探偵・癸生川凌介事件譚 仮面幻影殺人事件
【たんてい きぶがわりょうすけじけんたん かめんげんえいさつじんじけん】
ジャンル
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タッチ選択式アドベンチャー
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対応機種
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ニンテンドーDS
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発売・開発元
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元気
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発売日
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2005年3月24日
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定価
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4,800円(税別)
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セーブデータ
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1個
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レーティング
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CERO:全年齢対象
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廉価版
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Genki the Best:2007年10月25日/2,800円(税別)
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判定
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なし
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ポイント
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絵柄から想像し難い社会風刺 少年犯罪を取り上げた希少作品 シリーズファン向け 初見だと探偵と助手が不快に感じる可能性も
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概要
元気から携帯向けにリリースされていた『探偵・癸生川凌介事件譚』シリーズ初のコンシューマ機作品。
同シリーズの1作目と本作のタイトル名が類似しているため勘違いされやすいが、本作は移植・リメイクの類ではなく完全新作である。
時系列としては、携帯アプリ2作目『海楼館殺人事件』と3作目『死者の楽園』の間の話となっている。
プレイヤーはゲームクリエーターの生王正生(いくるみ・まさお)となり、癸生川探偵の助手である白鷺洲伊綱(さぎしま・いづな)のさらに助手として、事件の解決に奔走する。
コンシューマ作品としては極めて珍しく、少年法・少年犯罪をシナリオのテーマとして取り上げている。
ストーリー
βテスト中のオンラインゲーム「ミスティ・オンライン」内のイベントで、プレイヤーキャラクターがマンション脇で死体となって発見された。
ところが、モデルとなっていた実在のマンションで、「ミスティ・オンライン」内で死体役のキャラを操作していたと思われる男性の遺体が同時刻に発見された。
その遺体の男性は、音成刑事と白鷺洲が捜査に関与していた数週間前の「通り魔事件」の被害者でもあった。
システム
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ほぼタッチ操作でストーリーが進む形式の推理ADV。
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特定の捜査画面だけがタッチ対応なのではなく、大半の場面がタッチ対応。真剣な会話をしているはずの場面でも、背景の意味ありげな部分をクリックするとストーリー的には関連性のないメッセージが表示されることもある。
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最初にタッチした時にどうでもいいメッセージが表示された場所でも、タイミングが異なるとストーリーの進行上不可欠なメッセージが出ることもある。
評価点
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プレイヤーを惹きつける展開
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情報が増えても謎が増えるだけ、というミステリーとしての根幹部分はよく出来ている。
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ただの読み物にはならない推理要素
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要所要所で白鷺洲から理解度を試す質問や事件を推理する質問、暗証番号当てなども挿入され、それなりに推理力が問われるようになっている。
賛否両論点
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「全年齢対象」とは思えない内容
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犯人の告白部分において、ナイフで被害者の首を切断する際の描写があり、流石に画像はないものの、それなりに残虐な表現である。
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テーマについて
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上述した通り、今なお議論の絶えない少年犯罪、少年法と言った題材を取り上げている関係上、これらに対するプレイヤーの見解によって評価が分かれる。
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本作は端的に言えば少年法への否定的な見解を開陳する表現となっている。現実でも社会問題となっている少年犯罪と、その犯人への処遇についての問題点をゲームを通して風刺している。
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故に少年法を擁護する側からすればそちらの意見が軽んじられ、公平性を欠いているようにも見える。ただ、それは逆の場合でも同じ事が言えるので、このような人それぞれの思想に左右されるテーマを扱う上で避けては通れない道でもある。
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賛否は分かれど、このようなコンシューマ作品では扱いにくいテーマを敢えて取り上げ、現実の問題に切り込んだ事自体は評価できる。
