中断した場合、再開直後の時点では「B」のイベントを起こせず、再度「A」と会話する必要があるといった具合。
      • そのため、中断した箇所によっては一見「詰み」と取られかねないことも。
      • ただし、仲間やアイテム、称号など、プレイヤーのパラメータに含まれているものがフラグになっているイベントに関しては、再開してもフラグに相当するものが保持できているため、そのまま問題なく中断・再開できる。
  • また特徴でも触れたが、呪文はゲームオーバー時にしか表示されず、中断の際には自ら残機を潰してゲームオーバーになる必要がある。
    • 呪文で再開した時の開始地点もゲームオーバーからのコンティニュー同様、ステージの最初になってしまうため、自分で再開場所を選べない点も難点である。

謎解きの難易度について

  • その子供向けの明るいタッチの作風に反して、本作の難易度は大人ですら頭を悩ませるほどに非常に高い。
  • 本作が高難易度といわれる要因の多くはアクションの難度や敵の強さではなく、謎解き、特に終盤のもののヒントの少なさと、一部の謎解きを失敗した時のペナルティとのバランスが釣り合っていない点に起因している。
    • 幾度もお世話になるマジカルボイスは原則、コローニャがメッセージを出している場所で使うものだが、終盤ではストーリー進行に必須な箇所で一部、 何故かコローニャによるメッセージが表示されない隠し階段が存在 しており、自力で見つけ出さなければならない。
      • 肝心の場所は意味深な袋小路になっているため、勘の鋭いプレイヤーはすぐに気付くかも知れないが、これまでの冒険で「隠し階段はコローニャが教えてくれるもの」と強く認識しているプレイヤーほど気付きにくくなる分、ある種タチが悪い。
    • ストーリー進行上、NPCと問答をするイベントが幾つか存在するが、プレイヤーを試すような意地悪な問いが多く、その多くが良識に照らし合わせれば自然と答えに辿り着けるが、基本ノーヒントかつひとつでも答えを間違えると即ゲームオーバーという厳しいモノ。
      • ゲームオーバー自体に明確なペナルティこそないが、ステージの最初に戻されるため、再挑戦するためには再度自分の足で同じ場所に辿り着かなければならず、興を削がれるプレイヤーもいたことだろう。
+ 指輪の精ケバブ―を仲間にするための問答の例
  • 1つ目の問い「私は偉大なるサバランに仕える者。あなたもサバランを称えますね?」→「いいえ」が正解
    • 2つ目の問い「それではあなたはサバランに逆らうというのですか?」→「はい」が正解
      • 2つとも正解すると、主人公がサバランに立ち向かえる勇気を持った人物かを試していたことを明かされ、仲間に加わるが、1つでも不正解だとゲームオーバーとなる。
  • なおシナリオ最終盤の問答では、ゲーム中完全なノーヒントでとある人物の名前を答えなければならない。
  • よほど勘のいい人間でなければ、文字数が一致する人物を片端から入力していき、しらみ潰しにして強引に突破するしかない。
    • 更に続けて通るであろうアクションの謎解きは判定がシビアかつ、失敗すれば残機が減らされるといった風に、エンディングを目指すプレイヤーの心を着実に折りに掛かってくる。

ちぐはぐなレベルデザイン

  • 全体的な難易度としてステージ1はそこまで難しくはないが、ステージ2では開始早々 いきなり迷いの砂漠を抜けないといけない 。僅かなヒントを頼りにあてもなく砂漠を彷徨った挙句、自力での攻略を放り出したプレイヤーも少なくはないと思われる。
    • 一方で以降のステージの難易度は、主人公のパワーアップや仲間の加入もあって、一部ヒントの少ない謎解きを除けば低下傾向にあるため、アクションRPGとしての難易度のピークはステージ2という印象を際立たせている。
  • 各ステージのボスの攻略法は、特定の攻撃しか通用しないというものが多く、無数の手段から手探りで弱点を突き止めなければならない。
    • ステージ1、3、4のボスは比較的与しやすいが、ステージ2、5のボスは主人公の持つ特定の魔法がカギとなっており、予め攻略サイトなどで知っていなければ試行錯誤を重ねることになりがちで、結果的に謎解き同様高難易度に感じやすい。

普通にプレイする分にはメリットの薄い魔法合戦

  • 本作の目玉のひとつであるはずのRPG風の戦闘シーン「魔法合戦」であるが、戦闘中は行動処理のウェイトが長めで、事あるごとに2秒以上のエフェクトが挟まるためテンポが悪い。
    • 特殊ケースを除くと、まとまった経験値とお金を得られるほぼ唯一の機会なのだが、敵と味方平等に行動が回ってくるターン制故にキャラクターの消耗が激しく、一戦ごとの所要時間を考えるとそこまで効率は良くない。
      • このため、 普通にゲームクリアするだけならば魔法合戦は避けるのが最善手 。なんとも本末転倒である。
      • 一応、レアなアイテムを獲得できるチャンスがあるのだが、攻略に影響を及ぼすほどのものではなく、魔法合戦自体がやり込みの類になってしまっている。
  • 魔法合戦を突き詰めると相手に有効な陣形で魔法を使うのがセオリーという点に行きつくのだが、仲間が揃っていない頃は取れる陣形も限られるため、殆どの場合が苦戦を強いられるというのも大きな要因だろうか。
    • 仲間の一人のグビグビは組める陣形がないので、魔法合戦に参加させるだけ不利になってしまう。
      • 例え有効な陣形を取ったとしても、即死系の合体魔法も必ず効くわけではなく敵をとりこぼしやすい等、戦闘自体が運に左右されることも問題点。

