moon

【むーん】

ジャンル リミックスRPGアドベンチャー
対応機種 プレイステーション
発売元 アスキー
開発元 ラブデリック
発売日 1997年10月16日
定価 5,800円(税込)
廉価版 PlayStation the Best
1998年11月5日/2,800円
判定 良作
ポイント RPG好きに贈るアンチRPG
ゲーム業界衝撃のオチ


概要

「おやめ下さい!」「あるじゃねえかよコインと剣がよ!」「おやめ下さい勇者様!」
キャッチフレーズは「もう、勇者しない。」

数多の「ゲームっぽくないゲーム」を世に放ったラブデリックの創り出した、他に例を見ない独特な世界観。
宣伝CMでは一世を風靡したRPG『ドラゴンクエスト』でのゲーム内行動をリアルに再現した上で暗に否定するという挑戦的な行動に出た*1。当概要の台詞部分はその一幕からの引用である。
アンチ勇者、殺生なしの「オールラブアンドピース」という今までのRPGの概念を覆した意欲作。

グラフィックは粘土ジオラマ*2を模したCGで構成されており、この世界観と合わせた独特な温かみが感じられる描画が大きな特徴となっている。

音楽はMD(ムーン・ディスク)をゲーム内のショップで購入し、プレイヤーが好みに選曲できるという手法が取られている。

RPGという名前は戴くが、ゲームジャンル的にはアドベンチャーに近い。

システム

  • 主人公はゲームの外の世界(現実世界)から迷い込んだ少年。
    • 迷い込むまでに少年が現実世界でプレイしているRPGが「Fake MOON」。実際にプレイヤーが操作する。ファミコンRPGを意識した劇中劇だが、これはこれで作りが深い。
    • ゲーム内のmoon世界では現実世界での姿は住人に認知できないのか、少年は透明人間になってしまう。服を着る事になりようやく他人にも認識されるが、別に透明人間だからといって少年が特別ヘンな生命体というほどでもない。それ以上にアクが強い住人が多すぎる。
    • 少年は後述するラブの力がなければ長時間行動すらままならない。簡単に言えば睡眠欲みたいなものだが。
  • 「敵を倒して経験値を蓄積し、それによるレベルアップを重ねて最終的にラスボスを撃破する」というそれ以前のRPGのお約束を根底から覆す。
    • 経験値は「ラブ」として表記され、これは勇者によって殺されたアニマルのソウル(魂)を元の肉体に戻してあげる(生き返らせる)事で蓄積する。ついでにお金ももらえる。
    • 他にも困っている住人の願い事や頼み事を聞き届けたり、お使いしたりミニゲームをクリアしたりする事でもラブは蓄積される。
    • ラブが一定数蓄積されるとレベルアップするが、それによる恩恵は「少年の行動時間が増える」のみ。とはいえかなり重要だが。
  • 住人はすべて「生きて」いる。
    • moon世界は城、城下町、森、砂漠、孤島、未来都市などいろいろな地形や地域があるがそこに住む住人たちはタイムスケジュールに則って動いている。
    • 朝になれば店を開け、昼になれば散歩に出かけ、夜になれば酒場で呑み、深夜になれば怪しい研究に精を出す。一週間の範囲で行動が決まっているが、少年の行動で変化したりもする。
    • この時間概念はソウルキャッチ(アニマルソウル救出)にも大いに影響し、○曜日の○時頃に○○で○○するとソウルキャッチ可能など細かく決まっている。
  • BGMは自分で選曲する。
    • ゲーム内のMDショップで販売されているディスクを購入するとメニュー画面のサウンドプレイヤーに曲が追加されていく。
    • 数曲を設定しておいてのプログラム再生や単曲のみを設定してのリピート再生など普通の音楽プレイヤーとインターフェースが似ており、使いやすい。もちろん無音にして少年の足音や鳥の声など環境音だけをBGMにもできる。
    • MDは全40曲近く存在し、さまざまなアーティストが多岐に渡るジャンルのBGMを提供している。それぞれ人気が高い。
    • サウンドトラックは存在するが2012年に廃盤となった。復刻を望む声も多く、オークション等で高値で取引されている。

