Poly Play
【ぽりぷれい】
| ジャンル | アクションゲーム集 |  | 
| 対応機種 | アーケード | 
| 発売元 | ドイツ民主共和国政府 | 
| 開発元 | VEB Polytechnik | 
| 稼動開始日 | 1985~1986年頃 | 
| プレイ料金 | 50東ドイツペニヒ | 
| 備考 | 日本未発売 | 
| 判定 | なし | 
| ポイント | 発表までの経緯が最も謎な商業作品 世界にたった1台しか現存していない
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概要
米ソ冷戦。アメリカを中心とした資本・自由主義陣営と、旧ソ連を中心とした共産・社会主義の対立である。
両者は互いに相手を「仮想敵国」とみなし、ドイツは東西に分断され、一触即発の時代であった。
本作はそんな中、分断された片割れのドイツ民主共和国(東ドイツ)で1986年頃に稼働を開始したアーケードゲームである。
旧東ドイツは自国の技術力を誇るための「コンピューター技術の研究成果発表」としてのコンピューターゲーム開発に熱心で、1980年には家庭用テレビゲーム機「BSS01」が発表されていた。
また、コンピュータゲームを用いて反射神経を鍛えて優秀な兵士に仕上げるという計画もあったらしい。
そのためか本作は驚くべきことに旧東ドイツ政府が発売元となったという稀有な商業作品のゲームで、発表までの経緯がゲーム史上最も謎だらけな作品でもある。
このページの記述について
本作は東ドイツ限定のゲームであるため、ゲームタイトル等の作中用語は全て日本名というものがない。
故に、ドイツ語の作中用語は筆者がすべて日本語に訳して、かっこ内にドイツ語を表記するものとする。
また、本作は世界でわずか3台しか現存していない。しかもそのうち2台は動作せず、動作する筐体はこの世にたった1台しか存在していない。
その動作する1台は現在、ドイツのベルリンにあるコンピュータ博物館に展示されている。このページの記述はその動作する1台を基準としている。
特徴
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本作は内容の異なるアクションゲームが8つ収録されており、初めにその一覧が表示される。
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プレイヤーはまずレバーでゲームを選んでボタンで決定し、コインを投入して遊ぶ。
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ゲームはいずれも1レバー1ボタンというシンプルな操作体系である。
ゲーム一覧
鹿狩り(Hirschjagd)…猟師を操作して鹿を撃つトップビューアクション。
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レバーで8方向に移動、ボタンでショットだが、猟師は左右のいずれかにしか撃てない。
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弾数制限と時間制限があり、鹿を射抜くと弾数は1つ増えて時間制限が満タンになる。
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10発すべて撃ち尽くすか一定時間経つとゲームオーバー。
 
 
うさぎとおおかみ(Hase und Wolf)…うさぎを操作しておおかみから逃げつつステージに散らばる緑の点を集める、ドットイートゲーム
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レバーで4方向に移動。
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ただし敵(おおかみ)の数はステージ数に比例し、ステージ1なら1匹、ステージ2なら2匹といった具合。
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残機は2つで、2回おおかみに当たるとゲームオーバー。
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ちなみにこの『うさぎとおおかみ』は、本作に収録されている唯一のキャラゲーでもある。原作は旧ソ連で1969年から制作されたアニメシリーズ『Ну, погоди!(ヌー、パガジー!)』で、おおかみがうさぎを追いかけるという筋書きのコメディアニメ。
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このアニメは日本をはじめとした資本・自由主義陣営では無名だが、旧ソ連(ロシア)を中心とした共産・社会主義陣営では21世紀の現在でも有名で、本作以外でも、任天堂ゲーム&ウオッチの海賊版「エレクトロニカ(Elektronika)」や、旧ソ連崩壊の直後に出たロシアの海賊版ファミコン「デンディ(Dendy)」などで、頻繁にゲーム化されている。
 
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「ニセドイツ2」によると当時の東ドイツでは一番人気のゲームだったとか。
 
ダウンヒル(Abfahrtslauf)…画面の上から下へ、障害物を避けつつゲレンデを進んでいくスキーゲーム。
蝶とりゲーム(Schmetterlinge)…オーバーオールを着たモグラ(チェコのアニメが元ネタ)を操作して時間内にできるだけ多くの蝶を捕まえて点数を競うゲーム。
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レバーで8方向に移動して、ボタンで虫取り網を動かして蝶を捕まえる。
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蝶の種類は多く、点数も種類によって異なるのでできるだけ点数の高い蝶を狙うべきである。
 