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ただ本作の問題は、その主張と説教を放つ肝心の癸生川が奇行ばかりが目立つ変人的なキャラ設定である所為で、せっかくの主張も説得力を欠いてしまっている事である。特に初見プレイヤーにはそう感じ易く、癸生川の説教も素直に受け取れない可能性も。
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逆に下記の通り癸生川のキャラクターを分かっているシリーズファンにとっては、普段あまり見せない彼の正義感を感じられる評価点となっている。
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シリーズの特徴に関して
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プレイヤーが操作するのは前述通り、癸生川探偵ではなくゲームクリエーターの生王。
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主人公は探偵の助手の助手という位置づけで、途中まで奇行を繰り返しているだけの癸生川探偵がラストで急に主役の座を奪ってしまう。
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ちなみに「生王は癸生川や伊綱が担当した事件を無償でゲーム化している」ため(劇中では無償の部分は明言されない)、二人に逆らえないポジションでもある。
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ゲームの骨子そのものは「探偵が事件に挑む」であり、『御神楽少女探偵団』など他作品でも主人公が探偵の助手で最終的に探偵役が事件の解決をリードするという展開は見受けられるが、肝心の癸生川の奇行ぶりが目立つだけに気になるところ。
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しかも、それまでプレイヤーに提示されていなかった情報を基に結論を出すという、推理モノとしては卑怯な展開である。
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なお過去作同様本作でも、「実は伏線になっているのだが、生王や伊綱は最後まで気づかない」といったプレイヤーにだけ明示される部分が幾つか見受けられる。
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探偵業に関しては素人同然でかつ年長者の生王に対し、探偵が本業の白鷺洲が常にバカにした態度をとってくるため不快感がある。
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生王、癸生川、伊綱を始めとしたレギュラーキャラは大元の携帯アプリで展開されていたシリーズでも、言動はほぼ同じであり、最後に癸生川がおいしいところを持っていくところまで含めて一種の「お約束」となっている。
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これまでプレイ経験のあるシリーズファンには、特に問題ない部分であるが、本作で初めてシリーズに触れた人にとっては目に付く点になってしまっている。
問題点
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統一されていない操作方法
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会話したい相手の画像をタッチすることで会話が始まる場合と、「呼ぶ」コマンドから会話したい相手をコマンドで選ぶコマンド選択式の場合があり、操作方法が一貫していない。
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「タッチ選択式アドベンチャー」とあるが、タッチ操作だけでは行えない操作がある。
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「捜査ノート」を閲覧するにはLまたはRボタンを押す必要がある。セーブもタッチ操作だけでは行えない。
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逆にタッチでなければ出来ないという操作はない。タッチの方が望ましい操作でも、十字キーでカーソルを動かすことで対応できる。
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CGが今一つな出来
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ゲーム内のCGでは背景と登場人物のタッチがまったく異なる。
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背景のタッチは重厚さを感じさせるようなものもあるのに対し、漫画タッチの登場人物の絵がその背景にオーバーレイ表示されるため、奇妙に感じる。
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同じ場面でも会話内容によって登場人物の画像が差し替わるのだが、それらと背景とをトゥーンレンダリングして生成しているために結果的にマンガのような絵柄になったのではないかという指摘もある。
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セーブデータが1個だけ
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クリアランクによっておまけの情報がオープンされるが、登場人物が「今しか見れないわよ」と言う通り、新しくゲームを開始するとセーブデータが上書きされ、おまけの情報が閲覧できなくなる。
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再度クリアすれば良いのだが、クリアランクによっては、わざわざ再クリアまでして見たい情報ではない場合もある。
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最序盤のミスティ・オンライン内のゲーム内事件のランダム要素が高すぎる。
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最初の事件はゲーム内のイベントのため、ゲームのスキルを用いて行うのだが、「何度も調べないと見つからないこともある」と説明はされるが、場合によっては10回近く調べても見つからない事があったりと、非常に運要素が高い。
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ご都合主義的なシナリオ展開
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ゲーム内では明らかにならない謎が残る。
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そもそも「ミスティ・オンライン」を生王にプレイさせるように仕向けたのは誰だったのか?