評価点

  • 普通のRPGとは違った意味での「自由度」
    • 好きなBGMで気ままにmoon世界を歩き回り、住人たちの生活を垣間見て頼まれごとをしたら解決し、帰り道でソウルキャッチしながらおばあちゃんの家でベッドに入る。
    • 新しい場所に行けるようになればそれだけ行動範囲が広がり、新たな住民の頼み事や問題解決、アニマルのソウルなどを発見。
      • 時には既に探索を終えた場所にもう一度戻ってきて探索し直したり。
    • このように一日の生活を自分でスケジュールしつつ自由に歩き回ることができるため、普通のRPGとは違った意味での「自由度」を満喫できる。これらを繰り返しながらmoon世界を踏破していく。
    • もちろん既存のRPGが好きだという人もお断りというほどの内容ではない。むしろドラゴンクエストやファイナルファンタジー等を遊び尽くした人こそ共感、理解できる部分もある。
  • あの人があんな事を。こんなところにあんなものが。びっくりイベントは多数。
    • 単なるお使いだと思わせない仕掛けが施されたイベントの数々は何度プレイしても作業に感じにくい。
    • moon住人のすべてに存在するこのイベントを体験すれば、該当の住人の意外な一面が覗けたり実態に迫れたりしてより一層とmoon世界に浸れるはず。
    • 童話のような色彩で描かれる世界を舞台に、同じく童話のような生き方をする住人たち。いつの間にかプレイヤー自身もそこに入り込んでいるのだ。
  • 音楽に関するイベントが深い。
    • 前述したMDによる選曲システムも勿論のこと、ゲーム内にダンスクラブが登場しそこでもまたアーティストやバンドチームたちが手がけたBGMを流している。
    • ダンスクラブではバンドクラブのアニマルたちやクリスちゃんなどによるコンサートが開かれるイベントも。

賛否両論点

  • 強調される「アンチ○○」
    • 衝撃的なCMを始めとした(当時の)アンチRPG要素。いわば毒を面白さに転化させている手法であり、当然ながら眉をひそめる人が少なくない。特に露骨に一部のRPGを狙い打ちした演出はそれぞれのゲームに思い入れを持つ人が嫌悪する可能性は高い。CM等プロモーション戦略の側面から見れば、しばしば「知る人ぞ知る」「隠れた」名作といった枕詞がつく原因となったのもこのアクの強さゆえであろう。
    • この点は対戦格闘やシューティングといったジャンルのように、特定のプレイヤー層への宣伝が功を奏した好例でもある。逆にピンとこない人にとっては何が面白いのか伝わらず、好意的な見方をするプレイヤーのみが購入し、アンチが少ないがゆえに名作と謂われているとも捉えられるが…。これは世間のレビュー、感想情報の少なさやその偏りが物語っている。
  • 一見するとほのぼの系なのに、裏設定では実は黒い感じの設定が多い。
+ たとえば(ネタバレ)
  • ゲーム中に登場する「勇者」、アニマルたちを斬り殺しラスダンに入りラスボスを倒すためには手段を問わず突き進む、一切言葉を発しない恐怖の戦士として描かれる。これは暗にそれまでのRPGに登場する同タイプの存在を否定するような意味合いも込められる。
    • 実は勇者はゲーム序盤に登場し少年の手助けをしてくれるおばあちゃんの孫。
    • 王様の家臣である大臣が月の光を食べてしまった竜を退治してもらう英雄を作り上げるために「白羽の矢儀式」というもので偶然を装っておばあちゃんの孫を勇者として仕立て上げた。その際に「伝説の装備品」と称して鎧や兜を装備させたが、これらは記憶を失い単なる戦闘狂にさせる効果があった。
    • おばあちゃんには孫(勇者)は事故で死んだということにしており、さらに王様もこの事実は知らない。つまりはすべてが大臣の独断で行った出来事となる。
    • 当然彼の罪は重い。しかし、一概に大臣を悪と切り捨てることはできないのである。彼自身も世界を救おうと必死だったのだから。
  • 「エコ倶楽部」という、ちょっと(別の意味で)危険な環境活動団体がある。
    • 海の環境を守る「ウミ」、女性人権を訴える「フェミ」、森林破壊を阻止する「モミ」と複数存在する。
    • しかし活動内容(というか少年自身への対応)がかなり過激で、それらの団体への悪意が見てとれる。
  • ベイカーのイベント。
    • これはゲーム内でも明確にされるが、パン屋を営むベイカーという人物は実はパン人間であり毎朝自分の顔を売り物として売っていたという驚愕の、というより人によってはトラウマとなる事実が発覚する。
    • ちなみにこの時に売られるパンは食パン。大人気パン系アニメのイケメンヒーローを模している可能性が高い。