シューティングギャラリー(Schießbude)…レバーで左右に動いてボタンでショットを撃ち、あひるや風船を撃つシューティングゲーム。
カーレース(Autorennen)…車を運転する俯瞰視点のレースゲーム。
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レバーで8方向に移動してボタンで加速。
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2台ある車のうち1台を運転して、相手と競争。3周1セットのレースを2回やると、勝敗に関係なくゲーム終了。
 
記憶ゲーム(Merkspiel)…並んだ図形を数秒間見せられた後、隠される。その図形を正しい順番で答えるゲーム。
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レバー上下で図形を選び、ボタンで決定。
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図形の数はステージ数に比例し、ステージ1は3個、ステージ2は4個といった具合。
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何度間違えてもOKだが、時間制限がなくなるとゲームオーバー。
 
水道管破裂(Wasserrohrbruch)…バケツを持った人を左右に動かして、天井から滴る雨漏りを受け止めるサイドビューアクション。ゲーム&ウオッチの『オイルパニック』に近い。
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レバー左右で左右に移動し、上下で画面左端にある階段を昇降する。ボタンでバケツをひっくり返す。
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ゲームの流れとしては、バケツを持った主人公を左右に動かして、雨漏りを受け止める。
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そしてバケツが一杯になったら画面左端に行き、レバーを上にたおして階段を登り、登った先でボタンを押してバケツをひっくり返してカラにする。
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部屋が水だらけになったらゲームオーバーで、残機という概念はない。
 
問題点
本作はレバーの精度が低く操作も満足にできず、ゲーム自体の出来も粗が目立つ。故に8つのゲームいずれも内容がチープである。例を挙げると…
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「うさぎとおおかみ」
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アイテムとして登場するにんじんは、取ると音楽が変わっておおかみが赤く変色して、『パックマン』のパワーエサを彷彿とさせる…が、赤く変色したおおかみに当たるとうさぎは死ぬ。何の為のアイテムだろうか。
 
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「蝶取りゲーム」
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主人公は常時虫取り網を持ち上げているのだが、その虫取り網が邪魔で花や蝶などの多い場所が通り抜けられない。
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それというのも、蝶は『鹿狩り』の鹿同様に障害物扱い。加えて蝶は花の近くに大量に来るので、4頭ぐらい蝶が来たら障害物がそれだけたくさんあるという事になる。
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それならボタンで網を振って蝶を取れば…というとそうでもなく、主人公の左上または右上に来る網に当たらないと蝶が取れないという仕様のせいで近くにいるのに取れないというのがザラ。
 
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「カーレース」
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相手の車が決まったライン上しか走らないので、相手の車の前に行くと相手はずっと止まったまま。レースゲームとしての体を成していない。
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どう言う訳かボタンを押して加速すると相手の車も加速する。
 
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「水道管破裂」
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右端に来て左端といった具合で、あきらかに遠すぎる位置に水滴が落ちる。
 
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先にも述べたが本作はレバーの精度が低い。なので入力した方向に主人公が動かないのはよくあること。
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例えば「うさぎとおおかみ」では横へ動いている最中に縦の道へ曲がるのが難しい。
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また、「水道管破裂」は主人公が早く歩きすぎて水滴を通り過ぎる。
 
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ほとんどのゲームには音楽がない。大抵の場合効果音やステージクリアのジングルが流れる程度。
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キャラクターの動きは8ドット単位で、カクカクしている。
評価点
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1台に8本ものアクションゲームが入っており、収録タイトルのバランスは悪くないこと。
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バリエーションは豊富で「トップビューアクション」「サイドビューアクション」「スポーツ」「パズル」などの当時の基本ジャンルは押さえている。
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しかも中にはキャラゲー(『うさぎとおおかみ』)も含まれているので、お得感がある。
 
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ゲームは作りが粗いが、バグはない。
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その上512 x 256という、86年当時としては凄まじい高解像度。ファミコンの画面が2面分以上、といえば分かりやすいかもしれない。
 
