- 分類:短編小説
- 初出:「小説新潮」1984年7月号
- 雑誌時挿絵:坂本富志雄
- 収録短編集:『日曜日と九つの短篇』
あらすじ
ただの雨宿りだと思っていた。
駅前で小さな玩具店を営む康雄の店に、十年前に突然出奔した元妻の擁子が現れ、玩具を買って行った。それ以降も擁子は時折現れては、棚の隅で埃を被った玩具ばかりを買って行く……。
登場人物
解題
『
日曜日と九つの短篇』収録作のうち、「小説新潮」に発表された中では最後の発表の短編。
映画化に伴い、収録短編集はコスモブックスから本作を表題作にしてソフトカバーで再刊された。
初刊本およびその文庫では10編のうち8編目に収録されているが、再刊版では巻末に移動している。
『棚の隅』を書いたのは、もう二十数年も前のことです。
思い出すと、脚の一本がこわれかけた電気ごたつを机がわりにして、〆切の過ぎた原稿を必死に書いていた自分の姿が浮かんできます。
病床の姉に折り紙を教えながら、その合間に書いていたので、こたつの上は色とりどりの紙の花や虫たちで溢れ、その隅っこに追いやられた原稿用紙はいつも半分に折られていました。『棚の隅』のオモチャ屋のイメージはたぶんこの折り紙からうまれたものですし、オモチャの一つに手を伸ばす女主人公の手は、病身のたよりない姉の指です。
昨日のようにはっきりと思いだせます。
ところが、これが大きなまちがいだと最近になって知りました。この短編集の十の短編は、直木賞をもらい、やっと小説だけで食べていけるようになって上京し、マンションの一室かカンヅメになったホテルで書いたものだとわかったのです。
記憶は嘘つきです。
(『棚の隅』あとがきより)
映画版
2006年、門井肇監督、浅野有生子脚本、小池和洋プロデュースで映画化。
出演は大杉漣(康雄)、内田量子(擁子)、渡辺真起子(秀子)、今井悠貴(毅)、榊英雄(原作には登場しない擁子の彼氏)。
バイプレイヤーとして有名な大杉漣の珍しい主演作のひとつ。
映画化の経緯は、『棚の隅』巻末の小池和洋のエッセイ「映画『棚の隅』が生まれるまで」に詳しい。
原作が短編のため、原作の設定をベースに、同じ『
日曜日と九つの短篇』収録の「
日曜日」の要素を追加することで話を膨らませている。そのため、クライマックスは遊園地の観覧車になり、原作とは異なり映画では玩具店は閉店することになる。
また、原作に名前だけ登場する擁子の浮気相手の赤沢は登場しないが、代わりに擁子の現在の恋人が登場する。
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最終更新:2018年12月23日 04:49