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他にも不自然なシナリオ展開が多い。
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真相に関わる非常に重大なネタバレを含む
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被害者である久我は引き出しに暗証番号ロックを仕掛けているのだが、その暗証番号は結局、真犯人のハンドルネームに由来するものだった。
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この暗証番号を当てる問題は本ゲームで詰まりやすい箇所だと思われる。
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この暗証番号を当てる問題が出てくるタイミングでは主人公らはそのハンドルネームは被害者のものと勘違いしているために違和感がないが、クリア後に思い返すと、暗証番号が殺された(と思っていた)彼女にまつわる物ではなく、またそのハンドルネームが自分の探している復讐の相手のものとも気付いておらず、そのハンドルネームをわざわざ暗証番号にする理由が希薄である。
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不正アクセスの容疑者に捜査令状が降りた時に、アクセス回線の逆探知を行い、現行犯逮捕されて勾留まで至っているにもかかわらず、逮捕者のプロバイダーメールやチャット等の履歴の解析は行われない。
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総評
"仮面"を被っているのは誰なのか? 果たして誰を信じていいのか? オンライン上では誰もがキャラクターを演じている的な部分はあくまでも導入に過ぎず、最終盤には真犯人の心の闇へ分け入って行く。
被害者の不可解な行動の真意は何なのか? そして都市伝説の仮面の男とは? 謎が謎を呼び、読者を惹きつける展開が繰り広げられる。
題材が題材なのでプレイヤーの思想・感覚に左右される部分は多く、シナリオへの最終的な印象はプレイヤーに委ねられるだろう。
だがそれを別としても単純にゲームとしての問題点も少なくなく、相当に人を選ぶ作品となっていることは否めない。
その後の展開
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本作はのちに携帯アプリに逆移植された。CGは別の絵師のものに差し替わっている。
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本作のプロデューサー石山貴也によると、DSで続編を作るという話が元気で進行し始めていたが、石山氏がスクウェア・エニックスに移籍したため立ち消えになったという。
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石山氏はスクエニでスマホゲーム『スクールガールストライカーズ』のディレクターとメインシナリオライターを担当。要らない装備を掃除機型ロボットが食べてポイントに変換する際のボイスを、たくさん食べた表現と装おって生王正生がよく発する「ゲフー」にしている。(参考)
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石山氏が元気を退社後、本作にも登場した十六夜彩子が脚本兼主人公となった本シリーズの携帯アプリ向け及び電子書籍の新作が元気から配信された。
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電子書籍版は
かなり重大な伏線が追加されている
が配信終了しているため現在読む手段が無い。
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携帯アプリ及びスマートフォンアプリの『探偵・癸生川凌介事件譚』シリーズは提供が終了してしまったが、現在Nintendo Switchの『G-MODEアーカイブス+』としてシリーズの復刻が徐々に進んでおり、興味がある人はそちらの方が手軽に遊べると思われる。
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そして本作も『G-MODEアーカイブス+ 探偵・癸生川凌介事件譚 Vol.8「仮面幻影殺人事件」』として移植された。
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ただし本作は元がDS作品でボリュームが段違いに多いということもあり、『G-MODEアーカイブス+』の中でダントツに高い1,800円となっている。
余談
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概要でも書いてあるようにタイトルがアプリ版におけるシリーズ1作目と一字違いで混同しやすい。公式のゲーム紹介で本作の8ヶ月前2002年夏に起きた設定の1作目「仮面幻想事件」への言及があるのだが、任天堂のサイトでも誤字と勘違いした修正で“2003年4月それは「仮面幻影事件」から8ヵ月後”と書かれてしまっている。
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元気の公式ページにあったコラムによると名前が被っているのは、「タイトルを似せてるだけあって作品テーマでは共通する部分があったりします。ネットゲームの世界と現実の世界が登場する、というあたりですね。また、どちらも表題にある「仮面」という言葉が物語に大きく関わっています。今回は、DS版の「第1弾」ということで、アプリ版の「第1弾」と共通点を持たせてみたかったのです。」とのこと。
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ゲーム冒頭の紅茶の下りなど、仮面幻想をプレイしていた場合、くすっとできる天丼ネタもいくつか見受けられる。
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携帯アプリのシリーズ作ではシナリオだけでなく音楽も元コナミのサウンドスタッフだった石山貴也が担当していたが、本作の音楽は三留一純と光田康典が担当。
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なお復刻除いて唯一のコンシューマ作品ということもあり、シリーズファンからの人気は高く、新品、中古ともにそこそこの値段をキープしている。
最終更新:2024年08月04日 21:00