CHÁTTY

【しゃてぃ】

ジャンル ノベルウェア
対応機種 PC-8801mkIISR
メディア フロッピーディスク
開発・発売元 システムサコム
発売日 1988年12月
定価 8,800円
プレイ人数 1人
配信 プロジェクトEGG:2002年10月1日/660円
判定 なし
ノベルウェアシリーズ


概要

ノベルウェアシリーズの第3弾となるソフト。
本作ではシナリオを社内のスタッフではなく翻訳家の鎌田三平氏を起用し、本格的なSFミステリーを題材としたシナリオが展開される。


ストーリー

あたりには血だまりもなかったし、室内が荒らされている気配もなかった。
博士は、研究室の中央に静かに横たわっていた。まるで、眠っているかのように…
だが世界屈指の頭脳とうたわれた空間物理学の権威、デロガ博士の魂が眠りとはほど遠い、絶対的な闇の世界に移っていることは明かだった。
たった数分間、ジュリアス・リンチが意識を失っていた間に、博士は殺されていた。ついさっきまでリンチと激しく言い争っていた博士は、今はもう動かぬ死体となっている…
穏やかなその死に顔とはうらはらに、肉体のほうは生きた人間であり得ないような姿勢で倒れている。決してきゃしゃではない博士の肉体は、身体じゅうの骨を粉々に砕かれていた。
おそらく苦痛を感じるひまもなく、一瞬のうちにあらゆる神経は断ち切られ、心臓は動きを止めたはずだ。
犯人がどんな人物かは歴然としていた。軍隊でサイボーグ手術を受けた改造人間だ。
博士の命を奪ったその凶暴な力を、かつてはリンチももてあそんだことがあった。バイオブースターを埋めこまれた改造人間バイオーグの力を。
リンチがサーボ・モーターの音に気付き、振り向くと部屋の奥の転送機IDMTに駆けこむ人影がちらと見えた。
正体を確かめる間もなく、人影は転送フィールドのゆらめきの中に消えてしまった。
その手の中に光ったのは、転送コントローラーに違いなかった。

追わねば!
リンチが転送機に足を踏みいれたとたん、背後に人の気配を感じた。
「おとうさまぁ…?」
振り向いたリンチがドアの隙間から見たのは、紫色の髪…リンチの恋人、デロガ博士の娘アリシアだった。
「おとうさま、いらっしゃらないの?」
アリシアは床に倒れている博士の死体に気がつき、そしてリンチを見た…
アリシアの顔が歪む。悲鳴と同時にドアが閉じた。
「ちがう! ちがう、俺じゃない!!」
だが、すでに転送フィールドの中に入っているリンチの声は彼女に届くはずもなかった。
真犯人の姿はリンチしか見ていなかった。恋人のアリシアですら、彼が犯人だと思いこんだにちがいない。転送機の中の彼の姿を見て、逃げようとしていると考えたかもしれない。
追おう! すべては真犯人を捕まえて戻ってからだ。
リンチがそう決意したときには、すでに魂がねじ曲がるような衝撃がはじまっていた。
やがて全身が白い閃光に包みこまれた…


システム

本作に関しては、ノベルウェアシリーズにおいて大幅な機能拡張を施した作品でもある。

  • ノベルジェネレータの搭載
    • 本作最大の目玉機能。エンディング終了後、プレイヤーの行動に基づき叙述部分を大幅に加え俯瞰した視点からの小説を生成する機能が追加された。
    • 生成した文章は印刷して読み返すことも可能。
  • ウィンドウサイズ・位置の変更機能の追加
    • 他社作品でもマルチウィンドウの作品はこの時代でも比較的見かけることはあったが、本作ではウィンドウサイズ・ウィンドウの配置・重ね合わせの優先順位まで自在に行うことが可能。
  • 縦書き表示機能
    • 一般的な小説の原稿と同じく、ウィンドウ内の文章を縦書きで表示可能。
  • 200ラインモード/400ラインモードの切り替え
    • 本作はグラフィックは2階調の色彩のため、画像に影響を与えることなく多数の文字を表示させることが可能。

評価点

  • 多彩な展開を見せる物語
    • シナリオの完成度は文句なく高いクォリティ。ハードボイルドSFミステリーとしても高い評価を誇り、展開も多彩。
      + ネタバレ注意
    • 本シナリオを語る上で欠かせないのは、デロガ博士を殺した犯人やリンチに追っ手を差し向けた人物は固定ではないという点が非常に斬新。後述のノベルジェネレータの存在もあってそれがわかった際には感心すること請け合い。
  • 画期的なノベルジェネレータによるノベル生成機能
    • エンディングまでのシナリオを俯瞰視点で小説として読むことができる機能は非常に革新的。
    • 生成されたノベルは印刷して出力することも可能なので、物理媒体として読み返すことができるのは斬新。
  • 高品質のBGM
    • 斎藤学氏によるBGMは過去作同様非常に評価が高い。
    • 本作はサウンドボードIIにも対応しており、より高品質のBGMも堪能できる。

問題点

  • ノベルジェネレータの機能不足
    • 生成されたノベルは印刷可能ではあるが、ノベル自体をデータとして保存することができない。
      • そのため再読を行うには印刷されたノベルでしか行えない。
    • また、実際に生成されたノベルをゲーム上で読む際には、読んでいる途中で文章を戻したり一時保存する機能も付いていない。
  • 一部BGMの不備
    • 一部のエンディングの曲は標準搭載のサウンドボードでしか流れない。

総評

相変わらずの高品質の物語を読ませてくれるのに加えて、ノベルウェアシリーズにおいて多数の機能を追加し、より多彩な遊びを提供しようとした試みは評価できる。
ただ、本作で追加した機能が当時ユーザが求めていた機能と乖離していた点があったのは否めず、後のシリーズにはあまり生かせなかったのが惜しい。
本作最大の売りであったノベルジェネレータも後述の要因もあって発展せず、展開の少なさも相まってシリーズの中でも知名度が低いのも惜しまれるところ。


余談

  • 本作は本来であればノベルウェアシリーズの第2弾として発売される予定であったが、開発の遅延により第3弾として発売されることになった。
    • また開発でもノベルジェネレータを始めとした多彩なシステムを多数追加したことが災いしてか、他機種への展開は断念されており、PCで発売されたノベルウェアシリーズでは唯一単独のプラットフォームでの展開となった。
    • またノベルジェネレータも開発に時間がかかることを懸念してか、搭載を予告していたシリーズの後続作品には結局搭載されることはなかった*1
  • PCでの多機種展開には恵まれなかった本作だが、本作はシリーズでは唯一パナソニック製ワープロのPanaword U1シリーズにて展開が行われている。
    • こちらではワープロゆえに音源を搭載していないためBGMは一切なし、画面カラーの変更やウィンドウ位置変更、縦書きモードは排除されている。
    • ノベルジェネレータ機能は健在のため、プリントアウト機能を標準搭載しているワープロとの親和性は非常に高い。

最終更新:2025年07月07日 11:20

*1 一応、『38万キロの虚空』では一部ノウハウが使われている部分はあるが。