お金の需要と供給のバランス

  • 本作は宿泊やアイテム購入の他にも、100ルピア単位でお金が要り用になるイベントが数多く存在する。
    • それに対して アクションシーンに出てくる敵が落とすお金は、原則コイン型の1ルピアのみ で、これだけでは稼ぎに膨大な時間を要する。
      • この他に巾着型の20ルピア袋があるが、低確率でしか落とさない。
    • 例外として魔法使いの敵は確定で20ルピア袋を落とすため、積極的に稼ぐ場合はこちらを利用することになるが、彼らの扱う即死攻撃によって、倒すのに慣れていなかったりアクシデントであっさり残機が減る可能性もあり、若干リスキーではある。
    • 店では商人から借金をすることもできる。この場合まとまったルピアを一時的に手に入れられる。
      • だが時間経過で利子が増える上、最終的には 一定期間内に返せなければ破産となり ゲームオーバー。このゲームオーバーのみ、直接タイトル画面行きとなってしまう*4
      • 借金していないのにお金を返そうとしたり、800ルピア以上所持しているにもかかわらず借金しようとした場合は値切り失敗と同じ結果となり、店から追い出される。
    • この他にもいくつか大金を手に入れるイベントが存在するが、条件つきや回数に限りがあるものばかりで、積極的に狙うのはやや難しい。

……と羅列するだけでも、ルピアの需要に対する供給のバランスが見合っていない点が指摘されやすい。

ボリューム不足感の否めない終盤

+ 最終ステージのネタバレのため折りたたみ
  • これまではステージごとに違う都を渡り歩いてきたが、最終ステージは魔神を倒して平和になったステージ4の続きとなる。
    • それ自体は問題ないが、平和になった影響という解釈なのか、一気にイベントの密度が減少。
      • 時空を越えて全く違うステージの顔を見せてくれた時空の扉についても、最終ステージの扉の行き先は 過去のダンジョンの内部 。クリアに必須なイベントもひとつのみと、ここにきて一気に尻すぼみ感が強くなる。
  • サバランのもとに辿り着くと、 サバランは既に改心しており、彼の提示する謎を解くことで自らの命と引き換えにシェラザード姫の呪いを解いてくれるという展開になる 。意外性としては十分アリなのだが、それまでゲームでも散々サバランを倒すべき敵と明確に定義づけていたが故に、サバラン戦を期待していたプレイヤーはここでも肩透かしを喰らう。
    • 他の姉妹の色違いでしかない顔グラフィックのシェラザード姫、終盤のシェラザード姫やエンディングにおける仲間のセリフの端々に見られる不自然さなど、色々とシナリオを詰め切れなかったのか、クライマックスの肝心なシーンに限っていまいち締まらない点もどこか息切れ感を感じさせる。


総評

個性的なキャラクターをフィーチャーした摩訶不思議な世界に、制作者が面白いと思うものをとことん詰め込んで生まれた、以降のカルチャーブレーンの方向性に大きく影響を与えたと思われる一作。
その先鋒となった本作は非常にごった煮感が強く、そのせいか粗削りなイメージが拭えず、総合的なクオリティも高いとは言えない。
それでもこの独特の世界を作り上げた様々な要素は、王道のファンタジー作品では決して成しえなかったであろう、不思議な魅力に満ち溢れている。
たかがマイナーゲームと侮るなかれ。魔法と夢の国アラビアでの冒険は、きっとあなたに唯一無二の体験をもたらすであろう。


余談

  • 海外ではNESソフト「 Magic of Scheherazade (1990年発売)」というタイトルでリリースされている。
    • ただのローカライズに留まらず、グラフィックやサウンドがリニューアルされ、ステージの随所でストーリーの変更や補完がなされるようになった。
      • ゲーム内容も細かい部分では敵のアクションやユーザーインターフェイス、大きな部分ではレベルアップが経験値の累積のみで行われるようになるなど、国内版と比べると大小様々な変更が行われており、同じ世界観ながら大きくプレイフィールが変わったゲームとなっている。
  • 本作リリース後、プラットフォームを最新ゲーム機に移して続編を製作する動きがあったのだが……。
    • 1990年代当時のゲーム雑誌に掲載されていたゲームソフト発売スケジュールには、プラットフォーム未定、発売日も未定の状態が何年も続いており、最終的にはゲーム画面のひとつも出さないまま、いつの間にかスケジュールからひっそりと姿を消してしまった。
      • そのため当時のファンや雑誌の読者の間では、「 長い間ゲーム雑誌に仮タイトルだけが載り続けた幻のゲーム 」として語り草となっている。
最終更新:2023年12月07日 02:38

*1 アクションで登場する魔法使いの変身魔法を除く。

*2 使用した後に賢者に合言葉を伝えれば、再度手に入れることも可能。

*3 他の多くのファミコンソフトのように濁点・半濁点を通常の文字の上や次に置く表現をせず、それらを含んだフォントを使用している。

*4 ゲームオーバーからのコンティニューで借金を踏み倒させないための特殊な措置と思われる