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筐体は木目調が渋く趣があり、古き良き旧東ドイツの味がある。
総評
本作は1986年頃に発表されたが、1986年といえば日本ではFCですでに『スーパーマリオブラザーズ』や『悪魔城ドラキュラ』等の名作アクションゲームが多数発売されている。
にも拘らず、本作に収録されているアクションゲームは全て、それより何年も前のクオリティ。
だが、当時は米ソ冷戦によって日本の会社である任天堂はFCをアメリカや西ヨーロッパの西側諸国には輸出できても、東ドイツをはじめとした東側諸国には輸出できなかった。
当然、東ドイツの人間は西側諸国でどのようなゲームが流行っていたか、ということなどを知る由もなく、彼らにとってはこのようなゲームを作るのが精一杯であった。
それらの事情を考慮すると、ゲームのクオリティが発売年の世界標準に対して不相応なことを責めるのはいささか理不尽というものである。
また、同様の理由で同じく東側諸国のソビエト連邦では、海賊版ゲーム&ウオッチ「エレクトロニカ」や海賊版FC「デンディ」に加え、海賊版ZXスペクトラム「Orion-128」等があたりまえに流通しているのは勿論の事、それらのゲームソフトも海賊版が多い。
そしてソ連等の共産・社会主義陣営ではゲームのみならず漫画やアニメの海賊版もあり、それらの海賊版をオリジナルだと思う人も多かったりする。
米ソ冷戦がサブカルチャーの分野で大きな隔たりを与えていたと思うと、感慨深いものである。
移植
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その後、東ドイツは西ドイツに領土を編入されるという形で消滅し、現在のドイツに至る。
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しかし東西での経済格差は依然大きく、今でも東ドイツ時代を懐かしむ人々がいるのは事実である。
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なので本作は、あろうことか東ドイツ時代を懐かしむ有志の手によって同人ゲームとしてWindowsに移植されている。
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東ドイツ唯一のゲーム作品だからなのか、アーケードゲームという仕様を最大限再現しようとオンライン上でのスコアランキングに対応していたり、公式サイトでゲームのルールやテクニックについてドイツ語で解説していたりと、無駄に注力されている。
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故に同人作品でありながら移植度は高く、近くにいる蝶が取れない仕様などの作りの粗さも再現されている。
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ここまで忠実に移植できたのは、8ドット単位でキャラクターが動いたりプログラムが荒削りだったりするという問題点が逆に移植のハードルを下げたという理由もあるからだろう。そこらの良作からクソゲーへの劣化移植にも見習って欲しいものである。
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有志による移植版のサイトはこちら。日本語の情報や操作説明はこちら。
 
 
余談
本作は出自から作者から何から何まで、インターネットが発達した現代でも謎だらけである。
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本作は当時カールマルクス・シュタット(現:ケムニッツ)にあったVEB Polytechnikという会社が、旧東ドイツ政府の下請けとして開発したらしい。
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当初は1,500台ほどが東ドイツ全土に送り出されたのだが、東ドイツにゲームセンターというものは存在しなかった。
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故に、筐体はプールや文化センターなど、若者が集まるような公共施設に設置されたらしく、ベルリンのスポーツセンターには本作の筐体が42台あったらしい。
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しかし、ベルリンの壁崩壊の直後に、本作はなぜか製造元の工場に戻されて殆ど廃棄処分にされた。しかし、その運命を逃れた筐体もごく少数だがこの世に存在しており、そのうち確認されているのが先ほど話に出た3台である。
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筐体は一つ一つ手作りだったらしく、この3台はいずれもボタンの数や配置が異なっている。
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が、3台全てゲーム内容は同じらしく、これらの事から本作は「汎用筐体のゲームである」という可能性が高い。
 
 
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本作に収録されている8本のうち、キャラゲーである「うさぎとおおかみ」をのぞいた7本のゲームの著作権は、VEB Polytechnikと旧東ドイツ政府にあった。
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だが前者は本作の著作権を政府に手放して解散したらしい上、当然ながら肝心の旧東ドイツ政府も消滅している。
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つまり、本作に収録されている7本のゲームは権利者が不在で、事実上の著作権フリーらしい。
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ちなみに『うさぎとおおかみ』の原作『Ну, погоди』は2039年に著作権が失効するとのこと。
 
 
外部リンク
最終更新:2022年03月05日 16:16