問題点

  • 高すぎる自由度
    • 少年は時間が許す限りどこまでも放浪できる。イベントをクリアしないと先に進めない場所もあるが、そういう場所を抜きにしてもかなり広大な世界である。
    • AのイベントをするにはBとCを見た上でDを行わねばならない、といったようにイベントは一本筋ではなく複雑に構築されており、ノーヒントであることも。攻略本等がなければ高確率で詰まる。
    • ひとつのイベントをクリアするのに幾つかのイベントを経由しなければならないなどザラ。同時発生したりする場合も。
    • 少年の生存時間との戦いになるためにイベントフラグを発見しても一旦戻らなければならないなども多いが、曜日や時間帯が違うとイベントそのものが発生しないケースがほとんど。
  • 運ゲーに近いイベントがある。具体的に言うと「釣りコンテスト」と「ジンギスカン」。
    • 「釣りコンテスト」は時間内に五匹の魚を釣るという内容なのだが、もともと魚はランダムで釣れるものでありゴミが引っ掛かるなど失敗する確率も高い。
      • 大物ほど釣るのに時間が掛かるのだが、その時間から計算して何が来ているのかというのが推測しづらく、無為な時間を過ごすハメになりやすい。
      • 月魚というMDをかけたり、山猫軒という場所で食べられるキリキリソテーを食べたりしてから挑戦すると成功率が上がるなど非公式な攻略法はあるらしいが、それらをしていても釣れない時は釣れない。
    • 「ジンギスカン」はミニゲームであり、○ボタンを押すと上がり離すと下がるロケット弾を操作してうまく目標にぶつけるのが目的。
      • 上に行き過ぎたり下に下がり過ぎるとロケットが墜落して失敗となる。また、うまく目標まで行けても素通りしてしまうと同じく反対側の壁(?)にぶつかり失敗となる。
      • 全部でレベル5までありすべてクリアしないとラブゲットにならない。レベル1、2程度は比較的余裕だが、レベル5ともなるとちょっとの気の緩みが即失敗に繋がる。
      • 一度でも失敗するとレベル1からやり直しな上にそのたびにお金が(10ネカ)掛かる。
    • また、ノージというキャラに関連するイベントが発生しないなどのバグがある。
    • これらのイベントはクリアしなくても(ラブをゲットしなくても)ゲームクリアは可能であるが、ラブコンプしたい人は後を絶たない。
  • マップ切り替えでBGMが切れる。
    • マップを切り替えた瞬間に一瞬だがBGMが途切れる(途切れないマップもある)。途切れると言ってもごくごく短いものだが、音楽をウリにしている以上少し残念でならない。
  • エンディングでの選択肢が極めて不条理。
    • エンディング(の一歩手前)でプレイヤーである少年は最後の選択をすることになるのだが、ここで間違うとかなり悲惨なバッドエンドに陥る。
    • ネタバレ濃厚なため曖昧な言い方になるが、これは「見てすぐ正解が分かるような選択肢」ではなく、そこまでmoonというゲームをプレイしてきた上でもつい選んでしまいそうな選択肢である。何人もの人が泣いた。
    • ただ、実際は丁寧にゲーム中の会話や「ラブ」が何かを考えていけば理解できる正解ではある。他の懇切丁寧なゲームに慣れたユーザーが誤ってしまうような設定はテーマ上意図的なもので、テーマを理解して初めて納得できるエンディングといえる。
  • 戦闘が存在しないRPGをRPGと呼ぶか否か。
    • 厳密に言えばアドベンチャーと前述したとおり、少年の行動内容に「戦闘」の文字はひとつもない。故に、普通のRPGだと期待して購入した人は肩透かしを喰らい、中にはRPGに否定的な中身に幻滅することも。
    • 昨今ではこうしたタイプのRPGは多いが、PS時代のこの当時はRPGといえばドラゴンクエストやファイナルファンタジーといった大手RPGを連想する人のほうが多かったため。

総評

この世界に少しでも足を踏み入れた瞬間に、『moon』住人の仲間の一人になっている自分が分かる。寧ろ、仲間になりたくなる。
『moon』世界に住んでいる人々はケンカもするし腹黒い一面もある。そんな住人に現実世界の少年がどう関わっていくのか。
殺されたアニマルたちの魂を救うことで経験値を得る。普通のRPGとは真逆の行動は『moon』世界にどう関わっていくのか。
そして最後の光景を見た人だけが感じ取れる“何か”。とてもじゃないが文章では表現出来ないので、見て感じるしかない。
しかし、電源を入れてコントローラーを持ちゲームをプレイする。そんな当たり前の行動のひとつひとつも、この『moon』のエンディングを見た時にプレイヤーはそれまでとはまったく違う感覚を抱くはず。
ゲームの中だけで完結しない本作の主題は、本来の「遊び場としてのファンタジー世界」との関わり方をプレイヤー自身に思い出させてくれるだろう。


余談

  • 当時刊行されていたプレステ雑誌の付録の体験版集に本作の物が収録されているが、ゲーム中での主人公の名前は“ラブ・デリック”である。
  • 実はデータ内部には没となった本編とは別のエンディング(の一部分)が存在し、チートを使用することで見ることが可能であることが分かった。本編のネタバレにつながる内容のため、詳細は下記の動画リンクのみにしておくが、結末が描かれていないのも相まって非常に後味が悪いものである。もしこれが本編のエンディングだったら、このゲームの評価が大きく変わっていたかもしれない。
  • 「Vジャンプ」のゲーム漫画『犬マユゲでいこう』の作者石塚2祐子氏は本作の大ファンで、一度漫画内で取り扱って以降もちょくちょく本作のことを取り上げている。
  • 現在ではプレミアが付いており、当時の定価価格よりも高い値段で取引されていることが多い。新品のソフトに至っては1本100,000円というあまりにも法外な値段がつけられている。
  • ゲームのタイトル名から、Tactics社の『MOON. 』と間違われやすい。
  • ゲーム専門テレビ番組『勇者ああああ』で紹介された。それによると続編を望むファンは多いらしい。
    • 本ページ冒頭のポイントに記載されている“RPG好きに贈るアンチRPG”はこの時に出た言葉である。
  • 2019年10月10日にNintendo Switchで復刻版が配信予定。